【婚約破棄され捨てられるらしいので、軍人令嬢はじめます】 雪 ／ノズ 角川ビーンズ文庫
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破滅の未来を待つくらいなら、ただの令嬢はもうやめます!
名家の令嬢・セレスティーアは、自称「ヒロイン」の義妹から予言を聞かされる。
「お義姉様は婚約破棄されお父様にも捨てられる。最後は修道院行きよ」
不本意にも現実になっていく破滅の未来を回避するため、
セレスティーアは辺境の大軍人である祖父に弟子入り!
軍人として強く生きていくことを決意する。
……が、なぜか辺境で出会った王子殿下に興味を持たれてしまって!?
この義妹ちゃんは何がしたかったんだろう。
わざわざセレスに原作ゲームの展開を予言として聞かせなければ、シナリオ通りに進んだだろうに。
そもそも、この義妹は転生者なんだけれど、昨今悪役令嬢モノが流行っているのをちゃんと知ってるんですよね。だから、この義姉が万が一転生者ではないかを確認するために、ゲームの展開を話して反応を窺ったのだけれど、悪役令嬢モノのテンプレートな展開を知っているくせになんでわざわざフルボッコにされる正ヒロインムーブをそのままやろうとするんだろう。アホなのか？ アホなのかー。
セレスと初対面でお姉様と呼ぶのを照れてた様子を見せていたので、実は根は良い子なんじゃ、と思ったんだけれど全然そんな事なかったわ。
いや、そのまま正ヒロインとして王太子と結ばれたら、セレスが修道院送りになるのをなんとかしてあげてもいいかも、などと皮算用しているあたり、姉に情が湧いているのも確かだったんでしょうけどね。
ただその後の態度も最悪だし、その癖狡猾さや徹底さに欠けるのを見るとやっぱり単なるアホの娘なんだよなあ、可愛げのないアホの娘である。
さて、そんな初対面の義妹に自分は王太子と結婚するの！ あんたは未来で婚約破棄されて修道院送りになるのよ！ などと予言されて、幼子のカワイイ妄想などとニコニコしてたあたり、セレスも呑気というべきか、いやわりと当たり前の反応か。
義理の母になった義妹の母がご機嫌伺いでセレスにおもねっているのを、シンプルに優しいイイ人だと思って受け入れてしまってるあたり、特段聡い娘ではなく普通のお嬢さんだったんですよねえ。
ところが、年月が進むにつれて義妹の予言通りにどんどんと事が進み、婚約者は義妹にばかり構って自分を蔑ろにするし、父親に言ってもまともに取り合ってくれない、という事実が重なっていくにつれて、義妹の微笑ましい妄想だと思っていた予言に本格的な危機感を抱いたセレスは、こんな所に居られるかっ、わたしは出て行かせてもらうっ、とホラーやサスペンスの死亡フラグばりに家を飛び出してしまうのでありました。
まあ実際、そのまま貴族たちが通う学園に通いだしても、義妹の予言通りになりそうな想定しか出来なかった、というのもありましたし。自分が何かしなくても、必然的に出来上がるだろう取り巻きたちがいらんことして責任だけこっちに降ってくるみたいな顛末が容易に想像できてしまったんですね。
君子危うきに近寄らず。
そもそも、舞台の上に上がらなければ断罪もされないよね、という内部からシナリオを改変していくのではなく、そこから逃げ出してしまえ、というパターンですね。転生者じゃない現地主人公がやるのはいささか珍しいルート選択です。現地主人公は大概ゲームのシナリオなんて知りませんからね、逃げる必要がない。ただセレスの場合は義妹が予言という形で話してくれていたので、どうなるかを知ってしまっているという……やっぱり義妹アホだろ。転生者としてのアドバンテージを自ら捨てるとか。
ともあれ、将軍だった祖父と叔父のいる辺境の砦へと家出したセレス。そこでうちは軍人系貴族なんだし私も軍人を目指します！ と、タイトルに則るわけですね。
珍しいのは、この手の軍人や将軍になる武門系令嬢としては、軍務に全くド素人だったこと。この手のご令嬢って幼い頃から軍務に携わっていて、若くして軍功を上げて超一流の将帥になってるパターンが多いんですよね。
ところが、セレスは別に戦う才能に溢れているとか、飛び抜けた軍事の才覚があるとかは全然なく。
それどころか、そもそも訓練にもついていけないので、最初は体力づくりから。実家からの避難のつもりの軽い気持ちで始めたところがあり、最初ほんとに苦労するのである。
それで年単位で地道に基礎を積んで、そこからようやく現地の部隊の訓練についていけるようになった、という段階を踏む真っ最中。しかも、今もまあまあ動けるようになったものの、飛び抜けた力なんてのは一切なく、普通の訓練生レベルなわけですよ。
貴族の子息令嬢たちが通う学園ではなく、軍の士官学校の方に行きたい、という希望を叶えるための、軍人になる候補生たる士官候補生たちの通う学校に入学するための準備段階、というあたりだから、まだ本当に兵士未満なんですよねえ。
でもだからこそ、運動なんてしたこともなかった貴族の令嬢という立ち位置から、苦しい地味な基礎をひたむきに続ける根性と、お祖父様たちの想定よりも早く与えられた課題を乗り越えていく努力家な側面が、セレスの魅力として強調されるのであります。
密かに前線近くの基地で現場の空気を体験し、また実際に兵士たちに混じって訓練するために、毎年の慣例行事としてこの基地を訪れていた王太子のルドと、第二王子のレナートがそこで出会ったセレスに惹かれていったのも、いささか狂騒じみた同年代の阿諛追従や令嬢たちの婚姻目当ての接触に精神的にうんざりしていたのもあるでしょうけれど、彼女の自分の目標のために脇目も振らず努力し続けるその姿が大きく影響したのでしょうし。
ともあれ、ゲームシナリオには無い出会い方をしてしまった王太子と第二王子。さらに士官学校に入学するに当たって祖父の仲介で父親ともちゃんと話すことで、お互いすれ違いの誤解が生じていた事がわかり、でもセレスからの信頼は簡単に回復しなかったわけですけれど、事情を知った父親は再婚ではなく元々親友の未亡人とその娘を引き取っただけのつもりだったので、セレスからの訴えと義妹たちの実際の様子を見ることで、態度を硬化させて、まあゲームスタートの時系列が来る前に義妹の立場は急速に悪化。ゲームシナリオの方で何とか回復させようにも、王太子と第二王子は既にセレスと親しくなっているし、セレスは学園も実家にも近寄ろうとせずそのまま軍の士官学校に通おう、という手の出しようがない状況に。
……なんかもう詰みはじめてない、義妹ちゃん？
しかしこれ、士官学校の入学は認められたわけですけれど、ゲームのルートから完全に外れてしまって攻略対象たちは殆ど関わることなさそうだし、社交界のも殆ど顔出さないようだし、どうするんだろう。第二王子は士官学校に通いたいみたいだけど、まだ年下なので通う頃には何年か経っちゃってるだろうし。
意外と先の展開が未知になってきてるなあ。
