【最高難度迷宮でパーティに置き去りにされたSランク剣士、本当に迷いまくって誰も知らない最深部へ ~俺の勘だとたぶんこっちが出口だと思う~】 quiet ／toi8 SQEXノベル
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集いし英雄ーー。そろいもそろって、方向音痴!!迷宮攻略はまさかの展開に!?
名のあるSランクパーティに参加した剣士ジルは最高難度迷宮の攻略中、ひとり置き去りにされてしまう。普通に考えればその場で救助を待つほか活路はないが英雄と謳われる自身の剣技を頼りに彼は脱出を試みる!「ふっ……。口ほどにもないな、最高難度迷宮……!」 しかし、超絶方向音痴な彼は知らない……。自身が向かっているのは迷宮の主が待つ最深部だということに!!一方、帰還したSランクパーティに不穏な空気が――。新米サポーターのクラハはジルを救おうと苦悩するが置き去りは何者かに仕組まれたものだと気づいて…!?最強の剣士と新米サポーターが贈る異世界ファンタジーの超傑作!加筆改稿に書き下ろしエピソードを加えついに書籍化!!
いや、これ置き去りではなくて、敵の階層ボスもろとも攻撃加えられて、階下に滑落遭難ですよね！？
そのまま救助もされずに放置されてしまったので、置き去りと言われればそうなのかもしれませんが。
もちろん、これは許されざる犯罪行為であり、地上サイドも大揉めに揉めることになるのですが、それはそれとしてまだ未踏の地であったダンジョン階下にて遭難してしまった主人公の剣士ジル。しかも、滑落しながらのボスとの戦闘で、呪いによって視力の落ちている目を補助していたメガネを破損！
表紙絵では涼やかな眼鏡男子にも関わらず、始まって早々に眼鏡喪失！！
いや、突然眼鏡なくなったら目が悪い人は普通に死にます。自分も眼鏡で、視力矯正器具がないと０．１以下なのでわかるつもりですが、眼鏡ないまま外を歩くとかちょっと無理です。怖いなんてもんじゃない。無理っ！ 死ぬ！
スペランカー並に段差で死にそうです。いや、そんな状態で魔物がうろついているダンジョンで遭難とか、魔物抜きにしても段差で死にます。ぼやけて何がなんだかわからんて。
その上で彼は手探りで歩きながら、ダンジョンを数ヶ月以上さまようことになるのですが……なんでろくな装備もなくした上で、何ヶ月も生きていられるんだこの人？ 水場を確保して魔物食いを慣行していたとはいえ、いやいやいや。
ちょっとわけがわからないですね。そりゃ、地上の人達ももう死んだと考えてるのも当然ですよ。食料もなんも持ってなかったんですよ？ 数週間ならともかく、何ヶ月もってそれは流石に、てなもんでした。
ジルさん、それで転移トラップで聖女のリリリアが飛ばされてきて合流するまで、たった一人で迷宮彷徨っていた……いや、途中の階層ボスを一人では攻略できずにずっと同じ所で足止め食らっていたにも関わらず、肉体的にもピンピンしていましたし、精神的にも全然めげることなく無理もしてなくてわりと平然とどうしよう？と困ってたんだよなあ。メンタル全然揺らいでないでやんの。自信家とか頭おかしいというんじゃなくて、もっと自然体にトイレのドアが壊れて開かなくなって困ってるくらいの困り具合だったんですよね。
……まあトイレのドアが壊れて周りに誰もいなかったら、かなり焦るのですが、ジルの場合はまだ焦っていなくて試行錯誤してどうにかまだドア開けられる方法があるはず、とめげてないくらいの精神状態だったんじゃないでしょうか。彼の場合、そこから絶望する様子が微塵もなかったのですけれど。
ともあれ、転移事故で飛ばされてきたリリリアに支援してもらったお陰で、足止め食らっていたボス部屋も通ることが出来るようになり……なぜか二人してさらに深層へと向かってしまう二人。
なぜかイケイケドンドンで、意気揚々と上に登っているつもりでどんどんと下層へと突き進んでしまう二人。さらに何ヶ月経っても地上にたどり着かないのに、いまさら元来た道を戻る気にならなくて、大丈夫大丈夫とイケイケで突き進む二人。
リリリアさんがけっこう陽気な人の上に、ジルはジルでこの人普通におしゃべりですよね。まあ和気あいあいとした雰囲気で迷宮をさまよい続ける二人なのでした。
地上の方は、なんかこう罪と罰という感じの、自分たちの業に耐えられずに苦悩する人達の重苦しい雰囲気がずっと漂ってたのに。地上と迷宮とで、雰囲気逆じゃない？というくらいだったんですけどｗ
ジルの場合、置き去りにされたどころか、背後から巻き添え攻撃を食らって階下に落とされ、そのまま救助もされず放置されたのですから、どう言い繕っても犯罪行為です。冒険者として所属しているギルドから許されざるレッテルを貼られる行為。
しかし、圧倒的な力を持ち強権を振るうリーダーに誰も逆らえず、非難の声を上げたポーターのクラハも、この街で生きていくために口をつぐまざるを得なかったわけです。
でも、クラハをはじめとして自分たちがこの攻略のために召喚したゲストにも関わらず、竜殺しの英雄であるジルを見捨てたこと。その罪の意識に苦悩しながら、自分たちの心の弱さを噛み締め、しかし自分だけでなく家族を守り生きていかなければならない現実を前に、かつて自分たちが抱いていた冒険者という職業への夢や理想を自分たちで踏みにじることを甘受しなければならない。
この自分たちがどうしようもない存在に落ちぶれていく事への失望、諦め、悔しさといった重苦しい感情が切々と描かれていて……なんかあっけらかんとした迷宮の迷子たちとのギャップがなんかグッとくるものがあったんですよね。
ともあれ、途中までは一人の横暴で悪逆のリーダーによる圧政じみた行いがすべての原因、つまり悪いやつが悪い、という話かと思っていたら、段々と様相が変わってくるんですね。
密かに進行していた怪しい陰謀。それが徐々に地上にて明らかになっていくのである。
聖女リリリアが、聖騎士団を引き連れてこのダンジョンの調査に訪れたのもその一環。そして、さらにあとでまた合流する大魔導士ユニスもまた、この地の不穏な空気に気づいて行方不明になっているジルとリリリアの捜索に来てくれたわけで、まあユニスから迷宮迷子組にも今起こりつつある危機の情報が共有されて、地下の方もただの迷子ではなく明確な意思をもって迷宮最深部を攻略しないと、という迷子になったわけですね。結局迷子なんだけどな！！
3人よれば文殊の知恵、なんですけれど三人の方向音痴が寄っても方向音痴以外の何者でもないんだよなあ。
と、変わらず愉快な状況でしかない地下と比べて、地上では自らの弱さに意思挫けていた人達が、それでも弱さを言い訳にせず立ち上がり、人の矜持を取り戻し、自分たちが最後まで失わなかった善性をもう一度握りしめて、絶望的な戦いを前に奮起する、というどれほど落ちぶれようとも失われない人の輝きを見せるような、人間の戦いが繰り広げられていて、こっちはこっちで盛り上がっていたんですよねえ。
そして、それでも抗えない絶望を前に、ついに地下迷宮から自力で戻ってきた迷子三人。人類の最高峰に位置する英雄たちが立ちふさがる、という非常に燃える展開。
いやもう三人で漫才しているだけのおもしろトリオかと思っちゃうようなジルたち、ジルもリリリアも全然自己評価高くないというか、あんまり大口叩かないし控え目な事しか言わないし、まだまだ未熟未熟と本気で思っているので、三人でワチャワチャやっている時はなんか訳分からんレベルのことをやってるんだけれど、それが普通みたいにやっちゃってるんでどれほど凄くてもそれが当たり前、まだまだ足りないみたいに語られるのではっきりと分からなかったのですが、地上に出てみるとこの三人ほんとに意味わからんレベルの人類の頂点だわ、というのもまざまざと見せつける暴れっぷりで、この痛快さを満を持して最後の最後の持ってくる、そこまでの物語の流れが実によく練り込まれていて面白かったなあ。
地上と迷宮の話が縺れながら、後半に行くほど違う色、違う側面を見せながら一点に収束していく、という展開が実に読み応えありました。
しかし、表紙で並ぶジルとクラハって冒頭にちょっとやり取りしたくらいで、それ以降はジルが遭難してしまったために実は殆ど接触してないんですよね。
リリリアの方がずっと一緒だったじゃない！！
とはいえ、ラストでクラハと一緒に行動することになるので、一応メインヒロインはクラハの方になるんだろうか。でもジルさん、あなた眼鏡なくなってろくにリリリアの顔とか見えてなくて、実は８０くらいのおばあさんなんじゃないか、とか思っちゃったりもしていましたけれど、でもずっと一緒に過ごしてたからかなり好きになってたでしょ！ めっちゃ意識してたじゃないですか！
それでも一連の事件が終わって、お互いサクッと別れちゃうんですけどね。絆は出来ても、それぞれあるべき立場、ゆくべき道がある以上、ともに行動したこと、運命をともにしたことは。命を預け合い、生死を腕組みして共有したことは、はほんの偶然、ひとときの夢、と割り切って笑って別れるあたりに、彼ら英雄の色々と酸いも甘いも嚙み分ける人生の歩みの一片を感じるんですよねえ。文でやり取りする約束はしてるわけですけれど。
というわけで、ジルが最初盛大に裏切られた一件の顛末も、ザマぁとはまた違う形で凄くすっきりと決着されましたし、読み応えがあると同時に読み終えたあとにある種の爽やかさを感じる、味のあるお話でありました。面白かった。
