【魔女と傭兵 ５】　 超法規的かえる／ 叶世べんち GCN文庫

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澄人教。
人間以外の種族を人間以下の亜人と定義する、社会の奥底に暗く澱んだ悪意。

人ならざる「魔女」を護衛するジグは、彼らに対する情報を集めながらも極力不干渉を貫いていた。
だが、鱗人・ウルバスと食事を共にした直後、ジグはギルドで澄人教徒の襲撃を受ける。

向こうから実力行使に出てきた以上、もはや不干渉ではいられない。
この街で作り上げてきた人脈を足掛かりに、教会へと乗り込むジグとシアーシャ。
二人はそこで澄人教免罪官・ヤサエルと対峙する。

何気にシアーシャ、一巻以来の表紙登場だったのか。しかもジグとセット。さらに言うとやたらとべったりで、おお？と思ったのですが……。
いやあこれは本編を読むとシアーシャの心境をそのまま描いたものかもしらん。元々シアーシャのジグへの態度というか気持ちって、親近感強くて懐いてると言ってもいいものがあったのですけれど、一気にこう……湿度高くなってきた感がある。
人間という存在をその辺の虫みたいなものとしか認識していないシアーシャだけれど、最近は人間の中にも普通に仲の良いと自分でも思える相手も出来てきて、人間という種族そのものには相変わらず何も感じていないけれど、親しくなった人のために何とかしようという情はあるし、人間社会の中に息を潜めていられるだけの社会性も身についてきた。
そんなシアーシャだけれども、だからこそというべきか、ジグという人間はそんな仲良く親しくなった他の人間なんかとも全然異なる別枠の、そう自分にとっての特別で唯一無二だという認識や感情がこれ、じわじわと根を張り巡らせてきたようにも見えるのです。
そうなると、独占欲も湧いてくる。この男は自分だけの特別だ、という意識が生まれてくる。そして、それが失われかねない事態を想起すると、途端に色んな意味で抑えがきかなくなってくる。
感情の湿度がもう濡れそぼつと言っていいくらいの塩梅になって来出してるんですよね。

わりと人間相手に馴染んできたこのタイミングで、改めてシアーシャが魔女という人間と同じに見えて、全く異なる生物だという厳然とした事実を強調する展開や描写が、この巻では何度か繰り返し描かれています。
いや最近、確かにちょっとエキセントリックで非常識で無茶苦茶するけれど、魔術が他の人よりもかなり際立っているだけの人間と変わりない存在だよなあ、と思ってしまう所も多かっただけに。そうじゃない。魔女は人間と根本から違う生命体なんだよ、というのをもう一度深く刻み込んできたんですよね。
この澄人教という、純粋な人間以外を徹底して貶め差別する人間至上主義の宗教と、真っ向から対立することになったタイミングで。

と、同時にシアーシャは紛れもなく非人間たる魔女である、という事実を強調した上でジグの目にはこう映すわけですよ。
大切なものを失うことに怯えるただの少女でしかないシアーシャを。
このとき、ジグは死闘という他ない死線をくぐり抜け、実際死にかけるほどの大怪我を負ってしまい、ある種の死に惹かれるような心境に陥っていました。その気配を敏感に察して、シアーシャは随分心揺らしてしまうのですけれど、そんなシアーシャを目の当たりにしてジグってばまたえらく後悔と反省するんですね。
いやもう、ここでジグがシアーシャを怯えさせ悲しませた事にこんな悔やむ感情を抱いてしまうなんて。あの冷徹で人間関係に情を持ち込まないはずの傭兵が。
この澄人教との衝突は、彼の亜人差別に対してどちらにも肩入れしないという常々心がけているフラットな姿勢がもたらしてしまったものです。つまるところ、毎回トラブルに巻き込まれるジグですけれど、今回は特に彼のそのスタンスが招いたものだったと言っていい。
そんなどちらにも肩入れしないぞ。ただ敵と味方にその折々に区別するだけ。そういう情を介在させないフラットな立ち位置こそが、彼の傭兵としての根本的な信念というか理念というかスタンスだ……というのを、改めて強調する話でもあったはずです。
そういう彼の貸し借りで成り立つフラットなスタンスこそが、面白いことに味方を多くつくる形となり、この澄人教との衝突でもイサナだけじゃなくて、前にトラブったはずのベイツやエルシアと言った面々も自分たちから手助けしてくれたんですね。
にも関わらず、ジグってばシアーシャに対してだけ明らかに、特別な線引をしはじめている。彼女を特別の枠の中に無意識に入れようとしている様が、あちらこちらで散見されるようになってきたのです。
表紙絵も、シアーシャ側からべったりと抱きついているのと同時に、ジグもこれ自分の胸に回されたシアーシャの手に自分の手を添え、右手に包んでいるのってこれはっきりとしないんですけどこれシアーシャの髪じゃないですか？
シアーシャ側からだけじゃなくて、ジグの方もなんかこう凄く……しっとりしたものを感じさせる絵になってるんですよねえ。
そもそも、娼館で性欲を解消するのすら、シアーシャがなんか機嫌悪くなるからやめとこう、と我慢する方にシフトしていたり、完全にもう護衛対象とか依頼主とかいうの建前じゃん！　その建前を心底自分で信じてそうなのがジグさんなのですけれど。

そのジグさんと、シアーシャが二人して組んでの、澄人教教会への殴り込み。この二人でカチコミって、オーバーキルなんで今までなかなか実現しなかったのですけれど、ついに盛大にやらかしたぜ！
と、盛大に澄人教オーバーキルされて散華！　なのかと思ったら、こっちの大陸に来て初めて、ジグと真っ向勝負出来るツワモノが立ちふさがる。まさかのイサナを上回る達人だ。
てっきり蹂躙戦になると思ったので、ここでジグが強敵とぶつかるとは想像していなかった。ここまで苦戦したの初めてだし、何なら死にかけたのも初めてですよね。本当に実力は伯仲どころか、相手が上回っていた感すらある。まさに紙一重でありました。
手助け不要、と言われたとはいえ、よくシアーシャ黙って最後まで見守ってましたよね。ここが魔女らしいところというべきか。彼女にとって自分を破ったジグは、自分以外の相手に敗れてはならない。とまで思ってるかはわかりませんけれど、でも自分に助けを乞うていたらきっと失望していたでしょう。
でも、同時に自分に助けを求めてほしかった、というこれは乙女心なのか？ともかく、そういう感情もあったみたいで、なかなか複雑なものであります。

巻末の書き下ろしで、ジグたちが元いた大陸でのジグの師匠たちとシアーシャ以外の魔女との話が描かれていたのですけれど、魔女ってこうしてみると確かに人間じゃない、考え方や頭の中が全く異なる価値観で出来ている異物であり化け物なんですよね。
それと比べると、シアーシャという子は魔女の中でも異端なのかもしれない。ジグが傭兵の中でも多分変わり者の純化した傭兵だったように。

ってか、この師匠たちジグの傭兵団の面々とか、他の魔女とかこっちの大陸に絡んでくることあるんだろうか。

しかしジグさん、別に散財癖があるとか浪費しがちという事はまったくなく、酒だの女だのに金使わないし、金銭面ではかなりちゃんとした価値観を持ってそうなのに。毎回、武器やら防具やらぶっ壊すもんだから、その新調のためにどんどんお金使ってしまって、だいたい財布軽くなってそうなの、自業自得なんだけれど可哀想。いや、だいたいのトラブル巻き込まれてるだけなので、やっぱり可哀想。
おまけに、怪我したあとは悟空かルフィみたいな勢いで飯食って体力回復させているので、食費も尋常じゃなくなってるんですよねえ。
わりとジグってワーカホリックだと思うけど、いつも金が足りてないのもついついマメに仕事入れてしまう要因の一つなんだろうなあ、と思ったり。





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