【魔王２０９９ ５.魔王降誕都市・渋谷】 紫 大悟／クレタ 富士見ファンタジア文庫
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魔王vs魔王――未来世界の支配者を決する頂上戦争、勃発。
統合暦2099年――旧家臣との合流を急ぐ魔王・ベルトールが辿り着いたのは……とある計画によって人類に害を為すハズの“悪魔”が合法的に跋扈している巨大な地下都市『渋谷市』。
「ベルトール、マキナ……こんなところで何をしているの?」
極悪の治安を誇る暗黒都市にて、無事に天忌侯・メイと再会を果たしたベルトールだったが、彼女は記憶を失っており……
「枷は外れた。祝えよ、旧霊長ども! 復活祭の始まりだ!!」
メイの肉体を利用して新たに顕現したのは“悪魔”を次なる霊長せしめんと目論む、魔王を称する《最悪の存在》だった!
魔王vs魔王――未来世界の支配者を決する頂上戦争、勃発。
ゼノール、そういう事だったんかー。
既に不死炉に焚べられて滅びたとされていた六魔侯の一人、業剣侯ゼノール。それが同じく六魔侯の天忌侯メイと共に前からチラチラと登場していました。ただ、このゼノールって業剣侯とは容姿も人となりも全然違うみたいで、しかし別人なのかというとそうとも言い切れない合一性もあって、同じく元のメイとしての記憶や人格を保持していない天使と呼ばれるそれと共に、正体がわからず凄くモヤモヤしてたんですよねえ。
これが、ゼノールやメイが何かはっきりとした思惑があって動いているのなら、正体がどうあれベルトールたちと敵対する陣営で暗躍する敵か、そうでないにしても別勢力のメンバーとして腰を据えて向き合えたのですが、どうもゼノール自身天使自身自分のことも曖昧なようで、一応何か指示は受けているみたいなんだけれど、彼ら自身で自分の立ち位置を決めかねているような、兎に角意思も目的もはっきりしない感じがあって、居心地の悪さを感じていたのですが……。
ゼノールくんの氏素性、どうして彼がゼノールなのか。そして業剣侯の存在を感じさせるのか。それが明らかになることで、ゼノールくん自身どうしようもない理由で迷走し続けていた事もわかって、もうなんか凄くスッキリした！
いや、彼の事情を知ってしまうと迷走するのも仕方ないし、業剣侯じゃないというのがはっきりして、彼が不死としてどころか普通の人間としても十分若い子だというのがわかって、彼の行動原理や心の在処を単に発する彼の言動に、もう納得感が凄かったんだ。
彼は間違いなくゼノールだった。だからこそ、ベルトールとどうしてもぶつかるべきだったのだ。彼の、ベルトールを消し去らねばという強迫観念は間違いだったかも知れないけれど、ベルトールと戦ってすべてを曝け出し全てをぶつける、という行動は間違いなく正しかった。
こういう時のベルトールをみると、国をなくしても彼は王なんだなあ、というのが納得出来るなあ。
そして、魔王ベルトールは進化し続けている。それは単純な強さという意味だけではなく、王としての器、一個人としての器としてもより大きな存在に成長しているんじゃないだろうか。
グラムに滅ぼされる前のベルトールでは、そして現世に復活した当初の彼では、メイを助けることは叶わなかったんじゃないだろうか。
ベルトール、そして高橋やシルヴァルト、マキナもだ。不死狩りを経て、最近でも横浜編や未来魔王編で彼らは大切な仲間を、同輩を……友達を助けられなかった。
横浜の青葉や前巻のマトイを、助けられなかったというのは傲慢かもしれない。彼女たちは、自分のやるべき事をやり通し、目的を達し、彼女たちこそ高橋ら友達を助けて旅立っていったのだから。
でも、もう少し力があれば、やりようがあったら、今も一緒に笑ってドタバタ騒ぎに興じることが出来ていたんじゃ。一緒に遊んで、一緒に先のことを考えて。
それは、喪失の痛みだ。大切な人を喪ってしまった後悔だ。それが、みんなを強くした。この喪失をもう繰り返したくないから、とあの時出来なかったことを今度は出来るようにと、努力を重ねて届かなかった手を届かせるための手段を掴もうとした。
ベルトールや高橋たちのそんな強い決意が、強い想いが伝わってくるのが、今回のエピソードだったんですよね。
この喪失の悔しさが、二度と繰り返さないという歯を食いしばるような想いがなかったら、この巻でメイを取り戻すことは叶わなかったんじゃなかろうか。
マキナとメイの過去のエピソード。堕天使であったメイがまだ何も持たないまっさらな状態だったところから、マキナが甲斐甲斐しく世話して色々教え込んで今のメイに育て上げた、と言っていいんでしょうね。そんな二人の母子とも姉妹とも言える繋がりを見せられるとなおさらにね、マキナがあんな喪失の痛みを味わわなくて良かったと、心から思える。
ただでさえ、不死狩りでずっと付き従ってくれていた配下の娘らとか亡くしてたわけですからねえ。
横浜編と前巻って、ベルトールとシルヴァルトを除くと参加メンバーが別れていたんで、新規メンバーを加えて勢揃いしたのって、この巻が初めてだったと思うんだけれど、それもあってか総力戦って雰囲気もありました。木ノ原やグラムもガッツリ関わってきていましたしね。
いや、木ノ原の方の素性もゼノールの巻き添えじゃないけれど、そっちの話から明らかになるとは思わんかった。この女社長、そういう出自だったのか。
ベルトールの魔王としての変化というか、進化ってかつての彼が不死たちの王であったのに対して、今のベルトールって不死だけじゃない、すべての弱者のための魔王になりつつあるような気がします。
新生魔王軍、魔王軍って体は為していないけれど、ベルトールの面々の中には当たり前のように大切な仲間と呼ぶ高橋や緋月のような人間やハーフエルフがいる。
彼らはどんな世界を作っていくんでしょうね。
この新しい時代で、これからベルトールたちはどんな風に世界征服を成し遂げていくのか……フォロワー増やすの？ 今後の活動内容が知りたいところだけれど、とりあえずメイを取り戻して喫緊の問題は片付き一応の平和は取り戻せたんじゃないだろうか……。
でも前巻で明らかになった、近い未来にベルトールが滅びるという歴史的事実については、まだ全然わかってないんだよなあ。一番大きな問題が残ったままじゃん！！
そして、なんか思っていた以上にマキナがヤバい娘だった、というのが発覚した回でもありましたね、今回。
一巻の時点で、ベルトールを題材にした同人誌を出していた、という情報は出ていましたけれど、マキナのベルトール愛ってなんかどうしようもない方向に拗れてませんか、これ！？
５００年という長きに渡る、長すぎる待ち焦がれる時間で触れてはならん所が焦げてしまったのかねじれてしまったのか。それとも、最初からこうだったの？
ともかく、マキナのベルトール愛はもうこれ、推し活に移行してませんかね？ 魂を焼いた推しの沼にハマって溺れて情緒と倫理がおかしくなってる人にしか見えんｗ
……ああ、これは確かにベルトールが殺されたりしたら、完全にぶっ壊れるよなあ。愛が深い故だけじゃないよ。推しが理不尽な形で無惨なありさまにされたら、正気喪って狂を発するという方向というかベクトル？ がなんとなく理解できた。なんで彼女がベルトールそのものになってしまっていたのかも、この方向性で何となく理解できた気になれた気がする。
