【堕天使陛下の仰せのままに え?俺が黙示録戦争を終わらせるんですか?】 西 条陽 ／らう MF文庫J
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どうせ誰かに頭を下げるなら、高貴でやさしい美人がいい。
誰もが、誰かのいうことをきいて生きていく……なら自由ってなんなんだよ~。
そう思った俺・班目真一は、高校をサボって、街の小さな便利屋『英国屋』でバイトをしている。
店主のエリさんはちょっと不思議なお姉さん。自称『陛下』で、首にガラスが刺さっても死なないし、『命令(キングス・オーダー)』で俺の身体を操ったりもする。
絶対普通じゃないんだけど、超いい香りがする美人だから俺はいつも一緒にいる。
今回の依頼は女の子が失くしたキーホルダー探し。でもいつのまにか、天使と悪魔の『聖杯』争奪戦に巻き込まれることに。
真剣なバトルは俺たちのテンションとはちがうくないですか~、って感じだけど、俺は陛下に従ってしっかり戦う。陛下が世界で一番やさしいって知ってるから。
「全ての敵を打ち倒せ。女王陛下の名の下に」
「イエス、ユアマジェスティ(女王陛下の仰せのままに)」
自由ってなんなんだろね。
主人公の班目真一は、尊敬する父のお前は自由に生きろよ、という言葉を男同士の約束のようにキメてしまい、そのまま学校をサボってぶらぶらと過ごすようになる。
自由に生きろと言われて、途端にそれってお前の思う自由ってなんなのさ！？
彼の自由には芯がなかった。自由に生きようとして何をしたらいいのかもわからず、さりとて何をしようとするでもなく、逃げて逃げて自由に生きるにはそれだけの金が必要、というどうしようもない現実にぶつかり、自由に生きるためには働かなくてはならない、という結論に帰結し、どうせ働くなら、誰かに従うなら美人がいいよね、という真実に到達し、陛下を自称する女がやっている「英国屋」という何でも屋のバイトとして生きることになる。
それが彼の自由だった。
でもこの子、同じく自分が好きに生きるために自由を求めて形振り構わず事を起こした一連の事件の敵に対して、好きとか嫌いとか自由とか不自由とか、どっちでもいい！ とか言い出すんですよね。
彼は女王陛下の教えにこそ人のアルべき道、自分にとっての必要なことを見出したわけだ。
自由はいいのか。親父の教えはええのんか！？
そこんところは多少なりとも疑問を覚えないでもないのだが、親父よりも美人の女王陛下の方がイイに決まっているのは真理であるからして仕方がない。
フラフラした男である。真面目にやれ、と敵からも怒られる男である。だが、紳士だ。紳士になろうと志している。女王陛下がそう教えたから。女王陛下がそう見立て、そう振る舞うように仕込んだから。
彼はそうなろうとしている。敵の求める自由、というよりも自由を求める時の振る舞いが品性に欠けるのは同意だが、彼に品性が感じられるかと言うと……多分に疑問がありやなしや。
まあそれが彼の選んだ自由なのだろう。自由だろうと不自由だろうとどっちでもいいらしいけど。
幸せなのは、間違いあるまい。
女王陛下である。
名前はエリさん。本名はなんなんだろうね。長命であり不死であり、長生きの人である。いろんなことをしてきたらしい。色んな歴史的イベントに立ち会ってきたらしい。介添人としてだけじゃなく、主役という立場にあったこともあるらしい。すなわち、女王陛下だったらしい。
しかるに、この現代日本で国を建てようという大人物である。自分がその脚で歩いた場所は領土になるらしいので、お手軽ストラテジーの主人公的ですらある。もちろん、言っているだけで実態はないし実効支配もしていない。
どういう人なんだろうね、と見ていると。まあ大概にしてむちゃくちゃを言う人である。自由な猫のように好き勝手している人である。従う斑目くんを顎でこき使う色んな意味で女王様な人である。
傍目には傲岸不遜の王様だ。傍若無人の君臨者だ。偉そうである。偉いのである。
しかし、よくよくその行動、言葉、立ち居振る舞いを見ているとわかってくることがある。
案外とこの人は受け身だ。不死者としての能力というか在り方からして、彼女の力の厳選は自分に忠誠を誓う人の数と質による。数はなくとも斑目一人の熱々の忠誠だけでガンガン力を増すあたり、質が優先なのかしら。
ともあれ、誰かに思われなければ力を出せない、という能力ではないだろうか、これ。
主体的に、自分からガンガンと力を発揮して切り開いていくタイプにそぐう力かというと、案外とそうではない。カリスマであるが、与えられて力を得るというタイプの陛下なんじゃあないだろうか。
斑目の忠誠を捧げられるまで、昨今までの女王陛下はただの無力な不死だったらしい。彼女が自分から積極的に忠誠を集めるべく活動していた様子は見受けられない。
待ちの姿勢だ。
本当に彼女が自分の価値観だけを貫き通す暴虐の人であれば、彼女はこの物語をある種のコメディ、ある種の痛快、ある種の大団円へと引きずり込むだけの強引さ、パワフルさ、自分勝手さがあっただろう。
例えば、事件が片付いた後、柳下副隊長を約束通りに飲み会に無理やり脱獄させてでも連れてきて、よし仕切り直しで飲み会だー！ てな具合にやってたんじゃないだろうか。
飲み会、心の底から楽しみにしていたみたいだし。彼女が敵だったとかやらかした事とかその野望を阻止したとか関係なく、彼女たちと飲み会したかったのなら、するのだ。自分の感情に巻き込んで、貫き通す。そして向こうも何もかも同じ色に染め上げてしまう。マジモンの自由な王様系ってのはそういう塩梅のキャラたちだ。
でも女王陛下は、あのときずっと、待ちぼうけくらってたんですよね。来いよ、と言い含めてしかし来てくれないのをただただずっと待っていた。引きずってくるでもなく、来るのを信じて解き放ってしまって、約束が果たされなかった事をグッと堪えて我慢していた。
あの時の言葉もなく待ち続けた彼女の姿は、挿絵にも描かれていないけれど随分と寂しそうだったと幻視する。
待つ人なのだ、この人は。受け身なタイプの陛下なのだ、この人は。
全部終わった後、白川隊長と斑目と三人で飲み会して、ひとり足りないのを仕方ないと受け止める人なのだ。
それは優しさであろう。彼女は陛下だけれど、自分の勝手を相手に押し付けない優しい陛下なのだ、きっと。
無論、激しく主張はするが。大いに申告はするが。ねだるが、命じるが、やれと促すが。
まあ殆どが斑目に対してだけである。それを甘えと見るかは人それぞれであり、その時々であろう。
ただ、待っていて来てくれたら喜んでしまって思わず沢山ご褒美をあげてしまうタイプの陛下なのは、間違いあるまい。
そして、斑目はご褒美をもらうと嬉しくてもっと尻尾を降ってしまうタイプの臣下なのだ。貰えなくても頑張ってしまう臣下だけれど。
循環である。円環ですらあるかもしれない。そんな二人だけのぐるぐると想いが巡って回っている国のお話でした。
世界観とかの設定とかも斑目くんのキャラ並にふわふわしていてテクスチャが曖昧で、足元おぼつかなかったんですけど、そういう作風なのでしょう。
