【化物嬢ソフィのサロン ２ 〜ごきげんよう。皮一枚なら治せますわ〜】 紺染幸／ハレのちハレタ マッグガーデンノベルズ
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前世はオカンで現世は令嬢。図太く繊細なソフィが、みんなを幸せにする！
肌の奇病を抱えたソフィは、わずかな癒しの力と元アラカンのオカンだったという前世のずぶとさを活かし、皮一枚だけを治すサロンを続けていた。そんなある日、癒師のオズホーンがサロンにやってくる。ドラゴン討伐のため、リーダーとして危険な地に赴くというのだ。無事の帰りを願うソフィにオズホーンはソフィに「持っていてほしい」と告げ、大事な認識票の片方を預けていく。そして数か月後、無事に姿を見せるオズホーンが発した一言で、二人の関係に変化が――!?
あかん、どの話も泣けてしまって涙腺がヤバいです。
語り口がさあ、なんかもうダイレクトに涙腺ぐりぐり刺激してくるんですよ。あかんわー。
皮膚一枚分だけしか治せないソフィだけれど、人間って生きていると色々とあるわけですよ。まだ小さな子供だろうと、老いた老人だろうとその肌にはその人がこれまで生きてきた人生がのっている。刻まれているとも言っていいでしょう。
それを治すっていうのは、人生の一大事なんですよね。
だから、皮膚一枚治すことでこれまでの人生に区切りをつけて、新しい人生を歩み出そうとする人達がソフィのサロンに勇気を出して訪れてくる。
そうして、ソフィに治療しようと思った理由を。その人のこれまで歩んできた道のりを語るのです。
ソフィの魔法が、その人の歩みをちゃんと理解しその人の心に寄り添うことで、治癒の効果を発揮しやすくなる、という理由もあるんでしょうけれど。意外と、ソフィに自分の人生を語り改めて自分の人生を見つめ直すことで、治療を止めるケースも珍しくないんですよね。今回の門番のクロロさんなんかは、ソフィが娘さんとよく話し合ってからもう一度お越しください、と止めてたりもしましたけれど。
いずれにしても、肌に刻まれた傷や火傷、入れ墨や化粧の跡など様々な理由でソフィのサロンを訪れた患者さんたち。彼ら彼女らはその治療しようと思った所以によって苦しい思いをしてきたケースも多いのですけれど、でもそうして歩んできた今までの人生が間違ってたとか、無駄だったなんて事は一つもなかった。
治療によって、今までの歩みに区切りをつけて、新たな人生を歩みだした患者さんたちも、治療によって過去を消し去るのではなく、みんなそれが刻まれたときを、今までの時間を思い出としてしまい込むんですよ。
それがもう、どの話もグッと心震えてしまうんですよねえ。感動で泣けてくる。
この物語って、人生の意味ってやつをすごく多弁に言語化するんですよね。色んな表現を用いながら、その人自身が曖昧として形にしていなかったこれまでの在り方に込められた想いや意味やその価値を、まるで言祝ぐようにして言語化していくのです。言葉にして、形にして、伝わるように理解できるように受け止められるように、語り尽くしていく。
それは、これまでのその人達の歩みの肯定であり、ここまで歩いてきた人達がこの先へ進んでいくための後押しであり、祝福なんですよね。
だから、治療しなかった人もその気持はまったく新しく、澱が払われて、とても健やかな心地で出ていかれる。自分のこれまでを全部聞いてくれて、その想いに寄り添ってくれて、そうして送り出してくれたソフィに対して、とてもとても大きな「ありがとう」の気持ちを抱いて、治療を終えて出ていかれるんですね。
そしてソフィもまた、患者さんの口から語られる様々な人生に共感し、感嘆し、驚き呆れ喜び哀しみ、心を動かされていくのです。
これまで自分の皮膚の病、そしてその見てくれ故に部屋に引きこもり、屋敷の外に出ることがどうしても出来なかった彼女が、いつしか患者さんのために奔走して屋敷の外を出歩くことが出来るようになった。自分の目で外の世界を見て、感じて、知ることが出来た。
そんな彼女を、ずっと側で見つめていた男が一人。
そうして、人の心を持たないと言われた鉄面皮の癒師オズホーンと、その見た目故に化物嬢と呼ばれた、人間ではないものとされた二人は、お互いに抱く気持ちに向き合うきっかけを、勇気を得ていくのです。
ソフィの皮膚病を治せる人が見つかって、というか患者だったけどそれ以上に今まで居なかった同世代の友達になったダンサーのイザドラが見つけてくれたんですよね。
そして彼女が飛び込んできたのを発端にして、これまで患者として訪れてきてくれた人達が様々な形で手を差し伸べて、その治療できるという老人を探すのを手伝ってくれるのです。
ただ探すだけじゃなくて、オズホーンとの恋に怯え竦むソフィを、今度はイザドラやリリーといった子らが逆に励まし、寄り添い、支えてくれるんですね。
情けは人の為ならず、といいますけれど、治癒者と患者という関係だけじゃない恩と親愛によって結ばれた絆が、連綿と繋がっていく展開はやっぱり胸が熱くなりますよ。
でも、一番グッと胸に刺さったのは、これまでソフィを、そして彼女を愛する家族や周囲の人達をずっと苦しめてきたソフィの皮膚病を、悪しきものとして消し去るのではなく。
それがソフィの生来のマナの不具合から身体を守るために起こっていた症状だったこと。
そして、ソフィがオズホーンと出会うまで、彼女を余計なものから守っていたのだと。
恨み憎しみによって消し去るのではなく、ありがとうご苦労さまと、優しく送り出すように治していったのには、もうなんか言い知れぬ想いを抱いてしまいました。
結婚式も良かったなあ。みなが今度はソフィを祝福しに来てくれた。良かったね、おめでとうと心からお祝いしてくれる、愛する人達。元患者同士も、これを契機に顔を合わせ意気投合し、人の繋がりが広がっていく。
良かったなあ。
なんか、このまま結婚してソフィはサロンを閉めてしまうような感じでしたけれど、これだけの人がソフィの治療によって救われたのです。需要は間違いなくあるのだろうから、これからもずっと開いていてくれればよかったのになあ、とそれだけが少し心残り。
一番笑ったのは、やっぱり勢い込んでプロポーズしに来たオズホーンに、そう簡単に娘はやらんぞー！ と立ち塞がったパパさんが、あっという間に返り討ちにあってスゴスゴと引き下がっていったシーンでしたね。父親の難癖もものともせず、片っ端から完璧に真正面から撃破したクルト・オズホーン。こいつ、無敵か！？
無敵でした。恋する男は無敵だな。ってか、このイケメンをこれだけダサく見せるあの白スーツの挿絵凄いな！！ 男モノのスーツにあれだけのフリルをつけるとか、凄いな！ 襟巻きかよ、あのフリルｗｗ 作者さんからのオーダーで容赦なくダサくしてください、とされたみたいですけど、容赦のかけらもない！！
