【やがて黒幕へと至る最適解 ２】 藤木わしろ／ne-on HJ文庫
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次なる標的は神聖魔法のサンクトゥス公爵家！
死の運命にある主アルテシアを救うために未来より回帰し、錬金魔法のオルナメント公爵家を秘密裏に掌握してみせたカルツ。
彼は次の標的を聖女を象徴とし神聖魔法を操るサンクトゥス公爵家に定めると、頼れる仲間たちと共に新たな拠点フェルムンドでの活動を開始する。最適解へと至る鍵は、サンクトゥスの金塊と贋金、誇り高き竜の守り人、そして聖女の証たる聖杯の秘密――
「――ここが君の望む未来を決める選択の時だ」
最愛のために世界を書き換える暗躍無双ファンタジー、第２幕！
これ、表紙絵に映っている明らかに聖女然とした女性、普通に今回誅滅の対象として狙うサンクトゥス公爵家の聖女ルシリアだと思ってたんですよね。
前巻で六大公爵家の子女たちが集まっているシーンで垣間見せた、ルシリアのあの聖女らしからぬガラの悪い素の顔。女スケバンかよ、というようなキャラクター。普段は清楚で穏やかで慈愛に満ちた振る舞いを見せていながら、本当は斜に構えた不良娘みたいな性格の娘。
こういうキャラクターって、実はだいたい根はいい子でいざとなれば義を見てせざるは勇無きなり、てな感じで善行をなす、あるいは正義感の強い強かでクレバーで実は可愛い性格をしている、みたいなのが定番なところがあるんですよね。
だから、この子も紆余曲折的に親である公爵やその家と対立して味方になってくれるタイプのヒロインかしら。だから、表紙絵にもなっているんだろうなあ、と思ってたんですよねえ……。
違いました。
完膚なきまでのサイコパスでした。
何なら、こいつの邪悪さがサンクトゥス公爵家を牛耳り父親すら脅しているようなとびっきりの残虐超人でした。
彼女、ルシリアの邪悪な本性は登場早々に明らかにされるので、この女がこの巻のヒロインだというような誤解はする余地がなかったのですが……考えてみると、それすらもミスリードにもなっていたのかもしれません。かなりギリギリまで、表紙絵の聖女がこの女だと思い込んだままだったもんなあ。
先の一巻の感想でも書きましたけれど、下準備は本当に大事。無惨な最期を迎えさせられた主君アルテイシアを救うため、長い年月を掛けて集めた情報を元に下準備を整えた上で過去に戻ったカルツ。
未来をかなり先まで見てきた上で、主君が亡くなったあとの荒れる時代の流れの真実も情報を集めてだいたい把握したおかげで、今はまだ表舞台に上がっていないものの先々重要な役割を果たす人物、というまだ時代に埋もれている人材も見落とすことがない、というのは本当に大きいです。
今、その人が何をやっているのか、という市井に埋もれているところまで把握しているわけですからね。
ただこのカルツが面白いと言うか好感を持ってしまうのは、過去に戻って暗躍の限りを尽くしている彼の目的が敬愛する主君アルテシアを救うため、というのは一切ブレないんですけれど、その目的を達成するためならどんな手段も厭わない、ってわけじゃないんですよね。
主君を救うための妄執にかられた機械に成り果てているわけじゃない。
彼は、アルテシアに託されたアイゼンフッドの後継者であるという矜持と責任を魂に刻み込んでいる。鉄血の誓いに殉じる者に徹している。アルテシアを救うために何をしてもいい、という怠惰を自分に許していないのである。
それに、アルテシアの薫陶もきいてるんですよね。アルテシアが好み望み憧れた、ロマン。この世界の残酷な現実、救いのない有り様を諦めて受け入れるんじゃなく、この世にはロマンがあって然るべき……というよりも、ロマンがあった方が素敵じゃないか、という思想ですね。それを、カルツ自身も継承している。彼の好みとして、ロマンある結末をアルテシアの救済と復讐以外にも可能な限り叶えようと尽力している。
それは、気高い意思を貫きながら、ついぞ報われぬまま悲惨なる結末を迎えてしまった人達に報いを与えること。友と呼んでくれた男と、今度は無念の果ての別れではなく笑いながら先々まで付き合える未来を引き寄せること。
策謀と暗躍に徹しながら、でもロマンを忘れず、情を喪わず、主を救うというただ一つの目的のためだけではなく、鉄血の誓いに基づいて同志たちとの夢を叶えること。それでいて、きっちり主を貶め苦しめた連中には落とし前をつけることは忘れない。
実に面白い主人公なんですよ、このカルツくん現在１０歳は。
恐るべきは、カルツくん。アキメネス子爵公子としてようやく表舞台にあがりながらも、未だその存在も暗躍も六大公爵家に一切気取られていないまま、なんですよね。
先のオルメント家の破滅に引き続き、サンクトゥス公爵家がこの結末になったわけですけれど、他の四家は未だ六大公爵家が攻撃を受けている、という事実に気づいてすらいない。カルツはまったく気づかせていないのである。
着々と、六大公爵家を陥落させつつ、アルテシアを救うための手段を構築していっている。
少し不安だったのは、前史ではアルテシアが亡くなるまでずっと傍にいて支え続けたカルツが、この周回ではアルテシアの傍に侍っていないため、彼女に寄り添う人が誰もいなくてこれから過酷な状況状態に余裕をなくしていくだろうに精神的にかなり疲弊していくんじゃなかろうか、と心配なところがあったのですけれど……。
ちゃんと、自分の代わりにアルテシアの傍で彼女を守り支える人材を送り込んだんですね。さすが、抜け目ない。
ただ、この送り込んだサポート役。アキメネスの贈りし花たるメイド。片腕のルチアが仕込んだという工作員でもある彼女、ノエルなんですが……また、凄いの送り込んじゃったな！！ カルツはこの子のことよく知らんのだろうから、ルチアの仕込みなんだろうけれど……どえらい子を送り込んだな！！
いやこれ、お世話係じゃなくてお世話され係なんじゃないの！？ メイドとして傍につけられたのに、メイドの仕事……いや、仕事はちゃんとやってるのか。やった上で昼寝しまくっているので、別にお世話され係ではないんだろうけれど、アルテシア様からは駄メイドと認識されちゃってるぞ。初っ端からアルテシア様も、えらい残念な子送り込んできたな！と度肝抜かれてましたけど。
なにげに、このノエルが作中一番キャラ濃いんじゃないの！？
特典SSの「坊っちゃんは猫である」は、ルチアをはじめとするカルツの周辺にいるヒロインたちが、カルツのことどういう風に見ているかがよく伝わってくる話で面白かった。ってか、猫扱いですか！！
