【TS衛生兵さんの戦場日記 ４】 まさきたま／クレタ エンターブレイン
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トウリ《過去》とセドル《現在》、二つの運命がついに交錯する――
南部戦線での快進撃により、オースティン軍はサバト軍を国境のタール川の向こうへと撤退させる。しかし大雪によって戦線は膠着、川を挟んでの長い睨み合いが続いていた。そんな中南部軍に合流したトウリは若き天才参謀ベルン・ヴァロウと出会う。彼の異様な雰囲気に恐怖を覚えるトウリだったが、ベルンは逆にトウリを気に入り、とある任務を依頼してくる。それは捕虜の女性レミの話し相手になってほしいというものだった。不信感を抱きながらも、レミが平和を願っていることを知り心を通わせるトウリ。だがそれはベルンが画策する「サバト崩し」のための布石に過ぎなかった――。
ああ、ロドリーくんロドリーくんロドリーくん！！！
なんど読んでも、何度見ても、トウリとロドリーくんとの結婚のシーンは涙腺が決壊してしまいます。
なんでこんなに穏やかで寂しくも優しくて、何もかもがこぼれ落ちていくのに満たされたような感じすらするのでしょう。
これが、トウリ・ノエルの人生の旅の終わり、と言っても過言ではないのかもしれません。小さな優しい衛生兵さんの、地獄のような戦場での掛け替えのない家族との日常の、これが終わりだったのでしょう。
でも、のちに伝説と謳われる彼女の旅は、まさにここから始まったのかもしれません。
戦場という地獄から、戦争というフィールドに立つ地獄のはじまり。作中ですら、本当の地獄はここからだった、と言われるくらいの世界を鬼畜道に突き落とす兵士だけじゃない、銃後の一般市民すら否応なく悪意の贄に焚べられていくこの世の地獄へと。
思えば、彼女の名前が変わっていくそのスタートもここだったんですよね。トウリが一番大事にする、トウリ・ロウという彼女の唯一無二の本物の名前。
この彼女の公称が変わっていったことが、考えてみるとセドルくんが主人公の１９３８年でのトウリ氏の正体の混迷にも繋がってるんですよねえ。
……って、現代編がかなり謎めいたことになってるんですけど！！ あれ？ あれ？ セドルくんを襲撃してきた政府（？）のエージェントってトウリ本人じゃないの！？
Web版を完結まで読んだ身ですけど、これは本当に何がなんだかわからないよ！？ Web版とこの書籍版は描写が違ったりするところはあるんですけれど、それは視点の違いであって世界線自体は同じらしいんですよね。パラレルワールドとか、歴史の展開が違うとかはなく。
あ、Web版の方は最近無事完結しました。ヤバかったです。本当に最後の最後まで度肝を抜かれ続けました。クライマックスまで圧巻であり続け、読者側の想像力を圧倒的に上回る激動であり続けました。最後まで情緒がぐちゃぐちゃにされ続けました。
傑作でした。
これを最後まで書籍版でも読みたいのう。大丈夫ですよね。まだ、本作の最重要人物の一人であるシルフ・ノーヴァも一瞬しか登場していませんし。ってか、トウリとシルフの最初の邂逅がこれって色んな意味で劇的すぎるよなあ。ある意味、この物語ってトウリとシルフの二人の物語だと思えば、これくらい劇的でないと格好がつかないのかもしれませんが。いやそれにしても、とんでもなさすぎるだろうこれは。
ともあれ、オースティン側でもベルンという天才にして邪悪なる参謀が本格的に登場することで、この作品の役者は揃ったと言えましょう。
こいつ、本当に邪悪というか性格が歪んでいるというか。人間として間違いなく悪であり、下劣と言って間違いない人物なんですが、だからといって敵ではないんですよね。そう、敵ではないんですよ。
立場上同じ陣営だけれど、主人公を目の敵にしてくる事実上の敵……って、いう枠組みの敵ですらなく。いやまじで、トウリが蛇蝎のごとく嫌うように最低のクソ野郎なんですけど、個人的にはナンテことをしてくれるんだっ、とぶっ殺したくなるようなクソ野郎なんですが、それとて後々当事者の感情をネガティブな方向に沸騰させるだけで、行為の結果だけ見ると決して不都合ではなく、味方なんですよ。困ったことに。
そして、オースティン王国としては間違いなく文句なく救国の英雄なんですよねえ。でも、個人としてみるとやっぱり許しがたいクソ野郎で……いやあ、よくこういうキャラクター出しますよね。これはこれで、情緒がかき乱されてどうしようもなくなる。どうあっても気持ちの整理がつかないんですよ、こういうキャラクターを目の当たりにしていると。
それは、トウリにとって永遠の仇敵となるシルフもまたそうなるわけで。これはトウリも感情の置きどころがなくて、ぐちゃぐちゃになりますよ。
思えば、まだここまではトウリの心情としてはシンプルで居られたんですよね。小さな優しい衛生兵でいられた。小隊を率いる部下を持つ立場になり、責任を担うようにもなったけれど、アレンという兄のような小隊長が率いる家族みたいな元の所属部隊があり、面倒見てきた衛生小隊の面々がいて、姉同然に気にかけてくれるアリアが居て。
自身が生まれ育った孤児院が、ノエルの街とともにサバト軍に略奪され焼き払われ皆殺しにされて、本当に何もかもを喪ってしまったトウリにとって、本当の意味で天涯孤独になってしまったトウリにとって、もう軍は自分にとっての唯一の居場所であり、彼女の家族はここに居た。
だから、戦局がもう本当に救いようのないくらいの絶望的な状況に陥っても、トウリはここを離れる事を選ばなかった。もう、アリアからの脱出の勧めを断ったときに自分もみんなと一緒に死ぬ、と。それはもう覚悟なんかじゃなく、自然な選択として選んでいる姿が見られました。
トウリのこと、本当の妹みたいに可愛がってたアリアさんも、これはどう思ったんでしょうね。いやどうなんだろうな。哀しくもあり、嬉しくもあり。いずれにしても、この時点でアリアさん自身自分の結末は決めていたのでしょうけれど。
でも、トウリとしてもみなと一緒に死ぬことを受け入れていたとしても、だからと言って必ず死ぬであろう役割を、家族同然のアレンや……ロドリーくんに自分が与えることになるとは考えもしていなかったはずです。
FPSのゲームで世界の頂点を極めた、という前世のスキルが……ここにきて、こんなところにきて開花してしまう、というのは皮肉としか言いようがない。すでに、ヴェルディさんの名を知らしめることになった撤退劇を主導したことで、その萌芽は芽吹いていたとはいえ。
本作は、いきなり戦場でFPSのスキルが活きて無双する、なんて展開は一切ありませんでした。ゲームの経験なんて、実際の戦場では何の役にも立たなかった。
いや、僅かなりとも生存のための一瞬の判断なんかで、全然役に立たなかったって訳でもないんですけどね。でも、本物の戦場は本物の地獄でしかなく、ゲームの知識やスキルをそこで活かしてなんて、新兵のしかも衛生兵でしかないトウリには出来ようはずもなかったわけです。
でも、あれからトウリはずっと前線で砲火の下をくぐり抜け、銃弾の雨のなかを走り続け、生きるために貪欲に兵士として衛生兵としての技術を高め続け、生き残るために体力をつけつづけた。
そうして、今やもう一端の歴戦の兵士となり……だからこそ、下地が出来て整ってしまったからこそ、兵士としての経験が、FPSプレイヤーとしてのスキルや経験、そして感性を実際の戦場に反映させるヨスガになってしまった。
なにげに、トウリってガーバック小隊長を最初に、名うてのエースの薫陶を得ていくことになるんですよね。
そういう意味でも、彼女の伝説がここで始まっているんだよなあ。
でも、もうトウリはそんな事何にも望んでいなくて、この巻でロドリーくんに呆れられるほどにトウリってボロボロ泣いちゃってるんですよね。あんなに感情に乏しいくらいだったのに。
いや仕方ないんだよ。トウリが泣いちゃうくらいのことを、その小さな胸の中に抱え込んじゃっていたんですから。知らなければよかったことを、知ってしまっていたのですから。
彼女が泣いていたのは、自分のためじゃなくて、ロドリーくんのためだったのですから。いや、ロドリーくんのために泣くというのは、それだけロドリーくんに気持ちが入ってしまっているわけですから、辛くて哀しくて堪えられなくて、というのはトウリの感情だよな。トウリの気持ちで、自分のために泣いているとも言えるのかも知れない。ロドリーくん、口悪いんだけれどちゃんと慰めてくれるもんだから、そりゃ余計に泣いちゃうよ。
この期に及んでトウリは自分は異性としてロドリーくんを好きなわけじゃない、と言い張るし、今後も言い続けるのですけれど、はっきり言ってトウリの内心の自己分析、特に他人への感情に関してはまったく当てになりません。本音と建前と自覚と無自覚が複雑骨折してぐちゃぐちゃになっていて、まったく当てになりません。
トウリに関してはもう主観よりも、傍から見た客観のほうが間違いなく正しいでしょう。他の人から見たトウリ、というだけじゃなく、シンプルに彼女の言動を抜き出して言ってる事とやってる事を見て、見たまんま捉えたほうが、正しく彼女の心情を見て取れるんじゃないでしょうか。
だって、だってどう見てもトウリ、ロドリーくんのこと大好きじゃん。ってか、内心で言ってることからしてもう大好きじゃん！ 最後は、ロドリーくんの横で眠りたいって、来世に一緒にいられるように少しでも傍で死にたいって、それもうさあ……もう、愛じゃないですか。
ロドリーくん、この子は最初出てきたときはもう胸糞野郎だったのにね。よくがんばった。よくトウリを受け止めた。よく待っててくれた。そして、本当に最後の最後まで。最期すら越えてまで、トウリを守ってくれた。大したやつだよ。トウリにとっての唯一無二。最初で最後の夫。トウリを人妻未亡人ロリにした罪深い男。でも、既婚者であるということがトウリを色んなものから守ることになった今後を考えると、ロドリーくんってずっとずっとトウリのこと守り続けたんだよなあ、と思うと……うう。
北部決戦、アレン小隊最後の戦い。そしてトウリ・ノエルの旅の終りとなるクライマックスは、この作品の中でも出色となる忘れられない名シーンでありました。
でも、まだ続くんだ。まだ、ここからこそが始まりなんだ。世界にとっての地獄も、トウリにとってのさらなる地獄も、ここからなんだ。
にしても、だからこそ後世・現代となる１９３６年のセドルくんが主人公となっている話の内容に混乱させられる。
いやだから、トウリじゃないの、この子！！？？？？？？？
それでいて、全くの他人じゃなくて、義姉とか名乗るし。いや待って待って待って、どう考えてもしれはおかしい。まかり間違ってトウリに子供が出来ていたとしても、セドルくんこの時点でもう生まれてるんですよ？ ゴムージの息子として、トウリが軍に入隊した時にはもう生まれてるんだから、どう計算しても姉になるはずないじゃん！！
しかも、なんでイリスって名乗るの！！？？ その名前はアレじゃん！ アレじゃん！？
正直、話してみると性格がトウリとは違いすぎるので、少なくとも人格はトウリじゃないと思うのですけれど、それにしては似すぎてる！？ それに、歴史上では救国の英雄となっているベルンを目の敵にしているってどういうこと？
わからん。マジでわからん。この子の正体も、なんでセドルくんが記憶無くしているのかも。
セドルくんを育ててくれたアニータ医師はちゃんと義母として登場したし。いや、なるほどそこで新しい日記がセドルくんに受け渡されるのか。アニータさんならトウリの日記持っていても不思議ではないですし。
いやあ、Web版完結まで見届けた身ですら、この現代編はあまりに謎めいていてドキドキが止まらないですよ。どうなるんだこれ！？
なんど読んでも、何度見ても、トウリとロドリーくんとの結婚のシーンは涙腺が決壊してしまいます。
なんでこんなに穏やかで寂しくも優しくて、何もかもがこぼれ落ちていくのに満たされたような感じすらするのでしょう。
これが、トウリ・ノエルの人生の旅の終わり、と言っても過言ではないのかもしれません。小さな優しい衛生兵さんの、地獄のような戦場での掛け替えのない家族との日常の、これが終わりだったのでしょう。
でも、のちに伝説と謳われる彼女の旅は、まさにここから始まったのかもしれません。
戦場という地獄から、戦争というフィールドに立つ地獄のはじまり。作中ですら、本当の地獄はここからだった、と言われるくらいの世界を鬼畜道に突き落とす兵士だけじゃない、銃後の一般市民すら否応なく悪意の贄に焚べられていくこの世の地獄へと。
思えば、彼女の名前が変わっていくそのスタートもここだったんですよね。トウリが一番大事にする、トウリ・ロウという彼女の唯一無二の本物の名前。
この彼女の公称が変わっていったことが、考えてみるとセドルくんが主人公の１９３８年でのトウリ氏の正体の混迷にも繋がってるんですよねえ。
……って、現代編がかなり謎めいたことになってるんですけど！！ あれ？ あれ？ セドルくんを襲撃してきた政府（？）のエージェントってトウリ本人じゃないの！？
Web版を完結まで読んだ身ですけど、これは本当に何がなんだかわからないよ！？ Web版とこの書籍版は描写が違ったりするところはあるんですけれど、それは視点の違いであって世界線自体は同じらしいんですよね。パラレルワールドとか、歴史の展開が違うとかはなく。
あ、Web版の方は最近無事完結しました。ヤバかったです。本当に最後の最後まで度肝を抜かれ続けました。クライマックスまで圧巻であり続け、読者側の想像力を圧倒的に上回る激動であり続けました。最後まで情緒がぐちゃぐちゃにされ続けました。
傑作でした。
これを最後まで書籍版でも読みたいのう。大丈夫ですよね。まだ、本作の最重要人物の一人であるシルフ・ノーヴァも一瞬しか登場していませんし。ってか、トウリとシルフの最初の邂逅がこれって色んな意味で劇的すぎるよなあ。ある意味、この物語ってトウリとシルフの二人の物語だと思えば、これくらい劇的でないと格好がつかないのかもしれませんが。いやそれにしても、とんでもなさすぎるだろうこれは。
ともあれ、オースティン側でもベルンという天才にして邪悪なる参謀が本格的に登場することで、この作品の役者は揃ったと言えましょう。
こいつ、本当に邪悪というか性格が歪んでいるというか。人間として間違いなく悪であり、下劣と言って間違いない人物なんですが、だからといって敵ではないんですよね。そう、敵ではないんですよ。
立場上同じ陣営だけれど、主人公を目の敵にしてくる事実上の敵……って、いう枠組みの敵ですらなく。いやまじで、トウリが蛇蝎のごとく嫌うように最低のクソ野郎なんですけど、個人的にはナンテことをしてくれるんだっ、とぶっ殺したくなるようなクソ野郎なんですが、それとて後々当事者の感情をネガティブな方向に沸騰させるだけで、行為の結果だけ見ると決して不都合ではなく、味方なんですよ。困ったことに。
そして、オースティン王国としては間違いなく文句なく救国の英雄なんですよねえ。でも、個人としてみるとやっぱり許しがたいクソ野郎で……いやあ、よくこういうキャラクター出しますよね。これはこれで、情緒がかき乱されてどうしようもなくなる。どうあっても気持ちの整理がつかないんですよ、こういうキャラクターを目の当たりにしていると。
それは、トウリにとって永遠の仇敵となるシルフもまたそうなるわけで。これはトウリも感情の置きどころがなくて、ぐちゃぐちゃになりますよ。
思えば、まだここまではトウリの心情としてはシンプルで居られたんですよね。小さな優しい衛生兵でいられた。小隊を率いる部下を持つ立場になり、責任を担うようにもなったけれど、アレンという兄のような小隊長が率いる家族みたいな元の所属部隊があり、面倒見てきた衛生小隊の面々がいて、姉同然に気にかけてくれるアリアが居て。
自身が生まれ育った孤児院が、ノエルの街とともにサバト軍に略奪され焼き払われ皆殺しにされて、本当に何もかもを喪ってしまったトウリにとって、本当の意味で天涯孤独になってしまったトウリにとって、もう軍は自分にとっての唯一の居場所であり、彼女の家族はここに居た。
だから、戦局がもう本当に救いようのないくらいの絶望的な状況に陥っても、トウリはここを離れる事を選ばなかった。もう、アリアからの脱出の勧めを断ったときに自分もみんなと一緒に死ぬ、と。それはもう覚悟なんかじゃなく、自然な選択として選んでいる姿が見られました。
トウリのこと、本当の妹みたいに可愛がってたアリアさんも、これはどう思ったんでしょうね。いやどうなんだろうな。哀しくもあり、嬉しくもあり。いずれにしても、この時点でアリアさん自身自分の結末は決めていたのでしょうけれど。
でも、トウリとしてもみなと一緒に死ぬことを受け入れていたとしても、だからと言って必ず死ぬであろう役割を、家族同然のアレンや……ロドリーくんに自分が与えることになるとは考えもしていなかったはずです。
FPSのゲームで世界の頂点を極めた、という前世のスキルが……ここにきて、こんなところにきて開花してしまう、というのは皮肉としか言いようがない。すでに、ヴェルディさんの名を知らしめることになった撤退劇を主導したことで、その萌芽は芽吹いていたとはいえ。
本作は、いきなり戦場でFPSのスキルが活きて無双する、なんて展開は一切ありませんでした。ゲームの経験なんて、実際の戦場では何の役にも立たなかった。
いや、僅かなりとも生存のための一瞬の判断なんかで、全然役に立たなかったって訳でもないんですけどね。でも、本物の戦場は本物の地獄でしかなく、ゲームの知識やスキルをそこで活かしてなんて、新兵のしかも衛生兵でしかないトウリには出来ようはずもなかったわけです。
でも、あれからトウリはずっと前線で砲火の下をくぐり抜け、銃弾の雨のなかを走り続け、生きるために貪欲に兵士として衛生兵としての技術を高め続け、生き残るために体力をつけつづけた。
そうして、今やもう一端の歴戦の兵士となり……だからこそ、下地が出来て整ってしまったからこそ、兵士としての経験が、FPSプレイヤーとしてのスキルや経験、そして感性を実際の戦場に反映させるヨスガになってしまった。
なにげに、トウリってガーバック小隊長を最初に、名うてのエースの薫陶を得ていくことになるんですよね。
そういう意味でも、彼女の伝説がここで始まっているんだよなあ。
でも、もうトウリはそんな事何にも望んでいなくて、この巻でロドリーくんに呆れられるほどにトウリってボロボロ泣いちゃってるんですよね。あんなに感情に乏しいくらいだったのに。
いや仕方ないんだよ。トウリが泣いちゃうくらいのことを、その小さな胸の中に抱え込んじゃっていたんですから。知らなければよかったことを、知ってしまっていたのですから。
彼女が泣いていたのは、自分のためじゃなくて、ロドリーくんのためだったのですから。いや、ロドリーくんのために泣くというのは、それだけロドリーくんに気持ちが入ってしまっているわけですから、辛くて哀しくて堪えられなくて、というのはトウリの感情だよな。トウリの気持ちで、自分のために泣いているとも言えるのかも知れない。ロドリーくん、口悪いんだけれどちゃんと慰めてくれるもんだから、そりゃ余計に泣いちゃうよ。
この期に及んでトウリは自分は異性としてロドリーくんを好きなわけじゃない、と言い張るし、今後も言い続けるのですけれど、はっきり言ってトウリの内心の自己分析、特に他人への感情に関してはまったく当てになりません。本音と建前と自覚と無自覚が複雑骨折してぐちゃぐちゃになっていて、まったく当てになりません。
トウリに関してはもう主観よりも、傍から見た客観のほうが間違いなく正しいでしょう。他の人から見たトウリ、というだけじゃなく、シンプルに彼女の言動を抜き出して言ってる事とやってる事を見て、見たまんま捉えたほうが、正しく彼女の心情を見て取れるんじゃないでしょうか。
だって、だってどう見てもトウリ、ロドリーくんのこと大好きじゃん。ってか、内心で言ってることからしてもう大好きじゃん！ 最後は、ロドリーくんの横で眠りたいって、来世に一緒にいられるように少しでも傍で死にたいって、それもうさあ……もう、愛じゃないですか。
ロドリーくん、この子は最初出てきたときはもう胸糞野郎だったのにね。よくがんばった。よくトウリを受け止めた。よく待っててくれた。そして、本当に最後の最後まで。最期すら越えてまで、トウリを守ってくれた。大したやつだよ。トウリにとっての唯一無二。最初で最後の夫。トウリを人妻未亡人ロリにした罪深い男。でも、既婚者であるということがトウリを色んなものから守ることになった今後を考えると、ロドリーくんってずっとずっとトウリのこと守り続けたんだよなあ、と思うと……うう。
北部決戦、アレン小隊最後の戦い。そしてトウリ・ノエルの旅の終りとなるクライマックスは、この作品の中でも出色となる忘れられない名シーンでありました。
でも、まだ続くんだ。まだ、ここからこそが始まりなんだ。世界にとっての地獄も、トウリにとってのさらなる地獄も、ここからなんだ。
にしても、だからこそ後世・現代となる１９３６年のセドルくんが主人公となっている話の内容に混乱させられる。
いやだから、トウリじゃないの、この子！！？？？？？？？
それでいて、全くの他人じゃなくて、義姉とか名乗るし。いや待って待って待って、どう考えてもしれはおかしい。まかり間違ってトウリに子供が出来ていたとしても、セドルくんこの時点でもう生まれてるんですよ？ ゴムージの息子として、トウリが軍に入隊した時にはもう生まれてるんだから、どう計算しても姉になるはずないじゃん！！
しかも、なんでイリスって名乗るの！！？？ その名前はアレじゃん！ アレじゃん！？
正直、話してみると性格がトウリとは違いすぎるので、少なくとも人格はトウリじゃないと思うのですけれど、それにしては似すぎてる！？ それに、歴史上では救国の英雄となっているベルンを目の敵にしているってどういうこと？
わからん。マジでわからん。この子の正体も、なんでセドルくんが記憶無くしているのかも。
セドルくんを育ててくれたアニータ医師はちゃんと義母として登場したし。いや、なるほどそこで新しい日記がセドルくんに受け渡されるのか。アニータさんならトウリの日記持っていても不思議ではないですし。
いやあ、Web版完結まで見届けた身ですら、この現代編はあまりに謎めいていてドキドキが止まらないですよ。どうなるんだこれ！？
