【最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する 1】  三日月猫/azuタロウ オーバーラップ文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
前世剣聖(♂)×今世美少女メイド(♀)=最強無双!

伝説の英雄として人々に語り継がれている歴代最強の剣聖・アーノイック。
彼は何の因果か誰もが視線を奪われる美少女メイド・アネットに転生した。
前世で戦いに明け暮れる日々を過ごしていたアネットは、今世では剣の道に進まず伯爵家のメイドとして平穏に暮らすことを願う。
しかし、伯爵の令嬢であるロザレナが行方不明になる事件が起こり――!? 
アネットは襲い来る障害を前に大切な人を守るべく最強の剣技を解放する!!
真の実力を隠してメイドとして生きる元剣聖が、極稀に力を解放し手持ちの箒で無双する異世界ファンタジー、開幕!


うほほほ、面白えなあこれ。
タイトルの通り、TS転生ものである。しかも、前世がいい歳したおっさんでしかも最強を極めた武人でありながら、生まれ変わって女の子になってしまった、というパターンですな。
こういう設定の作品はいくつも読んだことがあるのですけれど、本作が面白えなあと思ったのは主人公のアネット。あからさまにおっさんとしての厳つくてガラの悪い人格が残ってるんですよ。にも関わらず、祖母の厳しいメイド教育の成果なのか、肉体に魂が馴染んでいったのか、柔らかい女性としての人格も育まれていっている。
この手のおっさんからのTS転生モノって、だいたい前世側か女の子側に人格形成が染め抜かれてしまうパターンが多いんですよね。どちらかの要素を残しつつも、大体片方に寄ってしまう、と。
ところがこのアネットって、なんかおっさん要素と女の子要素をどちらも色濃く残したまま混ざっちゃってる感じなんですよ。
前世の剣聖のおっさんは、わりとちゃんとした立場のある人だったのにチンピラみたいな所があってまあガラが悪い、育ちが悪い。スラムあがりというのが如実にわかるややも品格に欠けるおっさんでした。
それでも、生き様は非常に真っ直ぐで愛弟子をはじめとして結構慕われてたみたいなんですけどね。でも、場末の酒場で飲んだくれてそうだなあ、とかそんな感じの人ですよ。
そんな前世の記憶を残してるものだから、アネットの素というのはまあやたらと毒舌でガラ悪くて、そんな描写はないけれどななめ下から睨めつけてきて「ああん!?」とか威嚇してきそうな感じなんですよねえ。
これを、使える家で長年メイド長を務めている祖母が矯正に矯正を重ねて、ちゃんとメイドとしての振る舞いが出来るように仕込んでいるのですけど。それも猫かぶってるんじゃなくて、ちゃんと身についてるんですよね。自然と無理なく、メイドとして振る舞えているし、女性として生きていくことも嫌悪感なく馴染んでる感じなんですよね。
使えている貴族家の人達がまたとても温かで貴族らしからぬ良い人たちなものだから、前世の剣聖としての生き方に拘ることもなく、このままメイドとしてこの家の人達に仕えていきたい、とすら思ってる。
意外なほど、前世からギラギラしたものを引き継いでいないんですよねえ。
かといって、完全に女の子寄りになっているかというと、妙に根がおっさんな部分が滲み出てたりもして、この混ざり具合があんまり他で見たことのない面白い塩梅なのである。
普段の内心の語り口はおっさんのまんまなのに、言動はちゃんとした年頃の女性になってるというこの倒錯感w
時々出るガラの悪い態度や口調も、そういう性根の女の子、にはためには見えるんですよねえ。

将来剣聖を夢見る仕える家のお嬢様であるロザレナに対しても、この子病気で長らく療養していたので療養先から実家に帰ってきたところが初対面だったのですが、最初はおっさん視点でなんだこのわがまま小娘は……って感じであしらっていたのが、一緒に過ごしてトラブルに巻き込まれたりするうちに、仕えるべき主としてもろに傾倒していくわけですよ。
おっさんとしての意識からは自分が守ってやらないと、という庇護であると同時に、アネットという同世代の従者としては、この娘になら全霊をもってお仕えできる、という忠誠と親愛が相まったような感覚を抱きだしていて、なんか前世と今の女の子としての感覚というか捉え方が混ざってなんとも不思議な距離感になってるんですよねえ。
お嬢様のロザレナの方も、アネットの狂気めいた戦い方の格好良さ、これはおっさんと剣聖の要素ですね。それと絶対にロザレナと一緒にいた他の子供達を守る、というこちらは従者として、メイドとして、同じ女性としての献身や健気さや柔らかな優しさを感じさせる要素ですね。この両方に完全にアテられて、アネットに憧憬と独占欲、もう恋と呼ぶしかないような感情を抱いてしまうんですなあ。
アネットに並び立てるような剣士になりたい、と崇めるような見上げるような思いと同時に、この娘は私のものだ、という主従として、もっとも身近な同世代の親友として自分が一番近くにいて手を離さず手中に収めている、という感覚が並び立っているような感じ、と言いましょうか。
複雑に入り組んでいるようにも見えますけど、シンプルに依存しかかっていたとも言えたわけで、聖騎士養成学校に入学するために必要な信仰系魔法を習得するために、実家とアネットと離れて修道院に五年も入ることで、一旦冷却期間を置いたようなものなのですが……全然冷めなかったですね、ロザレナお嬢w
ロザレナがいない間に生まれた弟のルイスが、完全にアネット大好き幼児になっていて、将来アネットと結婚する気満々な上に、帰ってきた姉のロザレナにマウント取って姉弟でアネットを巡って醜い争いを繰り広げていたのには苦笑を禁じえませんでしたが。てか、ロザレナもまだ五歳にもならない幼児相手にマジになるなよw

2巻は、二人で聖騎士養成学校に進学する学園編になりそう。アネットの前世での愛弟子であり、現剣聖のリトリシアとの再会はそこで、ということになるんだろうか。
女性に転生してしまった、というよりも転生した先で家族というものの愛を知り、レティキュラータス家一家の善良さに感化されてメイドとして仕えるやりがいや満足を知り、そしてロザレナお嬢様に付き従う従者としての生き方を手に入れてしまったアネットを、果たしてリトリシアは気づくことが出来るんだろうか。この人が美化しまくってしまったお師匠様に対して、今のアネットは解釈違いすぎることになってそうなんだがw