【魔物使いの娘 ~緑の瞳の少女~】 天都ダム ／しらび DREノベルス
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第2回ドリコムメディア大賞≪大賞≫
悪いのは、人か魔物か
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<あらすじ>
かつて黒き竜が生み出した魔物たちを説き伏せ、従えたと呼ばれる魔女リングリーン。その末裔リーンも同じく魔物を従わせる能力を持っていた。そんな彼女に命を助けられた、魔女狩りの異名を持つ冒険者ハクラはある事情から護衛として雇われ、一緒に旅をすることになる。
特別な力を持つ彼女に舞い込んでくるのは、どれも厄介な魔物が関わる事件ばかりなのだが、実は魔物ではなく人間側にも原因があって……。
「人間って、ほんとにわかんない」
自信家でわがままで、だけどどこか放っておけない小悪魔な魔女と歩んでいく普通じゃない物語が始まろうとしていた。
これ、絵師はしらびさんなんですね。
表紙絵がまた、随分と……これわりと広告詐欺じゃないですかね？ｗ
あどけなさを感じさせるぽーっとした表情に、立てた杖に寄りかかるように地面に座り込んだ様子はどこかこちらを見上げるようで。庇護欲を掻き立てるような幼気と無垢さを感じさせます。
魔物使いというのだから、むしろ人間社会から外れて生きてきたような、人の悪意や人間社会の世知辛さなど知らずに森の奥で生きてきたような。
そんな純真で穢れのない無垢な少女。
そしてそんな彼女の頭の上に乗る、つぶらな目をしたマスコットのようなスライム。ああ、きっと可愛らしい小動物みたいなキューキューといった感じの鳴き声を発しながらポヨポヨと弾んで自己主張する健気で可愛らしいスライムなんだろうなあ、と。
そう思っていた時期もありました。中読むまでは。
全然違ったわぁぁぁ！！ そんな無垢な少女もマスコットみたいなスライムも、作中のどこにもおらんかったわーーーぁ！
せ、性格ワルぅぅ！ 初っ端からこの娘、大物モンスターのヒドラと相打ちになって死んでる（死んでなかった）冒険者の亡骸を見つけて（まだ死んでない）、見なかったことにしてヒドラ倒した手柄だけ横取りしてもいいですかね？ とかいう感じのことをほざき出したぞｗ
そして、スライムはこれ絶対に声おっさんだ！！ｗ 自由奔放な少女に苦言を呈す苦労症の精神おじさんのスライムだ！！ いや、もっと上の爺さんくらいかもしれないが。ともあれキューキューぽよぽよと無邪気で可愛らしい感じのスライムなんてどこにもいなかったんだよ。
いや、スライムのアオさんは常識人でちゃんとした人……人じゃなくてスライムだけど、マトモなスライムなのでこちらはいいのですが。
こっちの魔物使いのリーンの方はというと、貴女表紙絵みたいな無垢な表情とかしたことないでしょ。ゲス顔がデフォルトだろ、おい！！
いや、悪い子ではないんですよ。悪では絶対にない。瀕死で生きていた冒険者ハクラの命を繋いで、ぶっちぎられていた腕も元通りに治してくれましたしね。わりとあっさりと人道から外れそうな事口にしたりしてますけれど、基本的には善良な人の道からは外れていない娘のはず。常識知らずでもないですし……まあ世の中の規範や倫理観をわかってて無視しようとするときがあるのでアレですが。
でもこう、邪悪から悪を差っ引いてとりあえず邪まだけ残しました、くらいには性根が歪んでいますね。性格が悪い、というのは少し違うかも知れない。性根がアレなだけで。わりと暴君なだけで。傲岸不遜なだけで。ギャーギャーうるさいし生意気だし偉そうだし、イイ性格しているだけで。
小悪魔というよりもろくでなしの類なんじゃないのか、この娘ｗ
いやただまあ、ほんとに悪い子じゃないんですよ。これだけ悪口みたいな分析をしておいてあれですが、情に厚いところがあるし自身理不尽っぽいのに理不尽な結末には抗いますし、その根本原理を見ていると確かに善なる魔女である事は間違いないっぽいんですよねえ。
そんな彼女に命救われてしまったハクラ。なんか、恩義を感じるというよりも借金のかたをとられたような塩梅になってしまっていますが、同行する理と利を説かれてしばらく一緒に旅をすることに。
なんかもう心の底から嫌そうでしたけど！ でもわかるーー。意識取り戻した当初から散々な目に合わされ、散々振り回されて、勘弁してくれというのが本音でしょう。
とはいえ、これで良いコンビになっていくのですが。それに、もう面倒くさいろくでもない少女なのですけれど、どこか放っておけないというのは間違いなくて、喧々囂々言い争いしながらアオに仲裁してもらったりアオに説教されたりアオに宥められたりしながら旅していく二人。いや、アオさんいないとえらいことになるな、このパーティー。
と、ハクラに出会うまではスライムのアオだけを連れてソロで旅をしていたリーン。
魔物使いというのだから、特定の魔物を連れてそれを使役する魔術を使うのかと思ったら、これそれどころではないんですね。ほぼ無条件にあらゆる魔物を、一見さんでも支配下に置いてしまう超絶的な能力。文字通り、本当にあらゆる魔物に言うことをきかせることが出来るんですなあ。
これはもう、魔物使いというよりも魔物の支配者と言っても過言ではないくらい。ただ、相手の意思を奪って使役するのではなく、魔物と話して言い聞かせるって感じなんですよね。ただ絶対に言うことを聞いてくれる、という感じではあるんですけれど。
この世界で唯一の善なる魔女と呼ばれる系譜の末裔であるリーン。しかし、彼女は絶対的な人間の味方ではないようで、その立ち居振る舞いを見ていると人間と魔物、その領分を対等に見守っている雰囲気があります。あるいは、人間と魔物の調停者、というべきなのか。だから、魔物の領分を人間の側が犯した場合、彼女は決して無条件に人間の味方をしようとはしないのである。
でも、基本的に人間社会の中で生きているので、じゃあ人間排除！ とは簡単にはしないのですけど。怒りのままに人間サイドを攻撃したり、ねじ伏せようとしたりせず、ハクラに八つ当たりしながらもあくまで説き伏せようという姿勢でしたしね。……言動がもろに暴君で理不尽なのに、意外と物事は穏当に収めようとしてるんだよなあ、リーンって。
隣人同士で長きに渡る友好が結ばれていたとある村と森に住まうコボルトの関係が、あるとき人食いコボルトの群れが現れたことで破綻してしまった事件でも、これどちらに悪意があったわけではなく、しかし人間側とコボルト側の相互理解が足りなくて、不用意に領分をこえてしまったために起こった悲劇だったのですが、リーンとハクラは何とかこれをうまいことその時点から出来うる最良のエンディングへと持ち込むのです。これは、魔物に対して理不尽なほどの支配権を持つリーンが居ても、ただその能力だけでは解決できなかった事件。
そして、次のリビングデッドの悲劇は最初から終わっていて、リーンにもハクラにもどうしようもなかった事件でした。
ただ魔物と戦うならば、そもそも戦いにすらならないリーンが相対して思い通りにいかないのは、どうしたって人間が相手になるときなんですね。
そういう時に頼りになってくるのが、魔女狩りという壮絶な異名を持つ歴戦の冒険者であるハクラの存在であり、リーンが彼を見込んで伴う理由ともなってくる。
果たして、彼らの敵は人間か、それとも人も魔物も関係なく悪意の底に沈めてくる、魔女なる存在なのか。
一話一話、用意に紐解いていけない難題が突きつけられて、それを丁々発止のやり取りをしながら解決に導いていく魔物使いの娘と魔女狩りの青年、プラス賢者スライムのパーティーのお話、どれも読み応えあって面白かったです。
最後に魔女なる悪意の存在が匂わされてふたりの旅路に明確な脅威が見えだしたところで、次巻に続く。いいところで終わるじゃないですかーー。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
