【転生してショタ王子になった剣聖は、かつての弟子には絶対にバレたくないっ 剣人帰還】 ぽんこつ少尉／しあびす 一迅社ノベルス
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
もう一度強く。あの頃みたいに、自由に。
見た目は子供、中身は無敵の元剣聖。波瀾万丈の学園ファンタジー、ブライズとリリの出逢いを描いた番外編を収録してついに書籍化！
独自の剣術で弟子を率い、国を救った剣聖ブライズ。
壮絶な人生の果て、ブライズはその記憶を持ったままにガリア国王の末子エレミー・オウルディンガムとして転生した。
大切に育てられ十歳を迎えた彼は、再びの自由を求め、エレミアと名前を変えてレアン騎士学校初等部への入学を志す。
と・こ・ろ・が…………結果は不合格！
途方に暮れていたエレミアだが、そんな彼の前に一人の女性が現れる。
「受験番号〇一七番エレミア・ノイ。あなたを迎えに来たわ」
雷のように脳を貫く彼女の声。
目の前にいるのは剣聖ブライズ最後の弟子、リリ・イトゥカ。
美しく成長したかつての弟子は、特例で高等部への飛び級を許可されたエレミアを迎えに来たのだった――。
おっさん剣聖転生ものって最近見たなあ、と思いつつ、先日読んだものは美少女メイドにTS転生してしまったもので、これはこれで得難い面白味のある作品だったのですけれど、こっちはなんだ？
ショタっ子だァ！！
ショタである。まだ初等部に入っているくらいの年齢なのに、試験で大暴れしてしまった為に特例で高等部相当の騎士学校に入る事になってしまうんですね、エレミアことエレミー第三王子。
身分はガッツリ隠しております。王族とバレると身の危険アリアリの世界情勢なんで。結構えげつない蛮行が行われていたり、殺伐とした所のある世界観なんですよ。
剣聖ブレイズだった前世の弟子であるリリも、最初は流浪の民として生まれ、口減らしのために奴隷として売られて、買われた旅芸人一座で家族同然に可愛がられたものの、その一座も理不尽に皆殺しにされて、彼女だけが生き残っていた所をブレイズたちに助けられた、というのが出会いだったそうですから、幼少期から壮絶な人生を歩んでるんですよね。
他にも、登場人物の中にもまだ子供なのにリリに勝るとも劣らない筆舌しがたい半生を歩んできた子も居て、エレミアの情緒を締め上げていくのですけれど。
ともかく、まだショタ扱いされる年齢で、周りみんな年上のお兄さんお姉さんの群れに放り込まれてしまったエレミア。元は岩石みたいな顔面した荒くれものめいたおっさん剣聖だった彼ですから、王子として品行方正は繕えるものの、素性を隠して通い出した学校ではそんな王子様やる必要もないわけで、生意気で偉そうなショタガキになるわけですけれど、やっぱりショタはショタなんですよ。
まだお子様なので、寮では教官となっていたリリと同室。同級生となったミクには撫でくり回され、可愛がられるわけです。
かつて剣聖だったと言っても、今はまだ身体も出来上がっていないようなショタなので、前世と比べると見る影もないくらい能力は落ちてしまっていて、それでもぬるい平和ボケした教師や実戦を知らない生徒たちと比べれば全然強いのですけれど、決して突出した力を持っているわけじゃない。
自分を構い倒してくるミクをはじめ、あとに同じチームになるヴォイドやリョウカなんかは今の大きな武器も持てないエレミアじゃ敵わない部分もあって、決して上から目線で引っ張っていけるような差があるわけじゃないんですよね。
そういう意味では、年の差は向こうのほうが上なんだけれど、前世の分含めても同級生たちとはちゃんと対等な目線で付き合うことになっていくんですなあ。
いくら、前世では剣聖やってたんだぞー、と歯噛みしても、昔の弟子は今や剣姫と謳われて全然強くなってるし、同級生たちも瞠目すべき力を持ってるし、とマウントとか取れないショタっ子なのである。
一方で、この剣聖ブライズにしてエレミー第三王子って、もう凄く情が厚い男でもあるんですよね。情け深いとか情に脆いとかじゃなくて、一度身内認定した相手には愛情が深いというんかなあ。
本作、章の扉に毎回掌編でリリの弟子時代、というよりも幼女時代というべきか。その頃のエピソードが描かれているんですけれど、リリ教官の本編中の過去回想含めてみても、ブライズってリリのことめっちゃ面倒見てるんですよ。
自分では、後ろから勝手にくっついてきてただけだ、とか生まれ変わって最初に再会した時は名前すらも思い出せなくて記憶から振り絞ってようやく思い出してた素振りなんだけど、実際の二人の様子を見てたら絶対名前忘れてたとかないだろ、転生した副作用でちょっと記憶飛んでただけだろう！？ と、思うくらい、リリに対して愛情注いでるんですよ。もうどう見ても父親と娘じゃない、と思えるほどに。父性をものすごく感じさせられる姿なんですよねえ。
どちらかというと、拾ってきた猫といかついオッサン、という塩梅にも見えなくもないけど。子供なんか育てたことのないおっさんが勝手がわからないまま、表情も乏しく言葉も少ない、でも自分から離れようとしない幼女、頭悩ませながら接している様子が見てるだけで愛おしくてねえ。
ブライズって、他にも勝手についてきてるような弟子たちが居たみたいなんだけれど、どういうリリから見ると兄弟子、というよりもお兄ちゃんたちだなこれ。ほんと、家族同然の一団って感じだったんだよなあ。
ブライズにとって、リリに戦い方を教えるつもりなんてなかったし、紆余曲折の末に彼女が戦争に参加して人を殺し、自分と一緒に戦うことになった件についてはほんと後悔しているみたいで。
すごく大人としての責任感みたいなものを感じてるんですよね。剣聖として、戦局に寄与する立場にあり、力があり、国王陛下とはマブダチで……この陛下が生まれ変わった時父親になるんですけれど。若き国王と一緒に戦争を終わらせるために奔走していた身としては、その戦禍で無辜の民が傷つき苦しむさまには忸怩たるものがあったみたいですし、何より子供が悲惨な目にあう事に関しては過剰なくらい反応するし、どれほど強くなっても助けられない、間に合わない、手を差し伸べられない結果には痛恨の念を抱いていたようなんですよね。
それは、ブライズがエレミーへと転生したあとも変わらずに彼の魂の中に残っていて。
今は子供の身の上ながら、未だその心の奥底に大人としての責任感、かつてブレイズだった頃に手の届かなかったものへの後悔を抱えているのである。
それが、今王子として生まれ変わったあとも、強くなろうとする動機の大きな一つなのでしょう。
かつて剣聖であった時ですら足りなかったものが、今さらに未熟となり、無力さを彼に突きつけてくる。平和に学園生活送れているだけだったら、そこまでエレミアも切迫はしなかったんだろうけれど。
かつての敵国は相変わらず謀略を仕掛けてきていて、クラス全員まとめてダンジョンの崩落に巻き込まれて遭難、という壮絶な状況に追い込まれたり、とまだ子供なエレミアだけではどうしようもない事態に遭うわけです。
それを何とかみんなで協力して切り抜けたそのさきで、あんな事態が起こってしまったのですからね。
ラストでのエレミアの行動というのは、わがままと言っていい。どう考えても理屈にあわず、感情任せで無謀この上なかった。
でも、それは子供ゆえの無分別の無責任の結果の行動とはまたちょっと違うんですよ。それは、彼がかつて大人であったからこそ。子供が見舞われる悲劇惨劇をどうしても見過ごせなかったからこそ。
そういう大人としての情愛、責任感を、かつての剣聖時代にはあった立場ある身分としての責任感がない故の、今は子供の身の上だからこその自由さが後押しした、という感じなのかな。
大人と子供が混ざった今の彼だからこそ、起こせた行動と言えるのでしょう。ついでに、今は父親である国王への、信頼感の厚さもあるんだろうなあ。前世ではガチで立場を超えた親友だったみたいですし。ついでに、息子として父親に対しての甘え、みたいなものもあったのかもしれない。
どうしても見捨てられない、その一念から行動を起こしたエレミアが直面したのは、再び剣聖だった時代に手の届かなかった、助けてやれなかった理不尽に踏み躙られた子供たちの熾火だったんですね。
本来、エレミアが……ブライズがそこまで思い入れる必要などこにもないと思うんですよ。でも、本当にこの男、情が深いんだよなあ。語られるその子の事情、過去、有り様に打ちのめされ、胸を掻きむしらんばかりに懊悩し、震えるその子を掻き抱く姿には、彼の情の厚さ深さとまだ幼い１０歳の少年の心が揺さぶられ締め付けられている切なさがもろに伝わってきて、なんかもうたまらんくなりました。
傷ついた小さな子供に必要なのは、きっと家族だったわけで。今も昔も、ブライズもエレミアも、そんな震えて縮こまっている子供達の姿に無力や未熟を痛感しながら、藻掻いて足掻いて、手を差し伸べて。
家族という安心できる寝床を与えてあげたんですよねえ。
それこそが、愛ってやつじゃないでしょうか。愛情深いってやつじゃないでしょうか。
この主人公、好きだわー。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
