【天下の大悪人に転生した少年、人たらしの大英雄になる 1 〜傾国の美少女たちと英雄軍団を作ります〜】 千月さかき／もきゅ オーバーラップ文庫
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破滅回避したいだけなのに……いつの間にか最強の大英雄に!?
中華風RPGゲーム『剣主大乱史伝』の世界に転生したことに気付いた少年・黄天芳。
さらに天芳は、10年後に義妹・柳星怜が“傾国の悪女”となってしまうこと、そして自身が“天下の大悪人”として倒される悪役であることを思い出し!?
破滅回避のため行動を始めた天芳は、ゲーム知識を活用しながら努力を重ね、秘めた才能を開花させていく!
その行動はいつしか原作の展開に思わぬ影響を及ぼし――
義妹を闇堕ちから救うだけでなく、本来敵対するはずの正ヒロインや最強の武術家まで、“傾国級”の美少女たちを続々と味方につけて!?
“天下の大悪人”に転生した少年が最強の“大英雄”となる悪役転生ファンタジー、開幕！
ファンタジー系にしてもゲーム世界モノにしても、やっぱり欧州系と中華系が二大巨頭ですなあ。世界観のフォーマットみたいなものが出来ている上に、読む人にしても書く側にしても既に前提となる共通認識があるので、すんなりと作品世界を捉えられるんですね。
中東、ペルシャ、インドや東南アジア系の異世界は無いことはないんでしょうけれど、やはりあまり見かけない珍しいものになってます。どうしても読者筆者両サイドにとって最初に超えるべきハードルが高いんでしょうなあ。
意外と日本風中世異世界が少数の側なのは興味深いところ。あくまで極東の方に存在する異国情緒あふれる島国的な感じで登場することが多くて、そこが主な舞台になる、というのはあるっちゃあるけれど多くはないですなあ。近現代になると、圧倒的に増えてくるのも面白い。
っと、この作品の話からは逸れてしまっていましたね。中華風RPGゲームということで、タクティクス系ではないのかな？
主人公はゲームではいわゆる奸臣として国を傾け、最終的にゲームの主人公たちに討ち果たされる敵役であり、大悪人。三国志の董卓、いや戦闘力が全然ないそうなので張譲とか秦の趙高みたいな奴ですかな。
原作では義妹を皇帝の后にして、外戚として政治を壟断した、とされているわけだが、ゲームの原作が始まった時にはもう既に大悪人として色々やらかして恨み辛みを買っている状態なので、彼がどのような経緯を辿ってそのような立場になったのかは、ゲームを散々プレイした主人公も知らないわけだ。
知らないので、いくら原作知識をもってその将来の大悪人である黄天芳になっていたとしても、具体的な対処方法もわからないわけだ。
一族を蛮族に殺されて引き取ることになった義妹の柳星怜が、どうして傾国になってしまうかもわからないし、今は健在の両親や家の後継者である兄がゲーム本編では影も形も存在しない理由もわからない。
なにもわからない以上は、とにかくいざとなったら逃げられる手段と家族を守れる手段を手に入れないといけない。そして親を殺されて傷ついている星怜の事も労ってあげて、何とか将来悪女にならないようにしてあげないと、ということで強烈な危機感とは裏腹のふわっとした方針とその時々に臨機応変に対処していかないと、という塩梅で将来の破滅に立ち向かわなくてはいけなくなった天芳。
大変である。
一応、自分が強くなるためにゲームの知識を利用して手段らしきものはアテがあったものの、それでも具体的に破滅ルートを潰せる選択がわからない、というのは天芳にとっては余裕を失わしめるものだったのかもしれません。
天芳って、どこからどう見ても善良でお人好しで、自分よりも家族や友人知人を優先してしまいそうな優しい感じの少年なのに、心の内側はとにかく自分が助かるためにはこうしなきゃいけない、と自分優先を言い聞かせてるような感じなんですよね。
星怜を気遣って優しくするのも、兄を助けて家を継ぐ立派な将軍になって貰うのも、将来の自分の破滅を防ぐため、回避するためなんだ、という下心ありきありき、というのを繰り返し繰り返し地の文で言い募ってるんですよ。
それを言い訳にしてるとかじゃなくて、本気でそう思って行動している。下心あるのを後ろめたいとか罪悪感とか恥ずかしい、みたいな事を思っている様子もない。あえて正当化することもなく、当たり前にそうしないといけない、と思ってる感じなんですよね。
ところが、内心で繰り返し下心が前提と言っているわりに、天芳は本気で星怜を慈しみ兄を尊敬して、両親に献身している。師を敬い、兄弟子を慮り、国を憂い、どれほど横暴な人を見ても他人を悪く思わず、負の感情をぶつけることなく、思いやりと優しさをもって親身になって尽くすのである。
そのどこにも、自分優先の下心なんて欠片も見えないのである。
いや、どっちなんだ？ これはどっちが本心なんだ？
どちらもなのでしょう。それらは両立するものだと、それは理解できるんですが……なんか、天芳の場合はそれが彼の中で両立併存しているように見えなかったので、見てて随分と居心地悪かったんですよねえ。
せめて、自分が助かるため、というのが本気にしても建前にしても確かに「在る」ものなら、彼というキャラクターを構成する要素の中に組み込まれて、彼のキャラの深みに繋がっていたのだと感じるのですが、彼の場合なんか自分が助かるためというのはいちいち言わされている感があって、そこが浮いてる感じがして座りが悪かったんだなあ、と今書いててなんとなくまとまりました。
彼が恥ずかしげもなく、その当人に守るとか尊敬してる、などそれももう本心も本心なんでしょうけど、それを言われた方がどれほど重く熱く感じるか、については全く意識してないんですよね。本心なんだけれど、あっさりと言葉にしてしまう所はなんか自分の発言に対する自覚が軽々しい。それが相手にとってどれだけめちゃめちゃに情緒をかき乱し、心に突き刺さり、人生や生き方を変えてしまうほどの重みと衝撃を持った言葉になっているかの自覚がない、ってのはちょっと危なっかしくもあるよなあ。
星怜にしても、お兄ちゃんにしても、兄弟子にしても、脳焼かれちゃってるじゃないですか。
責任取れるんですか？ と問いたいところだけれど、その軽々しさのままちゃんと責任問われたら取る気もあるし、取れてしまうだけの器もあるところが厄介である。
ただ、自覚がない分、特に女性陣、星怜ともう一人のメインヒロインが完全に野獣・肉食獣・餓狼の相が出来上がってしまって、目をギラギラとさせながらヨダレをダラダラと垂らしながら、無防備に眼の前でよこたわるウサギさんかヒツジさんな天芳を狙っていること、狙われていることに気づいていないのが、なんともはや……。
だいたい、男女二人でやる修行の「導引」が単に動物の物真似をするというもので別に何にもエロくないのに、女性陣が発情しすぎてるものだから、ほとんど性交の隠喩みたいになっちゃってるじゃないですか。男の天芳の方は全くそういう意識を持たずにやっているものだから、ドスケベ女の子たちが何にも知らない男の子にイタズラしてるみたいな、無知シチュみたいになってるし！
星怜なんか、隠喩暗喩どころじゃなく、それとなく修行のより効率的で効果的なやり方と称してガチのソレに持ち込もうとすらしているしｗ
この娘ら、おとなしい顔をして相当ですよ、相当ｗ
そして、女性陣同士で完全に火花飛び散らして餌の奪い合いをしていらっしゃる。バチバチですよ、バチバチ。
そのにらみ合いの真ん中で、何も知らずにニコニコしている無知で無邪気なウサギさんがいらっしゃる。両サイドから抱え込み争いされながら、ヨダレだらだらの舌でベロベロ舐め回されてるのに、全然気づいてないよ、この子！！
……これ、タイトルの傾国の美少女たち、って実は間違いなんじゃないの？
人の心を奪って惑わす傾国って、他の誰でもないお前だろ黄天芳！！
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
