【エンバーミング・マジック 魔法を殺す魔法】 茶辛子 ／カラスロ MF文庫J
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第20回目のMF文庫Jライトノベル新人賞≪最優秀賞≫受賞作!
目の前で女の子が車に撥ねられた。
その日、初めて僕は禁忌と知りながら一般人に魔法を使った。
彼女は助かったが、「破壊」以外の魔法が下手な僕は家入ナギを猫にしてしまった。
『魔法憑き』の人間は魔法を使えるようにならないと魔物になってしまう。
……このままだと、僕がナギさんを消さなくてはならない。
彼女に魔法を使えるようになってもらうため、師匠の千歌さんにも力を借りて特訓を始める。
だが、ナギさんが呪文を唱えても魔法は発動しない。
迫るタイムリミット、何かを隠す師匠、どこかちぐはぐなナギさん。
そして僕、斬桐シズキの空白の過去。
現代の魔法使いと少女の生き方を描く、退廃的ジュブナイルファンタジー開幕!
ヒロインのナギが魔法を使えなかった。どうしてもちゃんと魔法が発動しなかった理由については、かなり明快にその答えが終盤に明らかになるのですけれど、それだとナギって自分が魔法を使えない理由についてはほぼ最初の方から分かってたって事になるのか。
その解決方法もナギはおおよそ分かってたって事になるんですよね。しかし、彼女はそれを選ばなかった。
途中、諦めて魔法を使えないままリミットを迎えて魔物になる事を受け入れていたのは、出来なくて投げやりになってたんじゃなくて、使えない理由を明かしたくなかったからなのか。シズキくんに知られたくなかったからなのか。
……なんで？ あれ？ なんで知られたくなかったんだろう。
シズキくんだけに知られたくなかった、というよりも彼女がナギとして生きている以上、それは絶対に明かしてはいけないもの、として自分に刻み込んでいたのだろうか。
それ以前の段階でアイデンティティが不安定になってて、彼女がナギである事にしがみついてようやく自己を保っていたのだとしたら、簡単に自分の本当を明らかにできる状態ではなかった、ということなのだろう。
実は◯◯だったんだよ！ と、言って自己解放できるようなもんではなかったわけだ。自分の命がかかっていたのだとしても。そもそも、自分の命ですら過去の事件からあやふやなんだから。
そういう意味では、ナギの過去を知り過去を共有しているシズキの存在こそが、彼女にとってのキーポイントでありターニングポイントだったのでしょう。しかしそれも、シズキの方が何にも覚えていないのなら、それは彼女の方からの一方的なよりどころであり、記憶に何も残っていない以上無いもどうぜんのあやふやなものであり、余計に彼女は自分の真名を殺し続けるしかなかったわけだ。
シズキが助けてくれようとしているのに、そのシズキが忘れている以上、頼りたくても寄りかかれない。
しばらくずっと、ナギが助けてほしいのか欲しくないのか、随分とあやふやというか中途半端のどっちつかずだった理由も、こうして考えると筋が通っていくるかな。
シズキの方も最初の方は変な主人公でした。変というのも違うかな。薄っぺらで中身が伴っていなくて上っ面だけ装っているような主人公。事故で死にかけていたナギを、魔法で救ったのも切実な願いや責任感、義務感、ただの素朴な助けないとという思いとは異なる、気持ちの伴わないAI的なこういう場合はこうした方がいい、という機械的な対応にも見えたんですよね。
その後のナギへの対応も、助けたいというわりにはあんまり熱が伴っていないような、でも無感情という程ではなく人間性が欠如しているというほどには情がないわけではなさそうで。
それでも、言うことは適当で、言動も周りに合わせているだけで彼自身の気持ちが入っていなくて。
そういう、周りの空気や社会常識にピントを合わせてそれにそった行動や言葉を発することで、人間のふりをしているタイプの主人公かなあ、と。人の心がない、実はあんまりよくわかっていないタイプの主人公なのかなあ、などと思いながら読んでいたわけですが。
なるほど、中身が空っぽで虚なのは間違いではなく、しかし適当な言動で周りの空気や規範に合わせているのは、単に人の社会の中で生きていくのに必要だからというよりも、そうやって繕うことで彼なりに自分の人間性を保とうと、人に紛れるんじゃなくて人から好かれ喜ばれるような言動をすることで彼なりに人に求められたいと思っていたのか。
それは確かに人間らしい願いであり、人らしい切実な思いであり、生き方の選択である。
それが、ナギを何とか助けたいという最初は上っ面の、でも途中から彼自身の確かな思いへと繋がっていき、それが彼の中のマイナスを埋めていき、虚を消していき、プラスへと生きたいと願う思いへと繋がったのでしょう。
記憶を戻して貰って以降のシズキくんは、わりとしっかり主人公していたと思いますよ。今更その薄っぺらで適当な言動は簡単に変えられないみたいで、彼のパーソナリティになってしまっているみたいですけれど、それでもプラスに転じた彼の言動には確かに彼のそうしたいそうありたいという気持ちがこもっていた。
そんなシズキになった、或いは戻ったからこそ、ナギも自分の過去を清算する覚悟が出来たのでしょう。彼女の過去は、シズキのマイナスに余りにも大きく深く関わっていた、というのもありましたし。いや、それをナギが知ったのはシズキの過去を見たからなんですけど。でも、現場に一緒にいたんだから、ある程度は想定はしていたんだろうけど。
しかし、今回の黒幕については殺したくなかった、というのは気持ちとして理解も出来るんだけれど、それはそれとして復活が予想される、というか既に何回か止めて記憶処理したあとの復活されてるのに、そのまま放置していたのはなんでやねん、と思ったんですけど。監禁拘束封印、など対策も何もしていないのは流石にどうかと思うぞ。シズキくんとその家族とか、全部それの出なくていい被害者だったんじゃないですか、これ。
あと、妙にこう連続性というか整合性が取れてない、テクスチャを張り合わせたようなツギハギのような話の流れを感じさせる部分があっちこっちにあって、あれ？ なんでこうなってるの？ と感じて気持ち的に躓いてたたらを踏まされる所が結構たくさんあったのは気になったところ。だいぶ出版にあたって改稿したみたいだけれど、それが要因だろうか。
その解決方法もナギはおおよそ分かってたって事になるんですよね。しかし、彼女はそれを選ばなかった。
途中、諦めて魔法を使えないままリミットを迎えて魔物になる事を受け入れていたのは、出来なくて投げやりになってたんじゃなくて、使えない理由を明かしたくなかったからなのか。シズキくんに知られたくなかったからなのか。
……なんで？ あれ？ なんで知られたくなかったんだろう。
シズキくんだけに知られたくなかった、というよりも彼女がナギとして生きている以上、それは絶対に明かしてはいけないもの、として自分に刻み込んでいたのだろうか。
それ以前の段階でアイデンティティが不安定になってて、彼女がナギである事にしがみついてようやく自己を保っていたのだとしたら、簡単に自分の本当を明らかにできる状態ではなかった、ということなのだろう。
実は◯◯だったんだよ！ と、言って自己解放できるようなもんではなかったわけだ。自分の命がかかっていたのだとしても。そもそも、自分の命ですら過去の事件からあやふやなんだから。
そういう意味では、ナギの過去を知り過去を共有しているシズキの存在こそが、彼女にとってのキーポイントでありターニングポイントだったのでしょう。しかしそれも、シズキの方が何にも覚えていないのなら、それは彼女の方からの一方的なよりどころであり、記憶に何も残っていない以上無いもどうぜんのあやふやなものであり、余計に彼女は自分の真名を殺し続けるしかなかったわけだ。
シズキが助けてくれようとしているのに、そのシズキが忘れている以上、頼りたくても寄りかかれない。
しばらくずっと、ナギが助けてほしいのか欲しくないのか、随分とあやふやというか中途半端のどっちつかずだった理由も、こうして考えると筋が通っていくるかな。
シズキの方も最初の方は変な主人公でした。変というのも違うかな。薄っぺらで中身が伴っていなくて上っ面だけ装っているような主人公。事故で死にかけていたナギを、魔法で救ったのも切実な願いや責任感、義務感、ただの素朴な助けないとという思いとは異なる、気持ちの伴わないAI的なこういう場合はこうした方がいい、という機械的な対応にも見えたんですよね。
その後のナギへの対応も、助けたいというわりにはあんまり熱が伴っていないような、でも無感情という程ではなく人間性が欠如しているというほどには情がないわけではなさそうで。
それでも、言うことは適当で、言動も周りに合わせているだけで彼自身の気持ちが入っていなくて。
そういう、周りの空気や社会常識にピントを合わせてそれにそった行動や言葉を発することで、人間のふりをしているタイプの主人公かなあ、と。人の心がない、実はあんまりよくわかっていないタイプの主人公なのかなあ、などと思いながら読んでいたわけですが。
なるほど、中身が空っぽで虚なのは間違いではなく、しかし適当な言動で周りの空気や規範に合わせているのは、単に人の社会の中で生きていくのに必要だからというよりも、そうやって繕うことで彼なりに自分の人間性を保とうと、人に紛れるんじゃなくて人から好かれ喜ばれるような言動をすることで彼なりに人に求められたいと思っていたのか。
それは確かに人間らしい願いであり、人らしい切実な思いであり、生き方の選択である。
それが、ナギを何とか助けたいという最初は上っ面の、でも途中から彼自身の確かな思いへと繋がっていき、それが彼の中のマイナスを埋めていき、虚を消していき、プラスへと生きたいと願う思いへと繋がったのでしょう。
記憶を戻して貰って以降のシズキくんは、わりとしっかり主人公していたと思いますよ。今更その薄っぺらで適当な言動は簡単に変えられないみたいで、彼のパーソナリティになってしまっているみたいですけれど、それでもプラスに転じた彼の言動には確かに彼のそうしたいそうありたいという気持ちがこもっていた。
そんなシズキになった、或いは戻ったからこそ、ナギも自分の過去を清算する覚悟が出来たのでしょう。彼女の過去は、シズキのマイナスに余りにも大きく深く関わっていた、というのもありましたし。いや、それをナギが知ったのはシズキの過去を見たからなんですけど。でも、現場に一緒にいたんだから、ある程度は想定はしていたんだろうけど。
しかし、今回の黒幕については殺したくなかった、というのは気持ちとして理解も出来るんだけれど、それはそれとして復活が予想される、というか既に何回か止めて記憶処理したあとの復活されてるのに、そのまま放置していたのはなんでやねん、と思ったんですけど。監禁拘束封印、など対策も何もしていないのは流石にどうかと思うぞ。シズキくんとその家族とか、全部それの出なくていい被害者だったんじゃないですか、これ。
あと、妙にこう連続性というか整合性が取れてない、テクスチャを張り合わせたようなツギハギのような話の流れを感じさせる部分があっちこっちにあって、あれ？ なんでこうなってるの？ と感じて気持ち的に躓いてたたらを踏まされる所が結構たくさんあったのは気になったところ。だいぶ出版にあたって改稿したみたいだけれど、それが要因だろうか。
