【ロード・エルメロイII世の冒険 ８．フェムの船宴(下)】 三田誠／坂本 みねぢ TYPE-MOON BOOKS
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「いいや、むしろ、ここからが本番だ」 シリーズ最大のボリュームで贈る『ロード・エルメロイII世の冒険』第八巻！
フェムの船宴【カーサ】、第三のゲームまで歩を進めたエルメロイII世。
しかし、熾烈なギャンブルは、なおも彼らを試し続ける。ヴァン＝フェム達が提示した最終ゲームの内容に、戦慄するII世とグレイであったが――。
一方、生前の切嗣の足跡を辿るため、エルゴと衛宮士郎はモナコを回っていた。その最中に彼らが見つけたのは、船宴を取り巻く、想像を絶する怨念の手がかりであった。急遽、死線歓喜船【クロジェ・アナフェール】に乗り込むことを決意するも、彼らの前に再び、はぐれ錬金術師ジュストが立ち塞がる。
神明裁判【オーディール】、エルゴの神喰らい、モナコの霊地、そして彷徨海の魔術師が遺した謎。
点と点が線で結びついた時、その全てをII世が暴く！
シリーズ最大のボリュームで贈る『ロード・エルメロイII世の冒険』第八巻！
未だにここで感想を書く時、エルメロイ２世の事をエルメロイ２世って書くの違和感というか抵抗感があるんですよね。じゃあなんて呼ぶのが一番しっくりくるのか、というとそれはそれで首をひねってしまう。みんな師匠や先生、兄上とかロードとか読んでいるのが一番違和感はないんですよ。ウェイバー・ベルベットは今や旧友であるメルヴィンの独占呼称ですしね。古馴染みなら別に名前呼びしていてもいいんだろうけれど。
じゃあ一番違和感の少ない「先生」で書けばいいじゃないか、って話なんだけれど、彼を呼ぶ時先生という呼び方で書くのはしっくりくるんだけれど、さりとて先生って呼称、大枠すぎて彼個人の事を指しているというにはいささか弱いんで、やっぱりエルメロイ２世って書くんですよ、違和感を感じながら。
そしたらね、彼をエルメロイ２世って呼ぶキャラが現れたんですよ。衛宮士郎って言うんですけどね。
この巻の冒頭で、エルメロイ２世と衛宮士郎が初対面するシーンが描かれたわけです。そしたら、士郎はエルメロイ２世の事を時計塔の化身みたいな男だ、って感じるわけですよ。
なんか凄い不思議な感想だなあ、と思ったんですよね。
ええ！？ あのエルメロイ２世が時計塔そのものみたいな存在！？ 魔術師として落ちこぼれでゲーム狂いで、同じ時計塔の古式ゆかしい魔術師たちから魔術を解体して奪い台無しにしてしまうとんでもないやろうと畏怖されている彼が、時計塔という魔術師なる存在そのものを具現化したような存在だと！？
という凄まじい違和感と。
誰よりも魔術を愛し魔術に真摯で、魔術師らしい魔術師である彼を知ればこそ、その通りなんじゃないか、という納得と。
そして、士郎は彼のことをエルメロイ２世と呼ぶんですね。意外と、同じ魔術師でも彼の事をロードと呼ぶ人ばかりで、エルメロイ２世ってわざわざ呼称する人っていたかな。全然印象になくって、士郎がエルメロイ２世って彼をそう呼ぶたびに、なんだかドキっとしてしまうのです。
ああ、士郎にとっては彼はただただ「エルメロイ２世」以上でも以下でもないのだな、と。
不思議と、士郎主体の視点だと文章というか作中の雰囲気がちょっと独特な原作のきのこ風味になってるように思えるのは気の所為でしょうか。なんか凄く詩的というか、シーン全体に情感が乗ってる気がするんですよねえ。
今回はまあなんというか……凄かったなあ。凄かった。
これFGOのカルデアの特異点案件じゃないんですよね？ なんで現代でこんな神秘神秘が溢れてるみたいな案件に突入しちゃうの？ いや、今までの冒険各巻も相当だったけれど、今回は特にとびっきりだったような気がする。
とりあえず、ただの魔術師のはずの凛とルヴィアが、機械仕掛けとはいえ本物と遜色のない、キメラやらワイバーンやらヒュドラと、なんで殴り合いしてるの！？
ワイバーンですよ？！ あのワイバーンですよ！？ なんで、ワイバーン相手にバックドロップ決めてるの、ルヴィアさん。あまりにもプロレス脳すぎない！？
唖然も唖然過ぎて、魔術師ってそんなに戦えましたっけ？ いや、わりと戦えたりするんだけれど、サーヴァントじゃあるまいし、ちょっと強くなりすぎじゃあないですかね！？ 先生の教授の賜物ですか。凛とか、聖杯戦争の頃より明らかに魔術師として格が違うものになってるし。
それ以上に、今回はほんとになんて言えばいいんだろう。遺産、遺産の話、先に歩いていた人達の残したものを、引き継ぐ者たちのお話でもありました。
結構幾つもの、親と子、先祖と子孫の話があって、フラットの家庭の事情とか、ジュストがどうしてキリツグに傾倒していったのか、という話や。
それらの中でもやはり注目に値するのが、エルゴ……前回で彼の正体がイスカンダル、アレキサンダー大王の息子で、歴史の闇に消えたアレキサンダー４世であったことが発覚したわけですけれど。
果たして、あの偉大なる征服王イスカンダル、その後継であったにも関わらず何も成せず、何者にも成れないまま歴史の埋もれてしまった自分が、果たして名高き父親の息子として相応しいのか、自分なんかがアレキサンダー４世でいいのか。記憶もなく、過去もなく、何も持たない所から凛と出会い、エルメロイ２世やグレイと出会い、世界を旅して様々な美しいものを見て、とても大切な言葉を、思い出を得て、それを記憶飽和で次々と喪いながらも、それでも記憶にも形にも残らないとしても、一つ一つ積み上げてきて今のエルゴを形成していったもの、成長させていったものは、確かに彼を何者かに成した。
それが、征服王の後継、新たなる王アレキサンダー４世であっていい、と……。そういう遺産を受け継ぐお話だったんですよね。
そしてもう一つ、もう一人。このフェイトの世界観の代表的主人公の一人である衛宮士郎。彼の終生の夢である、正義の味方になる。
これに対して、一つの回答を示す物語でもありました。
それも、彼が夢を抱くきっかけになった人。あの衛宮切嗣の人生の歩みを、魔術師殺しであり半ばテロリスト同然の行いを繰り返し、自分が憧れた人の本当の行状を、義父の目指した正義の果てを、ついに士郎は知ってしまうお話でもありました。
何気に、士郎がキリツグの過去を知る展開って、公式ではありましたっけ。これほどはっきりと突きつけられ、君の憧れの正体はこんな男だったんだぞ、というのをこれ以上なく見せつけられ、その上で果たして士郎は自分が憧れ継ごうとした夢を、正義の味方をどう捉えどう解釈し、どんなものになりたいのか。それを改めて、改めて考えることになる彼の人生における重大なターニングポイントの一つになる話だったと思います。
さらに、ここには殺し屋でありテロを行ってもなすべき正義がある、その果てに世界平和があるというキリツグの思想を絶対肯定し、憧れ、自らがそれを後継することを望んだジュスト、という存在が現れている。彼は、今の士郎を否定し、正義の味方キリツグを殺した者だと糾弾してくる。
放っておけば、衛宮士郎の成れの果ては、あの赤いアーチャーです。そのあり方は、自然とキリツグ寄りの生き方をして、擦り切れてしまった男です。
でも、本作の衛宮士郎は時計塔に留学した凛の付き人としてロンドンに来た士郎で、アンリミテッドブレイドワークス・ルートのグッドエンドの彼がベースなのでしょうから、そうしたアーチャーの末路を乗り越えて、士郎は歩む人生を後悔しない、そういう生き方を選んだルートでもあったはず。
ただ、そんな自分の根源とも言えるヒーローだったキリツグの正体を知る、というのは士郎にとっても根底を揺さぶられるものであったはず。
切嗣の足跡を辿り、自分のヒーローの後ろ暗い側面、正義の味方の在り方についてもう一度自分自身に問いかけることにもなったのでしょうけれど。
この時、一緒に足跡を辿っていたの、エルゴなんですよね。この二人の組み合わせがまた不思議というか。エルゴが士郎の人生、或いはパラレルワールドの聖杯戦争、異なる可能性を歩んだ士郎を千里眼的に見届けたことで、士郎に対しての理解が深まったうえで直接一緒に過ごすことで、衛宮士郎という人をもっと知りたいという思いによって、大きく士郎に踏み込んでいたというのもあるのでしょうけれど。
なんか相互理解、ほんと出会ってわずかなのにお互いへの信頼感がすごく深い関係に見えたんですよね。友達というにはまだ初対面すぎるのに、どこか共感というか同志めいたものを感じる間柄。
そんなエルゴが断言してくれた、切嗣の末期に士郎が言えなかった想いは、確かに伝わっていたという言葉は、今回の切嗣の事績を知る旅でずっと士郎を支え続けた言葉になったんじゃないかな。
安心した、と言い遺して亡くなった切嗣。もし、士郎の想いが伝わっていたのだとしたら、士郎が引き継ぐと言って安心したと思ってくれたのなら、それは士郎が引き継いだのは切嗣にとって最も原初な夢。素朴な願いの後継だったのだと、士郎にゆるぎのない芯を与えてくれたんじゃないだろうか。
そして、そんな士郎に問いかけたエルゴの疑問、不安。エルゴがどうして自分が作られたのか、現代に蘇ったのか。自分に込められた制作理由を知ったことで、自分の今の現状は、救われようと足掻く今は、世界の救済を損なうことを意味するわけです。
果たして、世界が救われるならば、自分はやはり犠牲になるべきなのだろうか、と。
そこで今度は士郎がはっきりと告げるんですよね。今の、生きたいと願う彼を、旅が好きで、世界の様々な美しい場所を見て回りたいという願いを、士郎は肯定するのです。犠牲になんてならなくていい、と。
この言葉もまた、エルゴを支える芯となっていきます。
最大の敵となるジズが、世界に美しさを見出すことそのものが間違いだ、という側であり、そのために新たな星を作ろうとまでして世界を止めようとしていたのと、実に対照的じゃないですか。
エルゴが最初登場した時、凛と一緒に現れてしかもその赤い髪から、もしかしてこのエルメロイ２世のシリーズにあの衛宮士郎が登場するのか！？ とワクワクしたものですけれど、それが同じ赤毛でも士郎とは全然違う人物で、肩透かしを食らったようななんとも言えない心地にさせられたのですけれど。
まさか、回り回ってそのエルゴと士郎が、こうして二人セットでこんな重要、いや大事なものを与え合う二人になるとは、なんだかとても不思議な感覚を味わっています。
殺し屋としての切嗣の足跡を知り、正義の味方キリツグの後継者を名乗るジュストと対決し、その上で自分の追う夢が間違いなく衛宮切嗣が願った理想の後継であると理解、確信、自信、信じる？ いや、選んだというべきか。そうなのだと選んだ士郎。そうして夢の最果てを目指し続け、歩み続ける。
エルゴもまた、自分がアレクサンダー４世であると受け入れ、何者にも成れなかったかつての自分の夢の最果て、理想の先として今の自分を確立させようとしている。
一方で、本作の主人公は忘れちゃならない、エルメロイ２世なんですよね。
彼は、彼自身の望みを叶えられない、彼自身の願いにたどり着けない。夢を追いかけ続けて、しかし絶対にその才能の無さ故に届かない人だ。おろかで臆病で、夢を諦める勇気すらない。
フラットやジュストにも、そうした否定の側面が在り方の根底に込められていて、今回これだけ沢山の主要人物に絡めたテーマを、様々な側面から同じラインに同調させていく、集約させていく、そしてそれぞれに乗り越えさせていく、という話の展開の密度、構成の緻密さ、その全体の美しさが半端なかった。
士郎が、正義の味方になる、と改めて決めたうえで、その正義の味方のうち「味方」の部分に比重が傾いていて、誰かの「味方」でありたいんだ、と自分の方向性を見つけていたのは、なんか様々な「衛宮士郎」の在り方を長きに渡って色んな媒体で見てきたがゆえに、その答えには感動すら抱いてしまった。
切嗣のすべてを知ったうえで、そう生きるのか。
途中、明らかにこれ士郎死ぬだろ、という大怪我負うんですよね。Fateの最初の最初で、士郎がバーサーカーにぶった切られて、半ば胴体両断されるような傷を負った際に負けないくらいの。
にも関わらず、致命傷なのに死なないんですよ。これって、士郎に埋め込まれた「全て遠き理想郷」が活性化したのか。
この宝具が活性化するのって、アーサー王の魔力が通った際だけのはずなので、この場合グレイの魔力と感応した、ということ？
遠き理想郷（アヴァロン）と、最果ての海（オケアノス）
届かない夢の果てたるこの２つが、片や士郎に。そしてもう片方は食った３柱の神の最後の１柱ギリシャ神話の海の神オケアノスとしてエルゴの中に宿ってる、というのは今回色んな意味で象徴的だったように思います。
夢の後継者、遺産を継ぐ者たちの話で、その夢、憧れ、理想、その果ては一体何だったのか、というテーマもありましたしね。
そして、ここに来て、ギリシャ神話の神々が、外宇宙から来た機械であり、宇宙船だった、という魔術師サイドとしても「な、な、なんだってーー！？」というわけわからん案件が、ぶっこまれてくるんですよね。
FGOの第二部で皆がひっくり返ったギリシャ神話の真相が、ついにこのシリーズでもぶっこまれてきましたよ。ってか、オケアノスもそうだったんかい！！ グレイちゃんがでたらめにもほどがある、とまでいうのよっぽどよ？
そして、さらに度肝を抜かれる錬金術師ジズの正体。
起動する死徒ヴァン・フェムの第七魔城。
ヒュドラと凛＆ルヴィアがタッグ組んで大格闘する場面だけでも神秘神秘の大放出だったのに、後半もうこれ現代でこんなんやっていいの！？ というオオバンブルマイすぎなんですけど。
巨大ロボットが大怪獣と戦ってるんですけど！？
オケアノスとかいう宇宙船まで出てきてるんですけど！？
ふぁあああ！？
トドメに、ついにこのシリーズでも解禁となった、というかこの使うシーン格好良すぎるだろう、という士郎の固有結界「無限の剣製（アンリミテッドブレイドワークス）」
そこにおまけに、エルゴの、アレクサンダー４世と、グレイの、これ生きながらにして英霊となってるようなもんですよね。
イスカンダルの宝具と良く似た、しかしエルゴ独自のあの宝具。
ここに至る直前で、エルゴの事をエルメロイ２世がイスカンダルの最後にして最新の臣下として、アレクサンダー４世を、王として認め、祝福し、その手ずから冠を与えて、ついでにイスカンダルそっくりの赤いマントを送るシーンが、もう良すぎて、良すぎて。
ヴェイバーがイスカンダルの臣下となったのは、この時のためだったんじゃないのか、と思えるほどに良かった。イスカンダルの臣下の誰も出来なかった、王の嫡子を王に任ずる役目を、最後の臣下である彼が担った、というのがもう……色んな意味でたまらんですよ。
その上で、グレイですよ。いつものアッドじゃなく、槍じゃなく。選定の剣を。「無限の剣製」の剣の山の中から、士郎が鍛えたあの王の剣を。カリバーンを。エルゴとともに、グレイが振るうという。
なにこの、このエモーショナルなシーン。
どうやったら、こんなシーンを描けるの？ このシーンに辿り着くまでの散りばめと集約を達成できるの？ 集大成に持ってこれるの？
もう今回は、なんかもうすごすぎでした。最初から最後まで、無意味なシーンが全くなかった。そして、シリーズ通して全部が連動して交換して刺激し作用し合って、昇華していった結果の一つがこれですよ。
やば。Fateシリーズのスピンオフとして、ちょっともうこれやばいです、やばい。
それでも、そんな中でも、一番好きだったシーンは葉思真さんのシーンでした。
本作って、どうしようもないくらい魔術師たちによる魔術師の業を描いた作品なのに、なんでこんなに乙女すぎるくらい乙女なマジ乙女が現れてしまうの！？
純正の魔術師をこんな乙女にしてしまった衛宮士郎、ヤバすぎない！？
敵わぬ恋と知りながら、彼のためにエルメロイ２世にまで頭をさげる。その思いその気持を宝物のようにして。その思いを受け取って、一切の疑念を払ってウェーバー個人として約束する先生。このシーンほんと好き。
最後の凛との修羅場というか、対峙のシーンまで含めて葉思真さん、最初から最後まで素敵すぎました。
グレイ、女性として見ておくべきはこの人ですよ。義妹は参考にしたらあかんですよｗ
いや、あれはあれで小悪魔として最高なのですが。何気にグレイとセットになると先生に対して凶悪ユニットになるんですが。
じゃあ一番違和感の少ない「先生」で書けばいいじゃないか、って話なんだけれど、彼を呼ぶ時先生という呼び方で書くのはしっくりくるんだけれど、さりとて先生って呼称、大枠すぎて彼個人の事を指しているというにはいささか弱いんで、やっぱりエルメロイ２世って書くんですよ、違和感を感じながら。
そしたらね、彼をエルメロイ２世って呼ぶキャラが現れたんですよ。衛宮士郎って言うんですけどね。
この巻の冒頭で、エルメロイ２世と衛宮士郎が初対面するシーンが描かれたわけです。そしたら、士郎はエルメロイ２世の事を時計塔の化身みたいな男だ、って感じるわけですよ。
なんか凄い不思議な感想だなあ、と思ったんですよね。
ええ！？ あのエルメロイ２世が時計塔そのものみたいな存在！？ 魔術師として落ちこぼれでゲーム狂いで、同じ時計塔の古式ゆかしい魔術師たちから魔術を解体して奪い台無しにしてしまうとんでもないやろうと畏怖されている彼が、時計塔という魔術師なる存在そのものを具現化したような存在だと！？
という凄まじい違和感と。
誰よりも魔術を愛し魔術に真摯で、魔術師らしい魔術師である彼を知ればこそ、その通りなんじゃないか、という納得と。
そして、士郎は彼のことをエルメロイ２世と呼ぶんですね。意外と、同じ魔術師でも彼の事をロードと呼ぶ人ばかりで、エルメロイ２世ってわざわざ呼称する人っていたかな。全然印象になくって、士郎がエルメロイ２世って彼をそう呼ぶたびに、なんだかドキっとしてしまうのです。
ああ、士郎にとっては彼はただただ「エルメロイ２世」以上でも以下でもないのだな、と。
不思議と、士郎主体の視点だと文章というか作中の雰囲気がちょっと独特な原作のきのこ風味になってるように思えるのは気の所為でしょうか。なんか凄く詩的というか、シーン全体に情感が乗ってる気がするんですよねえ。
今回はまあなんというか……凄かったなあ。凄かった。
これFGOのカルデアの特異点案件じゃないんですよね？ なんで現代でこんな神秘神秘が溢れてるみたいな案件に突入しちゃうの？ いや、今までの冒険各巻も相当だったけれど、今回は特にとびっきりだったような気がする。
とりあえず、ただの魔術師のはずの凛とルヴィアが、機械仕掛けとはいえ本物と遜色のない、キメラやらワイバーンやらヒュドラと、なんで殴り合いしてるの！？
ワイバーンですよ？！ あのワイバーンですよ！？ なんで、ワイバーン相手にバックドロップ決めてるの、ルヴィアさん。あまりにもプロレス脳すぎない！？
唖然も唖然過ぎて、魔術師ってそんなに戦えましたっけ？ いや、わりと戦えたりするんだけれど、サーヴァントじゃあるまいし、ちょっと強くなりすぎじゃあないですかね！？ 先生の教授の賜物ですか。凛とか、聖杯戦争の頃より明らかに魔術師として格が違うものになってるし。
それ以上に、今回はほんとになんて言えばいいんだろう。遺産、遺産の話、先に歩いていた人達の残したものを、引き継ぐ者たちのお話でもありました。
結構幾つもの、親と子、先祖と子孫の話があって、フラットの家庭の事情とか、ジュストがどうしてキリツグに傾倒していったのか、という話や。
それらの中でもやはり注目に値するのが、エルゴ……前回で彼の正体がイスカンダル、アレキサンダー大王の息子で、歴史の闇に消えたアレキサンダー４世であったことが発覚したわけですけれど。
果たして、あの偉大なる征服王イスカンダル、その後継であったにも関わらず何も成せず、何者にも成れないまま歴史の埋もれてしまった自分が、果たして名高き父親の息子として相応しいのか、自分なんかがアレキサンダー４世でいいのか。記憶もなく、過去もなく、何も持たない所から凛と出会い、エルメロイ２世やグレイと出会い、世界を旅して様々な美しいものを見て、とても大切な言葉を、思い出を得て、それを記憶飽和で次々と喪いながらも、それでも記憶にも形にも残らないとしても、一つ一つ積み上げてきて今のエルゴを形成していったもの、成長させていったものは、確かに彼を何者かに成した。
それが、征服王の後継、新たなる王アレキサンダー４世であっていい、と……。そういう遺産を受け継ぐお話だったんですよね。
そしてもう一つ、もう一人。このフェイトの世界観の代表的主人公の一人である衛宮士郎。彼の終生の夢である、正義の味方になる。
これに対して、一つの回答を示す物語でもありました。
それも、彼が夢を抱くきっかけになった人。あの衛宮切嗣の人生の歩みを、魔術師殺しであり半ばテロリスト同然の行いを繰り返し、自分が憧れた人の本当の行状を、義父の目指した正義の果てを、ついに士郎は知ってしまうお話でもありました。
何気に、士郎がキリツグの過去を知る展開って、公式ではありましたっけ。これほどはっきりと突きつけられ、君の憧れの正体はこんな男だったんだぞ、というのをこれ以上なく見せつけられ、その上で果たして士郎は自分が憧れ継ごうとした夢を、正義の味方をどう捉えどう解釈し、どんなものになりたいのか。それを改めて、改めて考えることになる彼の人生における重大なターニングポイントの一つになる話だったと思います。
さらに、ここには殺し屋でありテロを行ってもなすべき正義がある、その果てに世界平和があるというキリツグの思想を絶対肯定し、憧れ、自らがそれを後継することを望んだジュスト、という存在が現れている。彼は、今の士郎を否定し、正義の味方キリツグを殺した者だと糾弾してくる。
放っておけば、衛宮士郎の成れの果ては、あの赤いアーチャーです。そのあり方は、自然とキリツグ寄りの生き方をして、擦り切れてしまった男です。
でも、本作の衛宮士郎は時計塔に留学した凛の付き人としてロンドンに来た士郎で、アンリミテッドブレイドワークス・ルートのグッドエンドの彼がベースなのでしょうから、そうしたアーチャーの末路を乗り越えて、士郎は歩む人生を後悔しない、そういう生き方を選んだルートでもあったはず。
ただ、そんな自分の根源とも言えるヒーローだったキリツグの正体を知る、というのは士郎にとっても根底を揺さぶられるものであったはず。
切嗣の足跡を辿り、自分のヒーローの後ろ暗い側面、正義の味方の在り方についてもう一度自分自身に問いかけることにもなったのでしょうけれど。
この時、一緒に足跡を辿っていたの、エルゴなんですよね。この二人の組み合わせがまた不思議というか。エルゴが士郎の人生、或いはパラレルワールドの聖杯戦争、異なる可能性を歩んだ士郎を千里眼的に見届けたことで、士郎に対しての理解が深まったうえで直接一緒に過ごすことで、衛宮士郎という人をもっと知りたいという思いによって、大きく士郎に踏み込んでいたというのもあるのでしょうけれど。
なんか相互理解、ほんと出会ってわずかなのにお互いへの信頼感がすごく深い関係に見えたんですよね。友達というにはまだ初対面すぎるのに、どこか共感というか同志めいたものを感じる間柄。
そんなエルゴが断言してくれた、切嗣の末期に士郎が言えなかった想いは、確かに伝わっていたという言葉は、今回の切嗣の事績を知る旅でずっと士郎を支え続けた言葉になったんじゃないかな。
安心した、と言い遺して亡くなった切嗣。もし、士郎の想いが伝わっていたのだとしたら、士郎が引き継ぐと言って安心したと思ってくれたのなら、それは士郎が引き継いだのは切嗣にとって最も原初な夢。素朴な願いの後継だったのだと、士郎にゆるぎのない芯を与えてくれたんじゃないだろうか。
そして、そんな士郎に問いかけたエルゴの疑問、不安。エルゴがどうして自分が作られたのか、現代に蘇ったのか。自分に込められた制作理由を知ったことで、自分の今の現状は、救われようと足掻く今は、世界の救済を損なうことを意味するわけです。
果たして、世界が救われるならば、自分はやはり犠牲になるべきなのだろうか、と。
そこで今度は士郎がはっきりと告げるんですよね。今の、生きたいと願う彼を、旅が好きで、世界の様々な美しい場所を見て回りたいという願いを、士郎は肯定するのです。犠牲になんてならなくていい、と。
この言葉もまた、エルゴを支える芯となっていきます。
最大の敵となるジズが、世界に美しさを見出すことそのものが間違いだ、という側であり、そのために新たな星を作ろうとまでして世界を止めようとしていたのと、実に対照的じゃないですか。
エルゴが最初登場した時、凛と一緒に現れてしかもその赤い髪から、もしかしてこのエルメロイ２世のシリーズにあの衛宮士郎が登場するのか！？ とワクワクしたものですけれど、それが同じ赤毛でも士郎とは全然違う人物で、肩透かしを食らったようななんとも言えない心地にさせられたのですけれど。
まさか、回り回ってそのエルゴと士郎が、こうして二人セットでこんな重要、いや大事なものを与え合う二人になるとは、なんだかとても不思議な感覚を味わっています。
殺し屋としての切嗣の足跡を知り、正義の味方キリツグの後継者を名乗るジュストと対決し、その上で自分の追う夢が間違いなく衛宮切嗣が願った理想の後継であると理解、確信、自信、信じる？ いや、選んだというべきか。そうなのだと選んだ士郎。そうして夢の最果てを目指し続け、歩み続ける。
エルゴもまた、自分がアレクサンダー４世であると受け入れ、何者にも成れなかったかつての自分の夢の最果て、理想の先として今の自分を確立させようとしている。
一方で、本作の主人公は忘れちゃならない、エルメロイ２世なんですよね。
彼は、彼自身の望みを叶えられない、彼自身の願いにたどり着けない。夢を追いかけ続けて、しかし絶対にその才能の無さ故に届かない人だ。おろかで臆病で、夢を諦める勇気すらない。
フラットやジュストにも、そうした否定の側面が在り方の根底に込められていて、今回これだけ沢山の主要人物に絡めたテーマを、様々な側面から同じラインに同調させていく、集約させていく、そしてそれぞれに乗り越えさせていく、という話の展開の密度、構成の緻密さ、その全体の美しさが半端なかった。
士郎が、正義の味方になる、と改めて決めたうえで、その正義の味方のうち「味方」の部分に比重が傾いていて、誰かの「味方」でありたいんだ、と自分の方向性を見つけていたのは、なんか様々な「衛宮士郎」の在り方を長きに渡って色んな媒体で見てきたがゆえに、その答えには感動すら抱いてしまった。
切嗣のすべてを知ったうえで、そう生きるのか。
途中、明らかにこれ士郎死ぬだろ、という大怪我負うんですよね。Fateの最初の最初で、士郎がバーサーカーにぶった切られて、半ば胴体両断されるような傷を負った際に負けないくらいの。
にも関わらず、致命傷なのに死なないんですよ。これって、士郎に埋め込まれた「全て遠き理想郷」が活性化したのか。
この宝具が活性化するのって、アーサー王の魔力が通った際だけのはずなので、この場合グレイの魔力と感応した、ということ？
遠き理想郷（アヴァロン）と、最果ての海（オケアノス）
届かない夢の果てたるこの２つが、片や士郎に。そしてもう片方は食った３柱の神の最後の１柱ギリシャ神話の海の神オケアノスとしてエルゴの中に宿ってる、というのは今回色んな意味で象徴的だったように思います。
夢の後継者、遺産を継ぐ者たちの話で、その夢、憧れ、理想、その果ては一体何だったのか、というテーマもありましたしね。
そして、ここに来て、ギリシャ神話の神々が、外宇宙から来た機械であり、宇宙船だった、という魔術師サイドとしても「な、な、なんだってーー！？」というわけわからん案件が、ぶっこまれてくるんですよね。
FGOの第二部で皆がひっくり返ったギリシャ神話の真相が、ついにこのシリーズでもぶっこまれてきましたよ。ってか、オケアノスもそうだったんかい！！ グレイちゃんがでたらめにもほどがある、とまでいうのよっぽどよ？
そして、さらに度肝を抜かれる錬金術師ジズの正体。
起動する死徒ヴァン・フェムの第七魔城。
ヒュドラと凛＆ルヴィアがタッグ組んで大格闘する場面だけでも神秘神秘の大放出だったのに、後半もうこれ現代でこんなんやっていいの！？ というオオバンブルマイすぎなんですけど。
巨大ロボットが大怪獣と戦ってるんですけど！？
オケアノスとかいう宇宙船まで出てきてるんですけど！？
ふぁあああ！？
トドメに、ついにこのシリーズでも解禁となった、というかこの使うシーン格好良すぎるだろう、という士郎の固有結界「無限の剣製（アンリミテッドブレイドワークス）」
そこにおまけに、エルゴの、アレクサンダー４世と、グレイの、これ生きながらにして英霊となってるようなもんですよね。
イスカンダルの宝具と良く似た、しかしエルゴ独自のあの宝具。
ここに至る直前で、エルゴの事をエルメロイ２世がイスカンダルの最後にして最新の臣下として、アレクサンダー４世を、王として認め、祝福し、その手ずから冠を与えて、ついでにイスカンダルそっくりの赤いマントを送るシーンが、もう良すぎて、良すぎて。
ヴェイバーがイスカンダルの臣下となったのは、この時のためだったんじゃないのか、と思えるほどに良かった。イスカンダルの臣下の誰も出来なかった、王の嫡子を王に任ずる役目を、最後の臣下である彼が担った、というのがもう……色んな意味でたまらんですよ。
その上で、グレイですよ。いつものアッドじゃなく、槍じゃなく。選定の剣を。「無限の剣製」の剣の山の中から、士郎が鍛えたあの王の剣を。カリバーンを。エルゴとともに、グレイが振るうという。
なにこの、このエモーショナルなシーン。
どうやったら、こんなシーンを描けるの？ このシーンに辿り着くまでの散りばめと集約を達成できるの？ 集大成に持ってこれるの？
もう今回は、なんかもうすごすぎでした。最初から最後まで、無意味なシーンが全くなかった。そして、シリーズ通して全部が連動して交換して刺激し作用し合って、昇華していった結果の一つがこれですよ。
やば。Fateシリーズのスピンオフとして、ちょっともうこれやばいです、やばい。
それでも、そんな中でも、一番好きだったシーンは葉思真さんのシーンでした。
本作って、どうしようもないくらい魔術師たちによる魔術師の業を描いた作品なのに、なんでこんなに乙女すぎるくらい乙女なマジ乙女が現れてしまうの！？
純正の魔術師をこんな乙女にしてしまった衛宮士郎、ヤバすぎない！？
敵わぬ恋と知りながら、彼のためにエルメロイ２世にまで頭をさげる。その思いその気持を宝物のようにして。その思いを受け取って、一切の疑念を払ってウェーバー個人として約束する先生。このシーンほんと好き。
願いが叶うから好きになるんじゃないわ。叶えるためだけに頑張るのでもない。
誰かを好きになった自分が、思ったよりも素敵だったから。それだけ。
最後の凛との修羅場というか、対峙のシーンまで含めて葉思真さん、最初から最後まで素敵すぎました。
グレイ、女性として見ておくべきはこの人ですよ。義妹は参考にしたらあかんですよｗ
いや、あれはあれで小悪魔として最高なのですが。何気にグレイとセットになると先生に対して凶悪ユニットになるんですが。
