【負けヒロインが多すぎる！ ５】 雨森 たきび／いみぎむる ガガガ文庫
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ちょっぴりビターな、バレンタイン狂想曲
迫るバレンタインデー。
佳樹が手作りチョコを贈るのはーーまさかの兄以外!?
そんな、佳樹にかぎって……。動揺する俺に、文芸部の連中は冷たい。
「妹ちゃん、好きな人でもできたんでしょ」「お、男だな」
……こいつら、コトの重大さが分かっていないな。佳樹はまだ中二なのだ。本命チョコなんて早すぎる。
焼塩の案で、桃園中学に潜入調査することになるがーーえ、俺、中学生に変装するの?
こんなところ佳樹に見つかったら……いや、普通に喜びそうだな……。
大人気負け確ラブコメ第5弾。ブラコン妹×シスコン兄の明日はどっちだ!?
わざわざ一番色恋が絡みそうなバレンタイン・イベントの時期に妹の佳樹の恋人騒動に首ったけになってバレンタインどころじゃない温水くん。ほんと、初っ端からそういう所だぞ温水くん。
あれだけ過保護というかべったりというか、兄命な佳樹の妹愛を平然とそれが当たり前みたいに甘受していた兄だけど、いざ妹に恋人ができたかも知れないとなるとさすがの彼も平然とはしていられなかったか。
当たり前みたいに与えられてきた妹からの愛情が、自分の独占物ではないと今更ながらに思い知る……いやあ、そこまで難しくも深くも考えてはいないよね、温水くん。ただ慌てふためいているだけで、その根本を深く掘り下げているわけもなく。
あっさりと妹へのストーキングを開始するあたり、あの妹をしてあの兄である。これ、温水家の両親のどちらかが歴戦のストーカーだったりしないよね？
あまりにも動揺している温水くんを、何だかんだと心配？はしてないか。面白がってか、なんでか知らないけれど妹に恋人疑惑を追求せんとする温水くんを手伝ってくれる文芸部の面々。
焼塩は純粋に親切というか付き合いがいいように見えるけど、小鞠と八奈見さんはほんとなんでなんでしょうね。それ以上に、朝雲さんがなんで中学潜入まで手伝ってくれるのかは謎すぎる。この人、いわゆる勝ち組ヒロインサイドの中で一際関わってきますよね。綾野くんは放っておいていいのか？ いや別に放ってはいないみたいだけど。ちゃんと恋人やってるみたいだけど。
でも、朝雲さんってあの犯罪者キャラ、むしろ負けヒロイン的なキャラなんだよなあ。むしろ焼塩の方が正統派運動系ヒロインなんだよなあ。正統派というのは相当アレな部分はあるけれど、朝雲さんと比べると正統派と言い切っていいと思われｗ
いやー、マジでなんで朝雲さんが勝ち抜けたんだろう。これ彼女自身もけっこう不思議に思ってる部分も初期はあったかもしれない。付き合いはじめてからも不安そうにしてましたしね。なんかうまく行きすぎてしまった感触があったんじゃないだろうか。綾野くんがチョロすぎたんだよなあ。彼、朝雲さんのアレな部分、気づいてるんだろうか。どうも焼塩の気持ちにもさっぱり気づいていなかった所を見ても、ちょっと疎い所があるんじゃないかと疑っているんだが。
いや、人の気持とかについて疎いところに関しては温水くんだって相当なものがあるとは思うんですけどね。今回のバレンタインだって、朝雲さんに義理チョコ貰ったことで、家族以外ではじめてチョコを貰ってしまった、と感動してたんで……あれ？ と思ってページ戻って思わず読み返してしまったんだが、君……文芸部の面々からちゃんとチョコ貰ってパクパク食ってたじゃないか！ どの口で女の子からチョコ貰ったことがないとか言ってんだ！？
いやまあ、友チョコみんなで食べ合ってみたいなシチュエーションに紛れていたんで、わかりにくいっちゃわかりにくいし、八奈見さんも小鞠も流れで食べさせていたんで、温水くんなら気づかんのか、これ。特に八奈見さんはいつも、お裾分けみたいに自分の食べ物を温水くんにも分けてあげて食べさせるシチュが最近増えていたので、いつものそれに紛れてしまった感はあるけれど。
いやでも、手ずから口に放り込もうとしていたあたり、八奈見さんにもちょっとした特別感というか、チョコをあげるという意識あったはずなのに、温水くんはこれスルーしやがったからなあ。そういう所だぞ、温水くん。
それ以上に、小鞠ちゃんの方がこれかなり意識してやってましたよね。こっちは敢えて他に紛れさせて温水くんに気づかせまいとしていた素振りもあるので、それを悟れ察しろというほど温水くんには求めないのですけれど……でも、これ小鞠ちゃんわりとガチ目なんじゃないの！？ なんかチョコ作りに来た時、佳樹プロデュースとはいえ普段しないおしゃれまでしちゃって。いやあのおでこ出す髪型は良きですなあ。
八奈見さんは未だに何を考えているのかよくわからないのだけれど、小鞠ちゃんと志喜屋先輩はわりとガチなんじゃないだろうか。馬剃さんはあれはなあ……ｗ
さて、妹の恋人疑惑の方は案の定だったのですけれど、橘くんの想い人に関しては予想外もいいところでした。いやこれ、教育実習の時に恋をして、それで教師に赴任した高校にまで中学生の身で告白しにくるって、凄く勇気あるし本当に必死だったのだろう、本気の恋だったのだろう。最初から叶うと思っていなかったとしても、ここまで行動力を発揮してちゃんと思いを伝えることのできた橘くん、なかなか凄い男だと思いますよ。ってか、あと３年どころか、せめて高校生になってたらあの人……甘夏先生、告白受けちゃってた可能性無きにしもあらずだと思うぞ。中学生はさすがに無理だったとしても、高校生ならありじゃね？と考えてしまいかねない奴だぞ？
ゴンちゃんと佳樹の盆栽の話はなかなか考えさせられるものがありました。ゴンちゃんとしては、幼馴染のことが好きだけれど、現状維持がいいという単純な話じゃなくて、今の自分が好きな彼を変節させたくない、と。愛でるがよしで収穫は望んでいないんだろうか。それとも、自分が望む形になったときに、自分がその隣に収まる形がベストになったら、そう出来たらそのときは動くという事なんだろうか。
いずれにしても、ゴンちゃんかなり長期スパンで見てますよね、これ。
そして肝心の佳樹の方は、この子の重たい気持ちというのは何気に寄稿した小説に書いてあることが余すことなく本心な気もするけれど、自分が兄を独占して自分のものにしてしまいたい、とは思っていないのか。自分たちが兄と妹であり、いずれそれぞれの道を行くことは理解している。でも色々と思うところはあるんだろうなあ、という心境がゴンちゃんとの話から伺えました。
少なくとも、今は……いや、今もこれからもずっと遠慮なく兄に構い倒すことはやめないのでしょう。
そういう兄妹でありたいと、兄も妹も想っているのでしょうから。
