【魔女と猟犬 ６】 　カミツキレイニー／LAM ガガガ文庫

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魔女たちは〈オズの国〉で殺し合う。

〈花咲く島国オズ〉――そこでは、島を統治する《エメラルド家》と、それに反発する南部の貴族たちによって組織された〈南部戦線〉による激しい内戦が繰り広げられていた。

オズの国を訪れたハルカリ、ネルたちは、〈南部戦線〉を指揮する魔女グリンダ・ポピーと接触。時を同じくして、オズ島の要所である人口湖〈王のせき止め〉の砦を占拠した〈南部戦線〉と、《エメラルド家》の傘下となった他の家の軍勢との戦闘が勃発した。ハルカリたちもその戦火に巻き込まれる。

さらに、空からは《エメラルド家》の気球部隊が来襲。その中には、九使徒であるパルミジャーノとプルチネッラの姿もあった。それを追うようにして、テレサリサ、ロロ、ジャックたちも〈王のせき止め〉に到着。魔女と魔術師たちが入り乱れ、オズの国の歴史に刻む最大の戦争の幕が切って落とされた。

【オズの魔法使い】では主人公だったドロシー。彼女はアメリカはカンザスから竜巻に巻き込まれて、このオズの国に迷い込んだ異邦人として、そこで出会った仲間たちと旅をして、それぞれ仲間たちののぞみを叶えながら、ドロシーもまた我が家カンザスへと帰るまでのお話だったわけですけれど。
この物語におけるドロシーは、なんだか物凄い力をすでにこの国に現れた時には持っていて、その力でカカシを王にして、オズの魔法使いとともに故郷の異世界に帰ったはずだった。
そんな風に言われ伝えられていたけれど、その実彼女は第９使徒道化師のプルチネッラとなってこの世界に残っていたのです。
この６巻は、そんなドロシーがいかにしてこの異世界にくることになったのか。その故郷アメリカでのお話が描かれているのですが……ドロシーやべえわ。
なんというか、この理不尽さは一巻でキャンパスフェローの人達を問答無用で虐殺したアメリアの理不尽さを体現したかのような、擬人化したような、象徴のような、この世界の理不尽を凝縮したようなキャラクターに思えたのです。サイコパスなのは間違いないよなあ。
２巻以降、アメリアの魔術師たちにも意外と道理が通る人もいるんだなあ、というのがわかってきて、一方的にあの国が悪側だとは思えなくもなってきたんですが、それはそれとしてドロシーの狂気はまさに最初にあの国に感じた嫌悪感を、固めて人型にしたような悪意と無邪気の権化みたいな感じで、読めば読むほど、うわぁ、となっていたのですが……。

オズの魔法使いにもこれほぼワンシーンだけなのかな。道化師が登場します。その道化師はせともので出来ていて、ボロボロで全身にひびが入っているような状態でした。小柄で陽気な道化師は、ドロシーたちにおどけた小馬鹿にしたような様子で接してくるのですが、そんな道化師は、あれは頭にひどくヒビが入っていて、そのせいでバカになっているのよ、なんて風に言われます。
本作のドロシーの、あの純粋無垢だからこその狂気を思うと、彼女がその後道化師を名乗るようになったのは「オズの魔法使い」と照らし合わせても、象徴的なものを感じます。

そして、ペストの面を被ったパルミジャーノと１０年前に入れ替わっていた西の魔女モネ。ロロが亡き主君から魔女を味方として集めよ、とオーダーされた魔女のリストの一人でもあった西の魔女。彼女はしかし、１０年前の動乱で英雄ドロシーに殺されてしまった、という話だったのが、まさかの使徒パルミジャーノと入れ替わって、ドロシーとともに使徒をやっていた、というのが発覚したのが前巻のラストだったわけです。
そしてパルミジャーノは、第一巻で獅子の国にてキャンパスフェローの使節団を虐殺したアメリアの魔術師たちの一人でもありました。
いやぁ……集めよと言われてたメンバー、最初の最初ですでに仇になってるんですけど！？　これもう、遺命を果たすの無理じゃない！？　と、前巻では思ったものでしたよ、はい。

しかし、あとで改めて一巻を見直してみると、パルミジャーノってキャンパスフェローの虐殺には直接関わってはいなかったんですよね。それに、王女デリリウムの手首を奪い王女の魂も連れ去ってロロたちに追われる事になったパルミジャーノですけれど、何気にデリリウムが獅子王に襲われているのを助けてもくれていたんですよ。
手首奪われ、王女の意識が戻らなくなってしまった事でその印象を忘れ去っていましたけれど。

しかも、なぜ西の魔女モネがパルミジャーノに身をやつし、姉を殺したドロシーと連れ立って使徒になどになったのか。人の心を持たない怪物だった魔女モネがほのかに抱き始めていたグリンダとの友情は、やはり怪物の心には届いていなかったのか。
などなど、気になりつつもパルミジャーノとして振る舞う彼女と、帰ってきたドロシーことプルチネッラ。そしてロロと魔女たちの介入によって混沌を極めるオズの動乱がこの巻で描かれたわけですけれど。
いやあ、モネが妙にグリンダのこと気にしているなあ、ともはや使徒になった彼女にとって若き頃の友情なんて忘却の彼方なんじゃないか、と思っていたら、なんか単にグリンダに気を止めてるんじゃないくて、これ安否を気遣ってるんじゃないか、という反応が垣間見えだして、あれあれあれ？　と思えてきたら、ラストのあの衝撃の展開ですよ。
びっくりですよ。
ぜんぶひっくり返ったじゃないですか！
あの東西南北の魔女たちの、辛く苦しく怒りに満ちた、でも間違いなく楽しくて輝いていた青春時代は、モネにとっても嘘じゃなかったんだ。
彼女は、確かに怪物でありました。人の心がわからない怪物でありました。しかし、心のない怪物ではなかったのです。友との間に友情を抱く心を持っていたのです。たとえ、その発露の仕方が異常であったとしても、人として逸脱していたとしても、それは確かに「心」なのです。

だから、そんな怪物だったモネだったからこそ、ドロシーにとっても特別だったんだなあ。純真無垢なる悪魔だったドロシーにとって、周囲の人間はみなつまらなく、ポイと捨ててしまって然るべき存在でした。親も、兄弟も、秘密を共有した友達でさえも、特別だったドロシーに寄り添えるものではなかった。ドロシーは自分から、それらを全部ぽいっと穴に捨ててきた。
でも、モネは十年一緒に居たんですよね。ドロシーを恐れず、ドロシーを怖がらず、彼女の遊びに付き合い続けてくれた。それを、二人で楽しんでいた。
モネとドロシーの間には、怪物と悪魔の間には、確かに友情があったのでしょう。
それは、モネが裏切ったあとも変わりなく、いやモネは最初からグリンダとの約束を果たすため、ドロシーを殺すために彼女に寄り添ったのですから、これを裏切りと呼ぶのは少し違うのかもしれない。
でも、モネがドロシーを刺しながら、この１０年を振り返って楽しかった、と言うのに嘘はなく、そこに憎しみも怒りもなく、殺している最中の、殺されている最中の、モネとドロシーの二人が顔を寄せ合いただの女の子同士のように、声を潜めて笑い合う。あのシーンは、なんとも名状しがたい感慨が湧いてくる、そんな印象的なシーンでありました。

願う先へと連れて行ってくれる靴は一足先にカンザスへ。ドロシーの心もまた解き放たれて、あの広くもどんよりとした灰色の空へと飛んでいきます。
「There is noplace like home.」
それは映画「オズの魔法使い」のラストシーンでの名台詞。名実ともに、ドロシーの物語の幕が降りる象徴でありました。

こうしてみると、この６巻はドロシーの物語でしたよね。魔女たちの活躍もありましたけれど、グリンダたちオズの魔女たちの青春の決着でもありましたけれど、それ以上にドロシーの物語であったように思います。
海の魔女ハルカリと雪の魔女ネル様、この二人は独自に大暴れしたうえに、独自に滅びそうになってるオズの南部を救うべく大活躍してたんですけれど、なんでかこの二人は魔女というより海賊というより、ヒーローみたいなことずっとしてるよなあ。そして、ハルカリ姐さんの面倒見の良いこと。突っ走るネルのために文句イイながらもずっと支え助け続けてますもんね、姐さん。いや、なんか思ってた以上にこの二人って意気投合どころじゃない絆結んでますよねえ。
そんな二人と対決していた九使徒のひとりのアラジン。こいつ、以前にプルチネッラと同じ枠の周りの被害も顧みずになにすでかすかわからないやつ扱いを身内からされてたけれど、今回最初バチバチに殺し合ってたのに、ダムの決壊から南部の村々を救おうとするネル様に助力してくれたのを見ると、こいつはこいつで国とか宗教関係なく自分独自の指針を持ってるタイプの奴なんだろうか。九使徒もほんといろんなのがいるんだよなあ。

そして、ドサクサに紛れて敵の本拠地に飛ばされてしまった鏡の魔女をまた救出しに行かなくてはならなくなり、せっかく西の魔女ネルを捕獲したうえでどうやら絶対無理と思われた仲間入りも出来るんじゃないか、しかも意識不明だった王女さまもこれで復活させられるんじゃないか、と目処たったのに、今度はテレサリサと離れ離れ、ってこれいつになったら全員集合出来るんだ！？

そして、それらの困惑をふっとばすような、さらなるトドメのラストの衝撃。
か、か、か、カプチノーーーー！？　毎度毎度、一人で逸れてどっか行っちゃうけど何だかんだで生きてるバイタリティ高めのメイドのカプチノ。いい加減カプチノだし大丈夫だろ、とだんだん味方からも適当な扱いを受け始めたカプチノさん。
あんたってば、なんでそんな所にいるのーー！？　なんでアメリカ！？　いや、そんな所に行っちゃってあんた帰ってこれるのか！？　異世界ですよ！？　なんで、独り物語からハグレて異世界転移ものに勝手に移行しちゃってるんですか！？

何気に一番作中で波乱万丈の冒険しまくってるの、カプチノなんじゃないの！？









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