徒然雑記 : 商人令嬢はお金の力で無双する３　★★★☆

【商人令嬢はお金の力で無双する３】　西崎ありす／フルーツパンチ TOブックス

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新たな商会の経営者として金儲けを目論むサラは、暴動を鎮圧して城に戻っていた。資金稼ぎのために新たな商品開発や設備の調達などに奔走しつつも、騎士団長子息や孤児の魔法少年と剣術や座学の授業を受けることに。ところが、うっかりいつもの調子で規格外魔法を連発し、騎士団長もびっくりの剣舞を披露すると――王族すらも凌駕する実力に、領地をあっさり捨てるのではないかと焦った者たちから養父や婚約者として立候補が続出!?　騎士団長やその息子、ひいては伯父までもが再び名乗りを上げ――？
「その縁組【とりひき】、対価はおいくらかしら？」
貴族か、自由な平民か。やり手少女の荒稼ぎファンタジー第三弾！

前巻から引き続き、まったくお金の力で無双とかしてないです。タイトルと中身全然違う作品は昨今珍しくないんですけどねえ。
この巻ではこれまでずっとモタモタと進展がなかったレベッカ先生とロバート叔父さんの恋模様がようやく前に進みます。
本編でサラが現れるまでも、ずーーーっとモタモタしていた、というか疎遠になりかけてた事を考えると、サラの家庭教師としてレベッカが雇われ、かつてのように触れ合うことも多くなり、と千載一遇の好機が訪れていたにも関わらず……それとなく、サラを含めた周囲の人達が後押ししているにも関わらず、まったく何もしないロブ叔父さん。
ダメだこいつ、なんとかしないと。
いやー、最初に引き取られた小侯爵一家と違って、ロブ叔父さんの方は優しいし物わかりも良くて、と凄くいい人、いい物件に見えたんですけれど、話が進めば進むほど恋愛関係についてはヘタレ。極めてヘタレ。なんかこの一族の男はみんなヘタレらしいけれど、筋金入りのヘタレ野郎という事が度重なるエピソードで描かれていったものだから、こいつ上の兄とは違う方向でダメンズだ、とわかってきたわけです。
でも、レベッカ先生の方は未だにまんざらでもないみたいだし、彼女の意思を尊重するのならやっぱりお相手はロブ叔父さんがいいのかなあ、と思いつつレベッカ先生もはっきりしないんですよね。いや、ロバートのあまりのヘタレっぷりに呆れて失望している、というのもだんだんと見えてくるんですけれど。
失望しつつ待ってるんだよなあ。いや、それはそれで不毛じゃないですか、レベッカ先生。こいつが絶対に自分からアプローチしてくる可能性、皆無ということは幼馴染の貴女が一番良く知ってるんじゃないですか？　にも関わらず、来ない告白を何度裏切られてもずっと待ってたわけですしねえ。
ああ、もう来ねーな、と諦めてたとも言えますけど。それでも、他の相手には見向きもしなかったわけで。
いや、そこまで思ってるのなら、もういっそ自分から、お前わたしと結婚せいや！と、レベッカ先生の方から奥歯ガタガタさせてもよかったんじゃないだろうか。あくまで、レベッカ先生みたいな人が待ちの姿勢に徹して自分から動こうとしなかった、というのはそれはそれで微妙な違和感があるんですよね。
この世界においては、女性側からアプローチする、迫って落とす、押し倒す、という行いは否定されるような価値観なんだろうか。ロブ叔父さんみたいな人は、女性側が最初から最後まで主導権握ったうえで言う事聞かせたほうがうまく行きそうな気がするけれど。

ともあれ、お前いい加減にはっきりせいや、とついに周囲から突き倒されて、あたふたしたまま勢いでレベッカ先生に告白したロブ叔父さんだったわけですが。
……いまだかつて、ここまで酷い告白は聞いたことなかったわｗ　最低だろ、おい。
ロブ叔父さんの告白に比べたら、そのへんの勘違いしたエセ貴公子の「おいお前、なかなか器量も良いようだしこの俺が付き合ってやってもいいぞ？」みたいな交際の申し込みの方がまだマシに見えてくるんですけれど。
よくぶん殴ってもらえたね。あれはガチで、百年の恋も冷めて、さようならコースかと思った。絶対、あれは冷めたな、と思ったもの。
今度、才女レベッカを目当てにした外国の要人も招いてのパーティーが予定されちゃっているわけですけれど、もうレベッカ先生がそこで新しい出会いを得て、幸せを掴むルートまで垣間見えたもの。
普通は「待った！」は一度も許されないはずなんだけれど、若い頃からレベッカ先生はどれだけ待ったを許してきたんだろう。今度こそはもう許さんでいいとすら思ったんだけれど、許しちゃうんだよねえ。
ギリギリ、そこで自分の意志で自分の本心を、レベッカへの思いをロブ叔父さんが打ち明けることでギリギリセーフとして許してもらえたんだけどさ……いや、アウトだよね、これ。完全アウトだよ。
それでも、レベッカ先生がOKというのならOKなのである。……アウトだろう、これｗ
こう言っちゃなんですけど、ロバート叔父さんってNTRモノで恋人や奥さんを寝取られてすごすご泣きながら引き下がっちゃう系男子だろ、これ。　

まあともあれ、ともあれですよ。国の中枢や外国の要人を招いてのパーティーの前に、ロブ叔父さんレベッカ先生と婚約できて本当に良かった。パーティー開催の時点でレベッカ先生フリーなら、絶対結婚問題吹き上がってえらいことになってたぞ。
まだ結婚していなくて婚約段階、という現状でもちょっと危ないんじゃないか、と思うくらいなのですから。

さても、サラの事業展開は順調に進みつつ、新たな人材もしっかり確保が進んでるんですね。まさか、家庭教師の先生からサラの信奉者が現れるとは思わなかった。聡明であればこそ、異端というほど賢ければこそ、サラの持つ可能性に気づいてしまえる、という事なのでしょう。
感心したのは、この物語、女性の社会進出をおもなテーマにしている。女性の社会的な地位の向上、女性に与えられていない機会を、権利を実情に合わせて付与していくべきだ、という話が根底にあるわけですけれど。
女性の地位を特権階級にしようってわけじゃないんですよね。女性という括りを男性と分断して、権利を要求しようというのとは違うのです。
乙女の塔、と呼ばれるようになった、サラが所有権を持たせてもらった失踪した錬金術師の工房。ここは、才能や実績はあるのに社会に認められない実力ある女性を集めて、サラの事業の助けとなるように色々と研究開発をはじめてもらっていたわけですけれど、ここを女人限定にせずにちゃんと男性も必要ならば雇うべし、という方針を立てることになるんですね。その最初の一人になりそうなのが、あの男の家庭教師の先生トマスなわけですが。

サラの事業の中で大きな割合を占めることになりそうな、エルマブランデー。その原材料となったエルマ酒を大々的に生産しているのって、フランのお母さんのトニアという女性であります。彼女、女性ながら農園の経営者として、家庭で作るお酒の域を超えた規模の酒造りをしていました。その親族の女性たちも、それぞれ酒造りに関わっていて、このへんかなり大規模なことが伺えます。
つまるところ、もう実態として女性の経営者や農園主みたいな存在はいるんですよ。
また、アリシア、テレサ、アメリアというサラが確保して雇うことになった女性陣も、それぞれ家事や錬金術などの分野でもう男性にも一目置かれるだけの実力は示してるんですよね。実績も残している。
これ、男性側がその存在を拒絶、拒否しているというわけではないみたいなんですよ。
アリシアなんか、アカデミーの特別入学が真剣に検討された、というくらいですし、嘆願書が出るくらい支持者も多かった。
こういう例を見ると、男性側の意志、というよりも社会体制が実情に追いついていない。優秀な女性に社会的地位を与える、女性に男と同様の機会を与える、という今求められつつある改善に、社会がまだ適応できていない状態なのでしょう。むしろ、個々の男性陣を見ると女性の活躍に大いに賛成し、支持している人が多く見受けられるのです。ただ、そういう男性陣も旧来の価値観に縛られて社会体制そのものを変えていこう、という意識までは持っていない。身近な所で彼女たちが活躍できる場があるなら支持するよ、くらいの塩梅で。

そんな時に、とびきり優秀な女性たちが、社会の価値観そのものの一石を投じて、湖面を揺らがせていたその時に、サラがそうした遊兵と化していた優秀な女性を結集して新たな事業展開を進め、領の脱税問題で人手不足極まっている時に女性に機会を与えることで、領内の公的機関における女性の進出を促し、すでに実態として存在していた女性が主体の農園から資材を調達することで、お墨付きを与え、と怒涛の勢いで揺らいでいた価値観そのものに大きな刺激となる動きを浴びせかけたわけだ。
多分、このままでもジリジリと進んだだろう、女性の社会進出は、しかしサラの登場によって一気に革新となっていく。大きなうねりのはじまりを感じさせられる回でもありました。

一方で、サラ個人を見ると、ようやくお相手候補となる同世代の男の子が出てきたんですよねえ。同世代の子供たちと一緒に過ごすことで、はじめてといっていいくらい年相応の顔を見せるサラ。そう言えばまだこの子幼女だったじゃないか。ただ、お相手候補のブレイズもスコットも、まだまだお子様すぎて未熟未熟。成長の余地は多分にあるんだけれど、サラが進みすぎてるからなあ。横に並べるくらいに追いつけるのかこれ？　それとも、もっと年上のお相手が現れるんだろうか。トマス先生は、さすがに年の差ありすぎるみたいで、トマス先生的にはアリみたいだけれどサラの方が眼中にないから、これはないだろう、うん。