【サイレント・ウィッチ IX 沈黙の魔女の隠しごと】 依空 まつり／藤実 なんな カドカワBOOKS
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重鎮達が集う最高審議会。王国随一の権力者を相手に、今こそ沈黙を破る時!
連行された生徒会長を助け、帝国との戦争も回避する。そのためにモニカは最高審議会へ出席し、失敗すれば己が処刑される危険な賭けに打って出ることを決意する。
対峙すべきは王国随一の権力者、クロックフォード公爵。学園の皆の協力もあり準備は入念に進められていく。だが、モニカにはもう一人、看過できない最凶の敵がいて――?
長きにわたる陰謀も決着の刻。集大成の第九幕、表舞台に姿を現した沈黙の魔女が、ついにその沈黙を破る!!
うん…………うん（浸ってる
素晴らしかった。とても良いものを読みました。うん、うん……（浸ってる
さあ、何から語るがよろしいか。
前巻のラストで、友人たちに自分が沈黙の魔女と明かしたモニカ。その立ち居振る舞いはまさに七賢者の一人。竜殺しの魔女に相応しい威厳と荘厳な佇まい、そして明確な意志力に満ちあふれていて、普段のモニカを知る身からすれば、そのギャップの格好良さに打ち震えたものです。
またその姿が、勇気を振り絞っての精一杯のものだと知っているからこそなおさらに。
でもその格好良さって、モニカの正体が沈黙の魔女と知らなかった面々からすれば、隠していた素性以上に隠していた性格、これが本当の彼女の姿、と思われても仕方ないものだったのかもしれません。
だからこそ、あのシリル先輩に慇懃に敬語を使われて敬われたときに、それまでの振る舞いが一気に崩れて、思わずわたしに敬語なのやだぁ、と。いつもの怒ってるシリル様がいいよぉ、と泣きじゃくってしまったモニカに、主人公が仲間たちに正体を明かして驚かれるという燃えるシチュエーションに舞い上がってた気分がハッと覚まされたんですよね。浮ついていた気持ちが、地に足がついたというか。
この場にいた面々も方向性は違えど似たようなものだったのでしょう。この瞬間、ようやく沈黙の魔女＝モニカというのが認識できたのかもしれません。モニカの正体が沈黙の魔女だった、というよりも、沈黙の魔女はこのモニカその人だった、というべきか。それがようやく一致して、それもモニカは見知っているあのモニカと何ら変わらぬ人となりだった、と。
いや、正直シリル様がそこまで具体的に薄っすらとモニカ＝沈黙の魔女の可能性を高いものとして考えているとは思わなかった。あなた、そういうこと態度に出さなかったじゃないか。偉い。
第二王子のフェリクス……いや、以降はアレクと呼ぶべきか。あれほど沈黙の魔女に拘泥していたアレクですら、さっぱり気がついてなかったのに。
まったくモニカ・エヴァレットと縁なく関係ない所からモニカ＝ノートンと結びつけられたのって、シリル様だけだったんじゃないだろうか。
また、みんなの反応が怖くて縮こまってしまったモニカに、まっさきに駆け寄って怒りながらも慰めて励まして安心させてくれるのが、ラナなんですよねえ。ラナとモニカ、同年代で一番の友だちになるんだろうなあ、とは当初から感じていたけれど、まさかここまでお互いにかけがえのない存在になるとは思わなかったなあ。モニカにとって、掛け値なしに一番重要な支えになってる存在じゃなかろうか。色んなたくさんの絆をシリーズ通して結ぶことが出来たモニカですけれど、シリル様とラナの二人に関してはまさに「特別」と呼んで過言ではないのではないでしょうか。
ルイスの目が節穴だったのはまさにここで、この人最後までモニカの人間関係についての認識を修正できなかったんですよねえ。あれだけ聡明で意地が悪くて悪知恵働く、あらゆる想定をしているにも関わらず、モニカの変化に気づかなかったばっかりに……気づくチャンスは幾つもあったにも関わらず、終盤違和感も感じていたのに、見過ごしてしまったことが虫地獄を味わう羽目になったんだなあ、これ。
ルイス、わりと頭が固いというか、他人に関してはこういうやつだと決めつけると簡単にそのイメージを変えられない、固定観念が強する所があって人の気持ちの変化に気付けないところがある、というのは彼が主人公の番外編でも結構ありましたし、今の奥さんと致命的なすれ違いを起こしてしまっていた事からも、そういう所あるよねえ、と思いました。
あの番外編はルイス周辺の掘り下げとしても素晴らしかったよなあ、うん。
せっかく生まれた娘に、触ると泣かれてしまうのそういう所なんじゃないの、ほんと。絶対娘とも将来モメそう。
しかし、改めて今回のクライマックスはモニカという少女の成長の物語の結晶ともいうべきエピソードだったと思います。冒頭で沈黙の魔女と明かした身近な面々だけじゃなく、自分の持ちえる限りの人脈を使って協力を取り付けて、アレクを救うための策を練り上げたのですから。
あの人見知りを通り越した人間恐怖症で、人脈なんてなにそれ？ 協力を取り付けるどころか、まともに話すこともできなかった、そもそも喋りたくないから無詠唱を習得した、という筋金入りの言葉を操ることを忌避してきた少女が、言葉を尽くして様々な人に想いを伝え、願いを請い、助けを求めた。
そして、そんなモニカの言葉に少なからず危険やリスクがあるだろうに、快く手を差し伸べてくれる、そんな関係をこれまでの間に築いてこれていた、ということなのですから。まさに結晶であり、集大成だったんではないでしょうか。
それ以上に、そもそも盤上を無双する凄腕の棋士であり指し手だったモニカですけれど、それ以上の盤面はすでに関係なく、戦いは始まった時すでに勝敗は決まっている、をやってのけた。詰めろが既にかかった状態から盤面をはじめられるように状況を整える、なんて真似をやってのけてたんですよね。
これは以前の計算機の権化であったモニカでは出来ない領域のことだったはず。
ルイスが、あれだけ良いようにやられたにも関わらず、モニカに対しては何の文句も八つ当たりもしなかったのは、モニカの成長を見逃していた自業自得だけじゃなく、ここで上を行かれた事も大きかったんじゃないでしょうか。
前に七賢人を決める際の決闘でボコボコにされたのは、問答無用のスペックでゴリ押しされたもので文句は言えないけれど納得しきれないものだったんでしょうけれど、今回の一件に関しては完全にやられた、という気分だったんじゃないですかねえ。それを清々しい、と思うような潔い気質では絶対にないですけど。
いやあ、それにしても冒頭のギャン泣きしてしまったシーンといい、お守りをシリル先輩に貰った時のシーンといい、モニカの乙女心ってこれ完全にシリル様に恋芽生えちゃってますねえ、初々しいですねえ、可愛いですねえ、キュンキュンしますねえ、と圧倒的モニ×シリの流れだと思ったのに……。
モニカの仕掛けた裁判によって、第二王子の偽物ではなく本物と認定されたうえで、亡くなった本物の王子の願いを叶えるという自縄自縛の呪いから解かれ、亡き王子の遺した言葉によってむしろ未来を祝福され、彼の正体を知ってなお彼に生きてほしいと願ってくれた人達の思いとともに生き残れた、そして第二王子でありつつ、元のアレックスに戻れたアレクが……まさか、解放されたことであれほどはっちゃけるとは思わなかった。
いや、どれだけフェリクスとしてあの方の名誉を護るために立派に生きなければならない、振る舞わねばならない、という重い縛りに雁字搦めにされてたんだ、と思うくらいめっちゃはっちゃけたんですけど。
……確かに、モニカにだけ見せたあの、アレクとしての、夜の不良仲間としての彼は随分と奔放だったですけれど。第二王子の従者時代も、フェリクスに身命かけてた分、自分のことは後回しだったもんなあ。第二王子が、彼にはもっと自由に生きてほしい、と願ったのもそれだけ彼が縛り付けられていたものの多さ、重さを見抜いていたからなのかもしれない。
いやそれにしても、パワフルさというか行動力が、馬力がもう全然違いすぎる。モニ×シリの圧倒的な流れに対して、スエズ運河でも掘る勢いで自分の方に流れる水流を掘削して作っちゃったんじゃないですか、これ？ そして、こっちを本流としてしまう勢いであります。完全に自分の恋心を自覚したうえで、これまで第二王子の名を残すことの為に注ぎ込んでいたリソースも含めたアレクの全部を、自分の望みを叶えるために投入してきてますよこれ？
……つおい。
まだ腰の定まっていないシリル様や、自覚のないモニカに対して、自覚がありつつ自身の才覚のすべてをこっちに注ぎ込みはじめたアレクでは、ちょっとエネルギー量が全然違いすぎて、局面が一気に変わりつつあるんですけど！？
しかも、まさかのアレクくん従僕属性あり、である。というか、イザベラ様にかなり好きに愛でられていたように、モニカってお世話され属性でもあるんですよね。物凄く面倒を見てあげたくなってしまう小動物タイプ。手がかかるのが病みつきになってしまうタイプ。ラナやシリル様といった、面倒見の良いタイプがハマっている要素でもあったんですけれど、フェリクス王子にはあんまり関係ない分野だと意識もしていなかったんですが。
そもそもアレクは従者だったんで、お世話するのが本分で性格的にもしっくりきて、今まで仕えられる側だった間に溜まってた鬱憤を、モニカに注ぎ込んでいる、という側面まであって、危機として日常生活に致命的な欠陥があるモニカの、完全に世話係になってるぅ。嬉々としてお世話してるぅぅ。
これは予想外。完全に予想外の、餌付けから始まってもうこいつがいないと生きていけない、まで調教されてしまう流れｗ
圧倒的巻き返し。まさかの後方一気、伝説の末脚。
シリルさま、あなたガチでうかうかしてられませんよこれ。もうリード分微塵もなくなってるから！！
そもそも、気がついたらなんかモニカに矢印向いている男性がやたらいて、あれ？ これモニカのハーレムだったっけ？ となってるんですけどね。モニカ、おまえいつのまに。
混沌とかしてきたモニカの周辺はともかくとして、周りのカップルたちはわりと安定して進展中。ニールとクローディアは順風満帆で結婚しましたし、エリアーヌ様は意外と無自覚に外堀を埋めていくタイプみたいで、まさかのグレンの家族から落としていってらっしゃる。
ブリジット様は、もうこの人は気高いというか眩しいというか。愛した人がもう既に亡いことを知らされながら、ついに折れることなく前を向いて生きてらっしゃる。その姿に心惹かれている人はいっぱいいるみたいだけれど、さてこの誇り高い女性の心を射止めることの出来る男は現れるのだろうか。
帝国の皇帝よりも、第三王子のアルバートくんにぜひ頑張ってもらいたいなあと思ってるんだけれど。
欠番になった七賢者に関しては、誰が収まるんですかねえ。将来的にはグレンくんとヒューバードは可能性高いと思うけれど、今の段階ではまだまだでしょうし。
結局、モニカは復讐でも父の名誉回復でもなく、友との未来を選びました。断罪ではなく、この国の安定を選びました。そのありあまる力と傑出した技量による制圧ではなく、操れなかった言葉を駆使した、紡げなかった絆をたくさんたくさん結ぶことで、和を以て貴しとなしました。
それは、涙が出そうなくらい、尊くて眩しい結論だったと思います。
遠く遠くを見渡せる、頂きに至った結末だったと思います。
読めて良かった、と思えるとてもワクワクして、ドキドキして、心はずんだ物語の結びであったと思います。
良き、良き、物語でありました。
これで終幕、と思いきや、学生を卒業した彼らの物語は、また新しい章として続くようです。
嬉しい、続きが読めるのがただただ嬉しい。まだ彼らの進む先を見ていられるというのが、心から嬉しいです。
はじまるのはアニメがスタートする頃でしょうか。いずれにしても、今から楽しみです。
しました
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
双方ともに、踏みにじられ奪われる側の人間だったのが、自分にそうした人間を逆に踏みつぶせる力を手に入れた者同士という事になるのでしょうか。
クロックフォード公爵は、悪意全開の冷徹さ・冷酷さで利用しつくし、奪いつくし、徹底的に踏みにじることを選択したのだろうと。
それに巻き込まれて、奪われ踏みにじれたのがモニカでした。
自分にそうしたものを徹底的に叩き潰せる力と状況を手に入れたモニカが選んだのは大切な人たちと生きる未来でした。
おそらく、モニカは、大切な人たちと紡いだ絆の中で生きて行くのでしょう。
クロックフォード公爵は、果たすことができなかった願望と敗北感を抱えながら、余生を過ごして行くのでしょう。
国王陛下は、この物語が始まった時点で、この結末に至ることを何処まで予測していたのかなと。
ルイスに第二王子の護衛を命じた時に、おそらく、モニカに護衛を任せるという事は、おそらく予測していたと思うのですが。
物語が始まった時点の状況で、帝国がモニカに父の死の真相を教えたら、何が起こるかは火を見るよりも明らかでしたから。
多分、想定していた状況の中で最上級の結末だったでしょうか。
八岐
が
しました