【マスケットガールズ！３〜転生参謀と戦列乙女たち〜】 漂月／sakiyamama PASH！ブックス
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ミルドール家がついにリトレイユ公を告発した。容疑はブルージュ公国との内通。
その根拠となる文章や証言も帝室へ渡り、帝国内に激震が走った。
そして影武者のリコシェに離反によって、さらに窮地へと追い込まれるリトレイユ公ミンシアナ。
戦乱と政争の果てに彼女が得たものとは一体？
そして権力に固執した理由とは。
まあこれはなあ。リトレイユ公ミンシアナ、謀略家としてはいいとこ２流か２流半って所でしょうね。得意なのは相手を陥れることだけで、それ以外はだいたいぜんぶ詰めが甘いように見える。
色々と証拠を残しすぎなんですよねえ。自己防衛の手管がヌルい、そのくせ過剰なくらい身辺に関しては疑心暗鬼で疑わしきは罰せよの勢いで粛清を繰り返している。目に見える範囲の安全で安心してしまって、大局に目が行っていないというべきか。
だから、自分が政治の的にかけられると、途端にボロが出てきてしまった。巧妙に自分の痕跡を消せていたら良かったんだろうけれど、あっちこっちに露骨に残ってたもんなあ。そもそも現場の人間であったユイナーやアルツァー大佐に、現場で気づかれていたというのは、彼らが優秀というだけでは済まないくらい、論理的に不自然な部分が多大にあったって事だし。
貴族の当主としても、肉親から無理やり地位を奪い取った簒奪者であるために、教わっておいて然るべき知識、長き歴史によって紡がれてきた継承しなければならないものを、何も受け取っていないという事ですし、股肱の臣というものも存在しない。
自分が一番大事で、ほかを見下し、自分を客観的に駒として見るような意識もない。
自分が欲しいものを奪い取り、邪魔なやつは蹴落として、しかし矢面には立たずにいつだって後ろからこっそりと罠にはめて陥れる。
言ってしまえば、小悪党……そういう女性でありました。
Ｗｅｂ版の連載を読んでたときは、もうちょっと好き放題やってたような気がしていましたけれど、本としてまとめられると、こんなにさっくりと引きずり降ろされたんですねえ。もっとねちっこく意地汚くしがみついていたような印象があったんですけれど。
しかし、彼女の欲望に任せた陰謀の数々は国家の先行きなどまるで考慮していなかったため、帝国はもはや修復不可能な傷を負ってしまう。皇帝が適切な対処をしていれば、傷は大きくても致命傷は避けられたのかもしれないけれど、このおっさん皇帝として一切責任を負おうとはせず、帝国のために働くものたちに対して何の思いやりある言葉も行動も示さず、ただ皇帝の座にあぐらをかいて何もしようとしない。何も与えようとしない。ただ口を開けて餌を与えてくれるのを待っているだけ。誰かが何かをしてくれるのを待っているだけ、という有り様でしたからね。皇帝家を奉りつつも半ば独立した別の王家とも言える他の公爵家が、一連の所業を前に完全に皇帝家に対して失望してしまい、独自の行動を取り始めたわけである。
面白いことに、これで一気に帝国は内乱状態、って事にはならないんですね。
失望され見捨てられたのは皇帝家だけで、ミルドール公とジヒトベルグ公の２公爵家は完全に帝国から離反し、敵対するブルージュ公国側についたものの、ミンシアナを切り捨てたリトレイユは取り敢えず捨て置いて、同じ公爵家であるメディレン公爵家とは袂を分かちつつもよしみはまだ通じてるわけです。
先のミンシアナの陰謀によって陥れられたミルドール家とジヒトベルグ家ですけれど、その際にユイナーに一方ならぬ恩を受け、さらに彼の才覚に惚れ抜いているので、一旦敵にはなったものの人脈としてはむしろ密接に通じてる状態なんですよねえ。
とはいえ、彼らに身柄を掌握されると主導権を握られてしまうので、二家が離反したと同時にその勢力圏に基地を置いていた第六特務旅団はとっとと尻尾を巻いて撤退して、アルツァー大佐の実家であるメディレン公爵領に逃げ出したわけですけれど。
アルツァー大佐の年上の甥にあたるメディレン公も、また一癖も二癖もある人物であり、もうこの時点で皇帝家を見捨ててるんですよねえ。
シュワイデル帝国というガワだけは残しつつも、その中身はそろそろ入れ替えなければならない、と皇帝以外の皆がそう考えて動き出している。公爵家同士で主導権争いはあっても、元々盟友同士という間柄もあり、争いが武力闘争には発展せず、皇帝家を廃した残った４つの指でどう今後の帝国を統治していくか、というのが主題になりつつあるんですね。
そんな中で一際目立つようになってきたのが、ユイナーなのである。メディレン公の叔母であるアルツァー大佐の腹心であり、ジヒトベルグ公爵の公的な友であり、ミルドール公の弟の婿を親友かつ同僚に持ち、次期リトレイユ公の少年に姉と慕われている元影武者のリコシェを懐に抱えている。
何気に４本指全部に大きな影響力を持つに至っているわけです。おまけに、アルツァー大佐とはガチでいい雰囲気になりつつあり、メディレン公も叔母の婿に、と見込んでますしね。
転生者とアルツァー大佐にバレてしまったものの、むしろその見識は軍の参謀に留まらない謀略も内治もなんでもござれ。彼の助言は、メディレン公の政治判断にまで影響を及ぼしていますからね。
そして、政治の一手。謀略の一手をこれまた妙手で打つんだ、こいつ。リトレイユ公と違って、その誠実さをメインウェポンとしているのが心憎い。誠心を担保にして悪魔みたいな妙手を打つ。その誠心故に、皆が彼の手に乗るわけだし、ユイナーを信頼してこそ向こうもそれに基づいた判断をしてくる。
まさにこの動乱のメインプレイヤーになりつつあるんだよなあ。
そんな彼の前に立ち塞がるのは、リトレイユ公ミンシアナなんぞ及びも付かないクセ者であり、食わせもの。
ユイナーの元相棒にして師匠にして義理の祖父さんみたいな老傭兵。ユイナーにこの世界での生き方を仕込んでくれたような人物だ。育ての親だと言って良い。
この爺さんがまた……いやこれ、ユイナーによく似てますよねえ。若い頃は相当スマートな人物だったんじゃないだろうか。同時に性格は悪く、捻くれていて、それでいて一周回ってストレートでもあり。やっぱりよく似てるよねえ。
ユイナーの考えてることなら何でもお見通し、というくらいにはお互い、やり方も分かってる相手なんですよねえ。
まあ、爺さんの側からしても自分の思考パターンみたいなもんは全部読まれているんで、やりにくいやらやりやすいやら。しかも、想像を上回る勢いで一緒にバカやってた頃よりも成長していて、なんつーバケモンを育ててしまったのやら、と爺さん苦笑する勢いなので、むしろ爺さんの方がやってらんねー、という話なのかもしれない。とはいえ、ユイナーとの再会から命がけの戦闘に駆け引き、と終始楽しそうで嬉しそうだったのが印象的。ユイナーに軍人への道を勧めたのが爺さんだそうだから、想像以上に育っている我が子我が孫我が弟子の姿が嬉しいのは、そりゃそうだろうなあ。
そして、リトレイユ公の欲深い野心が遺した傷は帝国だけではなく、アルツァー大佐の心にも消えない傷跡を刻んでいきやがったわけで。
これ以上ユイナーがミンシアナにかかずらう事がないように、この女に傷つけられないように、とミンシアナの謀殺に関与してしまったわけですが、手ずから死に導いたことが思いの外彼女の柔らかい精神に傷をつけてたんですなあ。かなり酷いうつ状態、メンタルが不安定になってしまった大佐に、この参謀ってば愛の言葉を囁いてショック療法で、死に引きずられていた大佐の心に活をいれやがりましたよ。
これも広義の愛の力、ってやつなんでしょうか。いや、なんかやり方があれですよ、ホストみたいじゃないですか？ そのまま甘い言葉囁いてたら、大佐てば貢ぎだしそうな雰囲気すらあったんですけどｗ
とはいえ、ユイナーの方も一生この人についていこう、と決めてしまっているので、その在り方が参謀かそれ以上かは、大佐次第なんでしょうねえ。いやもう、ふわふわ地に足がついてないくらいになってる気がしますが。大佐、メディレン公への手紙にユイナーのこと、なんて書いたんだ？ｗ
Ａｍａｚｏｎ
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