徒然雑記 : 魔術探偵・時崎狂三の回顧録　★★★★

【魔術探偵・時崎狂三の回顧録】　橘公司／つなこ富士見ファンタジア文庫

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十香たち「デート」メンバーも登場し、狂三の推理の時が再び刻まれる

かつて魔術師が作り出したという、人智を超えた力を持つアイテム――魔術工芸品。
魔術工芸品犯罪を専門に扱う魔術探偵兼女子大生・時崎狂三のもとには様々な依頼人と事件が舞い込み――。
ライブ中に声を失う『アイドル』。亡くなったはずの『漫画家』から届く連載原稿。来禅高校の『学生』が怯える新・七不思議。因習村で消える『巫女』。そして未来視の目を持つ『探偵』。
魔術工芸品によって引き起こされる不可思議な事件を追う狂三は、『精霊』だった自身の過去とも向き合うことになり……。
謎と因縁を解決するため、推理の時が再び刻まれる!

巻数表示ないんですけれど、これが２巻になります。１巻出たの２３年の１０月だから１年以上前になるのか。この間出たばかりのような気がしていたのですが。
というわけで、２巻が出た本編後のスピンオフストーリー。大学生になった狂三が魔術工芸品と呼ばれるマジックアイテムにまつわる事件に挑む魔術探偵として活動していく物語であります。
一巻では本編のキャラはほとんど顔見せくらいにしか出なかったんでしたっけ。ですが、この２巻では依頼を持ち込んでくる依頼人として、また同行者としてゲスト出演してくれるので大変華やかな事になっております。
そして、狂三さんが登場すると定番のように行われるのが、コスプレ！　まず第一話から歌手をやっている美九の依頼でアイドルグループの護衛のために……なぜかアイドルのバックダンサーをやることに。バックダンサーとはいえ、これはアイドルへの登竜門。厳しいレッスンや審査をくぐり抜けて、ようやっとライブのバックダンサーとして出演できるのである。
というわけで、アイドル狂三爆誕である……本人じゃなくて分身体だけど、貴女デート・ア・バレットの方でもアイドルやってましたよね！？
あのシリーズを含めると、もう狂三さんコスプレ写真集が出せるんじゃ、というくらい色んな衣装来てるんですよねえ。これに関しては他のヒロインの追随を許さないくらい、めっちゃいろいろ着てますよ。
さて、今回は未来視探偵なる謎の和装に革手袋に編み上げブーツ、丸眼鏡のサングラスという風貌の……これ、てっきり男なのかと思ってたら女性なんですね。永劫寺玲門という名の謎の存在も絡んできて、今回もどの事件も跳ねてましたねえ。
２話の亡くなったはずの漫画家から原稿が届き続けて、漫画連載が続いている、という事件については……てっきり、二亜の話かと思ったよ！　いや、この人けっこう長い時間行方不明になってたじゃないですか。もう死んだ人扱いになってるかと思ったよ。そんな死んだ人から、漫画の原稿が届いたら出版社ビビるじゃないですかー。
……ちゃんと漫画家として現役復帰してたのね、二亜さん。あれ？　本編でもう復帰してたっけ。士道に手伝わせていたのは、あれ短編集の方だったっけ。
わりと内容としてはシリアスな話だったと思うんだけれど、それはそれとしてニアが正体を暴露しつつ誰にも信じてもらえないまま、色んな締め切り間近で修羅場の漫画家のもとを巡ってヘルプしてまわる、という二亜無双の話になっていたような……。二亜さん、わりとずっとダメ人間扱いだったのでたまには凄い所見せないとねえ。

３話では母校の来禅高校に教育実習生として潜入して、学校を騒がす七不思議の秘密を解き明かす、というお話でした。ちなみに、教育実習生となる必要はまったくなく、そもそも狂三はまだ大学一回生だから教育実習とか行けないんですけどー！？　でも、スポンサーからの威光で本人の意志関係なく、スーツ姿で先生をやるはめに。
この学校ではヒロインの精霊たちのうち年少組だった面々が、今高校生になって生徒会やってるんですよねえ。面白いのが、ラタトスクの司令として皆を引っ張っていた琴里じゃなくて、七罪の方が生徒会長をやっているというところ。これは番外編の方で描かれてたんでしたっけ。
でも、これが意外とお似合いというか、七罪って本編でも陰キャなんだけれどヒロインの中でも特に相手のことをよく見ている子だというのは何度も描かれていたんですけれど、今回の話も実に生徒会長に相応しい子だったんだなあ、というのが伝わってくる良いお話でした。同じ元精霊たちからの信頼も厚いんだよなあ、七罪。これは年長組でも変わらず。
そして、琴里が意外と怖がりで本編では滅多と見せてくれなかった顔を見せてくれていたのは、かなり美味しいところでありました。

４話はこれ、森鴎外の雪国ばりに、最初に一文で今回の話すべてを言い表していて、笑ってしまいました。

……県境の長いトンネルを抜けると因習村であった。

最初のわずか３ページくらいまでであらゆる因習村要素がこれでもか、とばらまかれていて、因習村テーマパークですかここ！？　というような、見るからに因習村な村に、先輩から誘われた生贄っぽい巫女のバイトに赴くことになった、狂三以下、八舞姉妹に折紙、十香の花の女子大生組。
因習村に対してメンツが強すぎるｗ
もっとも、この作品からしてそんな真っ当な因習村の仄暗いオカルト話にはならないんですけれど。
なにしろ、メンツのキャラが強すぎるしｗ
狂三巫女さんバージョンが大事である。

そして５話で、今回の一連の話にすべて関わってきていた未来視探偵・玲門の正体とその意図を巡る真相のお話。
未来視って極めるともう時間関係なくなる、というのは他の作品なんかでもたまに出てくる要素なんですよね。特に、未来に自分の姿や言葉を残せるガジェットが存在するならば。
そして、これを読む限りだとやっぱり狂三ってずっと罪を引きずっているんだなあ、というのがわかるんですよねえ。彼女だけが、本当の願いを諦めて今の生活を受け入れている。自らの償いを果たせる機会が目の前に現れたとしたら、果たして彼女はそれに手を伸ばす事を今度こそ諦められるだろうか。
最後の託されたあの賢者の石。あれはあまりにも、彼女の罪を刺激する。
時崎狂三の物語だけが、まだ決着がついていない。そういう意味でも、このシリーズ続いてほしいところですなあ。