【ホームセンターごと呼び出された私の大迷宮リノベーション！】 星崎崑 ／志田 GAノベル
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ホームセンターごと異世界転移したマホによる、
ダンジョン脱出＆過疎都市再興記！！
ある日、女子高生のマホは、地元のホームセンターごと異世界へ召喚されてしまう。
その場所は地下奥深く――世界最大級の未踏破ダンジョン『メルクォディア大迷宮』の最深部だった！
地上へ脱出しようにも、すぐ上の階にいるのはラスボスのレッドドラゴンで、そいつ倒さなきゃ話にもならない状況。唯一の連れ合いは、マホを呼び出した自称迷宮探索者のフィオナのみ。
マホとフィオナのホームセンター頼りのダンジョン攻略（ただし最下層スタート）が始まる。
【俺にはこの暗がりが心地よかった】シリーズの星崎崑さんの作品ですね。ってか【俺にはこの暗がりが心地よかった】の５巻出るの！？ もう２年近く音沙汰なかったんで、打ち切りになったのかと思ってましたよ。４巻電子書籍限定でしたし。
さても、こちらの作品の方は同じGAノベルからとなりますけれど、趣はだいぶ違っていてダンジョン運営の話となります。MF系から出してらっしゃった作品などは内政系統なんでそっちタイプに戻ったってことになるのかな。
とはいえ、始まった当初はダンジョンの運営云々どころの話ではなく、主人公のマホは馴染みのホームセンターごと、見知らぬ異世界の巨大な迷宮の最深部に突然転移してしまい、右も左もわからぬ状態。
ついでに、そのダンジョンの最深部に転移罠によって放り出されて食料もないまま３日も彷徨っていた冒険者のフィオナとそこで巡り合い、二人でまずこのダンジョン最深部から脱出をはかることになるわけです。
最深部からの逆走です。だいたいこういうケースだと、上から順番に下まで潜ってきて戻るのではなく、転移などで準備も用意も計画も何もなくいきなり未踏破領域からの脱出を強いられることになるんですね。難易度ルナティックの無理ゲーならぬ死にゲーであります。
ところが、本作においては拠点としてホームセンターが存在する。
このホームセンター、無人なんですけれど、なぜか商品の保全や管理は勝手に行われていて、消費期限のある食品なんかも劣化しない。どころか、使った消耗品は勝手に補充されるというシステム。
この商品を使うのになにか金銭やポイントがいるのか、というと完全にフリー。どうぞご自由にお使いください、てなもんなんですね。
夢幻の宝物庫である。ここならゾンビパニックに襲われた終末世界でもずっと生き残れそうです。
とはいえ、日本のホームセンターには銃火器などの武器は置いていないんだよ。ホームセンターにある武器になるもの、というとまず思いつくのは釘打ち機ですけれど、元人間のゾンビならともかく、ここはダンジョン最深部。ダンジョンと言えばダンジョンズ&ドラゴンズの昔より、その奥にはドラゴンが眠っているのが定番中の定番です。
釘打ち機の釘で死ぬドラゴンは流石にいないだろう。
だいたい、なんでも具材が揃っているホームセンターで、わざわざ直接攻撃する武器を調達しよう、というのはいささか発想が貧しいと言えるかも知れません。膨大にして多種多様な具材を眺めながらホームセンターの中をウロウロとするのは、ある種の幸福散歩であります。これらを使って、あれをしてみたい、これを作ってみたい、こういう工夫でこんな改造をしてみたい。というような妄想に励む人も珍しくないでしょうし、それを実際に行うことを趣味にしている人も珍しくないでしょう。
日曜大工なんてのはその最たるもの。
さて、ドラゴンを倒すのだって、ホームセンターに置いてある様々な商品、具材を使って、工夫して、色々と作ったり、ここは日本じゃないので法律も気にせず危険物取扱者試験を受けずとも、何を使っても構いません。規定された用途以外に使っても怒られません。
というわけで、創意工夫を駆使して、普通の人間ではどうやったって太刀打ちできない深層のボスたちを討伐というよりも駆逐しながら、上層を目指すマホとフィオナ。
この二人、いきなり最深部に転移してしまい生死の境を彷徨っていたフィオナの方は、普通に死に怯え精神的にもいっぱいいっぱいで、死を目前にしていた所を助けてくれたマホに精神的にも寄りかかってしまって、まあベッタベタになるんですけれど。ある意味、正常な心の動きとも言えましょう。
むしろ、マホの方がどうにも精神イッちゃってる気配あるんですよねえ。いきなり異世界にひとりで飛ばされてしまったのに、ある意味達観してしまっている。場合によっては生死に頓着すらしていない。死ねばその時それまでよ。或いは、フィオナだけ先に脱出してしまって自分一人だけこの深い迷宮の底に取り残されることになっても、それはそれで仕方ないよね、と諦観めいた思いまで抱いている。
なんか、元の現代であったのか？ と、思うほど。いや、特に環境がやばかったみたいな話は見当たらないので、生来こういう執着のない子だったのかもしれませんが。
ともあれ、幸いにして深層に取り残されることなく、転移ポータルに到達して上層に転移用の位置記憶を残してあったフィオナだけじゃなく、マホも一緒に外に出られたわけですが。
ここから本作のジャンルがまたガラッと変わるんですね。
外に出てみて、色々とこの世界のことがわかったわけですけれど。そもそも、ここのダンジョンってフィオナの実家である辺境の貴族が管理しているダンジョンだったわけです。フィオナ、領主の娘だったんですね。でも、今このダンジョンは閑古鳥が鳴いていて、随分と寂れてしまっている。
危険度が非常に高いわりに、リターンとなるものが少ない、ハイリスク・ローリターンなまあ探索する人への旨味が非常に少ないダンジョンだったんですね。
そりゃ寂れるわ。
しかし、このダンジョンが発見されたときに、フィオナのお父さんは大借金してダンジョン周りを整備して、迷宮都市としてこの領地を発展させようと計画してたのです。
大コケしてしまって、もう財政は火の車。ダンジョンの管理も果たせなくなりつつあり、国に管理権返上して貴族位も剥奪されてしまいそうな状態だったわけです。フィオナが冒険者としてダンジョン潜ってたもの、なんとか雀の涙でも借金を返し、ダンジョンをもり立てようという涙ぐましい行動だったんですね。それも、転移罠に掛かって万事休す。領主は愛娘をもダンジョンで喪い、もうあらゆる意味で立ち直れない事になりかけてた。マホが、ホームセンターとともにダンジョンに召喚されなければ……。
ちなみに、マホとホームセンターがダンジョン最深部に召喚されたのは、フィオナがダンジョン最深部にあるという願いを叶える宝玉に、助けを求める願いをかけたから、というのが真相みたいですね。
その願いは叶えられ、フィオナは自分の命だけではなく、滅びゆく領地をも救う救世主を呼び出すことになったのである。
というわけで、ダンジョン運営改革だーー、とばかりにやる気ほとばしらせるマホさんである。
本来、無限に商品を持ち出せるホームセンターって、自由すぎて商売や技術開発で領地とか発展させていく系の内政モノには、なかなかフィットしづらいオプションなんですよね。
あくまで、単体の小売店であり販売店なんで、商品の生産や開発などで財貨を生んで経済を発展させていくことが出来ない。販路を広げて、流通を伸ばしていくことも出来ない。商会として店を大きくしたり、各地に店舗を増やしていくことも出来ない。座やギルド的な元締めな組織と様々な交渉をしていくことも、この形態だと難しいでしょう。
ところが、ホームセンターをダンジョン運営に必要な資材の供給源とするなら、これメチャクチャ役立つんですよね。目下、まず自然に発生する宝箱に期待せず、自分達で宝箱を用意して中身もホームセンターの具材から選んで収納して、ダンジョン各部に配置して、潤沢なリターンによって冒険者たちを呼び寄せる、という方策を立てているのですが。
なるほど、宝箱の中身として具材を利用するなら、商品として売り出すのと違って諸々のしがらみやらなにやら、考えなくて済むんですよね。宝箱からの供出品なら、需要を供給が上回ることがなく、生産元から辿られて模倣されたりなんかもせず、商品をアップデートしていく必要もない。売り物だと、常に開発を続けてより良いものをアップデートし続けていかないといけないものが大変多いですからねえ。
商会なんかだと、より大規模な商会なんかが介入してきたり、行政や宗教勢力がいっちょ噛みさせろ、と絡んできたりと面倒なことがたくさんありますけれど、ダンジョンの運営に人が関わっていることは現状まったく知られていませんし、現地の行政組織である領主家はバックについている状態。フィオナの実家が管理している、という意味では前から公営ダンジョンだったわけですけれど、あくまでそれは探索にまつわるあれこれを管理し、ダンジョンから発生する被害に関しても責任を負っている、という状態で、ダンジョンそのものを運営しているワケじゃなかったのですけれど。
マホとフィオナによって最深部のダンジョンボスは討伐され、ダンジョンからモンスターが溢れる危険性は排除されたうえで、ダンジョン内外の運営管理がマホとフィオナたちによって行われるようになりつつある、というのが現在の状態なわけですね。
おもしろい。
ダンジョンマスターが主人公になって、ダンジョン内を自由に改造していく話は良くありますけれど。その場合、ダンジョンに侵入してくる探索者や冒険者、というのはコントロールがきかない搾取対象である場合が多いんですけれど、こっちは探索をサポート、案内、支援する冒険者ギルドや街の機構にも、領主家を通じて関わっているので、内も外もコントロール下に収まってるんですよね。
ローリスクハイリターンで安全に儲けられるダンジョンとして名を売り出し、人を集めてダンジョンから持ち出される具材に対して商人が集まり、領地に金が集まるようにする、これはテーマパーク方式というべきか。おもちゃ箱の鉱山というべきか。ホームセンターにいたペットショップのペットたちが、進化してマスコットキャラみたいになってるので、さらにテーマパーク味が増しますが。この場合、冒険者たちはお客様でもあるわけだ。ホームセンターがあるから元手がいらない、というのは最高ですよね。
こっから、マホとフィオナがどうやってダンジョンを発展させて盛り上げていくのか、ちょっと想像つかない面もあるので、なかなかに楽しみであります。
Ａｍａｚｏｎ
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