【たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること １】 嶋野 夕陽／ふわチーズ エンターブレイン
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
主人公にざまぁされるのは嫌だ、今世は天寿を全うしたい!
不幸な事件に巻き込まれ命を落とした青年は、
見知らぬ世界の伯爵子息、ルーサーに転生して新たな人生をはじめた。
ーーが、前世知識のせいで自らを破滅エンド確定の悪役貴族と大勘違い!
破滅回避に人間関係の改善や強くなることに奔走するが
それが思わぬ方向へと進むことに!
これ、原作のゲームとかがあるわけじゃなく（少なくとも現状では誰もこの世界に近似するゲームについて知らない）、主人公がうちの家って悪役貴族なんじゃね？と思い込んだのも、赤ん坊だった彼の目から見える範囲で得た情報からの判断、なんで将来実際に主人公ルーサーの家の伯爵家が悪役貴族として処断されたのかは定かではないんですよね。
しかし、実際問題仲の良いはずの両親の関係はすれ違いで交流が途切れつつあり、また父親は多忙や家族の問題でストレスが溜まって健康状態が悪化している上に、職務上でも面倒を抱えつつあって、確かにルーサーの、うち悪役貴族になっちゃうんじゃないの？という危惧も満更的外れとも思えなかったわけです。
不安と心配、両親が自分に向けてくる感情への怯えがたまりにたまった末に、魔法の師匠でもあったルドックス翁に相談した結果、まずはちゃんと両親と話してみるのがよい、という実に真っ当な助言をいただいたルーサーは、自分をいつも監視し睨んできて小言ばかり言ってくるので嫌われていると思い込んでいた母や、家にろくに帰ってこない父親に思い切って勇気を振り絞り、率直にぶつかってみたら、これがどうにもルーサーの誤解に過ぎず、二人ともとてもルーサーの事を愛してくれていたんですね。
これをきっかけに、ルーサーは人は見かけによらないし、ちゃんと話してみないとその人の事はわからないもんだし、自分の判断なんてのは予断や思い込みが入るもんであてになんかならないぞ、という知見を得るのである。
それどころか、ルーサーの誤解が生じるようになった両親の言動、その原因って実はルーサー当人だったんですよね。
この手の魔法有りの転生モノの定番として、赤ん坊の頃から魔力を使うことで魔力容量を増やしていく、という方式が存在します。多分に漏れず、本作の世界でもそのやり方は間違っていなくて、自身の魔力を使い切ることで容量を徐々に増やしていく事は出来たんですけれど、魔力を使い切ると意識が途切れ気絶してしまう……これもまあ、定番なんですけれど。
赤ん坊が、毎日寝るのとは明らかに違う、気絶している状態に気づいたら、普通病気を疑いますよね。一般家庭でも赤ん坊から目を離さないようにしているでしょうから、赤ん坊の異変があったら気づきます。それが、使用人たちもいて人手十分、赤ん坊を常時見守っている環境であるだろう貴族の家なら、まあ絶対気づくでしょう。
しかし、医者に見せても何の病気かさっぱりわからない。幸いにしてすくすくと成長はしていっているものの、齢を経てもまだ毎日気絶して意識を失う症状は変わらない、となると家族は心配するどころじゃないでしょう。
ルーサーの事を原因不明の病気に冒され、病弱で大人になれるかもわからないと思い込んだ両親が、必死に奔走した結果、色々と問題が起こってたわけです。父親がストレス貯めてたのも、家に帰ってこないのも、国の要職についてるのに息子のいる領地に在住して仕事の処理にだいぶ負荷がかかっていたのが大きな要因でしたし、母親も病気の正体を調べるために無理したために目を悪くしていたり、ルーサー以外に後継者を作るかどうかで、夫婦の仲がギクシャクしてしまったり、と。
……ほぼほぼ、問題の原因が自分を発端にしていた事に両親と話し合うことでようやく気づいてしまったルーサーは、七転八倒して後悔すると同時に両親や使用人たちが自分に向けてくれていた愛情の深さを理解して、そりゃもう家族愛に目覚めるわけですよ。
いや、元々家族の愛情に飢えていたからこそ、不安をつのらせていたのですから、ここで目覚めたというわけじゃないんですけどね。思う存分、家族大好きという思いを押し殺さずに表に出せるようになった、というべきか。
自分のやらかしを挽回すべく、奔走したルーサーのお陰でギクシャクしていた両親の仲も元通り、というか元々大変なおしどり夫婦だったんですねえ。ともかく、伯爵家の空気は劇的に好転していきます。
そうして内の問題が解決すると、現れてくるのが外からの介入者。ルーサー、非常に病弱と思われていたのでこれまで外との交流、一切絶たれてたんですね。
ルーサーも元気になってきたと認識されて、そうして真っ先に目合わせさせられたのが、両親同士で彼らが生まれる前から約束していた、という許婚イレインでありました。
ヒロインであります。普通なら。普通なら、ね？
４歳にして、ルーサーとほぼ同等の落ち着きとルーサー以上の知性を見せるもう一人の神童イレイン。
この子が実は、ルーサーと同じ転生者だった、というのはわりと珍しいけれどそこまで見ないわけじゃない展開だったんですけれど、そこからさらに一捻りして……「幼馴染で将来結婚するはずの許婚が、TS転生してきた元男だったんだけれど、どうしたらいい？」というタイトルのお話がはじまりましたよ！？
いや、まじでこれどうしたらいいんだ！？
向こうのイレイン嬢も、同じくこれどうしたらいいんだ？と途方に暮れているんですけれど。
TS転生にも色々あって、女に生まれ変わったんだから女として生きるし、男と付き合うのも最初は抵抗あったんだけれど、年齢重ねてくると男にドキドキするようになってきたわ、というタイプもあれば、頑強に性自認が男のままで、男と結婚するとか絶対無理！ というパターンもあるわけですが。
少なくとも、このイレイン嬢は今のところ中身完全に男なんですよね。そのわりに、ほぼ完璧に外面装えてるんですけれど。幼くも貴族令嬢として、淑女として完璧な振る舞いを習得しているのですけれど。
それでも、男と結婚するのは無理ッ、てなもんなんで将来は何とか文官みたいな職につく女性になれないか、と模索してるのですが、正体見抜いた同じ転生者としてこいつなら融通きかせてくれる、とルーサーに対して取り敢えずお前弾除けな？という感じで、婚約者としての関係を続けるよう迫ってくるわけですが……いやこれ、今はいいとしてこれ本当に将来どうするの？
一応、イレインが結婚を必要としない働く立場になれれば婚約解消という流れになるのかもしれませんけれど。このイレインちゃん、前世は男なだけじゃなくて、異世界転生とかTSとか全く知らないオタク知識のない、元ホストだったりするんですよね。いやー、なんも知らないのによく今まで貴族の令嬢として頑張ってこれたよなあ。しかも、彼女の親は子どもに対して強圧的で完璧である事を強いてくるモンスターな親なんで、彼女もそのお兄さん……この兄ちゃんもよく出来た人なんだ。兄妹二人ともかなり精神的な圧迫を受けてるんですよね。よくまあ正気でやってこれたよなあ。
よほど息が詰まる、精神的に余裕のない人生を送ってきたのか、すべてを知ってるルーサーには肩ひじはらない素の砕けた調子で接してきて、ストレス発散になってるみたいなんですよね。これはこれで親友同士という関係になってるのかもしれない。でも、本当に二人ともお互いを異性としては見ていなくて、ルーサーには別に新たなヒロインが出てくるんだろうか。それとも、イレイン嬢女に目覚めちゃうんだろうか。ルーサーの方も今は完全にイレインの事、女じゃなくて中身男と認識しているんでこっちはこっちでイレインに女を感じることがあるのかどうか。でも、成長してきたらわからんか。
ここからさらにルーサーとイレインは他の貴族の子息たちとの交流が生まれていくんですけれど。
精神年齢的にはもう随分と大人なルーサーとイレインにとっては、まだ５歳になるかならないかの幼児たちなんてのは、ほんと子ども以下のモンスターなわけですけれど。
これが実際に触れ合ってみると、仲良くなった子ら、王子含めてみんないい子なんですよ。最初は所詮幼児、と斜に構え、また高位貴族の子どもとか王族とか面倒くせえ、みたいに思って上っ面だけ付き合うつもり満々だったルーサーが、思わずほっこりして甲斐甲斐しく世話してしまうくらい、みんないい子なのであります。
ルーサーと手を繋いで一緒に歩く子供たちの様子は、微笑ましいばかりでほっこり、ほっこり。ルーサーもイレインも童心にかえる、じゃないですけれど、幼児たち相手に線を引かず自由な幼子たちの面倒見て懐かれながらも、同世代同士という風情があって、なんかみんな仲良し友達同士な感じの幼馴染、ってな様子で、ついつい大人目線でほっこりほっこりしてしまいました。
家のしがらみとか関係なく、成長してもこの子らはみんな仲良く、このままで居てほしいなあ。若干一名、既にヤンデレの症状が出てる子がいますけれど、みな歪まずに素直にまっすぐ大きくなってほしいものです。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
