徒然雑記 : バスタード・ソードマン５　★★★★☆

【バスタード・ソードマン５】　ジェームズ・リッチマン／マツセダイチエンターブレイン

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戦争勃発!?

夏が終わり肌寒さが増してきた九月のある日、隣国サングレールが宣戦布告をしたという知らせが届いた。サングレール軍を迎え撃つため、レゴールに所属するギルドマンたちにも召集命令が下る。故郷を守り戦果を挙げようと意気込む者が多い中、「いのちだいじに」をモットーとするモングレルは新人たちと共に補給拠点の兵站部門に配属され、仲間を支援する任務を任される。一方、先日の遠征で新スキルを獲得しシルバーランクに昇格したライナは“アルテミス”の仲間たちと共に前線へと派遣され、初めての対人戦闘に挑むことに――!?

ああ、スローライフを旨とする本作においても、遂に本格的な隣国との戦争が始まってしまった！
……と、思ったら終わったーー！
終わった。
一瞬で終わった。

我らがモングレルさんは、後方支援の輸送任務に終始していて前線の戦いの場には一切出ず。
まあそもそも彼がずっとブロンズに拘っているのも、シルバー以上のギルドマンには招集と前線での戦闘が義務化されていて、ブロンズ以下は後方支援に回されるから、前線に出たくないモングレルさんとしては何としてでもブロンズにしがみついているわけで。目論見通り予定通りの配置ではあったんですよね。
敵国であるサングレールとのハーフであるモングレルさんは、以前よほど戦場で味方から危険な目に合わされたみたいで、今回も後方支援任務ながらかなりピリピリ警戒してました。立ち回りがいつも以上に慎重で、目をつけられないようにしてましたからねえ。
やっぱり、今拠点にしてるレゴールではギルドマンだけじゃなくて一般市民相手でも知人友人も多くて、交友関係広いもんだからほとんど差別らしい差別を受けないようになってますけれど、他のところに行くと不用意な事は出来ないんだろうなあ、というのがよくわかります。
レゴール、過ごしやすいんだろうなあ、これ。
とはいえ、同じ部隊になったギルドマンの若者たち相手には、元々のレゴールでの知り合いが一人いたとはいえ、最初サングレールとのハーフということで胡乱な目で見られてたのに、すぐに軽快なトークで打ち解けてしまってたあたり、モングレルさんコミュ力高いよなあ。

そんな戦争編では、モングレルさんひたすら荷物運びである。あっちで積み込みを手伝い、こっちで力持ちを発揮して、と力仕事は無双だなホント。
ライナたちアルテミスの面々が前線の砦に配置されたのとは大違いの、実際の戦闘とは遠い場所に置かれて……と、思ってたら最後に輸送路を破壊しに来たサングレールの異端審問官と聖女のコンビと遭遇、という特大のイベントが。
敵もキャラ濃いな！！　完全にこれ、芸人のコンビである。舞台でもないのに、ひたすら漫才してたぞ、この二人。
サングレールって、土地が痩せていて名産もなく非常に貧しい国で宗教が主体というなかなか息苦しそうな国なんだけれど、不思議なことに芸事に関してはえらく発展しているみたいで、音楽なんかもこっちの国とは格段の差があると言われるほど盛んなんだそうで、いやそれにしてもこんな芸人みたいな特務はサングレールでも変人あつかいされてたけどｗ

まあ、本作では戦争やら戦闘やらというのは全く主体でもなんでもないので、思いの外サクっと終わってしまいました。いや、ほんとにあれだけ戦争が始まる前は物価が上がり始めたり、誰もが戦争が近いという空気を感じ取っていた、みたいな穏やかな中にもピリッとした、来る戦いに備えて、みたいな機運が漂ってたのに。だいたいこの１冊で３０話強の話が詰め込まれてたんですけれど、戦争編はその中の６話だけでしたからね。しかも、１話はライナたちの方の話でしたし。モングレルさんが従軍した話は実質５話。さらにその中にはなんかわけわからんうちに終わったぞー、というなんか戦争終結したらしい、という全然当事者感のない感じの話でしたからねえ。
でも、実際の戦争の様子、戦況やらどういう経緯で戦争が終わったのか、なにもわからないという一兵卒の感覚が伝わってくる戦争編でもありましたねえ。比較的小規模でしかも短期間で終わった戦いでしたけれど、前線に出たギルドマンの中には死人も出ていて、その中にはレゴールでの知り合いもいて、という感じのしんみりした空気感も有りましたし。
戦争なんてクソだけれども、実際に戦いにいった戦士たちの武功、死んでしまったものたちの名誉は讃えられるべきだ、というモングレルさんが繰り返し若い連中に語っている様子には感じ入るものがありました。
こういうところが年季入ったオッサン風味が色濃く漂っている所でもあるんですけどね。
しかし、終わって帰ってきたと思ったら、報奨金でパーッと遊ぶぜ酒飲むぜ、と盛り上がってるのがギルドマンたちらしいというか、直後の話で性癖の暴露大会を男どもがやっているのを見て、ああバスタード・ソードマンらしい風景だ、と薄笑いが浮かんできてしまいました。

さても、表紙絵は今回は魔法使いのサリーが率いる魔法使い主体のパーティー「若木の杖」ですね。一番絡みのある「アルテミス」は個別で表紙に出てきていたので、パーティー丸々１チームで表紙絵飾っているのは若木の杖が初めて。まあ他のモングレルさんが親しくしているパーティーは、みんな男臭いし人数多いしで表紙飾るような花がないので、まあそうでしょうね、という感じなんですけれど。
ディックバルトさんが表紙絵飾った日には、絵面にインパクトありすぎてちょっと事故になりかねないですしｗ
今回の挿絵のディックバルトさんも相当に事故案件だった気がするぞ。いや、あの人キャラが強烈すぎるってｗ
キャラが突拍子もない、という意味では若木の杖のサリーも相当に変人ではあるんですが。変人という意味ではずば抜けて変人だよな、この女性。これで僕っ子で未亡人の子持ち、というんだから属性が事故渋滞を起こしてる。モングレルさんも首を傾げてますけれど、よくこれで母一人子一人で子育て出来たなあ。娘のモモ、この子もちょっと変わっているけれど母親に比べると常識人でよくこれだけちゃんと育ったよなあ、とこれはこれで大いなる謎である。
なんか、パーティー総出で子育てしてたという話もありますけれど。むしろ、サリーも一緒に世話されてた側だろ、これ。
Ｗｅｂ連載版ではあまり描かれていなかった若木の杖の他のメンバーについても、結構詳しく加筆されていて、特にこのメカクレの内気そうというか陰気そうな女キャラのバレンシアが、完全に見た目の装い間違ってるだろ、というキャラしてて、若木の杖みんなキャラ濃いな！　
アルテミスがだいぶ普通に見えてくるｗ

ちなみにキャラ濃いのは別にギルドマンだけじゃなくて、普通に一般市民もやたら濃いキャラの人とか頻繁に出てくるからねえ、この作品。
モングレルさんが親しくしている、というかお店プロデュースしたり、今回調理器具を開発してプレゼントしたり、とだいぶ親交が深い菓子職人のケンさんとか、何をどうこじらせたらそんな尊大な人間になれるのか、という人ですからねえ、菓子職人なのに。

個人的には人が寄り付かない冬の森の奥でのソロキャンプの話が好きで、というかここで遭遇することになる老オーガとの会話は通じないんだけれど、お互い警戒しあいながらもなんとなくコミュニケーションを取ってしまう話が妙に面白くってねえ。老オーガの妙に図々しい、馴れ馴れしいのとは違うズケズケした大胆さ、それでモングレルさんが作ってた風呂に勝手に入っちゃう所がなんか好きでねえ。
魔物には容赦しないモングレルさんが、このオーガにだけは仕方ないなあ、といろいろと許しちゃうのもわかるんですよ。変に愛嬌があるんで、味のあるキャラなんですよねえ。