【Tier1姉妹 ２．美少女プロゲーマーは僕なしでは戦えない】 紙城境介／成海七海 角川スニーカー文庫
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「織見――わたしのメンタルコーチになってよ」恋もゲームも、最高効率!?
「君子くん、君はハーレムエンドを目指せ!」「……は?」
織見はあの写真が示す“7年前のこと”を解明するため、菊莉の助言で四姉妹にもっと興味を持つところから始めることに。
FPSゲームの世界大会中、周囲の期待をプレッシャーに感じていた三女・梅瑠から、織見はメンタルコーチを頼まれ――
「手、握って。……あっためて」
コーチってそんなことまで!?
熱戦を制し予選を突破した梅瑠の前に立ちはだかるのは、かつての親友ハリン。
梅瑠の過去と壁、自分に向けられる好意に気づいた織見は、彼女に写真のことを打ち明け……
「大会に勝ったら、全部言う」
ふたりにとって、負けられない戦いが始まる!
１巻のミステリー調の犯人探しの末に、織見に過去の情報。かつて四姉妹と織見が出会っていた過去を知っている元カノを名乗る女「桜音」。その正体が、三女でプロゲーマーの梅瑠だと判明した。
１巻ではその活動状況が、部屋に籠もってゲームしているせいもあって一番不明だった梅瑠。そのミステリアスさも相まって、正体が判明したところでどういうアプローチを仕掛けてくるか、と思ってたら。
その梅瑠を主人公にしたFPSゲームの世界大会が始まってしまったんだが！？
１巻とか様相が一変して、梅瑠がみんなの期待というプレッシャーに晒されながら、かつて彼女がゲームにのめり込んだキッカケとなった韓国の親友がライバルとして現れて、という王道の展開を迎えつつ、挫けそうになった時に織見に支えてもらいながら、これまでの自分の殻を打ち破ってついに栄冠を掴むまで、という完全に梅瑠が主役主人公メインの燃えるゲームプレイヤーもの、という話になってるんですよねえ。
このへんは、意図的に自由にやりたいことを表現していく、という方針というか意向みたいで、いやほんとにフリーダムだな、と。確かに、これラブコメものとしてはバランスを著しく崩しているし、他の三姉妹完全にそっちのけ状態になってるし、拒否感起こす読み手もこれは少なからずいるだろうなあ、という構成だとは思う。
まあでも、こういうのは作者の人の思う通りにやったらいいんだよ、と思ってる側の人間なんで成功しようが失敗だろうが賛否分かれようが、やったったらいいんですよ。
さても、本来の主人公である織見くんも、実はだいぶ置いてけぼりである。そもそも、彼は苦学生に加えてまあいろいろあったんで、とかく若者学生が嗜むような娯楽のたぐいには疎い。ゲームなんてさっぱりだ。知識もない、理解もない。興味も関心もなかったんだが、しかし梅瑠が世界大会に挑むということで無関心のままということもできず、自然と興味を抱き彼女のゲームプレイの配信を見るようになり、やがて手に汗握って観戦していく事になる。
冒頭で長女に、キミはそもそも姉妹全員に対して無関心すぎる、と直言を食らって実際そのとおりだと納得してしまっていたのもあるんだろうけれど。
……いや待て、ゲームの配信見ながら普通に勉強も並行して行えるって、どんな頭してるんだ？ マルチタスクにも程があるぞ！？ バケモンか、こいつ。
ともあれ、プレッシャーに晒されて不安定になりかけていた梅瑠の弱音に付き合い、フォローを約束したことでメンタルコーチになってくれるよう頼まれた織見なんだが、ここで元カノとして何かしらの積極的なアプローチを仕掛けてくるのか、と思ったのですが……。
いやいや、世界大会中なので試合が大事、試合に集中、とばかりに梅瑠はそのまま大会の方に、同じチームの仲間二人とともに没頭していくんですね。
さらに、梅瑠がゲームをはじめるきっかけになった。梅瑠の人生を照らす光へと導いてくれた韓国時代の親友が、ライバルとして最強のチームを率いて梅瑠たちの前に立ちふさがってくる、という圧倒的王道展開へと進んでいくのである。
光と陽の化身みたいな親友ハリンに対して、陰の者としての劣等感を大いに刺激され、またチームの仲間たち、同志であり戦友である仲間たちと、お互い信頼しあいながらさらにもう一歩、踏み込んだ先に進むために必要な、勇気。あるいは自信。そういうものを見つけるために足掻く梅瑠。
でも、織見くんにメンタルコーチを頼みながらも、梅瑠ってそっちに寄りかからないんですよ。あくまで織見は部外者で、ゲームのことは仲間同士で話し合い、ぶつかり合って乗り越えようとしていく。メンタルも不安定になる事もあるけれど、基本自立し続けていて自分で、自分達で解決しようとしてほぼ実際に乗り越えていく。
プレイヤーとして、選手として、頑張って努力して壁にぶつかって乗り越えて。どうしようもない行き止まりに動けなくなって、それでも壁をぶち破って。そういう頑張りやそこから得られる成果、実感や情熱、感動、感情の高ぶりも魂の震えも、こればっかりは一緒に戦ってきた仲間たちと、ライバルたちだけに許された領域なんですよ。
ここに、部外者が訳知り顔で踏み込めるわけがないし、踏み込んではいけない領域だ。
そういう意味では、織見もこの話においてはずっと置いてけぼり。梅瑠とその二人の仲間たちの間に、参謀みたいな形で割って入るわけでもなく、彼はスマホを片手に配信動画を時間を忘れて見守り、姉妹たちの応援動画を黙って見続け。家事代行としてあれこれ世話をしたり、メンタルコーチとして梅瑠の愚痴や過去がたりに付き合ってその心の安定に寄与したりもしたけれど、それでも彼はずっと舞台にあがった梅瑠たちを、観客席から見守り続ける部外者で有り続けたわけだ。
彼は、梅瑠の努力や頑張りに乗っかろうとはしなかった。彼女の苦悩や足掻きに簡単に共感して同調しようとしなかった。それらは、彼女たちだけのものであり、彼女たちだけが掴もうとしているものだ。
そこに訳知り顔で知ったふうな口を利く、そんな便乗は許されるはずがなく、織見自身もそんなのはおこがましい、と踏み込もうとはしなかった。
でも、最初のような無関心とは程遠かったんですよね。彼女たちの熱い戦いに、夢中になって没頭していた。それは、正しく外野から応援していた、と言って良い。彼女たちの頑張りも苦悩も実感は出来ないけれど、その一部始終をずっと外から見守っていた。彼女たちの努力が、奮起が、決意が、報われることを願っていた。
そういう、あくまで外野だけれど、でもずっと見ていた、無責任なファンじゃなく身内として応援していた。そういう立場から、心折れかけていた梅瑠に外から見ていたからこそ、の部外者だからこそ、手助けできない、でもずっと見ていたから梅瑠がこれを乗り越えられる、と信じる事ができる。そんな立場から送った織見の言葉、助言、アドバイス。
あれは、なんか凄くぐっとくるものがありました。部外者だからこそ言える言葉、贈れる想い。
ここのハリンの横顔の挿絵もいいんですよねえ。オーダーに十全応えた、素晴らしい絶妙の表情が描かれていたと思います。
全体通してみても、熱い展開、プレイヤーの情熱がほとばしるような熱のこもったゲームものというお話でしたけれど、織見くんが常に外側に居た、という立ち位置も結構重要だった気がします。
彼のポディションって、他の姉妹たちの話になっても結局彼女たちの仕事には踏み込むことは出来ないと思うんですよね。彼女たちが自分で築き上げた世界は彼女たちだけのもので、彼はそれに乗っかることは出来ない。でも、それでも人と人は恋愛をすることが出来る。心つながることが出来る。
父親の所業から、女性と付き合うことにもう生理的と言って良い拒絶感を抱いている織見くんにとって、この距離感というのは先々に至っても重要だと思うんだよなあ。
とか言ってる間に、一巻でのラストの結論が盛大にひっくり返されたんですけど！？
こういうケースでは、それこそラブコメからの部外者になってしまいそうなヒロインが、仮とはいえ交際状態になった、というか織見くんを捕らえたことで謎の核ではなかったものの、先行逃げ切りのかなり良いポジションにつけたことは間違いなく、梅瑠やはり侮れず恐るべし、といった具合ですね、これ。
Ａｍａｚｏｎ
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