【悪役令嬢、宇宙を駆ける 二度目の人生では宇宙艦隊を率いて星間戦争を勝利に導きます】  甘味亭 太丸/ヨシモト ドラゴンノベルス

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人類敗北を招いた艦隊提督が死に戻り――最強の提督令嬢誕生!

「異星人に勝つ? 地球へ生還する? 全部、やってやろうじゃない!」

異星人との戦争に敗北した宇宙艦隊提督のリリアンは、十八歳の少女に戻っていた。
前回は己の失態により負けた。次は勝って凄惨な未来を変える――!!

そんな彼女の目前に迫るのは、士官学校の演習中に起こる宇宙戦艦の漂流と、異星人からの襲撃(ファーストコンタクト)。
リリアンは培った戦術眼と未来の知識で実戦経験のない生徒をまとめ上げ、たった一隻の戦艦で異星人艦隊に立ち向かう。
後に奇跡と呼ばれる活躍は、人類存続の未来へと繋がっていく――。

第9回カクヨムWeb小説コンテスト カクヨムプロ作家部門 特別賞受賞作!


いやあ面白い! 面白いですねえ!
Web版の連載は既読。改めて書籍版読んでも全然飽きさせられずにグイグイと引き込まれる。
これ、いきなり壮大な宇宙戦争から始めるのではなくて、まず足場固めというのか、主要な登場人物となるリリアンの士官学校の学友たち。彼らとの演習での宇宙戦艦ティベリウスのワープ事故……実際は事故ではなく、仕組まれた謀略だったのですがこれに関しては人生二周目のリリアンも真実がわからず、スパイの存在を疑いながらも事故の発生を見逃さざるを得なくなるのですが……。
ともあれ、このワープ事故による人類未踏の宇宙に遭難してしまった上に、そこで未知の宇宙人の艦船との交戦になってしまい、異星人艦隊の追撃を受けながら学生たちだけで戦艦を動かし、長駆人類の勢力圏まで戻って来る、というこれだけで一本の作品が書けそうな物語が展開されるわけです。
さながら往年の名作【無限のリヴァイアス】を想起される舞台設定なんですね。まあ流石にリヴァイアスみたいに艦内で内乱が勃発しまくり人間関係が拗れに拗れる、という事はないのですけれど、どうもリリアン一周目では相当にやらかしまくったようで、前史ではかなりギスギスした疑心暗鬼と不信に塗れた人間関係になってしまったみたいですけれど。
しかし、二周目の今回はリリアンは皆のフォローとサポートに徹していて、足を引っ張るのではなく逆に優秀な人材の揃った同期たちを導き、後押しするように動くので、幾つかのトラブルはあったものの驚くほど一致団結して事に当たれるようになります。また、最初は整備兵だったステラ・ドリアード。のちに地球帝国軍の元帥となり軍総司令官となる彼女が頭角を現す、そのきっかけとなってしまい、前史よりもステラの覚醒と周囲への認知が進む後押しになってしまうのですが。
ともあれ、この事件をきっかけにこの若獅子の世代は共に手を取り合って命をかけた戦いをくぐり抜けた、戦友という名の鉄の結束を手に入れ、この戦艦ティベリウス転移事件によって存在を知る事になった異星人艦隊との戦いを、この若獅子の世代は中心となってくぐり抜けていくことになります。
そのメインメンバーたちの結束の芽生えを描くにしても、それぞれのキャラの紹介や掘り下げ、プライベートの事情の入口を見せる事や人間関係の始まり、お互いに対しての感情などに関しても、遭難事故という極限状態や、混乱の中での初めての戦いなど緊迫感あるシチュエーションもあって、一人ひとりに細やかに丁寧にスポットを当てることが叶ってる。
これが最初から艦隊戦からはじまったり、高い視点からの戦争を見る形からはじまってしまうと、なかなか個別の関係にスポットが当たりにくいですからね。それが、この戦艦に同期生全員詰め込んだことで、多人数の人間関係が一気に醸成されて、このあとの物語の大きな土台にもなっている。
また、こういう子供たちだけで遭難して、戦艦を操って危機を必死にくぐり抜けていく、というシチュエーション自体がもうワクワクするじゃないですか。一人ひとりの優秀な部分、弱点となる部分、個性や性格の見せ方、複雑に交錯していく感情など、見応えあるシーンが否応なく満載になる。
掴みとしては最高のシチュエーションです。さらに、この事件が終わった後は戦艦という閉鎖された舞台から、各々がそれぞれの戦場に飛び出していき、しかしここで得た結束、友情を忘れないまま、より大きな舞台でそれぞれの立場、それぞれの武器を以て一致団結して協力していくことになる。
盛り上がるでしょう、これ。

改めて主人公のリリアンに注目すると、彼女は一周目では典型的なおろかで自分の欲望を押さえきれない親の権力に便乗してワガママに振る舞い、他人を見下すろくでもない悪役令嬢でした。その肥大化した自己は、最終的に地球帝国の大敗北を招く原因となり、彼女の愚行によって帝国の優秀な将兵は軒並み大敗北のなかで戦死し、同期生たちも大半がその得難い才能を開花させぬまま宇宙の塵となってしまいます。
リリアンによって追い落とされ、底辺から地道に武功をあげて這い上がってきていたステラは、そこで友人や最愛の人を失い、人格が変わってしまい冷酷な独裁者として劣勢の地球帝国をかろうじて滅亡から守る悪魔にして守護神という立場になっていきます。そして、リリアンは辺境の掃き溜めのようなパトロール艦隊の司令に左遷され、そこで60年近くを艦上で過ごし、最後は異星人艦隊の大群に少数で立ち向かうはめになり、何の抗いも出来ずに砲火に消し飛ばされてその無為な人生を終えることになりました。

この地球帝国を破滅寸前に追いやった自分のやらかしについて、さすがのリリアンも他責には出来ず、老婆になるまでずっと後悔し続けることになり、それが2周目の人生を迎えた際にも相当に堪えていたのか、とにかく出しゃばらない、余計なことはしない。自分が余計なことさえしなければ……と考えるようになるのですが。
同時に長い年月に渡って対外戦争というものを経験してこなかった地球帝国は、完全に平和ボケしていて、かつての自分のような愚行を起こしかねない人間は実は珍しくない、という事に気づき、また前史では自分が足を引っ張りつつも無事にくぐり抜けたトラブルも、果たして同じように突破できる保証はなく、そもそも前史と同じ展開になるとは限らない、という事にも気がついて、完全に事から遠ざかるのではなく、何とか周りの優秀な人達をフォロー出来る範囲ではフォローして、危地をくぐり抜けようとするわけですが。
そんな控え目だけれど他人によく目を配って気を回し、てきぱきとその時に必要な対応を適切に取ることができるリリアンを、みんな冷静沈着でいざというとき頼りになる人間だ、と見るようになるのだから面白い。
前史では嫉妬から嫌がらせなど酷い扱いをしていたステラからも、妙に懐かれてしまうんですね。このステラという子がまた天才肌で、整備兵という立場を忘れて暴走しガチなものだから、リリアンもついついフォローに周ってしまって余計にこの人、自分のことをわかってくれる人だ、と懐かれてしまう循環になっているのですが。
リリアン、あくまで出しゃばらない、前に出ない、というのは心がけているので、決してみんなを先頭で引っ張って導いていく、というポディションでは有りません。艦長役、みんなのリーダー役としてはそれにふさわしいヴェルトール・ガンデマンというステラの想い人がいますし、戦闘に関してはガチの天才であるステラがいる。艦橋要員を含めたメインメンバーもみな優秀で、次代の軍を担う俊英が揃っている。ここでリリアンが指名されたメインオペレーターという担当は、なかなか妙理なポジションだと思うんですよねえ。皆の中継役であり、イレギュラーであるステラと艦の首脳部との鎹にもなれるし、前史から知る事実を行動に反映できるし、助言も与えられる。

しかし、同時に前史では半世紀以上過ぎても、このティベリウスワープ事故の真相が明らかにならなかったように、わかっていない事実も多くて、リリアンが前世の記憶を元に先手をうって動けるというシチュは実はあんまり多くはありません。でもだからこそ、リリアンを含めたメインメンバーの、リリアンに脚を引っ張られず、その才覚をむしろ後押しされたメンバーの優秀さが際立ってくるのですけれど。

面白いと言えば、リリアンという人を形作っている成分も面白い。
この人、確かに後悔と自責に塗れて長い長い人生を辺境の掃き溜めで無為に過ごしてきたわけですけれど、その長い年月で余計な我欲や虚栄を剥がされていった結果、残ったものは……艦を動かすのが好き、艦を指揮するのが好き、宇宙で艦に乗るのが好き、というものすごくシンプルで根源に近い「好き」という想いだったわけですよ。
普通なら、左遷された先で否応なく艦に乗せられ続け降りる事も叶わず、送られてくる麾下の軍人たちは皆何かをやらかして追放されてきたようなろくでもない連中ばかり。資材も人材も制限され、何一つ自由にならない、宇宙の監獄。不遇の極みをかこっていたわけである。
普通なら、嫌になるだろう。もう二度と船になんて乗りたくない、と思ってしまうんじゃなかろうか。
でも彼女は、リリアンは逆に身にまとう全てを剥がされ削り落とされていった結果、結晶のようにして艦が好きだ、という気持ちが残っていった。
それは2周目の人生に突入してしまった際も変わらず、その原動力は後悔や自分の愚かさで破滅させてしまった人たちへの罪悪感といったものも勿論あるし、それを大変気を使って振る舞ってはいますけれど、でも後ろ向きな想い、贖罪や今度こそ成功したい、という欲求でもない。
純粋に「艦が好き」という想いが、彼女の一番奥底で彼女を動かす原動力になっている。
それが、リリアンという少女の控えめで落ち着いて周りを支える、という後方に立つ立ち回りの中で一抹の熱となってただ後ろから皆を押しているだけじゃない、積極性となって、リリアンの魅力や輝きになっている気がするんですよね。
ステラって、そういう一面にどこか無意識に気がついているような気がします。ただの理解者や助けてくれる友人というだけじゃない、自分と同じものだという同志感や共感があるように感じるんだよなあ。
ステラも相当、内なる欲求、好きという気持ちを押さえきれずに動き回っている子なので。

戦艦ティベリウスのワープ事故からの遭難を、なんとか自力でくぐり抜け、異星人艦隊の追撃をみんなの創意工夫で退けて、彼らは前人未到の遠方から奇跡の生還を果たします。平和ボケした帝国を震撼させる情報を携えて。
そして、やがてはじまるだろう異星人との星間戦争に向けて、帝国全土が蠢き出す中、彼ら若獅子たちもまたその中に組み込まれていきます。しかし、この遭難事件を通じて育まれた絆は、そのまま消え去ることなく、彼らを導く灯火になっていく。これはリリアンだけが主人公ではない、この世代まるごとひっくるめて主役となる宇宙戦争、スペースオペラのはじまり、導入なんですね。
未だ未知なる異星人の正体、そして帝国内に浸透している謎の勢力。さまざまな謎がありつつ、動き出した物語にワクワクが止まりません。いや実際、ここから更に加速して面白くなっていくんですよねえ。
先々が楽しみで仕方ない。これ、書籍化にあたってのイラスト、戦艦ティベリウスなどのメカデザインがまた素晴らしくて、格好良いんですよ。これ好きだわあ。完全にツボ。好みどストライク。
登場人物の宇宙服な軍服も実に格好良いですし。いやでも、リリアンがツインテお嬢様とは想像していなかった。もっと、ゴージャスな見るからに悪役令嬢っぽいドリルTypeかと思っていたので。ステラももっと子犬系かと思ったら、結構意外で黒髪おかっぱと。これ、闇落ちバージョンは確かに映えそう。いやでも、小動物的な顔してるのも似合ってる。可愛い。