【マスケットガールズ！４〜転生参謀と戦列乙女たち〜】 漂月／sakiyamama PASH！ブックス
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第六特務旅団に不足していた将校二名が第五師団からやってきた。
痩せた中年男性と金髪サラサラの美少女⁉︎
クセの強い二人に対して、クロムベルツは向かい合う。
「俺は貴官が何をしてきたかなど興味はない。
興味があるのは、これから何をしてくれるかだ」
かつての相棒だった“老人”も第六特務旅団へと配属になって、
帝都ロッツメル奪還作戦がいよいよ始まる！
はー、面白かった。この４巻にて完結でありました。
目下の敵であったリトレイユ公ミンシアナがサクッと退場してしまいましたからね。まあ戦記物としても、誰か一個人を相手に戦うというタイプの物語ではありませんでしたからね。
我らが上官アルツァー閣下と、行き場のない女性たちの居場所となった第六特務旅団を守るというのがユイナーの目的でありました。最初は戦場で生き残る術を叩き込むことで彼女達を守ろうとし、実際にその練度によって彼女達自身を守ることになりましたし、前線指揮の巧みさで敵を退けてきたユイナーでしたけれど、第六特務旅団や自分自身が政争の駒とされ使い潰されそうになってきたことで、作戦参謀、隊の内務官としてだけではなく、謀略家としての辣腕も振るうことで、アルツァー閣下の片腕、腹心、股肱の臣となってアルツァー閣下をあらゆる悪意、敵意から守ってきたのでした。
ミンシアナを排除しても、彼女がもたらした帝国内外の大混乱は収まるどころか混沌を極めていく中で、どうやって自分達が生き残っていくか。
結局のところ、一番手っ取り早いのはこの混乱を収めてしまうことだったんですよね。とはいえ、ユイナー自身は謀略の類は色々とやらかせますけれど、グランドデザインを描いてそれを実現させるような立ち回りが出来るタイプじゃない、と少なくとも当人は自認しています。周りの人たちは敵味方問わず、死神参謀の手のひらの上か、なんて思い込んじゃったりもしていますけれど、何もかも想定通り思惑通りですな、という澄ました顔をしながら、わりとなにそれ知らんのですけど！？ ってなってるんですよね、ユイナー氏。この男の肝の太いところはそういう予想もしない展開が訪れても、知らんけど都合が良いなら便乗してしまえ、と表には一切動揺戸惑いを見せないまま、出来得る利益を掻っ払うところなのでしょう。だから、みんなコイツが仕組んだんじゃないか、と疑うんじゃないですか。
アルツァー閣下もけっこうそんなふうに思ってますしね。むしろ、政治的な寝技は閣下の方が得意なのに。
まあ、そんなユイナーに全幅の信頼を置いて命も部隊の命運も何もかもを預けきった閣下の器のデカさこそを褒め称えるべきなのでしょうけれど。ユイナーはずっと絶賛しっぱなしでしたし。惚れ込みすぎて、異性としても惚れ込んでしまいましたし。
最初から好感度かなり高かったはずなんだけれど、一時から明らかにアルツァー閣下への好感度メーター振り切りましたよね。おまえ、ちょっと閣下のこと好きすぎだろ、というような独り言な内心の呟きが終盤行くほど増える増える。
身分差とかに臆することなく、平然とグイグイ押し出したこの男、凄えなあと感心しましたよ。惚れっぷりならユイナーどころじゃなかったアルツァー閣下ですけれど、こっちはわりと受け身の人なのでユイナーの好意に押されっぱなしで、あっぷあっぷと溺れかかって毎度顔真っ赤にしていたのは可愛い限りでありました。
きみたち、イチャイチャしすぎである。
イチャイチャが高じ過ぎて、この二人ついにイチャイチャしながら敵塹壕線に向けてお散歩デート突撃まで開始してしまったくらいですからねえ。
敵兵が待ち構える城塞都市とその前に気づかれた塹壕戦。敵国の兵たちが詰めるデッドゾーンに向けて、味方の軍勢を置き去りにしてたった二人での突撃……突撃といっても走るでもなく徒歩で二人、砲弾が降り注ぎ、銃弾が飛んでくる中を、軍旗を掲げながらもてくてく歩きながらイチャイチャ甘酸っぱいやり取りをしながら敵陣に向けていく二人。敵味方の一心の注目を浴びながら、しかし弾もかすらず砲弾もまるで彼らを避けるように当たらない。
このたった二人の突撃の絵面は、戦記物のジャンルの中でも屈指の名場面になるんじゃないでしょうか。少なくとも、自分はこのシーン、ちょっともう劇的すぎて忘れられないです。
これ、アルツァー少将、この時帝都を攻める軍の総司令官だったんですよね。総司令官とその参謀が真っ先に先陣切って敵陣に突っ込んでいく、というもうこの時代では過去の異物となりつつある指揮官先頭の理念を体現しすぎるにも程がある二人の行動を、味方の軍勢が黙ってみているはずがなく。
これ、ちゃんと正史に残るんですよね。敵味方問わず記録が残っていたみたいなので。多分、公式の戦史から一兵卒の手記や手紙と様々な記録が残ってたんだろうなあ。
映画なんかでは一番映えるシーンでしょう。実際、この物語のクライマックスにもなっていましたし。未来では、映画の定番シーンになってたんじゃないだろうか。今年も本能寺が燃えている、とか今年も関ケ原にときの声が響き渡る、今年も吉良邸に討ち入りが、みたいな感じで。
未来では、ユイナーのおじいちゃん、という事になった大クロムベルツについてはどう語られているんでしょうね。裏方の存在だった彼も、最後にユイナーによって正規の軍人として引き立てられ、帝都奪還戦で多大な武功をあげたわけですけれど、ある意味いきなり降って湧いたように現れた特殊部隊とその長ですからね。色々と歴史の謎の存在として持ち上げられるんじゃないでしょうか。
この人、大クロムベルツも主人公の身内であるお爺ちゃんキャラとしてはかなり特殊でした。殆どの祖父役ってのは、主人公の庇護役であり教導者であるもんなんだけれど、彼とユイナーに関しては最初から対等であり、自立した存在同士であり、相棒でありました。爺さんの薫陶は大いにユイナーに刻みつけられましたけれど、決して彼の存在がユイナーを形作ったというわけではありませんでしたからね。
それでも、お互いに親愛があり、面白味を感じていて、何よりどういう形であれお互いに無二の家族でもあった。普通の人たちの家族観とはだいぶ違ったかもしれませんけれど。
でも、最終的に文句なしの家族、祖父と孫になりましたもんね。特殊でしたけれど。
ユイナーにとっては、大クロムベルツとアルツァー、二人の家族を得る話だったのかもしれません。
なんかエピローグでいきなり行方不明の皇帝のかわりに、女帝サリア陛下が即位してらっしゃったのには面食らいましたけど。ああ、番外編は書籍化されないんだ。だもんで、皇太子がいたはずなのにいきなり女帝が降って湧いてるんだ。
サリア陛下に関しては、まだだいぶ悶着あるんですけれど、そっちは本にならないのかあ。面白いんだけどなあ。
さらに、書き下ろしではこれ何百年かあとになるんですかね。この描かれていた時代が遠い昔、もう歴史になった現代に、生まれ変わって女子学生をやってるミンシアナのお話が描かれます。作中で一番の悪者であり、同時に一番救われない存在だった彼女を、こうして平和で争いがなく家族からも愛される環境で、穏やかに……なんか前世の自分が悪者コンテンツのフリー素材になっててやりたい放題されているのを勘弁してください、でも自業自得です反省しています、と顔を覆って呻く羽目にはなっているものの、穏やかに楽しく幸せに過ごしている様子を最後の描いてくれるのは、救いがあって読後感が爽やかでした。ああよかったなあ、で終われる作品、いいですよね。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
