【東京レイヴンズ １７．REsiSTANCE】あざの耕平／すみ兵 富士見ファンタジア文庫
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かつてない霊災のなか、当代最強の「炎魔」が立ちはだかる!
時を遡り、飛車丸と魂の融合を果たした夏目。春虎の願いが叶った一方で東京は激しい霊災に見舞われていた。これをおさめるべく「神扇」天海のもとに春虎や陣などかつての仲間が集い、多軌子たちとの決戦に挑む!
うわぁぁ、ほんとに出た。東京レイヴンズだ。あざのさんの新刊だ……。
クライマックス間近のとんでもない所でぱったりと音沙汰なくなって幾星霜。前巻出たの２０１８年ですよ。
まだ平成だった御世だよ。レイヴンズ、令和には存在しなかったんだよ！
それが今、令和の時代にレイヴンズですよ。感慨が、感慨が深い。脳が震える。
しかも本編、夏目の魂が過去に飛んでて飛車丸になって夜光とモチャモチャしてたもんだから、現代の本編となるともう１０年ぶりくらいになるんじゃないですか。
高校生がアラサーになってるくらいの年月だよ。
まー、それくらいの難産だったんですなあ。なんとなく苦心のかげが伺えます。わりと短い期間でわーっと全編書いちゃう文章って、ギューッと集中集約されたリズムがあるんだけれど、長い時間かけて何度も何度も手直しした文章って、なにかしらこう焦点が定まっていないというか、行ったり着たりして軸が幾つもあるみたいな感触があるんですよね。本巻も、なんとなく全体としてみるとそれに近い取り留めのなさ、というか茫洋としたものが感じられたんですよねえ。
今回の最大の障害となる宮地さん。炎魔の名を冠した人間の枠を逸脱した術者、彼に関しての掘り下げが、ぶっちゃけ彼が登場した最初期からこの人ってどういう人物なんだろう、というのがあんまりよくわからない人物のままだった、というのも大きいのでしょうね。倉橋長官にどうしてあれだけ拘っていたのか。彼の虚無の起源はどこにあったのか。彼を慕う弓削ちゃんのように、周りの人達や彼らの目から見た宮地という人の印象はすごくクリアに描かれていたようにも思うんですけれど、いざ宮地さん当人の描きとなると、ぽっかりと穴があいたみたいな空洞で……そういう何も無い空っぽの人だった、という事でもあるんでしょうけれど、一人一人のキャラクターをえぐり出すくらいの、その心底まで、心のあり方から生き様までエグいくらい描きまくる作者さまとしては、珍しいくらい捉えられない人物像だったんですよねえ。
実際、宮地さんようやく出揃ったような独立祓魔官オールスターズですら、もう次元が違いすぎて太刀打ちできないような、もうこれ荒御魂なんじゃないの？という強さだったのですけれど、それは個人の意思の強さ、神がかった技量というこれまで描かれてきた人の強さとは全く別のベクトルの、本当にただの災害みたいなもので、宮地さん当人の意思としてももう方向性自体なくなっていて……。
いや、これは書きにくかっただろうなあ。ここで引っかかってたんだろうか。
あとは春虎である。夏目の方は、ある意味前巻の飛車丸編で、ちょっと感動的なくらいピッタリと合一がなされたんですよね。全然別のキャラクターだった、夏目、飛車丸、コンがもうまじかよ、と思うくらい同一人物として昇華された。
それに比べると、春虎の方は夏目の特殊な転生と違って、こっちは純粋に生まれ変わりな分、記憶を取り戻してもなんかどっちつかずだったんですよ。
ベースとしては肉体の方に引っ張られるらしく、夏目も飛車丸やコンの記憶を引き継ぎつつも夏目であるし、春虎の方も夜光の記憶を取り戻しつつも春虎である、とバカ虎自身も語っているのだけれど、それにしては夜光の記憶……というよりも自責に引きづられているというべきか。人格の侵食とかはないんだけれど、記憶に引っ張られて夜光としての責任感を自分に照らし合わせているような。
その引っ張られ方が、よくよく見ていると夜光としての云々じゃなくて、春虎のおバカさ所以なんだなこれ、と最後の方まで読むとそんな風に感じられるようになるんですけどね。
夜光当人ならもう少し賢く消化するでしょ、これ。いやどうかなあ、そうでもないかなあ。でも、夜光みたいに仕えるんじゃなくて、春虎は叱ってアタマ叩いて肩組んで背中押してやらないとダメなんすよ。
そういう意味じゃ、その両隣を固めるのに角行鬼と飛車丸はしっくり来なかったんだ。夜光の記憶を取り戻し、この二人の式神を従えていたシーンは本当に格好良かったけれどさ、こうして今になって見て振り返ってみたら、やっぱりちょっとなんか違ってたんですよ。夜光じゃない春虎にとってはそれらはピッタリとシックリと隙間なく収まる、あるべきものとはやっぱりちょっと違ってたんだ。
というのを、夏目と冬児が揃った時に。飛車丸の力を継いだ夏目と、角行鬼を憑かせた冬児が春虎の両側に揃ったときに、もう感動的なほどに「こ、こ、これだぁぁ！」という感覚にダイビングしたんですよねえ。マジで感動的なほどに、寸分違わずしっくり収まったような感覚だった。
途端に、この途端に、なんか夜光とも春虎ともつかない、どっちつかずでどっちでもあるんだけれど、なんともどっちでもないような存在感がぼんやりしていた、ラグってた春虎の存在感がバチっと明確になったんですよ。
「春虎」の方にバチっとハマって具現化したような、受肉したような、解像度が明晰になってはっきりと春虎が見えた。
そうそうそうそう、春虎ってこういうやつだったじゃないか。長らく、本当に長らく忘れていた。
春虎だ、これが春虎だ。
そんな彼の意識をバチコーンと、一発の叱咤激励で戻してしまったのが親友の冬児だってのがまたいいんですよ、いいじゃないですか。これぞ相棒、これぞ親友。
夏目が嫉妬しむくれて、懐かしい……あの夏目の名文句である「屈辱です」をこんな形でもう一度聞けるとは。
もう誰もが認めるしかない、これはもう負けたあと、負けたあとの敗戦処理でどう始末をつけるのか、というのを方針も皆キメられず、そもそも何をどうしたらいいのかもわからないまま、手探りで右往左往するしかなかった状況で、動きを見せない相馬サイドの様子を伺うしかない。
完全に行き詰まって、どうしようもなくなっている閉塞的な、絶望的な状況は、実のところ自然災害的に暴走しだしてしまった宮地さんを、奇跡的に制することが出来てからも何も変わってない、というか新たな八瀬童子まで現れて、絶望度はいや増すばかり。もうこの世がどうなるかもわからない、という状況は崖道を転げ落ちていくばかりなんだけれど……。
それでも、春虎が自分の在り方を取り戻した、というのはそれだけでなんかこれまでの不安が一部でも払拭できた。勇気が湧き出る足がかりが出来た。根拠も何もないけれど、前向きになれる気がしてきた、という意味でこれとてつもなく大きなターニングポイントだったんじゃないでしょうか。
或いは、夜光の贖罪に引きずられたままだったら、夏目が感じていた不安がそのまま実現してしまったかもしれないですしね。実際、春虎は変な覚悟を決めかけていましたし。
それを真っ先に気づいて止めようとしたのが、実父であり夏目の養父でもある土御門泰純だったというのは……あれ、彼が春虎の実父であるという真実が明らかになってから、ふたりとも落ち着いて話す初めての機会だったんですね。
このシーンの、最初どう話したらいいかわからなくて緊張していた春虎が、ものすごく実直に本音で話し始めた泰純に心ほどかれて、このふたりともに思いやり籠もった語り合いが、なんかもうとてつもなく心にサクサク刺さったんですよねえ。
こういう、心の内側に踏み込むシーン、心情描写に関してはやはりあざの先生、尋常ならざるものがありますわ。心を直接揺さぶってくるような、このダイレクト感。
これは、弓削ちゃんが敬愛する宮地さんに対して、自分がやらなくちゃいけないことを、何としてでもしてあげないといけない事を理解した、あのシーンでもググググサァァァ、と感じたなあ。
弓削ちゃんの、これは覚悟というのも烏滸がましい、大悟に等しいこの到達、その際のこの娘の心情に在りようには、もう泣きそうになってしまいました。
この心映えを、こんな風に表現できる、文章として形をなせる作家さんが、果たして今もどれだけいるか。
もう一度、この人の物語を読むことが出来て本当に良かった。嬉しい、心から嬉しい。
次が本当にクライマックス、完結予定なのだそうで。流石に山は越えたでしょうし、次は元号が変わる前には出てくれるかな？
……小暮っち、復活した途端仮面ライダーかよと言いたくなるようなヒーローやってるなあ。中身は苦悩にまみれているあたりも、外向き完璧で皆の希望の星であり続けてるのも、かっこよさに文句つけようがないわ。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
