【非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか? 2】  色付きカルテ/よー清水 ファミ通文庫

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「――――非科学的な力を用いた犯罪事件は存在します」

『連続児童誘拐事件』の解決から日を置かずして発生した惨殺事件。これは連続殺人事件の一端に過ぎなかった。図らずも事件の目撃者となった燐香は『氷室区無差別連続殺人及び死体損壊事件』の捜査に協力しようとするが、神楽坂は事件から燐香を遠ざけたいようで。納得いかない燐香は独り捜査を始めることに。そんな燐香には事件とは別に誰にも相談できない悩みもあるようで……? さらに神楽坂の身近に潜んでいた異能者もついに動き出す――! ときどきポンコツな女子高生と正義にあつい警察官が挑む異能ミステリー、第2弾!


うへええ、いやあイイなあ! やっぱり面白い、めっちゃ面白いですわ。
どうにも自分のツボにどストライクなんですよねえ。

前巻のラストで燐香と神楽坂刑事が遭遇した、日中街中の路地裏でのバラバラ殺人事件。
その事件を皮切りにして、警察の非常警戒網を易易と潜り抜けて次々と殺人が繰り広げられる。場所は路地裏とはいえ、街中の警察が総出で巡回している中で、目撃者もなく無差別に人がバラバラに切り刻まれ、或いは重機で押しつぶしたように圧殺される、という連続殺人事件である。
連続児童誘拐事件というのもまた凶悪な事件ではあったんですけれど、今回はものが違うと言っていいでしょう。
白昼堂々、というには犯行の現場も犯人の姿も誰にも目撃されていないのですが、それがむしろ人目の絶えない街中だからこそ異様であり、被害者にまったく関連性がないことから危険度も途方もないもので……。
それを目の当たりにしたとき、神楽坂刑事は一般人のまだ子供である燐香を事件に巻き込むことを躊躇してしまうのですが……そこがこの人のあまりにも真っ当すぎるくらい真っ当な警察官としての感性なんですよね。
先輩と恋人の復讐のために異能犯罪を追い続けて、非科学的な力の存在を認めない警察組織の中で異物として追いやられてない諦めなかったその狂気的な、自罰的ですらある猛進を頑なに続けていてなお、この人の中では警察官としての、人としての倫理は失われなかった。
それが、燐香からの絶大な信頼を寄せられる要因にもなっていくわけで。臆病でへそ曲がりでヘタレで器の小さい燐香が、こんな人を信用するって改めて考えると、あり得ないくらいなんだよなあ。
でも、あの燐香のために命がけで戻ってきた場面こそ、燐香が全幅の信頼を寄せる契機だったんでしょうね、あれ。あんなん、もう全部信じるしかないじゃない。
本作の主人公はもちろん、異能使いであり精神干渉というそれ悪役の能力だろ、という異能を使う燐香ちゃんの方なのですけれど、同時に異能を持たない警察組織の一員として社会の治安を護る人間である神楽坂さんもまた、もう一方の主人公とも言える。
この人の抱える無力感と悲哀、そして誠実さとアグレッシブさはとてつもなく魅力的なんだよなあ。
彼の「正しさ」こそが、燐香にとっても楔となり、拠り所になりえるのでしょう。
本作って、普通の人間、警察組織などでは対処できない異能犯罪に対して、燐香が介入して解決していくというある種の異能バトルものではあるんだけれど、同時にこれは異能を使って犯罪を起こす犯罪者を制する話であり、忽然と社会に現れた「異能」という存在を目の当たりにした現代社会が、どういう反応を示していくか、という話でもあるんですよ。
一方の主人公が警察、というのも結構重要なんだと思う。彼らは社会の秩序を守る象徴的な存在だからこそ、その秩序を脅かす「犯罪」を犯す今までにない手段を用いる異能者たちに、どう対処していくか、という問題に立ち向かって行かなくてはならなくなっていくわけです。
今回の事件では、犯人である異能者はその存在をもう隠すこともせずに、衆目のある前でその力をふるい始めます。
それまで、凶悪極まりない殺人だと認識していたし、警察の威信をかけた警戒を簡単に潜り抜けて連続で犯行を起こし、ついに警察官からも犠牲を出した犯人を脅威に思ってはいても、それはあくまで自分たちの理解の範疇にある通常の犯罪……どの警察官も普通じゃない犯罪なんて想像もしていなかった中で……。
犯行現場の現場検証で多数の警官が集まっている眼の前で、自分たちが乗ってきていたパトカーが何台も宙に浮かび上がったときの、あのその場にいた誰もがポカンと見上げた、あのアタマの中まで真っ白に漂白されたみたいな沈黙の場面。決定的に、現実が壊れる音が聞こえた、世界の色そのものが変わってしまったみたいな空気感が一変する演出表現、あれは震えたなあ。
この空気が一変する、余計な音が全部消失するような雰囲気の豹変の表現については、本作は特に人物描写ですごく特徴的というか、迫真性があってたまらないんですよ。
それまで能天気でうざい後輩感を出していた神楽坂さんの同僚である飛禅飛鳥の様子が突如変わるシーン。そして、我らが燐香ちゃんの満を持しての登場シーン。それもう主人公の出す空気感じゃなくて、ラスボスのそれなんですけど!?
なお、このラスボス、指パッチンミスってピンチになります。なんで指パッチン、あんまり上手くないのにそれでないと発動しない技にしちゃったの!?

この娘、燐香ちゃんここぞというときと普段の雰囲気全然違うんだけれど、別にキャラが豹変するとか人格が変わってるとかではないんですよね。一貫して燐香ちゃんは燐香ちゃんなので、普段のポンコツ具合も素の彼女だし、妹の桐佳の世話を甲斐甲斐しくしてウザがられているシスコンなお姉ちゃんも素だし、国際指名手配されてるような異能犯罪者を感情も高ぶらせずに当たり前みたいに蹂躙してしまうのも、素の彼女なのである。精神干渉という能力を持っているのにメンタル弱々なのも素の彼女であり、クラスメイトの不良娘に懐かれてストーカーされてビビリまくって泣きそうになってるのも燐香ちゃんなのである。
とりあえず、人のことをコミュニケーションドヘタモンスター呼ばわりしてるけれど、お前もまったく同類だからな!
飛鳥さんに対するコミュニケーションも完全に失敗してるし。つんのめって顔面から地面に突っ込んでるくらい失敗してるし。
そんなんだから、妹からもポンコツ呼ばわりされるんですよ。それでいて、昔のイキってた頃の片鱗を見せると不安になってしょんぼりしてしまうあたり、ツンツン当たれる今の姉が大好きなのですなあ、この妹ちゃん。
燐香の家庭事情もかなり複雑で、お母さんは早くになくなり、父は家族を愛しているもののあんまり家に帰らず、二人には大学生の兄もいるんだけれど、今は疎遠で家を出ていて……とまあ、桐佳が姉に反発しているようでベッタリなのも仕方ない佐取家の環境なんだよなあ。パパさんもお兄ちゃんもわりと重要人物で以後話に大きく関わってもくるのだけれど。わりと燐香って妹属性もあるんですよねえ。ちょうど三人兄妹の真ん中という事もあって、姉と妹の属性を兼ね備えているのだ!

ともあれ、最優先の目的が家族の安全である燐香にとって、異能者による犯罪に家族やその友人、身近な人達が巻き込まれることこそが忌避すべき状況なわけだけれど、世界では異能の存在が表に出だし、その力を使った犯罪者たちによって急速に治安が悪化しはじめている。神楽坂さんに協力して異能犯罪を追っているのだけれど。
この警察にも被害者を出した異能者による連続殺人事件を契機に、社会の目の届くところでどんどんと大規模で凶悪な異能犯罪が起こり始める。それによって、これにどう対処していくかが警察、そして社会全体に問われていくわけだ。まさにタイトル通りの【非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?】という問い掛けが、現代社会に突きつけられていく。当然、旧態然とした官僚組織は硬直し、政治家たちは右往左往している中で、混乱は広がりながらも心ある人達によって動きは起こっていくんですね。
そのキーパーソンになる人達も既に登場してたり、関係者が居たりと、実はもう燐香の周りにも色々と縁は出来ていたりするのだけれど……。
ともあれ、その最重要人物となっていくのが、燐香がその当人とは今はまだ知らないけれど、過去の小学生の頃の燐香に人生そのものを救われ変えられて、その後の人生そのものをその人「顔の無い巨人」に注ぐことになった、つまり燐香にとてつもない重い感情を抱いてしまっている飛鳥さんなんですよねえ。
気づかれてないことをイイことに、知らんぷりしてやり過ごそうというどう考えてもダメだろうという対応してる燐香さん、そういう所がコミュニケーションドヘタモンスターなんだってばw

と、そう言えば燐香が実はかつて四ヶ月だけとはいえ、世界を征服していた元ラスボス。今もなお伝説として謳われる異能者の王「顔の無い巨人」である、というのが発覚するのがこの飛鳥登場の回だったのか。
ちなみに、張本人である燐香は「顔の無い巨人」という存在についてはネットの情報などで知っていたけれど、それが自分を差す異名だとは全然気づいていなかった模様……いや、気づいときなさいよ!
そして、どうも彼女の中では世界征服していた時期は、なんか黒歴史らしくてどうしようもなく恥ずかしい事をやらかしていた、という感覚っぽいんですよねえ。いったい何があって、イキってた自分を自覚してしまったのかについては、ウェブ連載の方でも未だに明らかになってないのですが……。
でも、めちゃくちゃ色々やらかしてるんだよなあ、この娘。
かっこいい時は痺れるくらいカッコいいのにねえ。いや、そのせいであちらこちらで飛鳥さんみたいに脳を焼かれた人たちができちゃってるわけですけれど。
……この副業の精神治療の闇医者行為で手掛けた患者の人の中に、なんか見覚えあるような肩書があったんですけど。あ、もうここに伏線あったのかw
精神干渉とかって、前述もしたけれどだいたい悪役の能力なんですよね。人の心を操り、心の奥で考えている事を読み、記憶すらも干渉する。場合によっては電脳のデータにすらも干渉できる……監視カメラの映像ですら自分の存在は抹消してますしね。とにかくやりたい放題できる可能性を秘めた能力を、実際厨二病をこじらせてか本当にやりたいだけやってしまった過去を持つ彼女なんですけれど、ともかくその精神を操る能力の使い方が本当に面白い。色んな意味でゾワゾワさせられる、背筋がゾクゾクするような使い方であり、演出であり、表現なのだ。
たまらん。
事件が凶悪化するにつれて、スケールが日本に留まらない国際的なものになっていくにつれて、どんどんと面白さも加速していく本作。もうここからは本当にノンストップなんで、今度こそ続きは早く出て欲しいものであります。ちょっと意味がわからないくらい直前延期が続いたもんなあ。