【ゲームマスター獄木七笑に試される ~きみの人生逆転ショー、配信で見せつけちゃお?~】 広沢サカキ／nezi MF文庫J
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ようこそ、運命をぶっ壊したい不届き者の皆さま。
【運命のゲーム】それは人生を賭けて運命を勝ち取る劇場型リアリティショー。
傷一つない人生も、超のつく億万長者も、このゲームに勝利すればぜ~んぶ思いのまま。すごいでしょ。
わたし、獄木七笑はそんな舞台のゲームマスター(ま、バイトだけどね) 。
学校終わったら週5で地下劇場に向かって、運命変えたいヤバい女の子たちと真剣勝負。
実際だいぶ変なバイトしてるな~って自分でも思う。
でも、わたしの作るゲームにはけっこう自信あるし。
何より常識をぶち破ってくれる最高のプレイヤーに出会いたいんだ。
だから今夜も配信アシスタントの纐纈まりあと一緒に、挑戦者を舞台に迎えてこう言うの。
「──さあ、運命が始まるよ」
【アイドライジング】はもちろん、オリンちゃん推しでした。
電撃文庫から２０１１年から４巻に渡って描かれた、戦うアイドルたちのスポ根エンターテインメント作品【アイドライジング】の広沢サカキさんの、これ十年以上振りになるのかな。新作であります。
最近、ちらほらと十年越しくらいで復活してくる作家さんが出てきていて、嬉しい限り。もっと出てきてもいいんですのよ？
さてこれは、広義のデスゲームものになるんだろうか。死なないけど、多人数バトルロイヤルでもないけれど。
＜台本＞と呼ばれる超常のアイテムを使うことで、GMが考えたゲームに参加したプレイヤーが、勝てば何でも願いが叶い、負ければそれ相応の代償を支払うことになる、という世界改変レベルの報奨と罰則が与えられる、というなかなかのスケールのゲームが繰り広げられる、わけだけれど。
……週５でやってるの、これ！？ 往年の【笑っていいとも】もびっくりの頻度である。まりあが助手として雇われるまで、これゲーム運営から配信までワンオペで七笑がやってたのは、それは本人が吐露してたようにブラックすぎて死ぬるわ。
いや、さすがに映像の編集やら配信のあれこれもあるだろうし（なにをどうするのか全然知らんが）、週５毎日ゲームはやってないよね？ 週５回世界が改変されてるとか、なかなか大変な世界情勢ですよ？
ともあれ、プレイヤーの殆どにとっては人生を賭けた勝負なわけだけれど、それほど重たいハードで過酷な雰囲気はない。
なにしろ、ゲームマスターの七笑がこれ、バイト感覚ですからね。ゲームのマスターとして世界の意識を変えねば的な高尚な理念や理想を抱いているわけでもないし、逆にプレイヤーの苦しむ姿を見たい、不幸になる姿を見て悦に浸りたい、という邪悪愉悦部系でもなく。
ただ、自分の創る舞台の主演女優に相応しい人物を探したい、という目的の人材発掘でやってるもので、ゲーム自体は目的じゃないみたいですからねえ。
女優に相応しい人品を、ゲームを通じて心底の底の底まで暴いてやる、というほどののめり込み方をしているわけでもないみたいですし。もっともっと追い詰めんでもいいんですか？というくらいには、ゲームもヌルいです。人間性をさらけ出させられるようなエグい内容どころか、普通のゲームの範疇ですしねえ。
そういう意味では、どの話もサクッとはじまり、サクサクっと終わってしまいます。あれ？ もう終わり？ と思ってしまうくらい。そういう意味では、少し物足りないくらいでしたね。ゲームを通じてそのキャラクターの中身が暴かれる、掘り下げられるというのもあんまりありませんでしたし。
銀獅子さんの回なんかは、彼女の望みを銀獅子自身がわかっていなくて勝負を通じて見つけていく、みたいな展開で良かったは良かったんですけれど、彼女のなかなかエグそうな前半生がどのようにしてそんな道を歩むに至ったとかの、バックグラウンドの情報がさっぱりだっただけに、なんかすごくもどかしかったんですよ。もっと見たい、もっと覗いでみたい、もっと掘り下げてみたい、と感じさせらえ瑠相当に濃ゆくて中身詰まってそうなキャラクターをアンパンよろしくぶら下げられて、結局皮のパンだけしか食べられずに中身のアンコまでたどり着かなかった、みたいなもどかしさ。
これは初っ端の暗殺ちゃんから、学内賭博で退学させられたという黒マスクちゃんにしても、恋多いくせに手に入る段階になると途端に覚めてしまうという、それで何度もゲームに参加してそのたびに世界改変して自分の恋をリセットしているマリーゴールド、とどのプレイヤーもその人生にしても人格にしても、絶対中身ぎゅーぎゅーに詰まってるんですよ。バラして解体して刺激に対しての反応を見たら、むちゃくちゃおもしろい結果がポロポロとこぼれ落ちてくるようなキャラの濃さ、キャラ立ちが予感させられるわけですが、それをろくに味見させてもらえずに下げられてしまったような、この物足りなさ。
食べさせてけろ！！
これに関しては、メインの三人となる七笑とまりや、そしてちびっ子オーナーちゃんにしても同様で、この子たちって全然バックグラウンド情報がないんだ。普段学生としてどんな風に過ごしているとか、家庭の様子とか、生活に関する情報。なぜ、舞台の監督を志していて、なにを目指しているのか。どうして、まりあと七笑、知り合ってこんなに仲良くなったのか。
ちびっ子オーナーちゃんにしても、どうしてそんなお金持ちで、一体何を目的にして七笑に台本を扱わせて、なにを手に入れようとしていたのか。
あと二歩、三歩とそれぞれの事情に踏み込んだ上で、この話を味わってみたかった、というのが正直なところである。匂いだけかがされて、端っこだけちびっと味見させてもらっただけ、みたいな物足りなさに、飢餓感がワラワラワラ、です。
七笑とまりやに関しては、二人のギャルギャルした掛け合いがこれはこれで濃くてねえ。生活感というとなんかスジが違う気もするんだけれど、二人一緒でのキャラキャラとしたギャルとしての日々の過ごし方とか、呼吸の仕方みたいなのはこれでもか、というくらい伝わってきて、そういう意味での生活感はすごく感じたんですけどねえ。二人の距離感、仲の良さというとあっさりしすぎかもしれませんけれど、さっぱりしているようで意外と湿度高そうな、ベタベタしてるようでお互い微妙に様子を伺っているような、そういうところ。それでいて、普通はなかなか言い出せないようなことを、軽すぎるくらいの調子で言っちゃうところとかねえ……いや、その時はマジ険悪になってエラい事になってしまってたみたいなんで、単に七笑がノンデリなだけかもしれませんが、ともかくこの二人の関係も距離感も焦点を当てて掘り下げれば掘り下げるほど、お宝みたいなキャラ同士のイチャイチャが発掘出来そうな感触だっただけに、やっぱり物足りないというのが正直なところでしたね。
これが導入回としての世界観とキャラの紹介編だったなら、次巻以降でもっとじっくりたっぷり縦穴を掘ってくれたら、私としてはとても好みの的に直撃しそうなんですよねえ。
広沢サカキ・作品感想
Ａｍａｚｏｎ
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