【全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。２】 雨糸雀 ／kodamazon エンターブレイン
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原作キャラの聖女たちとまさかの邂逅!?
片目と片足を代償に、絶体絶命の全滅エンドから仲間たちを救ったウォルカ。旅先から聖都へ帰る道すがら、あるパーティが協力を持ちかけてきた護衛の依頼は、『原作』の悪辣なエピソードを彷彿とさせるものだった。ここが“クソッタレ”なダークファンタジー漫画の世界だと再認識したウォルカは、バッドエンドを否定せんがために再び剣を抜き放つ。
そんな己の姿が、仲間たちに更なる激重感情を抱かせてしまうと知らぬまま――
「ウォルカがずっと一緒にいてくれないとね、生きていけないの」
「これからもずっと、ずーっと、いつまでもお傍にいますからねっ」
「この体も、魂も……ボクのぜんぶ、キミの好きにしてね?」
一方聖都では、『原作キャラ』の聖女たちがウォルカの存在に目をつけており……!?
ハッピーエンド至上主義な転生者の【曇らせ】異世界譚、第2幕!
病んでるなあ。これは病んでるなあ。
片目と片足を失ったことで、剣士として途方もないハンデを背負った姿に、片っ端から周囲に曇らせを発生させまくっているウォルカ。
その中でも「病む」に至るほどの歪みを生じさせてしまっている娘らは、ウォルカの未来が絶たれてしまった原因の多くを自分の責任と捉えているが故に、こう「ぐにゃぁ」っと心の中の何かが歪んでしまった、或いは理性とか正常な判断力を支える柱の強度がコンニャクみたいな柔らかさになってしまったのだろう。特に、パーティーメンバー達は。
最初はまだ、PTSD的な反応でウォルカの姿が見えなくなったり、無茶をしてしまうと思い込んだ際に冷静さを逸してしまうパニック症状みたいなのが出る感じだったんだけれど、これがこの２巻あたりになるといびつな形で固定化されてきちゃってきたように見えるわけだ。
鍵が壊れて閉まらなくなった扉のように、普段の様子は何も変わらないように見えるのだけれど、簡単に開いてはいけないものが開くようになってしまった、そんな感じで。
ものすごくやばい状態で安定してしまったぞ。
……アトリに関してだけは、この娘って元から戦闘部族の価値観に則ってあんまり変わってないんじゃないか、という疑惑があるんだが。
ともあれ、問題はウォルカがパーティーメンバーの精神状態をかなり甘く見積もっている所である。いや、どうも激重の感情を持たれてしまっているし、なんかこれはヤバイよなあ、とわかってはいるんだけれど、わかってはいるんだけれど……実情はお前が想像しているものより桁４つくらいヤバイわ！！
逆に、リゼルやユリティアたちもウォルカが抱いているだろう「重さ」を全然見誤ってるんですよね。この娘らは、当然ウォルカも自分たちが抱いている罪悪感、責任感など比較にならないほどの重たい深刻な感情を、悲哀や悲嘆や絶望というものを抱えている、と思ってしまっている。
それを踏まえたうえで、自分たちを助けたことを一切後悔せず、剣士として再起不能とすら思える後遺症を負ったことも悔やもうとしない、苦しみもがきのたうちまわりながらも自分たちを気遣い、労り、守ろうとしてくれている、とそんな風に思ってるっぽいんですよねえ。その上で、人生そのものだった剣に今もこだわり、這いずりながら高みへと至ろうとしている、と。
自分たちが弱かったから、全部台無しにしてしまった。そりゃあ、クソデカ激重感情も抱いちゃいますわ。
そして、リゼルたちのそれは勘違いとか誤解、思い込みや思い違いではないんですよ。方向性としては、彼女らは正確にウォルカの想いを理解している、と言って良い。彼がこの世界に失望しているのは間違いではないし、こんなクソみたいな世界を創った神（原作者）を呪っているし、助けられたことを喜ぶよりも助けられなかった人たちのことを思って悔しさに震えてる。
ウォルカという人の人となり、想いの形をこの娘らはちゃんとわかっているし、勝手なウォルカ像を作ってそれにすがりついているってわけじゃないんですよ。
ただ、ただ重さを履き違えているだけで。
リゼルたちの思い描くウォルカは、ネガティブ塗れなんですよ。怒り悲嘆絶望といった負の感情が内側で暴れまわっているのを、耐えてこらえて必死に抱え込んでいる。辛い、苦しい、悲しい、悔しいという想いにのたうち回っている。それでも、周りに当たり散らさず、自分ひとりの中で抱え込み噛み殺しながら、穏やかに振る舞っている。絶えず周りの人に優しくむしろ労るように接している。不具となった身でなおも歯を食いしばって這いずって、ズタボロになりながら求道者のように、ただそれだけが生きる目的のように人生そのもののように剣の高みを目指している、と。
でも実際のウォルカは、というと。
片目片足失ったこともほぼ全く気にしていなくて、それどころか死線を超えたことで掴んだ感覚、剣の頂き、剣の深奥という夢の境地に足を踏み入れたことに、この男ワックワクのウッキウキで悲壮感の欠片もないですよ？
片目片足失ったことも、本来無惨な死に方をするはずだった仲間たちを無傷で助けられたんだから、全然オッケー、良かった良かった、と本気で喜ばしい事と思ってるし。他人の悲劇に関しては憤り悩み悔やんでいるけれど、自分のことに関しては本当に一切ネガティブな感情抱いてないんですよね。
この男、無愛想で口下手という外面とは裏腹に、中身は恐ろしいほどのポジティブで前向きなちょっとお花畑入ってるくらいのアーパー野郎なんですよ！！
今の彼、実際めちゃくちゃ楽しそうなんですよね。よっぽど剣の極みに指を引っ掛けた今の状態が嬉しいのか、有頂天と言っていいんじゃないでしょうか。
そんな状態だから、リゼルたちの感情の重たさを捉えそこねてる、どうにも理解出来ていないんでしょうね。本人がそんな深刻に捉えていないんだから。
でもちょっとはわかるんですよ。ウォルカが転生してこの世界に生まれ変わってから、ずっと自分の夢、というよりも浪漫か。浪漫として人生捧げてきた剣……抜刀術がまさに浪漫の結晶みたいな領域に手がかかったんですから。届こうとしてるんですから。
そりゃ、男の子としてはウッキウキですよ。はしゃぎ回っちゃいますよ。楽しくて仕方ないですよ。
同じく男の、騎士のロッシュが友人の辿り着こうとしている剣の境地を目の当たりにして、もうウッキウキになってしまってるのも、これは男の子の性分なんだよなあ。
この点、同じ剣士でありつつも女の子であるユリティアはちょっと心境が違っているのも面白いところ。彼女の場合はそもそもから、ウォルカの剣術への傾倒の仕方が自分の人生を一変させ闇を切り開いた、という意味でも特別でありすぎるんで、スキップするような軽さじゃなくてとにかくヘヴィーな方に寄ってるというのもあるんでしょうけれど。
いやー、健全ならウォルカの剣を見たら、普通は気分が燃え上がると思うんですけどねえ。
にしても、やっぱり抜刀術は浪漫ですよ、浪漫。そして、浪漫に人生かけているウォルカの素晴らしき剣術バカっぷり。彼の在り方って求道者というよりも楽しいものを極めていくオタク気質だと思うんですよねえ。そして、その剣の深奥に触れていく、沈んでいく感覚の描写が尖っているというか、読んでるこっちにまでビリビリと伝わってくるようなものがあって、思わず痺れてしまいます。
白亜の聖女ディアが垣間見た、ウォルカの得た強さをビジュアルイメージに変換した形で捉える描写は、あれ良かったですねえ。ウォルカの強さの方向性が、なんとなく具体的に見えた気すらしました。
だからか、ディアがうわぁこいつなんかとんでもないぞ！！？と度肝抜かれてる姿見るのも、そうだろうそうだろう、と後方で腕組みして頷いてしまうみたいな感覚になっちゃうわけですよ。
あかん、これまんまアンゼだわ。ウォルカ激推しのアンゼが、ウォルカあの人とんでもねえな、と言われてめっちゃ喜んでるのと同じ感覚だわ。ついつい他の聖女たちにも推しまくってしまう感覚だわｗ
これ、恐るべきはヒロインたちのウォルカへの理解に関しては誤解や思い込みによる錯誤やすれ違いは生じていないんですよね。
ウォルカがこの世界に失望しているのも確かで、
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
