【処刑少女の生きる道(バージンロード) １０．―異世界人死すべし― 】 佐藤真登／ニリツ GA文庫
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
最終章突入！
彼女が彼女を殺すための物語、第10巻。
「アカリは……日本に、帰りたい？」
「メノウちゃんは、わたしに帰って欲しいの？」
【時】の封印を超え、ついに復活したアカリ。しかし、再会の喜びも束の間、霧から解き放たれた万魔殿、そして【白】の勇者・ハクアの脅威はすぐそこまで迫っていた。
世界を揺るがす【白】と【魔】の猛威。グリザリカ王国へ退避したメノウたちは、絶望的な戦力差を覆すべく策をめぐらすのだが――。
蠢く【防人】、明かされる1000年前の真実、揺らぐ少女たち。――それでも、決戦の時は容赦なく訪れる。
「じゃあ、始めようか」
少女たちは、歩き出す。――これは、彼女が彼女を救うための物語。
姫ちゃま、本当に大丈夫なのかそれ！？
これって、千年前の真実など色々とこれまでの経緯とか明らかになってみるとさあ……大体『器』が悪いんじゃね！？ 諸悪の根源ってやつなんじゃね！？
やらかしまくってた直接の執行者は今、姫ちゃまに憑いてる防人でこいつが途方もない被害を……個々の悲劇だけでも相当なんだけれど、四大ヒューマンエラーの誕生からハクアの真実を見てしまうと、本当に途方もない悲劇を出しまくってた諸悪の根源なんだけれど、それもこれも我堂蘭ってやつが悪いんだよ！て話にならないですか、これ。御本人はとっくに事象の彼方みたいな所にフォーエバーしちゃってるしさあ。
悪いやつを倒せば、原因を排除すればすべて解決、とは一切ならないというのもたちが悪いったらありゃしない。
そうした諸々を鑑みても、今一番野放しにしていたら危険どころじゃない致命的なのが防人であり、このタイミングでその首根っこひっ捕まえてねじ伏せている姫ちゃまの存在は、マジで人類の救世主だよなあ。この人がこのタイミングで存在していなかったら、マジで人類滅びてたんじゃね？
それでもなお、あの「防人」が消滅せずに姫ちゃまの中に存在しているというだけで、いつ復活するか、乗っ取られるかという不安がつきまとって仕方ないんだけれど、姫ちゃまなら大丈夫なのか？ 彼女に関してはそういうお約束は平気で踏み潰しそうだし、姉の復讐であり一族の悲願としてもそこは絶対に譲れない所だろうしなあ。
ともあれ、裏でコソコソと暗躍して状況を最悪に叩き込みそうな存在はねじ伏せられたものの、そんなの関係なくパンデモニウム復活だけで世界が滅びる絶望には十分な状況。
この『魔』だけは単独でスケールが全然次元違いなんですよね。精神性も物理性も、どちらも壊れるどころじゃなくもう人間とか生命の範疇を逸脱してしまっている。ファンタジーの世界で単独でコズミックホラーの領域に昇華しつつあったんじゃないだろうか。なんか、ガチで星ごと飲み込んでこの宇宙そのもののがん細胞になって無限に増殖した挙げ句に宇宙全体を埋め尽くすつもりだったみたいだし。
同じヒューマンエラーとなった地球人たちと比べても、明らかになんか別格なんだよなあ。まさに、本人が述べるように人の心が産み出した「魔」そのものなんですよ。
本来の大本の人間であるマヤがまだ幼いのに責任感あるあんないい子でしょ？ あの子の心がどれほど壊れても、歪んでも、あんなものにはならないですよ。とても、たった一人の少女から産まれたものとは思えない。
理論上は、元の世界に送還したら純粋概念は消えてしまい、その力も無くなってしまうというけれど。その理論は間違ってはいないんだろうけれど。あの余りにも純粋なる『魔』が果たして消えてなくなるのだろうか。パンデモニウムが送還された時のあの様子を見ても、えらいことをしてしまったんじゃないか、という不安がこびりつく。まさにホラーだよ。
でもなんにせよ、今回のMVPは間違いなくサハラだろう。一貫して働きたくないでござる、という舐めた態度で不貞腐れてゴロゴロやる気なさげにぐーたらしてるだけだったのに、結局一番活躍しているというか役に立っている、という不思議総督サハラ。
生きてたミシェルたちと協力して（この時点でメノウたち側ではミシェルたちと協力してって体制取れなかっただろうし）溢れ出てきた魔物たちを食い止め続けてた、士気を保たせ続けたというだけでも総督閣下の功績多大なりってなもんなんだよ。本人なんにもしてない、凡人がとんでもない期待だけ背負わされて胃に穴があきそう、もうしんどい逃げ出したい、というかサボりたい。サボる、とばかりにグダグダやってるだけなのに、ほんとに居るだけで滅茶苦茶役に立ってたんだよなあ。
そして、最後の最後、流されるまま無気力に何もせずに終わるのではなく、それはだめ、と自分を生贄に捧げようとするマヤを止めて、そして本体に飲み込まれそうになる小指たるマヤを最後まで自分の意志でその手を掴んで、最後まで離さなかった。離すまいと、自分を顧みることなく抱きとめ続けた。
自分の欲望にしか興味がなく、自分のネガティブな感情にばかり正直で、器が小さく見事なくらいの小物で凡人で卑小な小悪党だったサハラが、ついには自分よりも大切なものを見つけて、それを守り抜いたのだ。
なんか最近もうずっと毎回MVPだった気がするサハラだけれど、今回ばかりは手放しで頑張ったと褒めてあげたい。ようやりはったわ。
前回、どうあっても詰んでいる状況。アカリは致命傷を負い、メノウは純粋概念の使いすぎで記憶の殆どを消耗して、メノウの計画ではどれだけ上手く想定通りに状況が進んだとしてもメノウ自身は助からないはずだったのを、モモがそりゃもう都合の良いヤンデレを返上してメノウを上回る巧妙な、しかし一歩でも踏み外せばゲームオーバーという綱渡りの計画を見事に成立させて、アカリとメノウ両方を復活させて、人類最強のミシェルとその一党を退けるという奇跡を成し遂げたわけですが。
言ってしまえば、それでようやく膨大な負債を返済してゼロに戻しただけ、アカリとメノウたちの状況が回復しただけで、世界情勢の方はもう滅亡寸前、これもうどうあがいても絶望ですね、終了のお知らせ、さようならさようなら、というどうしようもない状況に陥ってるのは変わらなかったわけです。
ハクアとパンデモニウム。どちらも一体で比喩じゃなく世界を滅ぼしてしまえる存在がセットで顕現してしまっているのですから。
それでも、一度奇跡を成し遂げた面々だけあって、この絶望的な状況ですら打開する案をひねり出し、こじ開けていく様子は、頼もしいの一言でした。さすがは一度自分たち自身の絶望を克服し、苦悩を乗り越えて、やるべきを見つけた主人公たちです。
それでも、最後の相手が倒すべき悪ではなく、犠牲者の一人でしかないというのはキツいなあ。
というか、ハクアの真実が想像の埒外だったんですけど。いやこの子全然悪くないじゃないですか。マジで我堂蘭ってやつが悪いんだよ！なんですけど。
この子の千年、あまりにも救いがなさすぎる。だからこそ、新たな志を得た、召喚された異世界人たちを殺すのではなく、救うのだとこれからの生き方を決めたメノウにとって、アカリの言う通りハクアは救うべき対象になりえるのだ。
それはそれとして、どっちがアカリの親友なのかは「分からせ」ないといけないわけだがｗ
というハクアもメノウも、分からせる気満々なアカリを挟んで睨み合う構図の挿絵が、色々とまあうん……世界存亡の戦い云々以前に修羅場だこれ！
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
