徒然雑記 : 魔弾の王と極夜の輝姫　１　★★★☆

【魔弾の王と極夜の輝姫】　川口士／植田亮　ダッシュエックス文庫

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ジスタート王国の北端にある港町イルフィングに起きる『大極夜』。
それは数十日もの間、明けることのない夜が続く十六年に一度の天体現象。
ブリューヌ貴族のウルス=ヴォルン伯爵は、二年前に母を亡くした息子のティグルを伴って、この町を訪れていた。
はじめて目にする異国の町で、ティグルはひとりの少女と出会う。
淡い金色の髪と、緑柱石の色の瞳を持つ彼女は、ソフィーヤと名のった。
さらわれた母を助けるためにこの町に来たという彼女をティグルが助けたことから、雪と氷の大地に眠る秘宝を巡っての冒険が幕を開ける。
ティグルヴルムド=ヴォルンとソフィーヤ=オベルタス。
十一歳の少年と十五歳の少女の初めての恋と冒険の物語!

魔弾の王シリーズ、今回は全２巻完結らしいのだけれど、戦姫『光華の耀姫』ソフィーヤ=オベルタスがメインのお話。
と言っても、これソフィが戦姫になる前の話なんですね。リュドミラがメインヒロインのシリーズでは、幼馴染設定で戦姫になる前からの知り合いでしたけれど、それ以外で戦姫になる前のヒロインと知遇を得ている。しかも、その時期のお話がメインというのは初めてですね。
ソフィってこれまで出自とかは全然明らかになってなかったんじゃないかな。戦姫の中でも特に交渉に長けていて、気品のある立ち居振る舞いだっただけに相当に高い身分の貴族出身なんだろうなあ、と思っていたのですが。意外や意外、そんなに地位も身分も高くない平騎士の娘だったんだそうな。
ただ、そのお父さんが戦いよりも交渉折衝に長けたスキルの持ち主で、そっち方面でかなり重用されていたらしく、ソフィの交渉能力はダイレクトにお父さん譲り、譲りというか父親から学んでいたものなんですねえ。
戦姫の中ではあんまり直接的な戦う能力には秀でていないって感じでしたけれど、とにかく単身敵地に乗り込んでいって交渉の場を作るみたいなことをするだけに、度胸や肝の据わり方、大胆さにかけては戦姫でも随一なところがありました。
まだ少女の時分からこのあたりは変わっていなかったようで、とある部族の出身で故有って攫われてしまった母親を救うために敵地に乗り込もうとしていた父親に、黙ってこっそりとついていくという大胆不敵なことを冒頭からやらかしている。まだ１５歳の身の上で、単身僻地というべき北国に旅してたどり着いているのだから、それだけでもとんでもない。
たまたま、その北の都市に外交使節団の仕事の一環で訪れていたウルス=ヴォルン伯爵。その一行に勉強も兼ねて同行していたティグルと、母をさらった一団に追われることになったソフィが邂逅して物語がはじまるわけだ。
まだ１５歳の少女ソフィと、もっと幼い１１歳のティグル。このティグルが１１歳という現代では小学生という年齢のわりにはしっかりしていて大人びているのだけれど。それでも、青年のティグルをちゃんと知っている側からすると、端々に幼さやガキっぽい部分が垣間見えていて、ちゃんと幼いティグルなんですよ。
ちょっと背伸びしたり、お姉さんなソフィ相手にちびっと拗ねてしまったり、青年になったティグルでは見せないだろう幼気なところが実に可愛い。ショタだ、ショタティグルだ。
そして、そんなティグルにやっぱりこの年代の４歳差というものは大きいもので、ついついお姉さんぶってしまうソフィなのである。でも、初対面からティグルにはピンチで助けてもらったり、年下の男の子のわりにやたらと頼りになるティグルにドキドキしてしまうソフィーが少女してるんですよね。
大人の女になったソフィーヤの余裕めいた懐の広さとはまた違う、距離感の近さなんですよ。
どう考えてもたった一人で母を助けるためにこんなところまで旅してきた、という時点で大冒険していて、危険を顧みずに不屈の精神で強大な相手に立ち向かおうとしているお姉さんに、一生懸命このヒトを守ってあげないと、と頑張るティグルが可愛いんだ。いや、１１歳ながら弓の腕前は青年の頃にも引けを取らない、現時点で弓兵として上澄みに達しているティグルは、戦闘面でも非常に頼りになって背伸びしている感は一切ないんですけどね。
それでも、なんの関係もないティグルを巻き込んでしまい、健気に自分を助け守ろうとしてくれている年下の男の子を、自分こそが守ってあげないと、と奮起しているソフィの乙女心が詰まったお姉さん振りがまたいじましくてねえ。
こういう形のおねショタもまた、至高……至高ではないでしょうか。

とはいえ、弓の腕は既に超級とはいえまだまだ経験不足で体力もないティグルに、したたかで賢くタフで粘り強くとも、未だ竜具と巡り合わず戦う力も殆ど持たない少女にすぎないソフィの子供二人組である。領主や近隣の蛮族などが関わる大きな陰謀劇の渦中にあって、彼らは基本追いたてられながら逃げ回るしかない、逃亡劇がメインなのだけれど、それでも機転をきかして敵の死角、意表をついて積極的に謎だった敵方の陰謀、その真意を暴いていく二人の冒険は、まさにシティ・アドベンチャーでありました。
ってか、ソフィーヤけっこう色々と複雑な血筋だったんだなあ。父親は普通の騎士だったのだけれど、母方の血筋がそっち系だったとは。
ともあれ、子ども同士だからこその純真さと一生懸命さ、距離感の近さ。子供二人きりで支えあい、守り合うことで育まれていく幼くも一途な恋心。この時期だからこその表裏のない一心の想いが、極限の寒さに包まれる北国、夜が明けない極夜の土地という、温もりを求めて身を寄せ合う環境だからこその、キラキラ輝くものが感じられて、良きおねショタでした。
まだふたりとも何者でもない時期だから、国の存亡とか魔物の悪意とかには縁が無い話ではあるんですが、だからこその良さもありますよね。