【汝、わが騎士として ２．皇女反逆編�機� 畑 リンタロウ／火ノ 電撃文庫
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
過去を捨てた二人の、未来を獲るための戦い。
バルガ帝国の皇女ルプスの亡命を成功させたツシマ。つかの間の平和を享受する二人だったが、ツシマの前に帝国最強の刺客が現れる。それは多くを殺してきたツシマへの復讐の牙。消しきれぬ過去の清算。
その戦いは復讐の域を超え、帝国第一皇子のカウサ、エルバル市長タチバナをも巻き込んだ、陰謀の火種となる。そして圧倒的実力を前に苦戦を強いられるツシマ。もはや自分が死ぬしか、彼女を助ける道はない。
だがルプスはそれを認めない。捨て去ったはずの身分、勝ち取った自由、陰謀のない日常――それが、なんだというの? ツシマは絶対に死なせない。ルプスが下した決断は、過去すらも飲み込む刃へと変わる!
覚悟と決意が試される、異端の騎士物語。急転直下の第二弾!!
ツシマ、この男、相変わらず外面は悪い。無愛想でそっけなくて、一見してガラが悪いし不逞の輩だしやさぐれてるし、チンピラとは言わないけれどどう見ても裏稼業の人間で、ルプスの学友たちが悪い男に騙されてるんじゃ、と心配するのも当然じゃね？と思うような印象の悪さなんですよね。
ルプスと話していても、とっつき悪いし。あれ？ ツシマって１巻でなんやかんやあって腐れ縁みたいになって仕方なく今も付き合ってやってるんだったっけ？ と、思わず１巻見直してしまったくらいである。
確かにこの手の無愛想系の男って、態度の割には親切だったり、仕方ねえなあとばかりにヒロインのわがままになんだかんだと付き合ってくれたり、という男のツンデレの派生系だったりするんだけれど……。
いや、このツシマってそういうレベルじゃないんですよね。外面と実際の行動がまったく合致していないレベルなんですよ。
この男、一貫してルプスのためだけに動いている。それが自分の祈願の投影だったとしても、自分の破滅と天秤にかけて一切の躊躇なく、ルプスの平穏を優先し、自分の敗死を規定事項として組み込んだ行動に打ってでるくらいには。
迷いも動揺も本当に一切なかった。さながら主のために自分のすべてを捧げた騎士のように。いやあ、そんな高潔な内面なんか地の文でも見せてくれないのに、やさぐれた荒んだへそ曲がりの男の心情と素振りしかその内面からも垣間見せてくれないのに、でもその行動だけ見たらほんと一貫してルプスのため、ルプスのため、これに尽きるんだよなあ。わかりにくい、めちゃくちゃわかりにくいよツシマさん。ここまで外面に意識印象引っ張られて実際の姿が紛れるキャラクター珍しいと思うよ。
思えば、強引なくらいのルプスのデートのお誘いにも、いやデートと言っても話題のクレープを一緒に食べに行ったくらいだが。でも、文句も言わずこの男ちゃんと付き合ってあげてるんだぜ。憎まれ口めいたものは口にするけれど、拒否や否定を匂わすような言葉は全然口にしてないんだよなあそういえば。
いや、わからんて。めちゃくちゃわかりにくい男である。
ところが、そんな男をめちゃくちゃわかっているのが、ルプスなんですよね。１巻の逃避行の末にルプスがツシマに抱いた信頼は、もう完全に揺るぎのないものになっていたのだろう。
ルプスの方は偽装の身分を得て平和で楽しい学生生活を送る一方で、ツシマの方は相変わらず半分暗部に足ツッコんだようなアングラで非合法でイレギュラーな情報師として表に出せないような仕事を続ける日々。距離が相手も不思議ではなく、多少のゆらぎや迷いや不信、不安みたいなものが生まれてもおかしくないのに……結局、ルプスのツシマへの信頼は微塵もブレることがなかった。
そういう意味では、皇女という危険な立場から脱出した今となっても、１巻で逃避行から一転して敵地の只中に乗り込み兄を手ずからぶっ殺したときの、あのガンギマリの覚悟は些かも鈍ることがなかったのだろう。
そういう意味では、ルプスをこのまま平穏で危険のない日常に置くことに自分の命を賭けようとしたツシマは、ルプスを見損なっていたと言って良いのかも知れない。あの逃避行で覚醒したルプスの主としての器を。ツシマを騎士に任じた想いを。
まあそれでも、本当に覚悟を決めるにはまだルプスにも迷いはあったみたいだし、このまま平穏にただの学生が続けられれば、という願いがあったのも否定は出来ないだろう。
ただ、どう足掻いてもルプスがこのまま学生を続けていられるはずがなかったのは間違いなく、それに関してはルプスのほうが薄々理解はしていたみたいだ。
ルプスの本当の願い、その殺意の向かう先、殺すべき相手を見定めている決意が消えてない以上、ルプスにとっては自明のことだったのかもしれない。
ツシマに殺したい相手を告げられなかったのは、相手の大きさへの怯みのみならず、この件にツシマを道連れにしていいものか、という迷いもあったのだとしたら。ルプスの方も己が騎士をまだ見誤っていたとも言える。だってこの騎士、姫の平穏のために本気で自分の死を織り込んで行動してるんだぜ。巻き込む巻き込まない、道連れにしてしまう云々どころじゃないでしょう。
にしても、一旦やるべきと思い定めたら、この皇女さまは大胆不敵どころじゃない肝が据わりすぎくらいの行動に打って出るよなあ。一巻の兄への逆襲にも驚かされたけれど、今回も引き続いて追いかけ回されていた相手の所に逆に乗り込んでいく、という逆撃をかましてるんですよね。さらに、長兄を無理やりコチラがわ陣営に巻き込む形で。
普通、反逆者である自分の逃走を幇助してくれていた事実を敵陣営に暴露して、ほらあいつらぶっ殺して口封じしないと大変なことになっちゃうよ、みたいな巻き込み方しないですよ普通。仮にも主人公サイドがｗ
ここまで大胆不敵なことをされると、皇女反逆編なんていう大上段のサブタイトルがついても違和感はないですわ。１巻の感想では、ルプスのこと「まだ化けるかも」と書いたけれど、確かにこれは化けてる化けてる。
そういう意味では、この２巻はむしろツシマの方の覚悟を。自分の後悔を託すのではなく、ルプスの騎士として、最後まで付き合うかの覚悟を問う話だったのかもしれないのですね。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
