【捕食者系魔法少女 ３】　 バショウ科バショウ属／東西 エンターブレイン

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「シルバーロータス。我々が貴女の杖となり、剣となりましょう」

アメリカと中国の要請を受け、全世界へファミリアを派遣することとなったシルバーロータス。彼女とファミリアたちはテレパシーによる緻密な連携を駆使し、着実にインクブスを駆逐していく。
しかし昼夜を問わない戦闘と交信の負担によりシルバーロータスは疲弊、ついに日常生活にまで支障をきたすようになってしまった。
その姿を見かねたゴルトブルームらは協力を申し出るが、彼女はある理由からその手を拒んでしまう。一方、窮地に立たされたインクブスは現状を打破すべく、決死の総力戦を仕掛けてきて――!? 異端の魔法少女ダークファンタジー、第3巻!




冒頭の中国大陸は青島の港の埠頭、決死の抗戦を続ける中国のウィッチたちを嬲るインクブスたちの背後の海から、突如現れるガントリークレーンを超える大きさを誇る巨大生物。
この海の中から突然異音が鳴り響き、そこに居た者たちウィッチやインクブスたちが思わず動きを止めて振り返る眼の前で、海の中から魚の死骸やマーマンの死体が浮かび上がってきて、海面が盛り上がって見上げるような脚が海中から現れて、埠頭のインクブスを踏み潰しながらその巨大な姿を現すシーンとか、完全にこれ映画のモンスター・ヴァースだこれ！
必死に交戦しようとするもの、恐怖に逃げ惑うもの、錯乱するもの、ポータルで転移して逃げようとするもの、区別なく圧倒的質量で踏み潰し、巨大なハサミで薙ぎ払い、崩した建物の瓦礫で吹き飛ばしていく。
怪獣特撮SF映画だこれぇぇ！！

あかん、この冒頭のシーンだけでえらいテンションあがってしまった。ちょっと映像があまりにもありありと映画並みのど迫力でイメージできてしまったんで。
演出がもろにモンスター・ヴァースなんですよねえ。或いはパシフィック・リムでしたっけ。なんか予習するとか作者さん言ってらっしゃったしｗ

しかし、ここで登場した巨大生物。我らが主人公蟲の姫たるシルバーロータスの眷属なわけですけれど、これがロブスターなんですよ。海の甲殻類。彼女の操る蟲って、厳密には昆虫ではなく節足動物なのがこの例からもわかります。ダンゴムシなんかもあれ、昆虫じゃないらしいんですけれど、シルバーロータスのファミリアとしてこの巻でだったかな、登場しているように、昆虫に限らないんだなあ。
ってかこいつ、懐かしの昭和怪獣エビラだろ。絶対エビラだろ。

さらに人よりも巨大なイナゴの空も陸も埋め尽くすような途方もない群れに、暗所には巨大なマダニの大群。さらには、ガチでプラズマを発生させるというとんでもな能力を持っているテッポウエビ（マジで）をそのまま巨大化させたら、そりゃあたり一面焼き払うプラズマバーストも発射できますよね、という……自然の生物やべえよ。なんで普通のエビがプラズマとか発生させられるの！？　そんなん巨大化させたら普通に怪獣になりますよね。ガメラじゃないんだから、普通の巨大生物がプラズマ火球とか発射するのどうかと思うんですけど！！？
ウンカのごとく飛来するトノサマバッタの群れが、手当たり次第インクブスたちを食い散らかしていく。市街地で必死に逃げ隠れしながら生き延びようとする連中が、見つかり次第食いつかれ、かじり取られて踊り食いされていく。そんな光景が街の至る所で繰り広げられていく。
という、なんというパニックホラー。

―この日、大陸を跋扈する人類の天敵は、捕食者と遭遇した。―

これ、襲っている側が全部味方で、襲われて逃げ惑っている側が人類を蹂躙し侵略しこの地球を地獄に変えているエイリアンたち、という逆転現象がほんと、毎回繰り返し言ってるんだけれどわけわからんテンションになるんですよね。感情がバグる。
この怪物、エイリアン、侵略者であるインクブスたち。人間たちを嬲り、女性を苗床にして、尊厳も何もかも踏みにじる鬼畜外道なんですけれど、戦士としては勇気もあり仲間を思い身を挺して守ろうという誇りもあり、ただ蟲たちに襲われ悲鳴を上げて逃げ惑うだけの餌ではないんですよ。必死に抗い、健気に戦い、献身を持って味方に尽くそうとする本物の戦士たちでもある。ただむざむざとやられるばかりのヤラレ役ではなく、雄々しく戦う兵たちなのである。
でも、鬼畜で外道で同情の余地のない人類の敵でもあるわけで。
普通ならこの蟲たちみたいな圧倒的な大群に蹂躙されながらも、必死に抵抗する兵士たちって人類側なんじゃないですか。どうしても、見ていてそのやられ方の悲惨さに目を背け、苦みを感じ、苦しさを感じてしまうものなんですけれど、それが一切同情する余地のない、人類じゃない悍ましい怪物でしか無い敵が相手、というの、ほんとこれが蹂躙されていく姿が感情がバグる。
同時に、このインクブスに襲われ必死に抵抗していたウィッチたちや、現地の軍隊。最後の抵抗をしていた米軍の兵士たちや、逃げ遅れた民間人たちみたいな存在は、この虫たちは一切襲わず傷つけず、素通りしていくわけですよ。結果として、殺され踏みにじられ嬲られる寸前だった彼らは呆然と助かった事実を咀嚼できずに立ち尽くし、その目前でついさっきまで自分達を蹂躙していたインクブスたちが、阿鼻叫喚の地獄絵図となって、断末魔の悲鳴を上げながら逃げ惑い、無惨に食い殺されていくのである。
この光景、ほんとなんか他で摂取したことのない感情が湧き出てくるんですよねえ。

とまあ、日本から近い中国大陸には、直接渡海して上陸するもの。イナゴの群れのように飛翔して日本海を渡るもの、とユーラシア侵攻軍の方は直接日本から渡っているのだけれど、さすがに太平洋を隔てたアメリカ大陸の方へは簡単に渡れない。
という事もあって、元々合衆国側からの救援依頼でもあってので、アメリカ軍の輸送機を総動員して、シルバーロータスの大型重量級眷属を搭載して輸送する、という方法に打って出たわけだ。
シルバーロータスに体こすりつけて甘えるカブトムシとか、通常時のあの無機質とも言える行動に対してシルバーロータスに対してだけ見せるああいう求愛行動は、確かに可愛いんですけどねえ。

この戦略輸送機ギャラクシーからの、重量級ファミリアたちの空挺降下のシーンがまた痺れるんですよ。
敵中に取り残された民間人を守って絶望的な撤退戦を繰り広げるウィッチと米陸軍の中隊。あわや全滅という寸前に、制空権などもうないはずの戦場に、低空で爆音をあげながら侵入してくるギャラクシー輸送機。それが通り過ぎた直後、開け放たれた後部貨物室から投下された巨大なクワガタが羽を羽ばたかせながら、インクブスの部隊を踏み潰して着地。そして周囲のインクブスたちをその巨大な双角で叩き潰し、引千切ぎり、両断して、一瞬にして壊乱させる。
それに続くように、次々と輸送機から降下してくるカブトムシやハエトリグモというビルをも上回る巨大な虫たち。さらには、戦場の後方から人よりも大きい軍隊アリの大群が進軍してきて市街地を埋め尽くし、インクブスの軍勢を蹴散らしていく……って、これアリなんかはもうゲームの地球防衛軍ですよ。
地球防衛軍が絶望的な戦いを繰り広げたあの巨大アリの進軍が、今度は完全に味方として現れるんですぜ。もうビジュアルやべえでしょ。テンションやばいですわｗ


ユーラシア大陸とアメリカ大陸。東西の両大陸に、日本から休眠させていた重量級ファミリアを含む大軍を発起し、二正面作戦を開始したシルバーロータス。はたして、本当に個人で、たった一人で幾多の国家を崩壊させ人類の生存領域を僅かなものへとしていった侵略者の軍勢に、大逆襲の戦争を起こしてみせているわけだ。
そりゃ、最強のウィッチたちとされるナンバーズですら、もう呆けますわ。いくら個人でどれだけ強いと言っても、それで戦争に勝てるものではないはずなのに、シルバーロータスだけは本当に世界を相手に戦っているわけですから。
しかも、今まで実質日本を本格的な侵攻から守り続けていたの、シルバーロータスだったというのがわかってしまったわけですしね。
おまけに、あとで実はインクブスたちの住まう異世界の方にも逆侵攻をかましていた。三正面作戦やってた、というのを報告してなくて、バレてナンバーズたちにおいおいおいおい、と怒られ呆れられるわけですけれど。
ホウレンソウはしっかりちゃんといたしましょう。一人でやってた時期が長くて当たり前になりすぎて、当たり前の機微が全然わかんなくなっちゃってるんですよね、この子。
だから、全部自分ひとりで背負って、自分ひとりで責任を果たそうとして、だけれど流石にこのアメリカ大陸とユーラシア大陸の全面侵攻は、負担が多すぎてシルバーロータスは限界を超えてしまいダウンしてしまうことに。
それをきっかけに、シルバーロータス＝東蓮花というのが他のナンバーズにバレてしまうのですが。

でも、普通の展開だと正体バレってこういうケースでは内輪揉めや足を引っ張る味方みたいな要素につながっていきますし、本作なんか実際侵略者側に寝返ってその走狗となっている傀儡軍閥との人類同士の殺し合いも日常的に繰り広げられていますし、インクブス側に捕らえられ洗脳されて敵に回ったウィッチと、ウィッチ同士で殺し合い、みたいな凄惨な戦いも行われていて、生温い世界観どころじゃないのですけれど……。
奇跡的に、と言っていいほどに、この日本に在住するウィッチのナンバーズたちは、シルバーロータスを危険視せず、彼女の功績、これまで彼女が為してきたこと、守ってきたものをシルバーロータス本人以上にちゃんと理解し受け止めてくれるんですよね。
そして、始祖の魔女によってナンバリングされた最強のウィッチたち。そのナンバーズのお茶会と呼ばれる会合に参加する面々が、シルバーロータスを仲間として受け入れるどころではなくて……。
彼女を守るための親衛隊。というよりもこれって円卓の騎士て勢いですよね。人類の最後の砦たる蟲の女王を守る騎士となることを誓うのである。
警戒でも忌避でも嫌悪でもなく、最強のウィッチたちが騎士となってシルバーロータスを守る盾となる、という展開はちょっとこれ予想していなくて、これまた別方向でテンションあがりましたわー。
たった一人で戦い、それを良しとしていた。いや、一人であることを望んでいた、悍ましい虫を操る姫だった魔女が、独りではなくなる。誰かに頼り、ともに戦うことを受け入れる。
シルバーロータスがファミリアから受け取る情報があまりに多すぎてオーバーフローしてしまい、一部ダイレクトコントロールから外れた群体が、インクブスの苗を孕んだ本来救助対象である苗床にされたウィッチや民間人の女性。さらに傀儡となって敵に回っていたウィッチをも虐殺の対象にしてしまい、シルバーロータスの抱く罪悪感、自罰傾向が奈落に落ちかけてしまい、もう自分は人であることを辞めてただインクブスを殺すためのシステムになってしまうべきなのだ、とまで思い詰めかけていたんで、知らず学友でも在ったナンバーズの子らが必死に止めてくれたの、本当に良かった。この主人公、放って置くと勝手にどんどん奈落落ちしていくもんなあ。
闇落ちしちゃってるシルバーロータス信者のアズールノヴァさんだと、そのへんの推しのメンタル救済は自分じゃできないとアズール本人が自認しちゃってるし。
辛うじてこの主人公がちゃんと人として在り続けてたのって、パートナーのレキのおかげなんですよねえ、こうしてみると。たった独りでずっとこの小さな蜘蛛のパートナーは、相棒に糸巻き付けて地獄に落ちよう落ちようとするこの子を掴まえ続けてた。必死に離さず今まで食い止め続けていた、というのがこのレキちゃんの健気っぷり、献身さ、真面目で落ちこぼれだと思い込んでて自分に自信が持てないタイプなのが一目瞭然なのに、何かと自分のパートナーに人らしい生活を送らせようと頑張ってて、めちゃくちゃ頑張り屋のいい子なんですよねえ。この手の魔法少女のパートナーキャラの中で、一番好きかも知らん。一番愛しく思ってるかもしらん。

今回は大画面で見たいような、怪獣映画さながらのど迫力のシーンの連発に、孤軍奮闘する部隊の絶体絶命のピンチに、巨大生物が現れるというテンションの上がる展開、と見ていて上がりっぱなしだったのですが、さらに今回はシルバーロータスを守るためにナンバーズのウィッチたちの活躍も盛りだくさんで、見どころの有り余る巻でありました。お茶会のウィッチのメンバーのデザインも、カラー口絵でしっかりと描かれて、どんな姿かもちゃんとわかりましたし。いやゴルトブルーム、表紙絵にもなってますけれど思ってた以上にこう……女神様感あって凄いなあ。
プリマヴェリテは、見た目女騎士っぽいのに肉弾格闘タイプなのか。逆に見るからに魔女っぽい見た目のダリアノワールが銃が得物で、と意外と見た目そのままじゃないのが面白い。
ベニヒメも変身後の見た目の妖艶そうな印象と中身の本人のキャラクター、結構違ってるのなんかツボにハマるなあ。




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