【宰相の器を持つ小役人の、辺境のんびりスローライフ ２ ~出世できず左遷されたはずが、なぜか周りから頼られまくっています~】 あわむら赤光／TAPI岡 DREノベルス
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帝国中央から辺境の小役人へと左遷されたゼン。引き続き皇女エリシャや大狼キールと一緒に、のんびり田舎を満喫していたところへ、女騎士ミナが現れる。隣県で行われる式典でのパートナーを、ゼンに頼みたいというのだ。エリシャたちの旅費も出るし、公務扱いでいいという話を聞いて、家族旅行がてら二つ返事で引き受けることに。だが現地の不穏な空気を感じ取り、近隣一帯への悪影響を鑑みたゼンは、引いてはエリシャの暮らしを守るために、職分を超えて調査を開始する――
「あくまで“僕一人でできる範囲”だけどね」
超有能小役人の、頼られまくり辺境スローライフ第二弾登場!!
平和な辺境の村の役人になったゼンだけれど、平和で田舎な村なんてのは早々事件が起こってたまるものか、という場所であり、そこでポンポン大きな事件が起こってしまうと悪目立ちしてしまって、折角正体隠して匿っている皇女エリシャがここにいることをバラしてしまうようなものなので、何度も事件なんて起こっちゃだめなのである。
でも、事件でも起こらないと折角の宰相の器を持つスーパーゼネラリストである主人公のゼンが、そのあらゆる方面に精通した力を発揮する余地がなくなってしまう。今だと村役場の仕事を昼前に終わらせて、午後にはさっさと帰って来る、というくらいにしか能力使ってませんもんね。
まあゼン本人としてはそれが本懐なんでしょうけれど、それだと何の話も進まない。いや、昨今だと本気で何事も起こらなくてガチのスローライフを送ってしまう作品もあるし、それでべらぼうに面白い作品も勿論あるんだけれど、本作とはやっぱり方向性が違うわけだ。
つまるところ、物語は事件を欲している。しかし、この田舎の村では事件は起こらないし、なるべくなら起こさないほうがいい。
ならば、事件が起こっても構わない別の土地、地元と違う地域に出向いて事件に巻き込まれればよいのだ、という真理に辿り着くのである。
というわけで、先の捕物で友誼を得た女騎士ミナに壊れて、隣の領地の代官が主催で開くパーティーに、ミナの異性のパートナーとして休暇を兼ねて参加することになったゼン。表向き娘として一緒に暮らしている皇女のエリシャも連れての、ついでに親友である大狼のキールも連れての旅行である。
……いや、キール連れてくの無理ない？ 馬車と大して変わらない大きさのでっかい狼の姿をした神獣なのに、わりと「大きな犬です」でまかり通ってしまっているんだが、いいのかこれ？
大らかな世の中である。
まあそれはともかくとして、中央でエリート官僚として働いていたときはとんと経験することのなかった、元の職場の人達に快く送られての長期休暇を堪能するゼンと、そもそも旅行なんて出来る立場になかった皇女であるエリシャは、ミナと親密になりながらこの家族旅行を楽しむのだが……。
その隣の領に近づくにつれて、不穏な空気が流れてくるんですね。
なんかもう、あからさまにパーティーの主催者である代官が、こいつろくでもない悪代官じゃね？ という状況証拠がどんどんと積み重なっていくのである。
それはもうあからさますぎて……これ実はミスリードなんじゃないの？ と、思わず疑ってしまうほど。肝心の主人公のゼンですら、顔をしかめながらも、自分の偏見もありそうで予断は禁物禁物、と自分に言い聞かせているものだから、ワンチャン実は事情があって悪代官っぽく振る舞っているのだけれど、ほんとに事情があって実はそんなに悪くない悪代官だったんだよ、ワンチャン。
という可能性を考えてしまったじゃないか！
課している税金をガンガン安くしていたり、と何気にそこに住んでいる領民たちには人気だったりして、悪くは見られてないみたいでしたし。
いやでも、それってただの人気取りで資産食いつぶして破綻の道にまっしぐらじゃないの？ と、ついつい疑念を募らせてしまいつつ、いやいやこれも一時的な経済の活性化とか、理由があってしているのなら理由があるんだろうし（構文）、みたいなワンチャンなにか事情があっても不思議ではないような、そうでもないような雰囲気を匂わせ続けているものだから。
どうしても、ワンチャンス悪代官じゃないよ、という可能性が目の端にちらついてしまって、最初から最後までブレずに水戸黄門ばりの悪いやつの悪い所業を暴いて成敗、という定番の流れになってしまい気分的にダレてしまう、ということにはならず、僅かな可能性があるんじゃないかと。あいつ絶対悪代官だよ、という展開はミスリードで実はちゃんと思惑があってそういうしょうもない悪代官ムーヴしているやつだったんだ、という話なのかも、という微妙な緊張感というか身構えが続いていたものですから、ある種集中力を切らさずに、悪代官の正体見たりの終盤の場面まで読むことが出来ました。
このもしかして、をチラつかせて緊張感を失わしめない構成は、ダレないためにも大変良かったと思います。
でも、案の定やっぱり状況証拠通りに小物の思い上がった悪代官でした、とさらにもう１８０度回転させて正位置に戻した展開で来られると、ゼンくんと共に真顔でスンとなってしまいますよね、これｗ
いや、それが悪いってわけじゃ全然ないんですけれどね。むざむざと引っ張られたのはこちらですし、正直ベタな展開にも関わらず思う通りに振り回されて、やられた感を味わわせられましたし。
結局小物の小悪党かいっ！という。
お約束を逸しない悪代官ストガに対しては、期待してやったのにこいつめー、と白い目を向けざるを得ませんが。もうちょっと大物の悪党になれるよう頑張れよ、てなもんで。
こいつを裏から操っていた隣国の黒幕がそれなりに出来そうな人物だっただけに、なおさらに。
さても、大きな国の各地をそれぞれ貴族領主に任せるのではなく、中央から派遣された官僚が赴任して統治する、という形式の功罪両方を見せてくれるような話でもあり。官僚というのは、上がしっかりしていないとどうあっても下に流れてしまうんだなあ、というのがよく分かる話でも在りました。
いやあでも、公営でも民間でもこんなに長く清廉で自浄が効き続けることの出来る組織国家はまず存在しないですよ。この帝国がそうで在り続けられたのは、外部機関であるドラゴンが見張り続けていた、という要素があるのは注目点でもあります。
このまま行くと、現在の皇帝の無分別な治世によってドラゴンリセットがカマされそうな流れなだけに、皇帝の無能と暴政によって国ごとドラゴンにぶっ壊されては敵わん、とまともな人達が動き出している、というのはこれ何度もこの国では繰り返されていた光景なのかもしれませんね。
これ、行き過ぎると都合の悪い君主は押し込めだ、と頻繁に上が交換されるひどい流れになってしまう可能性もあるのですけれど。ローマ帝国なんかの崩壊もこんな流れがあったみたいですし。
さて、現在の皇帝が引きずり降ろされた場合、代わりに擁立されるだろう継承者筆頭であるところの、先代皇帝とその后。ゼンの親友であった夫婦の娘であり、今はゼンを表向き父親として慕うエリシャ皇女。
彼女としては、ゼンの事は全く父親として見ていなくて、異性として見ているみたいなんだけれど、もし皇帝になった場合はどうするつもりなんでしょうね。配偶者として引っ張り込むまで、そのつもりは持っているのだろうか。今はそこまで先まで考えていなくて、或いは考えないようにしていて、今の時間を楽しんでいるのか。
とりあえず、今のところはゼンの方はエリシャを親友たちの子供として、本当に我が子みたいに思って扱っているので、なんか全然異性としては見られてなさそうなんですよね。エリシャの方も存分に甘えてはいるのだけれど、なんか父娘としての形が馴染んできてしまっている気もするぞ。
どうにもミナの方が自然と年齢や立場もあって、女性として距離感縮めている気がする。エリシャも最初ライバルとしてミナの事意識して牽制していたにも関わらず、ぐいぐい仲良くなってしまってなんか娘としても友人としても、応援してやるかー、みたいな気持ちになっちゃってるし。いやエリシャさん、自分で自分に娘ムーヴ強いちゃってますよ、それｗ
わりと、友達になろうというミナさんの言葉が、皇女として友人を持てなかったエリシャに刺さっちゃった感もありますし。
さて、何となくこの２巻の幕引きの仕方、お話を綺麗に畳むべく場を整えるような終わり方をしていたので、場合によってはここでおしまいになっても支障はないようにしてあったあたり、ベテラン作家の丁寧さを感じるのですが、一応３巻の可能性はあるみたいなんですよねえ。
そうなると、もう一度帝都に戻る、なんて展開にでもなるんですかね。やっぱり田舎の村では話広がらなさそうだし、わりとあっちこっちの土地に出向くような伏線も垣間見えるんですよね。どこにでも出没する釣りの師匠とか。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
