【エリスの聖杯 ５．モイライの天秤】 常磐くじら／ 夕薙 DREノベルス
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『汝、誠実たれ――』
<あらすじ>
一連の事件後に王家の威信がゆらぎ、王国内で聖女信仰の過激派が勢力を伸ばす中、コニーはミラー男爵と名乗る政商から、過激派をけん制するため「不誠実な」方法での協力を要請される。怒れるスカーレットが撃退するも、やがて『初代パーシヴァル・グレイルが聖女を殺したのだ』という噂が世間に流れ始め、コニーは周囲から非難を浴びることに! そんな中再び現れたミラー男爵は、事態を鎮静化させるため、コニー自身が聖女になることを提案しはじめ!?
過去と現在が交錯する令嬢サスペンス・ファンタジー、待望の完全書き下ろしで登場!!
【エリスの聖杯】４巻まではGAノベルで出版されていたのですが、DREノベルスの方に移籍しての新作５巻発売になったんですね。改めて１巻からDREノベルスで新装版として出してらっしゃいます。さすがに、そっちまでは手が出なかったですけれど。
そう言えばGAノベルの４巻は電子書籍限定だったんでしたっけか。
この巻最後まで読んでみての感想なんですけれど、これもう一度４巻と合わせて読んだ方がいいのかもしれませんね。
４巻では裏切りの皇女コーネリア・ファリスの足跡を追え、みたいなスカーレットの先祖と彼女の一族の血の流れがスカーレットの処刑まで繋がっていて、ある種の現在まで深く因縁続く歴史の真実を紐解いていく話になっていたのだけれど、あくまでコーネリアの時代の事は現代のコンスタンスとスカーレットの調べたコーネリアが残したと思しき事跡から推察するしかなかったのだけれど……コーネリア、自己中の悪女とぼろくそに言われてましたしね。スカーレットそっくりだな、とコニーたちがみんな思ってたのは秘密だぞ。
それは置いておいても、まあ実際のコーネリア皇女の人柄、人となり、何を思ってコニーたちが見つけた事跡を残したのか、というのは現代からは想像する他なかったわけですけれど。
この５巻では、コニーたちの現代編と同時にコーネリアを主人公とした当時の彼女の物語がしっかりと描かれるので、４巻で見つけたコーネリアの事跡の意味やそこに込められた思いなんかが５巻を読むことではっきりとわかってきて、めちゃくちゃ解像度あがるんですよ。ああ、これってそういう事だったのか、というのがもう一度読んでいると何度も行き当たる。
改めて４巻の方も読み直してみるのが吉かもしれません。
さても、コーネリアの時代に名を残した聖女アナスタシア。神ではなく、かの聖女を崇め奉る聖女教なる宗教団体のさらに過激な一派がテロ活動を激化させるなか、手段を選ばない事犠牲を厭わない事を臆面もなくむしろ誇るように開き直ってやりたい放題するミラー男爵というフィクサーに目をつけられ、あなた利用価値めっちゃあるので利用しますね。あなたの意見は聞いてないので、お構いなく。という感じで一連の事件によって有名になっていたコンスタンスは、その知名度を一方的かつ好き勝手に利用されまくることになる。
最初は爆破事件の犯人にまでさせられそうになっていたので、放っておいたら偉いことになっていたかもしれない。最初にスカーレットがガツンとやったのと、カスティエラ公をはじめ偉いさん方が、てめえこの子にいらんことしやがったら海に沈めるぞコラっ、くらいの勢いで怒ったんでしょうね。スカーレットの件で上の都合で利用され潰される、ということに関しては地雷そのものだったでしょうし。
さすがにそれで直接被害を食らうような真似はなくなったものの、遠回しに迷惑と面倒を振りかけられた挙げ句にコチラから首を突っ込まないとただでは済まない状況をプレゼントしてくる、という悪意極まる展開が仕掛けられ、えらい目にあいまくるコニー。
ここで嫌らしいのは、コニーに直接手を出してこないので、向こうからすればグレイル嬢が向こうからクビを突っ込んだのだからこっちは関係ありませんよ、という言い訳が聞くようになっているところでしょう。さらに、コニーが謀略の巻き添えを関係ない人達が食う羽目になるのを必死で回避するように立ち回ったとしても、それはそれでミラー男爵からするとどっちでも利益になるよ、という状況を仕立てているので全然困らないわけだ。
見ててムカつくどころじゃなかったんですけれど！？
ただ恐るべきは、あのスカーレットをしてこのミラー男爵の暗躍に対して効果的なギャフンと言わせるような釘を刺せなかったところでしょう。最初にガツンと舐めたことしてんじゃねえぞ、とカマせたのは良かったんですけれど、それ以降スカーレットでもどうにも口を差し込めない絶妙というのも嫌らしい塩梅で暗躍してましたからねえ。
とはいえ、今回に関してはあの以前は誠実が過ぎて口撃らしい口撃も出来なかったコニーが、スカーレットの口を借りずに口車に相手を乗せてこっちの思惑側に引っ張ったり、向こうが強く迫ってきても一歩も退かずに立ち向かったり、とよかれ悪しかれスカーレットの影響を受けて人格強度強くなってるっぽい所が散見できて、いやあ頼もしくなってきたじゃあないですか。スカーレットもこれはきっとご満悦ですよ。
しかし、一方でミラー男爵はコニーに対して、誠実を家訓としてきたグレイル家の祖であるパーシヴァル・グレイルがかつて聖女アナスタシアを暗殺した疑惑を提示し、コニーの、グレイル家の誇りをぐらつかせてきたわけで、今回の聖女アナスタシアの真実を追う展開にはグレイル家の成り立ちを明らかにする事も重ねて加わっていくんですね。
『汝、誠実たれ――』コニーを苦しめ、そしてその心を支え続けたグレイル家に伝わる家訓。果たしてそれが、どのような意図を持って子孫へと送り出されたのか。
聖女アナスタシアとはいかなる人物だったのか。そして、裏切りの皇女コーネリア・ファリスはどのようにこの歴史に関わっていたのか。
そのあたりは、ダイレクトにその時代の当事者に伺ってみましょう。御本人のコーネリア・ファリスさん、どうぞー。と、ばかりに並行して描かれるコーネリアが主人公の過去編。
いきなりパーシヴァルという堅物の生真面目そうな従者がワンコみたいにコーネリアに付き従っていて、パーシヴァルいきなりここにおるやん！！ からはじまる過去編。と、思わせといて、これあれ終わってみるとわかるんですけれど。確かに、パーシヴァル・グレイルは最初の場面からコーネリアと一緒にいたんだよなあ。
いやあ、この過去編面白かったですわ。全然思っているような展開にならず、意表を突く流れから突然の思わぬ状況の決壊。そこから浮かび上がってくる、グレイルの誠実の発端と、聖女アナスタシアの真実。それはそれとして、相変わらずぶっちゃけすぎな幕間幕間に差し込まれる登場人物紹介に託つけた毒舌コメントの数々。
エリスの聖杯という作品のセールスポイントの一つとして、この登場人物に対するコメントがあると思うんですが、今度この作品アニメ化するそうですけれど、このキャラクターに対するコメントはなんか上手いこと差し込んでほしいなあ。CMの際のアイキャッチとかでやらんかなあ。
コーネリア皇女、スカーレットと似てる部分もあれば全然似てないところもあって、ご先祖だからといって別に生き写しとかではないよね、とは思ったんだけれど……あの泣かない所は似てるよなあ、と思った。うん、思った。
それはそれとして、散々嫌がらせめいたことをしてきたミラー男爵に対して、まだスカーレット豚のような悲鳴をあげさせられていないんだけれど、いいんですか？それでいいんですか、スカーレット！？
というわけで、あいつはいっぺんホントに痛い目見せないとダメですよね？という大変大きな理由があるので、次の巻早くしないとｗ
いや、アニメ放映に合わせて送り出してきますかね？
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
