徒然雑記 : サンバカ!!!　★★★☆

【サンバカ!!!】　助六稲荷／しずまよしのり電撃文庫

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面白おかしい旅に出よーぜ!!!

「私の名前はイグニス・ファルフレーン。かつて世界を治めていた聖女です! が、能力を九十九分割されて封印されてしまったので探してる真っ最中です!」
「何言ってるのかわからないと思いますが、とりあえずアイテム探し系ロードムービーだと思ってください。どうも、主人公のネモです」
「うらぶれた街で腐るチンピラ・ネモくんが清楚で巨乳でS級美女の私と出会い、旅に出る! これはえっちな予感がしますよぉ!」
「……見ての通り、基本的に聖女なんて名ばかりな、ただのバカです、ウチの相方は」
「そんな我々が、巨大な亀の中にある街やら、バニーガールがわんさといる永遠の祝祭やらに乗り込むわけですね!」
「ケツと器のデカい獣人の姉御を道連れにしたりしながらな」
「ネタバレすると道中では臓物の雨が降り注ぎ、ラスボスは黒ギャルです!」
「破天荒な聖女とチンピラと獣人の旅が、第31回電撃小説大賞《銀賞》を受賞して刊行!」

あらすじ全部台詞で埋めよった。
「サンバカ」とはつまり「三馬鹿」って事ですね。不老不死の聖女とチンピラ、そしてケツデカ捜査官の三人が繰り広げる、ドタバタハイテンションロードムービーってなもんで。
なんだろう、この３馬鹿って頭の悪い馬鹿という意味じゃなさそうなんですよね。三人とも常識知らずでも頭オカシイ訳でもないみたいですし。
敢えて言うなら、馬鹿になり切って一生懸命この不条理な世の中を楽しんで面白おかしくやってこう！と頑張ってる感じなんだよなあ。
だから、ふと気を抜くと正気に戻って、重苦しくハードなばかりの現実に押しつぶされそうになる。抗うには、心から馬鹿になって勢い任せにはっちゃけて、脳内麻薬を爆発させてハイになって楽しい気分で後押しして、突っ切っていくしかない。
悲壮感とか後ろから突かれて、みたいなそうしないと潰れてしまうからみたいな後ろ向きな気持ちで馬鹿になりきってるわけじゃなくて、覚悟と気概と奮起をもって馬鹿になってるという決意と前向きな感じをさせてくれているので、そういう意味ではやる気を感じさせる馬鹿具合だ。
さらにこの３馬鹿のうちの二人。シスター姿の聖女イグニスとチンピラのネモは、きっかけは勢い任せかもしれないけれど、その場のノリもあったかもしれないけれど、歴とした恋人同士に出会ってわりと早々になっちゃうんですよ。馬鹿になっている以上、ぐだぐだ難しいこと余計なことは考えず……いや、結構立ち止まって考えそうになるんだけれど、それでもパートナーがいれば。惚れた相手がいてくれるなら、立ち止まっても沼にハマって沈もうとしても、手を差し伸べて引っ張り上げてくれる。落ち込んでも、抱きしめて愛を囁かれればテンションだってあがるでしょう。そうやって、お互いを補いあって、バカを続けられる。
この手の作品で、へんに誤魔化さずに真正面から情熱的なバカップルになってしまうケースは珍しく、好きだからそいつの為に小難しい出来ない理由をひねり出さずに、好きだからそいつの為にやれるんだ！で、重苦しい展開だろうとしんどい過去だろうと切り開いて突っ切っていける、というのはやっぱり痛快なんですよ。たとえ演じてるバカだろうが、やりぬきゃあ立派な馬鹿野郎だ。バカ同士で手を取りあってしまえば、どんな苦しい現実だって気が付かずに通り過ぎることが出来る。
将来に展望があるわけじゃない。目的があっても、それを叶えるにはあまりにも高いハードルが待ち構えていて、二人一緒にハッピーエンドなんて足掻いても足掻いてもたどり着けないだろう。
でも、バカは先のことなんか考えないのだ。いや、考えてるよ。考えてるから、イグニスの目的を叶えてあげるために二人でわっしょいしてるんだけれどさ。でも、それが達成できるかそういう事はまあこの際どうだっていいんだよ。面白おかしく楽しくやろうぜ。気持ちよく、気分良く、良い事をして悪いことだってして、後味が悪くないように、自分のなかでスジが通るように。
そうやって生きていけば、人生ハッピーじゃないか。そんな、ある種の刹那的な生き様は、コメディタッチのボニー&クライドを何となくだけれど、想起させられた。
まあボニー&クライドと言っても、二人共だいぶ善人寄りですし、馬鹿やってますけれど中身真っ当だからなあ。そういう意味では安心して見ていられる。相手を思い、悪い方の馬鹿にならないように支え合い引っ張り合う関係に、既になっているのですから。
それに、仲間みたいになる捜査官の色っぺえケツデカ獣人のガガガ姐さんも、真っ当な秩序の番人なんだけどね。でも、法よりも情を重んじちゃうあたりは、彼女も馬鹿に徹してるよなあ。
とはいえ、これサンバカなんだけれど、あんまり三人一組という感じで動かず、ガガガ姐さんほぼ独自に動いていたので、トリオ感今のところあんまりなかったんですけどね。話が続けば、サンバカらしくなっていくんだろうか。

ともあれ、何となくこのコメディやギャグのノリやテンポが小説や漫画で見るそれとは結構違った感じだったんですよね。近しいのは、映画とか洋物のコメディ作品って風情ですか。言い回しのくどさとか、脚本を設定時間以内にやりきる、みたいな台詞の速さに時計の計測を感じさせるようなリズム感は、ライトノベル界隈ではあんまり見たことのない独特の雰囲気があって、これはこれで味わい深いものがありました。たんに会話がくどいとか、勢いが一定とか、脚本通りに喋ってるだけ、みたいなのだったらコメディなんて眠くなるだけですもんね。でも、本作は妙な牽引力があり、没入感があり、一生懸命さ故の思わず注視してしまうキラキラがあり。
新人作品ならでは、って雰囲気でもあります。この微妙なぎこちなさと熱量が同居しつつ、スムーズさや滑らかさが足りずに熱伝導率悪そうな感じで、でもガンガン叩きつけてくるからちゃんと伝わってくるよ、みたいな感覚がある感じ。
特に本作みたいなのは、一巻目である程度下地が整い、２巻目でいかようにも変化と充実が訪れるので、次読んでこそどんなタイプの作品に結実していくのかわかることが多いんですよね。だから、続き楽しみです。