【冒険者アル ３ あいつの魔法はおかしい】 れもん／sime TOブックス
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飛行呪文を手に、冒険者アルは古代大魔法使いテンペストの研究塔へと出発した。辿り着いた先で待っていたのは、超先進的な魔道具やゴーレムの山！
大興奮するも……大半が動力不足で動かず、使い方も謎だらけ!? 未知の技術を蘇らせようと試行錯誤した結果、自我を持つ王家伝来の魔道具【アシスタント・デバイス】が喋り始めた！ 『彼女』が話す「古代国家滅亡の真相」は、パトリシアの祖国の情勢を揺るがす代物で……？ 250年前の魔道具【タイムカプセル】には秘密がいっぱい！ 謙虚堅実な少年が“古より今を創る”王道ロードファンタジー第三弾！
天空の研究塔、もう天空になかったよ！ 地上に落ちちゃってるじゃないですか！
幸いにして殆ど人が寄らない場所に落ちていて、噂にもなっていないみたいなのですけれど、パトリシアを匿う場所としての安全性がガクンと落ちたのは間違いない。
空に浮かんでいるのなら、そもそも辿り着く人間が飛行の魔法を使える魔法使いくらいしかいない事になりますからね。
しかし、どれだけの僻地でも地上にあるなら歩いてたどり着けるし、実際盗掘や魔物の襲撃はそこそこあったみたいで、守備についていたゴーレムが長年の防衛でけっこう破損していたり、と不安要素はなきにしもあらず。
まあそれでも、転移の陣が敷かれていてかなり自由に遠方まで行き来できる、というのは大きい。アルも研究塔に引きこもっているわけにもいかず、パトリシアの行方を偽装するためにもあっちこっち顔を出さないといけないわけですしね。それなのに、パトリシアを置き去りにしたまま、というのは彼女の安全性だけじゃなくて精神面の考慮しても、あまり宜しくはないですし。
ともあれ、亡き妹に似た人格を付与されたアシスタント・デバイス「グリィ」の様々なサポートを受けられ、古代の大魔法使いテンペストの遺構を受け継ぐマラキ・ゴーレムから古代の知識を託され、実践に当たっては教科書にない独自のアレンジを現場の状況に合わせて応用できるアルの発想と小器用さが合わさり、本格的に大魔法使いの道を歩み始めてるなあ、アル。
古代の技術の踏襲だけじゃなくて、あくまで個人的にあれこれと魔法の応用、改造、使用法の開拓が出来る、なにより魔法が大好きで好奇心の塊でもある魔法バカだからこその、魔法使いとしての躍進だよなあ、とその活躍を見ながらしみじみと思う。
魔法バカなんだけれど、ちゃんと優先順位はつけられますしね。そりゃ、未知の古代遺跡を眼の前にすると周りも見ずにバンザイしながら走り出したり、とりあえず収入があったら限界まで呪文のスクロールを買い漁ってしまう、という悪癖はありますけれど、それで誰かを蔑ろにしたり後回しにしたり、という事はしませんからねえ。
めちゃくちゃ良い子、というのは常に言動から伝わってきます。
その活躍から飛躍的に周囲から注目を浴び、市民から指示を得て評判高くなる一方で、政治や嫉妬に巻き込まれ信頼できる味方が少なく、それでいて色々と仕事を押し付けられたり、トラブルに対処しなければならなかったり、とかなり心身ともに疲弊しているだろうナレシュくんが、アルの存在に癒やしを感じてるっぽいのもよくわかるんですよねえ。
ただでさえメチャクチャ役に立つし、率先して助けてくれるし、必要なことだけじゃなく親身になって心配してくれて、あれこれ気を配って融通してくれるし。ナレシュの立場や能力、出世スピードとかを見てるんじゃなく、かつての学友として、友達として、純粋に友情厚く手を差し伸べてくれる、というのは嬉しいですよ。疲弊しているときなら尚更に。
アルだけじゃなく、わりとナレシュくん世代の学校の学友たちは、卒業後も仲良くて立場や身分抜きにしてあれこれ助け合ってるんですけどね。ナレシュとしては、貴族としての味方はあまり多くなさそうだから、学友たちの助けや気持ちはほんとにありがたいんだろうなあ。
かくいうナレシュくん自身も、実に友情に厚くそもそもナレシュくんの方から先にあれこれと手を差し伸べてくれるような人だからこそ、信頼に対して何倍も増やして応えてくれるような人だからこそ、かつての学友たちみんなナレシュのためなら、とあれこれしてくれるんでしょうけれど。
アルも、ナレシュの活躍を耳にすれば我がこと以上に喜んでますしねえ。
いやあ、アルもナレシュもほんとにいい子なんで、二人の友情は見ていて尊いです。親友というほど近しい関係ではないからこそ、お互いに対する深い信頼と、何とか相手の力になってあげたい、とする姿に眩しさを感じてしまうのでしょう。
尊い。こういうのを尊いというのですね。尊みを感じるっ。
アルが着々と大魔法使いへの道を歩んでいる一方で、ナレシュの方も合戦での活躍から戦後の治安維持でも地元住民と難民の両方から大きな信頼を勝ち取って、汗だくになって走り回りながらも頻発するトラブルをしっかり収めて高い評判を得たことから、中央の政治の駆け引きの只中に放り込まれて、と立身出世の大波に揉まれていて、こっちももう一人の主人公みたいな波乱万丈の立場にあるのが面白い。
本来ならナレシュとしては、アルに側近になって貰って側で助けてもらえるのが一番いいんだろうけれど、でもナレシュくん、アルには対等な友達で居て欲しい素振り見せてるんだよなあ。アルから畏まった態度取られたり、閣下呼びされると正式な場でも露骨に寂しそうにするし、プライベートではやめてとお願いしてくるし、なんなら君呼びしたらめちゃくちゃ嬉しそうにするしで……かわいいなあ、この人！！
アルとしても、ナレシュの力にはなりたいけれど宮仕えにはとことん興味がない上に、今は隣国の内乱から亡命してきた上で政争の渦中に置かれ暗殺までされそうになったことで、ついでに政略結婚とアルへの恋慕ゆえに、逃げ出さざるを得なくなったパトリシアを匿っているだけに、正式に仕えるとかは出来ない相談なんですよねえ。
ってか、思ってた以上にパトリシアとの道ならぬ恋が本格化してきたな。というか、パトリシアの本気度が思ってた以上であり、本来なら身分違いの恋なんて認めないだろう周囲が、パトリシアの微妙な立ち位置も相まって本気で同情的であり、結構認めてくれてるんですよね。というか、アルが二の足踏んでいる頃はむしろ周囲の人達から姫様のお気持ちをちゃんと受け止めてあげて、というプレッシャーを与えてきてたくらいですし。
今回、内乱から生き残って亡命貴族の中に紛れていたパトリシアの乳母、になるのか？ 実質育ての母親的な男爵夫人の生存を、ナレシュ側から教えられて、パトリシアのもとに導いてあげることが出来たのだけれど、その母親的な人物タビーママもパトリシアの気持ち優先でアルのことは認めてくれてるみたいですし。
……これ、今のところアルは何も考えてないと思うのですけれど、ちゃんとパトリシアを何らかの形で迎えられるだけの立場や身分を獲得していく流れに乗りはじめているんじゃないだろうか。
実は魔法使いとしての研究実績、古代文明の遺失技術の発掘、戦場での武功に隣国の謀略の阻止に貢献、と功績も着々と積み重ねていってるので、将来に向けての名声の蓄え、みたいなのはあるんですよね。
さらに最後にナレシュから新たに得た男爵領の中から土地を報酬としてもらう、もらうというかいいからこれくらいは貰ってくれ、と押し付けられて土地持ちにまでなりましたからね。
住人がいる土地じゃなくて、無人の場所に個人的な研究施設、いずれは塔みたいなものを立てる予定、という感じだから領地ってわけじゃないみたいですけれど、土地は土地ですから着々と流れに乗っているのは確か。これ、ナレシュくんの出世と連れ立ってアルも何らかの立場を得ていくんだろうなあ。
Ａｍａｚｏｎ
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