徒然雑記 : 口もききたくないあいつと、自習室で甘い筆談　★★★☆

【口もききたくないあいつと、自習室で甘い筆談】　持崎湯葉／さぼてんむし MF文庫J

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喋るとバチバチ、筆談ではいちゃいちゃ。宿敵を演じる二人の裏表ラブコメ!

柊ヶ丘学園の生徒会と部活連合は対立関係にある。
特に生徒会長の「冷徹メガネ男」東口真北と、部活連総代の飄々としたカリスマ女子・西丸何南は両陣営を代表する宿敵。
顔を合わせれば口論する日々を送っていた。しかしある日の放課後、東口がひとりで通う学校の自習室に西丸が訪れる。
身構える東口であったが、西丸がノートの切れ端に書いてきた言葉は、『……てか、付き合ってる人いる?』本当は西丸は、東口と仲良くしたいのであった!
二人は宿敵を演じながら、放課後は自習室で筆談する秘密の関係に。東口が初めて知る、可愛くっていたずら好きな西丸の素顔。
話せば敵同士、紙の上では付き合う目前(?)の恋の行方は!?

厄介ファンはほんと厄介ね！！
あれこれ？　新聞部一番ヘイトを集めつつ、そして当人たちが気づかぬまま目的を達しつつあるということ？
西丸何南の回想を見る限りでは、彼女が東口真北に対して共感と好意を抱きながらもそれを抱え込んだまま持て余していた所で、焦りとともに真北に直接自習室での接触を図るだけの思い切り、踏ん切り、後押しをしたのって、新聞部による生徒会長と副会長のデート報道なんですよね。ただでさえベストコンビにみえる真北と、副会長のなか卯こと中・卯月……なか卯ちゃんのあだ名、いいよね。親子丼と言われると怒るの、いいよね。わりと瞬間湯沸かし器でリード持ってないと突進していく猛犬なの、この場合可愛いよねｗ
まあともかくこの会長・副会長コンビ。ふたりのカップル推しが校内に一定勢力を保っている程の仲の良さで、デート報道もその推し熱に油を注いで騒ぎ立てて盛り上げる目的があった、と思っていたわけですが、そこに何南✕真北を成立させるための遠大な刺激剤となることが目論まれていた、となると知らず二人はまんまとその期待に乗ってしまったわけだ。
……いや、遠大というより迂遠。もう方法が全然思いつかないから明後日の方向めがけて石投げてみました、的なやり方にも思えるんだが、効果があると思えない方法を盛大に前のめりに勢い込んでやらかしてしまえるほど、ロミジュリ的天敵カップル成立に情熱を燃やしている新聞部の部長、狂気だろこれ。厄介ファンの極みだろ、これ。
ただ、その明後日に向かって投げたはずの投石が、投げた本人も当たった本人も全く自覚のないままクリティカルヒットしているのが、面白いなあ。
ただ結果として、何南が誰の期待からも望まれる役割からも外れて、自分の意志、自分の感情、本当の自分、素の自分の想いに従って、自分の今までの人生、そしてこれからの人生に対しての反逆の意味も込めて振り絞った勇気が、真北と異性的な意味も込めて仲良くなろうとしたことそのものが。
それすらも、誰かの期待、望みに沿ったものだった、という真実はなかなか皮肉がきいてる？　意地が悪い？
まあその真実を誰も観測していない以上、誰の認識の上にもない以上、期待や望みに従ったという事は意味しないと思うけれど。
結局、目立つ人間はどうあろうとしても、どう動こうとしても、様々あるだろう期待のされかたや望まれた役割のどれかにはヒットしてしまう、ということなのかもしれない。

それにしても、会長の真北くん……わりとチョロい？
いや、うん。元々、生徒会長と部活連合の対立というのは学校の歴史が紡がれていく上で伝統の名のもとにエンターテイメントとして据え置かれてきたものらしく、まあ生徒会長と部活連合の総代はバチバチやりあうものなんだ、というのが共通認識となっていて、それを生徒や学校から期待されているもの、だったらしい。
だから、二人共役割として対立はしているものの、個人の感情としてはそもそも最初から別に嫌っているとか天敵意識を持っている、というわけじゃなかった。タイトルでは顔も見たくない……までは言ってないか。口もききたくない、とかなり強めに言っているけれど、立場離れれば別に特に思うところなかった、というのが本当の所だったんですね。
ただ、真北にしても何南にしても、これまでずっと周りに期待された自分を演じてきた。周りからは望まれないだろう自分のほんとうの姿、本当の気持ちは奥の方に押し込めて生きてきた。それが当たり前になりつつも、ややも窮屈にしんどく感じるようになっていた似た者同士ではあったわけだ。
真北が、誰に居ない自習室に引きこもって人目を気にせず口ぶりや振る舞いを自由に紐解いているのも、そのストレス発散の一環だったという。
何南がメガネに対する愛とこだわりから、ガリ勉メガネにも関わらず似合ってないメガネをかけている事から真北の偽装を見抜き……このへん、説明されても意味がよくわからないんだが、メガネ道は奥が深い……真北が自分と同じように周りに合わせて自分を装っている事に気づいたことから、彼に関心を抱き、興味を持ち、共感を感じて、そして好意を芽生えさせてきたわけだ。
最後の一押しとして、新聞報道があったわけだが、何南と違って真北の方は彼女の方にそれほど関心があったわけじゃない。当然、役割上のライバルとしてその動向は注視していたものの、いわば見ていたのは彼女の立場であり演じている役割の方であって、彼女の中身にまでは目を向けていなかったわけだ。
それが、自習室の思わぬやり取り、そして筆談という直接声で話すわけじゃない、思考を挟み返事を考える猶予のあるやり取りだからこそ、相手の意図や考え、思いを文面や書いている時の様子から色々と考えてしまう、思考してしまう、思い浮かべてしまう、というやり取りだからこそ、大いに興味関心を刺激されて、西丸何南という少女について、彼女が自分のことをどう思っているのかについて、そりゃもうメチャクチャ思考リソースを費やすことになってしまったわけだ。
……ふむ、そう考えると相手の何南から、好きの気配を匂わされただけで、思わずこっちも好きになってしまったチョロい男、と言ってしまうのは少々物言いがひどいかもしれない。
そりゃね、男の子は好きって言われたら相手のこと好きになっちゃう生き物だけれど、それだけじゃなくてこう……四六時中相手のことを考えることを要求される状態になったら、そりゃ意識しちゃうよね、という話でもある。それをチョロいと言われてしまうのはいささか不本意であろう、ごめんなさい。
でも、わりとすぐに好きになっちゃったよね、会長さんｗ

まあわかるよ。人目を避けてたった二人きりで個室にこもって、密談なんかしてたらそれだけでもドキドキしてしまうし。お互い、公式には顔を合わせればバトルをはじめる敵同士。まさにそんな二人がこうして親密なやり取りをしているというだけで、なんか危ないことをしている気分になる。別に悪いことでもなんでもないのに、ちゃんと私語厳禁という場所で声を出さず喋らずにいるだけなのに、めちゃめちゃ悪いことをしている気持ちになる。
背徳である。
背徳の蜜の味に、脳内で興奮物質がじわじわと分泌されるのもわかるってもんじゃないですか。

さながらロミオ＆ジュリエット状態である。気分も盛り上がるってなもんだ。

しかし当然、爆弾も抱えている。お互いの公式の立場、ってもんもあるだろうけれど。プレイベート見ても、この生徒会長、身近に親しい女の子抱えすぎである。おい、なんだそのハーレム生徒会は。
なか卯副会長だけでもベストカップルっぽいのに、さらに双子の幼馴染まで役員として加わってるんだぜ。普段、遊びに行くときは四人一緒に遊びに行く、とか言ってるんだけれど、それはそれでほんとアレな状態ですよ！？
さらに、部活連合の方の何南の方にも、その双子の幼馴染の年子の妹の三女が西丸信奉者としてくっついていて、おい幼馴染三人いるじゃないか。カラー口絵で、同じ顔が三人いて、しかも生徒会側にも部活連合側にも同じ顔がいるからだいぶ混乱しましたよ！？　カラー口絵では描かれている人物に名前添えられてなかったんで尚更に！

まあバレたら修羅場である。公式プレイベートまとめて修羅場である。火薬庫の中で秋刀魚焼いてやがるなあ、このお二人。
ともあれ、校内で派手に敵対するニ大組織のトップ同士が結託して、このどうしようもない伝統を終わらせていこう、という目的は健全ではあるものの、裏では同じ生徒会や部活連合の仲間を裏切っているとも言えるわけで、困難を極めるでしょうし、さらにその二人が隠れてイチャイチャしてるとなれば、そりゃもうアレですよ。バレたら大事、やばいですねえ。ワクワクしますねえ。
これもいわゆる背徳ラブコメの範疇に入るのでしょうか。続きの展開が楽しみであります。