徒然雑記 : ＜Infinite Dendrogram＞-インフィニット・デンドログラム- ２１.神殺し　★★★☆

【＜Infinite Dendrogram＞-インフィニット・デンドログラム- ２１.神殺し】　海道左近／タイキ HJ文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス

＜超級殺し＞誕生の秘密が明らかに!!

かつて＜Infinite Dendrogram＞の世界を襲った厄災【疫病王】。
たった一人のプレイヤーによって起こされたその災害は、一つの国とティアンの最高峰たる【勇者】を滅ぼした。対抗策も見つからず更なる悲劇が訪れようとしたその瞬間、厄災唯一の生き残りの少年に依頼を受けた、とある殺し屋が立ち上がる――。
【疫病王】と【勇者】の戦い、そしてマリーはいかにして＜超級殺し＞に至ったのか。その真相がついに今明らかになる！　
超人気VRMMOバトルファンタジー第21巻!

トーナメントで氷使いに当たってイラッときてるルークくん、どんだけユーリの事嫌いやねん、という八つ当たりっぷりである。
使い古された言葉だけれど、好きの裏返しは嫌いじゃなくて無関心、という事から鑑みればあまりに意識し合っているこの二人、ある意味相性が良すぎるって事なんでしょうかね。

さて、今回は大きな話の進展はなく、主にギデオンでのお祭りであるトーナメントに参加するデスピリオドのメンバーたちの活躍……活躍というほどちゃんと戦ってる描写あるの、BBB先輩とルークくらいなんだけれど、一応トーナメントの進行を時間経過の軸にして、現在の各地の色んな登場人物の近況を描く、みたいな展開になってますね。
トーナメントの商品の一つである＜UBM＞のヘイロンが舞台から逃げおおせちゃった、というのがワールドストーリー進行上の要素の一つ、となるのかしら、くらいであまりトーナメント自体は話の進行に関係はなく、特に盛り上がりもなくって感じで。
……主人公のレイとしては、自分の戦い以上にトーナメント勝者が誰になるか、という結果への賭けについに億単位のマネー注ぎ込みはじめてるので、彼としては盛り上がりまくってたのかもしれない。
こいつ、ガチャだけでなくガチギャンブルにまで手を出し始めたぞ、大丈夫か聖騎士。

その他、剣王フォルテスラの帰還に魔将軍ローガンの新たなビルド構築、そして皇国の王クラウディアの仕込み、とデスピリオドの面々以外の登場人物たちの動向、と言っても膨大な人数の居る世界観ですから触れられるキャラクターもごく少数。となると、ここで描かれた人達というのは概ね、次かその次かわからないけれど、先のエピソードで重要な役割を果たすキャラクターってことでしょうか。今回はその撒き餌、次回までの準備回みたいな感じでしたね。

その中に、マリーが超級殺しと呼ばれるようになった所以である史上最もティアンを殺したマスターと言われる「疫病王」をマリーが仕留めたエピソードが回想ながら主体となって描かれている。
……これ、グローリア事件と同レベルの国単位で国民が皆殺しに遭うような大虐殺事件じゃないですか。グローリアにしても、疫病王にしてもあまりにも唐突であまりにも理不尽で、１個人或いは一匹の強大なモンスターが暴れた、というような恐怖や理不尽とはちょっと桁が違ってる。まさに災厄。
この世界、このレベルの滅びがわりとポンポン起こる……いや、ポンポンじゃないけれど、かなりえげつない事件が頻繁に起こるので、復活できるマスターはともかくとして一度死ねばおしまいの現地人であるティアンたちにとって、ちょっと修羅過ぎる世界じゃないですかね？
ある日突然、日常が終わってしまう。家も村も街も国も何も残らない更地になるようなレベルで全部消え去ってしまうような事が、前触れなく唐突に訪れることが度々ある世界って、もう死生観とか価値観変わってしまいそうなんだけれど。
実際、この疫病王の事件でも唯一勇者によって救われて生き残った少年が、まさに精神ぶっ壊された挙げ句にナニモノかにされようとしているし、この世界をゲームと思えないプレイヤーの類は自分が死ななかろうがこの災厄によって、心破壊し尽くされてるわけですしね。剣王のように。
疫病王がヤバイのは、これがゲームだから好き放題しているのではなく、何なら地球にまでこのあらゆる病気を生成拡散できる能力を持ち込めないか、と画策しているあたりで、こういう輩はゲームだから現実だからと区別なくやる。ゲームと現実の区別がついていないんじゃなくて、そういうの関係なくやる。まあこいつ、キャンディ・カーネイジという人物に関しては何やら運営AIすらも上回る上位存在の気配を匂わしているので、完全に厄ネタなんですが。
１９巻でゼクスたちと共に監獄を脱獄したエピソードを見た限りではそこまで話の通じない相手には見えなかったので、ここまで厄ネタなキャラクターとは想像していなかった。今更だけれど、こいつ脱獄させて良かったんだろうか。期間限定とはいえIFに所属していることが一種の楔になっているということかしら。脱獄した途端に好き勝手しはじめるという風でもありませんでしたし。
しかし疫病王、あの広域殲滅能力の理不尽さが痛感させられるエピソードだっただけに。どれほど強くても能力が高くても、近づくだけで生命である以上はどうあっても死んでしまうという理不尽には、＜勇者＞ですら抗えなかったという事実と共に、こんなんどうやっても倒せないだろう、と思い知らせる強迫があったんですよね。
だからこそ、ただ言ってしまえばただ隠れて弾丸を打ち込む、というスタイルであるマリー・アドラーが能力フル全開している疫病王を暗殺せしめたというのがどれほどの偉業か、というのを実感させられる。いくら超級でも負けて殺される事などままあるだろうし、その中でわざわざ「超級殺し」なんて異名を与えられるというのは不思議でもあったのですけれど、これは納得せざるを得ないですね。
同時に、同じ隠蔽系であっても自分ではキャンディの疫病から逃れられない、と自認していたガーベラとの差異も浮き彫りになってくる。誰からも察知されない、という方向性においては似ているこの二人、先々何らかの因縁が生じてくるんだろうか。
そして、あれだけの災厄を振りまいた疫病王ですら、トーナメントで一回戦負けしてしまうマリーに討ち果たされることもある、というこの世界においては相性というのが唸りを上げて物を言うのがよくよくわかるエピソードでもありました。
このあと監獄で立て続けにゼクスにギャフンと言わされた挙げ句に、ハンニャさんに踏み潰されるという怒涛の三連敗を喫するところなんぞも、このへんの相性というものを強調してますよねえ。
どんなスキルにもエンブリオにも、天敵となる相手は存在するかも知れない、というのはホント非常によくできているなあ、と。
とはいえ、頭の出来が違う人達はそれも踏まえて、前提として活動しているのですから恐ろしいことです。
或いはレイくんのあの不屈とは、そういう相性とか想定を乗り越えていくからこそ輝くんだろうなあ。フランクリン戦なんてまさにまさに、でしたし。

にしても、今回はほんと過去エピソード中心で話は全然進まなかったのはいかんともしがたいところ。トーナメントのデスピリオドのメンバーの活躍も、あれルーキーの子らが大番狂わせ起こしたりしたら盛り上がったんだろうけれど、さすがにそれは難しいか。