【魔剣少女の星探し ２．魔剣名鑑】　三枝 零一／ごろく　 電撃文庫

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大賢人の護衛任務から、新たな陰謀が動き出す!

『ソフィアちゃんは、ソフィアちゃんだけのお星様を探して良いの』
魔剣の集まる都市「セントラル」の危機を救ったリット、クララ、ソフィアは一躍、有名人になる。それぞれの目的のため魔剣団「夜明けの星」を結成した三人だが、財政難に陥り別行動で資金稼ぎをすることに。そんな中、ソフィアは北方連邦国から訪れた大陸最高峰の魔術師「豊穣の大賢人」エカテリーナの護衛任務を引き受ける。彼女は各国のパワーバランスを取るため作成された「魔剣名鑑」の写本を都市へと持ち込むのだが、時を同じくして怪しげな魔術装置の存在も確認されて――。
「行くんだよ。ボク達が今出来ることをしにさ」
剣戟が再び都市に嵐を巻き起こす。バトルファンタジー、第二弾!


表紙は銀のソフィア。この子、全く自覚がない上に元は結社の人間で高貴な血筋とは縁のない身の上に劣等感とは言わないけれど、若干引け目のようなものを感じているくらいなんだけれど、美人という意味では名家の令嬢であるクララをも上回って突出してるんですよね。
ある意味、ソフィアが三人の中で一番確固とした目的がなく、結社の企みを潰して回っているとはいえ使命感や責任感に追われているとか、そんな感じでもなく、どこかふわっとした彼女自身定まっていない自分を意識しているような所が見受けられました。
彼女にとっての星とは何なのか。
冒頭で姉に自分の星を探せ、と言われている過去の回想が置かれているのは、まだ彼女にとっての星を見つけきれていない、ということでもあるのでしょう。
リットとクララという掛け替えのない友人であり研鑽しあえる仲間であり、ライバルともなろう相手に星を見つけた彼女たち。でも、それで終わりじゃないんですよね。
その人にとっての星は、一つではない。

さても、前巻の感想で自分はこの作品を「少女版三匹が斬る」だ！、とはしゃいだものですけれど、三匹が斬るという痛快時代劇。あれって、殿様と千石、そしてたこの三人、だいたい一緒には行動してないんですよ。それぞれ、別々に行動していて違った経緯から事件に首をツッコんでいき、最終的にそれぞれのルートから一同に介して黒幕退治にいざ、てなもんでした。
かくいう本作も、リットとクララとソフィアの三人で「夜明けの星」という魔剣団を結成。依頼なんかは三人でこなしていたみたいなんだけれど、三人とも稼いだはずのお金を散在してしまい、急遽生活資金、というか今日食べるための食費から宿泊代まで稼がなくてはならなくなり、各々が金策に走ったり借金のカタに連れて行かれたりしたがために、バラバラに行動することになるのです。
そっから、各々がトラブルに首を突っ込んでいき、大きなイベントごとや謀略、事件に巻き込まれていくわけで、これがまたハチャメチャに面白い。
もう文句なしにリット、クララ、ソフィアの三人ともが主人公なんですよね、これ。一巻で大いに派手に目立っていた分、今回はリットの配分が大人しめではありましたけれど、それを補って余りある大型爆弾がリットの出自を巡って放り込まれましたし。
リットさん、あなた、ま、まあまあまあ、これはまたどえらいところの、あれじゃないですかあ。
因果なのは、リットが母の望みとして受け継いだ魔剣使いとして天下に名を轟かせるための舞台である魔剣戦争が終結した原因、終結に導いた功労者が直接リットに関わっているところですなあ。
しかし、どう考えてもリットって戦争には向かんでしょ。あまりにも正直者すぎる。気持ちが涼やかすぎる。リーダーとして大丈夫かってくらい、心根が真っ直ぐすぎて人を信じてしまう。この子は本当に眩しいなあ。
とても純粋に、剣士としての高みへ、高みへと駆け上っている。そこに人の悪意や戦争の影なんてものは似合わない。戦争、この子のためにも終わってくれていて良かったと思いますよ。

しかし、戦争そのものは終結したとしても、世の闇の奥でいまだ陰謀を張り巡らせている勢力がいる。かつて、戦争そのものを操り世に混乱をもたらしていた組織「結社」。
様々な勢力、国家に根を張り、その信奉者を潜ませているこの謎の組織は、だけれど一概に一方的に邪悪なる組織か、というと……今回も黒百合と呼ばれるものを使って祭りに託つけて大規模テロを引き起こし、国際協調の象徴の場をなろうとしたこの街＜セントラル＞で、新たな国家間の不信の芽を植え付けようとしていたわけで、まあ邪悪ですよね。
それはこの街の魔剣使いたちと魔術師たちの活躍。そして東西南北各国の有能なる政治家、王族、大使、官僚といった面々の適切な対応によってその思惑の大半は叩き潰されたわけですけれど。
なんだろうね、これそういう俗で雑な混乱をもたらそうとしていた勢力は、結社の中でも一部だけで、むしろ結社上位は阻止に回っていた上に、未だ思惑は定かではないけれど単純な欲望や野心、信仰・信念とはまた違う、理由と確信をもって動いてるっぽいんですよね。
今は間違いなく敵なんだけれど、悪かというとどうなんだろう、という。
ソフィアに関しても、意図合って泳がせているとかじゃなくて、彼女の好きに、自由にさせているという感じですし。それに関しては組織の意向ではなく、彼女の姉の私情っぽくもあるのだけれど。

そう、ソフィアにとって結社の悪行は阻止したいと思っているもので、実際これまでも結社の暗躍を独自に潰して回っていたのは事実。でも、結社の偉い人であった姉の無事を確認できたことにはほっと安心していて、もし顔を合わせたとしても姉の行動を止めようとか敵対しようとは思っていなくて、敵愾心なんか全然抱いていなくて、でも結社を裏切っている以上会っちゃったら気まずいなあ、どうしようかなあ、と困ってしまっているあたり、この子ってふわっとしてるなあという印象なんですよね。ギュッと自分の方向性を固めて定めて突き進む、という性向とはかけ離れているというか真反対というか。

そんな彼女、ソフィアにとって掴みたいと望む星とは何なのか。リットとクララとソフィア。彼女ら少女三人が出会い、友誼を結び、剣を交え、共に歩むホームを作った、という意味では友という星を見つけたのでしょう。
でも、星は決してひとつではない。その歩み、その人生において掴むべき星はもっとたくさんあっていい。
その「星」に関しては未だリットもクララも明確な目指すものは見つかっていないっぽいのだけれど、中でもソフィアは特にその進む先が定まっていない感じでした。

だから、クララに押し付けられたとはいえ、幼い大賢者エカテリーナの護衛につき、彼女に懐かれ見初められ、きっとソフィア自身がエカテリーナの星になったんでしょうね。
かつて姉に愛され守られ、導かれた少女が、今度は守るべき妹のような存在を身近に、懐に入れてしまった。幼いながらの過去の壮絶な体験から、苦しみと渇望を抱え込む幼い少女を戸惑い困惑しながらもソフィアは守り導いていく。
そして、エカテリーナの哀しみの根源を知ったとき、そして彼女を苦しめる災厄の再現がこの地に降り注いだとき、ソフィアは未だその心の内側で戦争が終わらない人達の戦いを終わらせる、銀の星となる。
彼女の、結社を裏切り結社と戦うその道も、いわば終わらぬ戦いを終わらせる道。ソフィアはまだはっきりとわかっていないかもしれないけれど、彼女もまた掴むべき新たな星を見つけたのかも知れない。

そしてクララ。この子はこの子で一番危なっかしいというか、自分の力を持て余しているというか。その振るう先を、受け止めてくれる強さを見つけられず、それは自身の強さに対して相手にいない手応えのなさへの飢餓でもあり、持て余した力がもたらす不和や混乱に対しての吐き気をもたらすような自身の力への飽食感であり。
それは、リットやソフィアという自分の才と真っ向から打ち合える好敵手にして友である人達との出会いによって、満たされ軽減されたものの、それで全部満足できたわけじゃない。
天井に行き当たり見下ろすばかりになってしまった彼女にとって、本当に必要だったのは自分の才を圧倒的に上回る、強き者。全力をとしてなお届かず、はるか高みに存在するもの。まだ、自分がさらなる高みへと駆け上るための、目指すべき星。
クララもまた、ここで星をみつけたのか。

今回は、幼くまた戦いのための力を持たない豊穣の大賢者エカテリーナの、過去の後悔、無力への絶望との戦いでもありました。パンを生み出す能力で、あの滅びの災厄に真っ向から立ち向かう幼女の姿は、健気で幼気でなによりまばゆいくらいの気高さだった。
エカテリーナとソフィアのクライマックス戦闘のシーンのど迫力ったら、もう活劇活劇、活劇の粋ですよ。あのシーンの映像美というか、イメージ映像の湧きたちっぷりは凄まじかった。脳裏で動く動く。
最高の剣戟活劇でありました。
面白かったーー！　またぞろとびっきりでしたよ♪


ところで、これってリットとクララとソフィアの三人の魔剣使いの物語、ではなくて四人の魔剣使いの少女の物語なんですよね。四人目ーー、四人目ーー。四人目の人が一番今のところ振り回され苦労しているように見える。ご愁傷さまです。裏方は大変ですなあ。立場としては信じられない機密情報まで巻き込まれて握らされてしまいましたし。三人娘は目を離すと何をしでかすかわからないし。あらゆる方面から振り回されておられるｗ
いずれ、この子も表舞台に立つことになるのだろうか。そうなったときも、無理やり引きずり出された風になりそうで、なんとも半泣きが似合いそうな不憫キャラとして確立していきそうｗ

あと、今回一番笑ったのはリットが使い尽くしてしまった金貨百枚の行方の顛末でした。あれはズルいよ、なんて痛快なハッピーエンドだ。リットの行いの先にはこういう明るく快活な顛末がよく似合う。そういうお星さまの下に生まれたのだと信じたいものです。




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