【百花宮のお掃除係 １２ 転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。】 黒辺あゆみ／しのとうこ カドカワBOOKS
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過去に囚われた姫を「憐れみの病」から救い出すため、雨妹出動!
沈(シェン)殿下の屋敷には、死亡したと噂される隣国の王太子が囚われていた。彼を幽閉していたのは、雨妹(ユイメイ)たちを温かく迎え入れてくれたリフィ!?
なんと、彼女は元々一国の姫で、王太子の婚約者なのであった。諍いの種を他国に逃がしたいと雨妹に助力を求めた沈殿下だったが、そのためには王太子と姫のこじれた関係を修復する必要があり……!?
過去に囚われた姫を「憐れみの病」から救うため雨妹出動!
迷子だった二人の新たな門出を後押しします!
今回の話って、宜国と丹国、そして雨妹たちの崔国との国際問題でありつつ、それぞれの国情によって培われた価値観に基づいて育てられた王族である宜国の元王太子ジャヤンタ、その婚約者だった丹国の姫リフィの心の病の物語でした。
王族ってのは、その立場や責任、役回りなどから多かれ少なかれ抑圧された環境によって育てられていってしまうものです。権力争いやそれに伴う関係者の悪意などから、不必要な抑圧を受けるケースなんかもありますけれどね。
友仁皇子なんて特にそうだったでしょう。アレルギー体質で特定のものしか受け付けなかった事を誰も理解してくれなかった、というだけではなく、明らかにわかって虐待も受けてましたからね。
それでもなお、彼は籠の鳥から頻繁に逃げ出し続けたことで、雨妹と出会いそこから自分の運命を切り開いていくのですが、彼みたいに動ける子は決して多くはないのでしょう。
そもそも、選択肢さえ与えられず、本人の気質を無視してこうあるべし、と型にはめられ押し付けられる生き方は苦しいものですが、生まれた時からそうとしか生きる道を教えられなければ、その人物は内心どれほど歪みながらもそうあるべし、と形作られていってしまう。
ジャヤンタ王子はまさにそんな人物でした。
作中でも比べられているけれど、同じ追放された王子でも把国のダジャルファードって、奴隷にまで落とされながらも頑張ってましたよ。なかなか価値観は変わらず傲慢さは抜けなかったですけれど、何宇くんが弄りながらも見捨てなかったように、根底は悪くない人物で王族として民を思い続けた人物でしたからね。今では、随分と見違えましたし。
それと比べると、確かにジャヤンタ王子の空虚さは目につきました。
それよりも、なかなか深刻だったのはリフィさんの方でしたけれど。憐れみの病、とはなかなか良い言い方をしたもので。
このあたりの彼女の精神分析は、かなりわかりやすくも詳細に解体されて描かれていて非常に興味深かったです。あからさまに精神的におかしくなっているわけじゃなくて、自己防壁の仕方が目立たないものだから、よくよく言われないとよくわからないですよね。
雨妹の説明がなかったら、どうしてリフィがジャヤンタ王子を監禁していたのか、その理由や動機についてさっぱりわからないか、かなり理解の低いものになっていたと思う。
沈が、リフィに抱いていた複雑な想いに関しても。どうして、雨妹をこの一件に関わらせようと思ったのかも。
翻って、沈氏もまた彼らと同じく後宮での幼い頃の日々に愛を損ねられて型にはめられようとしてしまい、おとなになった今でも心のなかに欠損を抱えたまま、の人だったのか。
ジャヤンタの横暴に関しては呆れと失望を、リフィの迷走に関しては同情……というとこの場合は違うのか。かといって共感とかではないんだろうけれど、リフィの本質的な人柄の良さに好感を抱いたがゆえに、彼女の抱える精神の苦しみを和らげるためにアプローチをしかける雨妹のそれは、まあ人柄なんだろうなあ。沈天元も雨妹という子を見ているうちに、そういうところに目をつけていたからこそ、リフィに接触させたんだろうけれど。
まさか、自分の急所にまで触れられるとは思ってなかったんだろうね。というか、こいつ、この沈氏って雨妹に「この子はわたしの母になれる少女なのだ」とか心の何処かで察していたんだろうかｗ
まあ確かに、雨妹っておばちゃん気質というより、お母さん気質ですよね。お姉さん属性もあるはずなんだけれど、俯瞰してみると母属性が一番強いのかも知れない。とはいえ、姉属性や妹属性、若い少女としてのそれやおばちゃんっぽいところ、父を慕う娘というスタンスもあり、千変万化というかなんというか、雨妹って未だに精神年齢みたいなものがどのあたりにあるのか謎で、とりとめがないんですよねえ。不思議なキャラクターである。
ともあれ、彼女のカウンセリングというべきアプローチによって、幼い頃の環境などから築き上げられていた価値観、考え方、精神が押し込められていた箱の蓋が、この王族たちのうちで開かれたのではないでしょうか。
その先達というべき友仁皇子は、というと今回はその大物っぷりが垣間見えましたよね。いやあ、こんなに精神的に大きくなっているとは思わなかった。屋敷に襲撃があったり、と結構修羅場もあったにも関わらず、直接的な暴力にも怒声をあげてくる威嚇にもまったく動じず、おおらかにニコニコと過ごしていらっしゃったのは、なんとも肝の太さを感じさせる振る舞いでした。これ、ほんとに何にも動じてないんですよね、頑張って意識を強く持ってるってわけでもなく。それだけ護衛の皆を信用していたというのもあるんだろうけれど、人付き合いもなんだかんだとうまいですし、好奇心旺盛で勉強家で吸収も早く、何より明るく健気でけっこう感情の機微にも聡くて……この子、もうどこに行ってもやってけるんじゃないだろうか。皇子は、いずれ独り立ちしないといけない、という話も出てきましたけれど、王宮に残っても外に出ても、周りに頼れる人が集まってきて、なんでもこなしていけそう。この弟くん、大物になりますよ。今のところ精神的な余裕という意味では、明賢太子より上かもしれない。
まあ太子は責任ある立場で苦労人なんで、精神的余裕に関しては大変乏しい環境にあるわけですから比較にならないのですけれど。
しかし雨妹、不届き者を一喝したとき、見知った人をも震え上がらせるような威圧感を出していたのか。まさにあの武王の子、というべき迫力をちゃんと出せるのね。そういうの縁が無いと思っていたけれど。これからも王族になるとかには全く縁が無いだろうけれど、それでも父王との親子の絆は深まる一方のようで微笑ましい限りです。雨妹にとってちゃんと、父や兄のいる王都が帰るべき場所になってるんですねえ。そしてそんな彼女に帰るべき場所の味を用意するのが立勇というあたり、二人の関係って進展は別に全然してないんだけれど、ゆるりと深まっているような感じがして、良きです。
にしても、相変わらず王の影の人達って、雨妹に危害が加えられそうになるとガチギレするなあ。父王と同じく、雨妹のこと特別に思ってるよね、あれ。我らが宝珠とか言ってるし。
王族ってのは、その立場や責任、役回りなどから多かれ少なかれ抑圧された環境によって育てられていってしまうものです。権力争いやそれに伴う関係者の悪意などから、不必要な抑圧を受けるケースなんかもありますけれどね。
友仁皇子なんて特にそうだったでしょう。アレルギー体質で特定のものしか受け付けなかった事を誰も理解してくれなかった、というだけではなく、明らかにわかって虐待も受けてましたからね。
それでもなお、彼は籠の鳥から頻繁に逃げ出し続けたことで、雨妹と出会いそこから自分の運命を切り開いていくのですが、彼みたいに動ける子は決して多くはないのでしょう。
そもそも、選択肢さえ与えられず、本人の気質を無視してこうあるべし、と型にはめられ押し付けられる生き方は苦しいものですが、生まれた時からそうとしか生きる道を教えられなければ、その人物は内心どれほど歪みながらもそうあるべし、と形作られていってしまう。
ジャヤンタ王子はまさにそんな人物でした。
作中でも比べられているけれど、同じ追放された王子でも把国のダジャルファードって、奴隷にまで落とされながらも頑張ってましたよ。なかなか価値観は変わらず傲慢さは抜けなかったですけれど、何宇くんが弄りながらも見捨てなかったように、根底は悪くない人物で王族として民を思い続けた人物でしたからね。今では、随分と見違えましたし。
それと比べると、確かにジャヤンタ王子の空虚さは目につきました。
それよりも、なかなか深刻だったのはリフィさんの方でしたけれど。憐れみの病、とはなかなか良い言い方をしたもので。
このあたりの彼女の精神分析は、かなりわかりやすくも詳細に解体されて描かれていて非常に興味深かったです。あからさまに精神的におかしくなっているわけじゃなくて、自己防壁の仕方が目立たないものだから、よくよく言われないとよくわからないですよね。
雨妹の説明がなかったら、どうしてリフィがジャヤンタ王子を監禁していたのか、その理由や動機についてさっぱりわからないか、かなり理解の低いものになっていたと思う。
沈が、リフィに抱いていた複雑な想いに関しても。どうして、雨妹をこの一件に関わらせようと思ったのかも。
翻って、沈氏もまた彼らと同じく後宮での幼い頃の日々に愛を損ねられて型にはめられようとしてしまい、おとなになった今でも心のなかに欠損を抱えたまま、の人だったのか。
ジャヤンタの横暴に関しては呆れと失望を、リフィの迷走に関しては同情……というとこの場合は違うのか。かといって共感とかではないんだろうけれど、リフィの本質的な人柄の良さに好感を抱いたがゆえに、彼女の抱える精神の苦しみを和らげるためにアプローチをしかける雨妹のそれは、まあ人柄なんだろうなあ。沈天元も雨妹という子を見ているうちに、そういうところに目をつけていたからこそ、リフィに接触させたんだろうけれど。
まさか、自分の急所にまで触れられるとは思ってなかったんだろうね。というか、こいつ、この沈氏って雨妹に「この子はわたしの母になれる少女なのだ」とか心の何処かで察していたんだろうかｗ
まあ確かに、雨妹っておばちゃん気質というより、お母さん気質ですよね。お姉さん属性もあるはずなんだけれど、俯瞰してみると母属性が一番強いのかも知れない。とはいえ、姉属性や妹属性、若い少女としてのそれやおばちゃんっぽいところ、父を慕う娘というスタンスもあり、千変万化というかなんというか、雨妹って未だに精神年齢みたいなものがどのあたりにあるのか謎で、とりとめがないんですよねえ。不思議なキャラクターである。
ともあれ、彼女のカウンセリングというべきアプローチによって、幼い頃の環境などから築き上げられていた価値観、考え方、精神が押し込められていた箱の蓋が、この王族たちのうちで開かれたのではないでしょうか。
その先達というべき友仁皇子は、というと今回はその大物っぷりが垣間見えましたよね。いやあ、こんなに精神的に大きくなっているとは思わなかった。屋敷に襲撃があったり、と結構修羅場もあったにも関わらず、直接的な暴力にも怒声をあげてくる威嚇にもまったく動じず、おおらかにニコニコと過ごしていらっしゃったのは、なんとも肝の太さを感じさせる振る舞いでした。これ、ほんとに何にも動じてないんですよね、頑張って意識を強く持ってるってわけでもなく。それだけ護衛の皆を信用していたというのもあるんだろうけれど、人付き合いもなんだかんだとうまいですし、好奇心旺盛で勉強家で吸収も早く、何より明るく健気でけっこう感情の機微にも聡くて……この子、もうどこに行ってもやってけるんじゃないだろうか。皇子は、いずれ独り立ちしないといけない、という話も出てきましたけれど、王宮に残っても外に出ても、周りに頼れる人が集まってきて、なんでもこなしていけそう。この弟くん、大物になりますよ。今のところ精神的な余裕という意味では、明賢太子より上かもしれない。
まあ太子は責任ある立場で苦労人なんで、精神的余裕に関しては大変乏しい環境にあるわけですから比較にならないのですけれど。
しかし雨妹、不届き者を一喝したとき、見知った人をも震え上がらせるような威圧感を出していたのか。まさにあの武王の子、というべき迫力をちゃんと出せるのね。そういうの縁が無いと思っていたけれど。これからも王族になるとかには全く縁が無いだろうけれど、それでも父王との親子の絆は深まる一方のようで微笑ましい限りです。雨妹にとってちゃんと、父や兄のいる王都が帰るべき場所になってるんですねえ。そしてそんな彼女に帰るべき場所の味を用意するのが立勇というあたり、二人の関係って進展は別に全然してないんだけれど、ゆるりと深まっているような感じがして、良きです。
にしても、相変わらず王の影の人達って、雨妹に危害が加えられそうになるとガチギレするなあ。父王と同じく、雨妹のこと特別に思ってるよね、あれ。我らが宝珠とか言ってるし。
Ａｍａｚｏｎ
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