【サイレント・ウィッチ IX -extra- 沈黙の魔女の短編集】 依空 まつり／藤実なんな カドカワBOOKS
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
過去特典の再録に、新規書き下ろしも! 収録総数50編以上の豪華短編集!
ファン必携の大ボリューム短編集、3大注目ポイント!
1.9巻までに登場した登場人物のデザイン資料をフルカラーで30ページにわたって紹介!衣装や髪型等の設定も充実!
2.現在は入手困難な7巻までの特典ショートストーリーを再録! 期間限定フェアの特典や、トータル3万字に及ぶ有償特典まで網羅し、収録総数はなんと50編以上!
3.最高審議会のその後を描いた書き下ろし作品3編を始め、10巻へと繋がる新規収録エピソードも合計2.5万字掲載!
短編集というよりも、短編よりも短い掌編という感じの作品が詰まっているので、掌編集って感じですね。
これまで色んなところに特典として添えつけられていたショートストーリーを集めてまとめたもの。５０作というから、たとえショートストーリーでもそれだけ集まると膨大です。それも、作中の時系列ごとにまとめてくれているので、順番に読んでいくことでこのシリーズが始まる前から、モニカが新しい街で活動を始める次のシーズンまでの時間の流れを一気に体験、体感出来て、これが思いの外素晴らしい。
それなりの長期シリーズなだけに、９巻にも及ぶ単行本を時間かけてずっと読んできたわけですけれど、やっぱりそれだと巻と巻の発売の間が数カ月間空きますから、そのたびにリセットはされないけれど、読んだ時に感じたものからリアルタイムの実感は薄れていってしまうものです。新刊を読み始めるたびに呼び起こされるものではあるんですけれど。
だから、こうして掌編でさくさくっと読みながら、モニカたちが過ごしていた時間をこの短い時間で一気に見ることで、モニカをはじめとした登場人物たちの変化や成長、人間関係の進展や微妙な距離感の進捗、情勢や各種動向の変化というものが目に見えてわかるんですよね。
パラパラ漫画みたいなもの、というと語弊があるか。�桔膈桔腓粒┐鬚犬辰�り見ていくのもいいんですけれど、それらをまとめたものを一気にパラパラっとめくっていって動かすと、その動きや変化もすごくよくわかるって感じで。
特に本作に関しては主人公のモニカの成長が顕著です。人嫌い、というよりも人間恐怖症のきらいがあってまともにコミュニケーションもとれなかった、人混みの中にいることすら耐えられなかった少女が、掌編を読んでいくうちにどんどんと他人と関わるようになり、友達との交流がはじまり、それどころか自分から人の心に踏み込んでいこうという勇気を振り絞るようになっていく。
それを、これまで９巻かけてじっくりと味わってきた、見てきた、見守ってきたわけですけれど、それを改めて一気に感じられて、非常に感慨深いものがあります。
こうしてパラパラとめくっていくと、大きく変わっていくものもあれば、最初から一貫して変わらないものもある。シリル先輩の不器用な優しさと世話好きのところなんか、全然最初から変わってないですもんね。でも、その気持がちゃんと他に人にもどんどんと伝わるようなそんな関係になっていっている変化も見て取れる。モニカのシリル先輩への信頼がどんどん厚みをマシていき、そこに何か特別な想いがまじり始めていく経過なんてのも。
グレンは変わらないですよねえ。彼が一番最初から最後まで変わっていない子かも。最初からこの子はムードメーカーで閉塞を打破する快男児でした。何気にこの子がいなかったら行き詰まっていたこと、人間関係が固まってしまっていたことも多いんじゃないだろうか。
そしてこういう些細な日常の風景をたくさん描いているからこそ浮きたっていくのが、普段のモニカとラナの交流であります。
この二人の友達関係、改めて最高に素晴らしいですよね。微笑ましいを遥かに通り越した、尊いと呼べるものがある。お互いに、相手への気持ちが優しすぎるんですよ。モニカが無垢過ぎるくらいな子なのは当然としても、ラナの方も心の底からモニカに対して常からなにかしてあげたい、この子にあれこれしてあげたい、と思っていて、願っていて、そんな気持ちがモニカから「ありがとう」と心から嬉しそうな感謝の言葉とかそういうので返ってくると、もうめっちゃ嬉しそうにニマニマしている様子がもう、尊くて尊くて。
いやあーーーー、いいですわ。心がぽかぽかしますわ。素晴らしいですわ。全体的に良き良き作品が並べられていましたけれど、ラナとモニカの話だけでも最高でしたわ。
こうしてみると、モニカが次のシーズンでサザンドールという港町に拠点を移す理由が、ラナが起こす商会を手伝いたい、という思いからなの、よくわかるんですよねえ。
ほんと特別なんだなあ。
……あと、びっくりしたのですけれど、びっくりしたのですけれど、三回言っちゃおう。びっくりしたのですけれど、シリル先輩、卒業後もなんだかんだと研究関係でモニカとよく会っているのですけれど……以前はノートン会計って呼んでたのが、今はモニカって名前で呼んでるんですけど！ 名前呼び！！？ マジか！ あのシリル先輩が！
名前で呼ばれてキュンキュンしてるモニカさん、かわゆしです。
そして、やっぱり良かったのが冒頭の育ての親でもあるヒルダさんとの再会シーン。父を謀殺されて人間不信を極めていた、というよりも人間を半ば辞めていたモニカを知っているヒルダさんだからこそ、彼女の目から見たキラキラ輝くようなモニカの成長が眩しいんですよね。あのモニカが、学園での出来事を、そこで出来た友達の話を一生懸命話している、それだけでもう……。
このヒルダさんが、あれこれ苦心してモニカを育て、情緒を育んだからこそ、沈黙の魔女は人であり続けられた、と最初のまだモニカを引き取った当初のクッキーづくりの話からも伺えます。このクッキー作りの失敗……ヒルダさんとモニカは失敗と思ってないのかもしれませんけれど、この体験ずっとモニカの心に焼き付いていたみたいで、きっと情緒の拠り所だったんだろうなあ。
まだまだ若いと思うのですけれど、ヒルダさん、間違いなくモニカの母親ですよ。
過去を振り返り、現在に至るまでの変遷を体感し、次のシーズンへと繋がる話を楽しんで、もう心の準備も万端です。じんわりと、良かった、ええもの読んだという実感にひたりつつ、
サザンドールでの新しい生活の話、今からもう楽しみで仕方ありません。ワクワクですよ。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
