
【オルクセン王国史〜野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか〜 5】 樽見京一郎/THORES柴本 サーガフォレスト
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オークを魔種族を擁する連合国家オルクセンと、エルフたちの国エルフィンドの因縁の戦いは、いよいよ激化していた。ネニング平原での会戦は苛烈を極めて……もはや戦を決するのは、鉄と血の量だけだ。《平和なエルフの国を、野蛮なオークが焼き尽くす》という「異世界ファンタジーあるある」の常識を覆した異世界戦記第5弾!
戦争で多くの人々が死んでいく。苛烈極まる現代戦の萌芽が人をゴミクズみたいに引き裂いていく。あらすじにもある文言で言うならば、血と鉄によって織りなされる犠牲者の舗装だ。
でも、そんな戦闘とは全く関係のない、純然たる事故で王の最古の戦友の一人が亡くなる。戦争でなくても、人は死ぬのだ。いや、グスタフ王が悔やんだように王が彼の引退を引き止め、将軍のひとりとして戦争に従事していたからこそ、彼はそこにいて事故にあったのだから、彼の死もまた戦争によって引き起こされた死と言えるのだろう。
それでも、戦闘と関係ない事故でのあまりにも唐突な逝去は、彼個人に特に思い入れがあったわけではないのだけれど、人の死のあっけなさを突きつけるようで胸が重くなった。
と、同時に友の死にひとり顔を覆って泣くグスタフ王の挿絵に、グッとくるんですよね。男が友との別れに涙する姿って、どうしてこう胸を突くんだろう。
さても戦局は佳境を迎えている。
もはや戦争の勝敗は決したというところまで達しているんですよね。ここからは、エルフィンドはどう足掻いても逆転勝利は望めない。となると、あとはどういう形で戦争を終わらせるか、という所に焦点が当たってくる。
ただ、これに関してはオルクセン側はエルフィンドに戦争を仕掛けた時点で、もう最終目標は決している。これはオルクセン王国のみならず、将来未来の魔種族全体の安寧を護る上で絶対に必須の事であり、そのためにはエルフィンド王国の消滅、そして完全併合は譲れない条件なのだ。
それを覆すには、エルフィンドは戦争そのものの継続が不可能なほどの大打撃をオルクセン側に与えなければいけない。もはや、形勢が決したと言えるこの段階から。
それをやってのけかけたマルリアン将軍、ちょっと稀代の名将すぎやしませんかね!?
しかも、当人は既に捕虜になっているにも関わらず、ですよ。投降する前に放った矢と、作戦構想がこれほどオルクセンを苦しめ抜くことになるとは。
「死せる孔明、生ける司馬懿を走らす」、いやマルリアン将軍全然死んではいないのだけれど、のちに「オルクセン軍は終始マルリアン大将と戦い続けたようなものだ」と評された、という話には大いに何度も頷く他ないですよ。
恐るべき事に、マルリアン大将はこのオルクセン軍に対抗する知見をこの戦争が始まってから得ているんですよね。オルクセン軍参謀本部が何年にも渡って研究に研究を重ねた結果導き出した戦争構想と違って。瞬時にオルクセンが持ってきた新時代の戦争に追いつき、現状の戦力でそれに対抗できるだけの構想をあの短期間で作り上げた、ということになるのですから。
エルフという特殊なユニットがあったから、とはいえ、もう何十年、いや百年というくらい古い戦争観に囚われたままだったエルフィンド王国軍にあって、世界を圧倒的に先進するオルクセン軍を圧倒的に抜き去って、現代戦に通じる戦術思想を立ち上げてしまったのですから。
これを、オルクセン側が失敗した、ミスをした、というもんじゃないでしょう。慢心、或いは傲慢のきらいはあったとしても、判断にはしっかりとした合理的な根拠があったわけで。ディネルースも結局、具体的な反論指摘は生まれてこず、納得したわけですしね。
河川運輸の過小評価など、自分たちの能力ややり方以外に意識が及ばない、などの抜けはあったとはいえ。
相手の明らかな失態、ミス、能力不足をついて、そこから形勢逆転……という形ではない、戦線瓦解の危機的状況にも関わらず入念に準備を重ね、周到に狙いを定め、相手の新世代の戦争に対してコチラもまた全く新しい戦術思想をぶつけることで、圧倒的劣勢を覆す……或いは戦争をオルクセン側の望まぬ形で終わらせることすら可能になるかもしれない戦果を、大打撃を、与えようかという「クーランディア攻勢」。
戦争というのは相手がある以上、どうあっても予定通りには進まない。それを改めて思い知らせるような、エルフィンド側の逆襲でありました。ここで勇躍活躍していたエルフィンド側の将帥が、マルリアン大将をはじめ白エルフの中でも一段下に見下されていた部族、地方の人達だというのは、これがなんともエルフィンド王国中枢の斜陽っぷりを見せつけられている感もあるのですが。
そして、相手の動向と関係がない……というわけじゃないんですけれど、あれほど万全を期して国家全体で邁進していたはずの、兵站思想が崩壊していく、というこの衝撃。
そもそも、この作品って第一巻から、戦争がはじまる前段階から、偏執的なくらいにオルクセン王国という国家は、兵站を何よりも重視している国家である、というのをこれでもか、というくらい強調してきたじゃないですか。国のあり方そのものが、物を作り準備し望まれる場所に迅速に送り届ける、その生産から管理思想まであらゆる分野を突き詰めて、実践し、構築し、積み上げてきた国であり軍である、というのを描いてきたわけですよ。
そして、実際に戦争がはじまっても、その恐るべき世界に類を見ない兵站力で戦う以前に戦争を圧倒してきたのを、これまであらゆる場面で見せつけてきたわけです。
このオルクセン王国軍の兵站能力は、それこそ現代のアメリカ合衆国軍くらいしか並ぶものはないんじゃないか、と思えるくらいに。この時代背景からすると、過剰なんじゃないかと思えるほどに。あまりにも時代を先取りしすぎているんじゃないか、と考えるほどに。
圧倒的でした。圧巻でした。もはや、これ以上は存在しない、完璧なシステムに見えました。
実際、それはマルリアン大将が仕掛けた、降伏した自軍と大規模な街の住民すべてをオルクセン軍に抱え込ませる、というある種の兵糧攻めを、一時受け持った軍が行動を停止したとはいえ、突然一個軍増殖したようなものである、物資消費を支えきったわけですからね。
予定外予想外想定外の大量消費、必要物資の供給にすら耐えきった、凄まじい兵站能力でした。
それが、崩壊したという衝撃。
そもそもの、根本的なところからその兵站思想の方向性が間違っていた、という衝撃。
これほど万全を期して完璧なシステムを構築しても、実際に戦争となったらこんなことになってしまうのか、とあっけに取られてしまったものです。これほどまでに入念に、完璧なんて存在しねえよ、というのを見せつけられたことは、あまり記憶にありませんわ。かなりの衝撃ですよ。
あの刻印魔術、革新的だったあれが、あんな形でウィークポイントとなるとか想像もしていませんでしたし。
それでも、これらは兵站思想の崩壊であって、能力の崩壊ではないんですよね。いや、根底が間違ってたんで、ある意味取り返しがつかないんですけれど、それを無理やり枝葉をつなぎまくって何としてでも破綻を防ごうとする人々の渾身の努力が、また眩しいのですよ。そして、それを可能とするこれまで築き上げてきたものの凄まじさ。
「クーランディア攻勢」によって一時破綻した軍という大きな括りを、辛うじて崩壊から支え続けたのもまた、枝葉でした。軍という大きな括りではなく、それを構成する個人個人の奮闘が支えきった、というべきなのでしょう。一兵卒とか下の階級の人達の活躍ってだけじゃなくて、参謀や将軍なんかも一個人として、というと変だけれど、それぞれの立場立ち位置から危機的状況にも折れず、死にものぐるいで各々が踏ん張り続け、投げ出さなかったことで、一旦崩れかけ一個のシステムとして破綻しかけていた軍という大きな括りが、どうにかこうにか形を取り戻していき、エルフィンドの大攻勢を攻勢限界点まで支えきった、というのが今回の大きな見どころだったんじゃないでしょうか。
これは国同士の戦いであると同時に、ひとりひとりの諦めない戦いだったのだ、と思えるような局面でありました。これもまた、国民戦争という形になるんだろうかねえ。
巻末に描かれたある一個中隊と、たまたま配備された小銃の不良品検査のために訪れていた技術将校の孤軍奮闘の戦いなんざ、その象徴みたいなもんでしょう。理由がわからん内に最上級の士官となってしまい、その場にいた中隊を率いて攻め寄せてくる自軍の何倍ものエルフの軍勢相手に防衛戦をするはめになった、技術大尉の話である。
これと同じような、いやさすがに技術将校が指揮するような場面はそうはなかっただろうけれど、同じように奮闘を繰り広げていた部隊が、ネニング平原の会戦においては無数にあったのでしょう。
常に優勢のまま圧倒し続け終わるのではなく、凄まじい逆襲を喰らい崩壊の危機を迎えながら、粘って粘って粘って粘って、誰もが死に物狂いで戦って、階級の上から下まで疲労困憊になりながらも崩れず、土俵際で踏ん張って耐えきった、この粘り強さ。しぶとさ、頑強さ。
ここにこそ、オルクセン軍という集団の真髄を見る思いでした。強い。























































































































































































































































































































































































































































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レンガを一つ一つ積み上げるようにして作り上げた国家であるオルクセン王国が、
稀代の名将であるマルリアンの構想に打ち勝ったと言うべきでしょうか。
逆に言えば、近現代の総力戦は、名将一人の力でひっくり返せるものではない
というロマンのない話になってしまうのですがwww
八岐
が
しました