【やがて黒幕へと至る最適解 ３】 藤木わしろ／ne-on HJ文庫
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病弱令嬢を救う鍵は――アイゼンフッドの魔剣!?
サンクトゥス公爵家に大打撃を与え、六大公爵家のうち実質的に二つの公爵家を掌握することに成功した10歳の黒幕少年カルツ。
彼は休む間もなく凄腕の鍛冶師であるドワーフ達を領地へと招き、ビジネスの傍らアイゼンフッド五代目当主が使用していた魔剣の修繕を依頼する。その目的は、アルテシアと似た症状で死の淵に立たされている貴族令嬢サティスを救うことにあった。
一方、六大公爵家はコラティオン公爵家が実働を担う形で大陸に世界樹の呪いを拡散させるべく、非道な作戦を計画しており――
帝国を支配する６つの公爵家、そのうちの２つを崩すことに成功したカルツたち。
前も書いたけれど、恐るべきはこの段階でまだ６大公爵家に自分たちを攻撃している第三勢力がいる、という存在自体を気づかれていないこと。
さすがに、急に２つの公爵家が大ぽかやらかして、その実権を喪ってしまったことに違和感は抱かれつづけているけれど、その２つの公爵家は多大な問題を抱えていた上にそこが発火点となってボンッとなってしまったので、いつかはやらかすと思われていた部分もあって、それが外部からの攻撃によるもの、とは認識しづらくなってるんですよね。
それに、はっきり明確に潰されたならともかく、オルナメント家は当主がちゃんと生存しているし（傀儡化されてしまっているのだけれど）、聖女ルシリア・サンクトゥスは生死不明の行方不明。元々狂人として知られていたわけですし、新たに聖女も擁立されている。端からは両家とも勢いを大いに減じてしまったけれど続いているのは間違いないんですよね。
まさか、実質乗っ取られているようなものだとは、極力分からないようにされてしまっている。
３巻に至っても、未だその存在を知られずに主導権を、アドバンテージを握り続けているのだ、この黒幕は。
その上で、未来から過去に戻ってきたためにこれから何が起こるのかを承知しているので、先回り先回りで危機的状況を防ぎ覆す方策を準備しておき、救われなかったはずの人を救い出す手立てを用意しておける。そして誰かが暗躍していると知られなければ、彼らは歴史通りに動くしか無い。
もっとも、これまで色々と状況を変えてきてしまった上に、２つの公爵家が力を失い彼らが協力して……というほど協力してないかもしれないけれど、目論んでいた企みに関しても支障が出てきているので、色々と歴史通りの動きとはならなくなってきたのだけれど。
それでも、目的が変わっていなければ大筋では変わらない。タイムスケジュールなんかが変わってくるかもしれないけれど、むしろ色々と削られて計画にもほころびが出だしているのは６大公爵家側の方。
しかしこれ、６大公爵家側ってマッチポンプで呪詛をばらまいて壊滅的な被害を撒き散らした上で、その解呪方法を手に救い主みたいな顔して現れて、救済と引き換えに支配下におこう、とかバイオテロどころじゃないことやらかそうとしてやがったのな。
さすがにこれは、戦争とか外交手段の範疇を越える悪逆非道だろ。
それを防ぐ過程で、この世界樹の呪いの実験対象だったプロファンド侯爵の孫娘サティスを救うことで、北部領域の要石であるプロファンド侯爵を、ひいては北部領域を味方につけることになるのだけれど。
それ以上に、歴史では無惨に亡くなるサティスが、今回はアイゼンフッドの魔剣の後継者として剣聖への道を歩み始めることになるのですが、前回の新たな聖女の擁立といい、今回の剣聖の誕生といい、どんどんと表には出ていないのですけれど、聖女や剣聖というようなかなめとなる人材がアイゼンフッドの側の人間として現れてきてるんですよね。現れるというか、カルツが導き誕生させているのですけれど。
特に今回の、アイゼンフッドの歴史でも名だたる剣の匠だった第５代当主の魔剣を、サティスに引き継がせるというのは、いやその魔剣の力を一番に引き出せるのは、あるいは魔剣に認められる資質を持っていたのはサティスだからこそ、カルツが持っていても宝の持ち腐れ、というのはそうなんですけれど。
でもその魔剣って、かつてアイゼンフッドの当主が持っていたもの。アイゼンフッドの後継者の証、とまでの意味はないにしても、やっぱりアイゼンフッドを率いるものが持っていて然るべきものじゃないですか。
それをサティスに与える、というのは別に当主の振る舞いとして別に不思議でもなんでもないことのはずなんですけれど、カルツくんの場合なんかこう、感触が違ったんですよね。アイゼンフッドを率いるリーダー、という立場からの振る舞いじゃなくて、代行者として預かっていたものを相応しいものに還
す、みたいな感じで。
以前から微妙な違和感みたいなものはあったんですよ。
確かにアルテシアを救い、アイゼンフッドを復活させ、この帝国の闇を払うためには徹底してその存在を秘して、影に隠れて動かなくてはならない。そのためには存在感を消して、暗躍し続けなくてはならない。
でも、カルツくんの立ち居振る舞いって敵から身を隠す、存在を秘すためというだけでは微妙に違和感があるくらい、最終的に表舞台に立って堂々とアイゼンフッドの復権を告げる、またアルテシアを迎える、という陽の光のもとに立つ姿がなんか想像できない、その用意準備心持ちが感じられなかったんですよ。こういうふうに言語化できるほどの違和感じゃなかったんですけどね。
だから、カルツくんがアイゼンフッドの魔剣をサティスに任せたとき、そして彼自身のリスクを知ってようやく納得がいったというか、噛み合ったというか。
アルテシアとの最低限も最低限の接触具合。あの自身の身命も歴史も捧げきったアルテシアへの救済という目的に対して、極力アルテシアに近づこうとしない、自分の存在を彼女に示さない、彼女への言伝も個性を見いだせないくらい端的で、アルテシアにすら自分の印象を残さないようにしているかのような振る舞い。
こいつ、アルテシアと再会するつもりすら、顔を合わせるつもりすらないんじゃないだろうか。
時間逆行のせいで、カルツとアルテシアの二人で過ごした記憶はカルツにしか残っていない。アルテシアは、カルツがどんな人物かも知らないわけです。それにかこつけて、こいつ本当に最後まで影に徹するつもりなんじゃないだろうか。
そういうのが見えてくると、どうしてカルツがキビル・コラティオンと共感したのか、キビルの方もカルツにどうしてあれだけ入れ込んだのかがなんとなくわかってくる気がするんですよね。
方向性こそ違ったものの、確かのこの二人は同類で、似た者同士だ。彼らの献身は、見返りをなにも求めていない。
でも、カルツくんは自分には見返りを求めないのに、他人にはちゃんとした報いがあってほしい、と願って手を差し伸べてしまうんですよね。
カルツくんのこの過去に戻っての暗躍に必要だった、普通は入手できない機密情報の大半がキビル経由だったのには驚きましたけれど、まさかこの狂気の人物を味方に引き入れるとは。
利益と共感がセットになってるのがまた特異ですよね。これ、まず裏切らないでしょ。しかも新進気鋭の新当主をこっちがわに引きずり込んだとなると、ただのスパイどころじゃないですよ。オルナメントの当主も傀儡にしてますけれど、あれ自分で考えてこっちの有利になるように動いてくれる、みたいなことは出来ないですからね。
とはいえ、一番危険であるアグニス・スピリティアに、子どもとは思えぬ胆力から目をつけられてしまったカルツ。それもまだ想定内とはいえ、そろそろいい加減暗躍者の存在の有無については怪しまれ始めるころでしょう。
と、慎重な動きが求められ始める頃合いを見計らったように、アルテシアを蝕んでいた懸案をバッサリ解決してしまうあたり、本当に先に先に手を打ってて、痛快です。面白かった！！
Ａｍａｚｏｎ
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