【魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい? ２０】 手島史詞／COMTA HJ文庫
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〈魔王〉ザガン、敗北す――マルコシアスとの激闘の果てに倒れたザガンの意識も戻らず、ザガン一派は未曽有の危機に瀕していた。そんな中、ネフテロスと聖騎士長リチャードが義兄ザガンのピンチに立ち上がる！ 彼の意識を取り戻す方法を探る二人は、やがて聖剣〈カマエル〉に封じられし天使とついに邂逅する！
「お願い、カマエル。お義兄ちゃんを……ザガンを助けたいの」義妹カップルが救いの光となる、大人気ファンタジーラブコメ、第20巻！
ザガン倒れる。一応、死んでるけどまだ復活の可能性がある状態なのか。
普通、圧倒的な力で君臨していた派閥の長が倒れたら、派閥は内部から分裂して崩壊していくものなのだけれど、ザガン一派って一派じゃなくてファミリーですからね。
力と利益で繋がっている集団じゃなくて、愛で力で繋がっている人たちですからね。少なくとも、幹部クラス。魔王候補レベルまで行くと情と親愛で繋がっているからなあ、このグループは用意には崩れないぞ。
ぶっちゃけ、ネフィがいたらそうは揺るがないんですよね。もうすでに一度ザガン幼児化という難事があった際も、ネフィがザガンの実質奥方として他の皆を平服させてましたしｗ
あの頃のネフィは魔王候補ですらなかったのに。今は魔王の称号のひとつを引き継いでいますしね。
とはいえ、今のネフィはザガンファミリーの要として本拠に居を構え続けないといけないですし、何より眠るザガンの側で彼を見守らないといけない。
となると、ネフィの代わりに動ける人材としては彼女の妹となるネフテロスと、そのパートナーであるリチャードが最適、となるわけか。ザガンの状態はかつてのリチャードが陥った状態にも近しい、ということもありますしね。
そのリチャードが復活する要因となった聖剣カマエル。聖剣に封じられた天使を通じて、ザガン復活の方法を探り出そう、というのが今回のネフテロスとリチャードの探索の旅の趣旨なわけだ。
その探索の出発の前に、ちゃんとふさぎ込むネフィを励ましてから行くネフテロスの妹力の高さですよ。ここまでずっと言えずに居た、ネフィに対しての「姉さん」呼び！ ザガンに対しては「おにいちゃん」とか呼んでたのに、ネフィに対しては恥ずかしさもあってずっと呼べてなかったですもんね。
今の落ち込んでるネフィに、耳ピコピコさせて弾けるような喜びの顔をさせるとか、なかなか誰も出来ないですよ。
しかしまー、ほんとにネフテロスとリチャードのカップルは安定感があるというか、ネフテロスは度重なる思い運命を乗り越えてきた経験から、そしてリチャードはその落ち着いた性格と女性に対しての紳士極まる品の良さから、めちゃくちゃ素晴らしい紳士淑女のカップルになってるんですよね。本作カップル数いれど、彼らほどイチャコラしつつ落ち着いて安定しているカップル居ないですよ。支え合いかたが尋常じゃなく安定してる。ネフテロスがちょっと迷ったときはすかさずリチャードが自分がついています、と彼女の心の支えになるところなんぞ、キュンキュンしてしまいますがな。
というわけで、今回は主人公ザガンはずっと眠ったまま、ネフテロスとリチャードのザガン復活の方法探索にかこつけて、幾人かの新たなる愛で力を奉る構成になっておりました。
……マルコシアス、君も若い頃はあれか、青春突っ走ってたのか。今も見てくれは若いけれど、最長老なんて呼ばれているだけあって妄執に取り憑かれてしまっているけれど、彼も純粋に若い頃があったんだなあ。ってか、相手天使かよ。カマエルちゃん、なんかマルコシアスとめちゃくちゃボーイミーツガールしてらっしゃったんですね、大昔。
そして所変わって……そう言えば忘れられていた魔族シェムハザ。彼って、ステラたちに拾われてたんだっけか。それ以上に完全にその存在をいろんな方面から忘れられていた元最強の魔王アンドレアルフス。そう言えばあのおっさん、どうなってたんだっけか。一度シアカーンにやられちゃってたんですよね。傀儡にされて操られてた、というあたりはあんまり記憶にない。いつもの情けないおっさんらしさがこの人の場合、個性でもあるので、そういう特徴がなくなってしまうとあんまり印象に残らなくなっちゃうのよね、おっさんの場合。なるほど、最強の魔王であり最強の聖騎士と呼ばれる割に妙に扱いが軽い理由がなんとなく理解できるｗ
まあ他の魔王たちからも、なんとなく舐められるよね。
そして、いつの間にか聖騎士長ミヒャエル・デュークマイヤーに成り代わっていた魔族シェムハザによって、立場も身分も存在感も全部奪われてしまったおっさん。シェムハザの評判が良すぎて、今更自分が本物です、と名乗り出せないおっさん。哀れすぎて、笑えてきたんですけど、おっさんｗ
この成り代わりも、おっさんの義理の娘たちが主導してやっていたわけだけれど、シェムハザの方はお父さんって呼んでるのに、おっさんの方にはなんか他人行儀なのには苦笑を禁じ得ないｗ
もう、おっさんが憐れすぎて、でもこのひとこういう役回りだよなあ、と。わりと自業自得だよなあ。普段からぐーたら自堕落のどうしようもないおっさん、という風情しかなかった人なのでｗ
しかしこれで、シェムハザも協力してくれることになったのか。天使と魔族、両方の強力を取り付けて可能性が見えてきたところで、まさかのアスモデウスの過去回想に。
そう、あの魔王の中でも最悪とされた三人のうちの一人、アスモデウスがどうやって魔王にまでのし上がったか、の過去話しである。
彼女がカーバンクル一族の出身であり、一族全部皆殺しにされた上でカーバンクル一族の宝玉すべてを集めようとしている、という話はすでに聞かされていたものの、一度力なき身で唯一虐殺から生き残ったあと、どうやって魔王になったか、までは描かれてなかったんですよね。
それがここで描かれていたのですけれど……アスモデウスことリリー、もう滅茶苦茶愛を注がれた結果、魔王になったんじゃないか。優しさと愛によって守られ、育てられ、独り立ちするまで導いてもらった。その人が持っていた何もかもを与えられ、受け取った結果リリーはアスモデウスとなり、魔王となったわけだ。
復讐へと至る過程で、彼女はただ負の情念を燃やし続けた結果、こうなったわけじゃなかったのか。その根底には、ちゃんと愛を受けた経験が根付いていたのか。
だからこそ、最悪の魔王と謳われながら、彼女の中からは情は消えていなかった。なんかねー、他の登場人物の多くがソロモンの魔王の名前を自分の名前として使ってる、ここに違和感を感じたことはなかったんだけれど、アスモデウスだけ妙に大仰というか、似合ってないとまでは言わないけれど着ぶくれしたみたいな、微妙に嵩が高い名前だなあ、とは思ってたんですよ。フォルと交流している時のリリーという名乗りが自然だったからでしょうか。友達であるフォルに呼ばれるその名前がしっくりきてたんですよね。でも、アスモデが本名じゃないとまでは思わなかった。
師匠の名前も全然予想してなかったもんなあ。
そうかー、そういう事だったのか。
アスモデウス最後の戦い、とか銘打たれてしまって、もう心がきゅうきゅう締め付けられてるんですけれど。リリーのあの過去からの歩みを見せつけておいて、最後にこれですからねえ。
ほんと、登場人物全員に愛で力に基づく歴史があり物語があって、ザガンが眠っていてもガンガンストーリーは激動を迎えてますわ、落ち着いてなんかいられない。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
