徒然雑記 : 魔弾の王と叛神の輝剣２　★★★☆

【魔弾の王と叛神の輝剣２】　川口士／美弥月いつかダッシュエックス文庫

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アーケンをその身に宿したティグルの裏切りによって、ジスタート王国の王都シレジアは陥落した。
戦姫となったエレンとサーシャは王都を脱出した兵たちを率いて、西の国境にそびえるヴァンペール山を抵抗のための拠点とし「戦姫の娘」リュドミラが陣地の構築を指揮した。
キュレネー軍と戦う方法を模索する中、黒弓の使い手アヴィンは、リュドミラが戦姫になることを望む。
一方、ティグルは使徒セルケトによって、アーケンの器になるための儀式をほどこされながら、エレンたちを討つべくキュレネー軍を動かそうとしていた。
絶望の世界で冥府の神に抗う魔弾シリーズ最終章、第二弾

おおお、そうか、かなり具体的に幾つもの枝となる世界がある、という世界観を提示してきたかー。
御存知の通り、この魔弾の王シリーズはスピンオフとも違う、IFの物語というにはかなり展開の違う、並行世界というのが相応しい、色んな世界線の物語が別シリーズで刊行されています。
これまでは特に何の説明もなく、言うなればメインヒロインがそれぞれ別の女性が担っているシリーズ、みたいな感じで、作品ごとに異なる結構異なる設定や違う歴史の流れの下に始まっていたのですけれど、別のシリーズとの関連性みたいなのは一切触れられていなかったんですよね。
ところが、本作では明確に違う歴史を辿った並行世界があるよ。なんなら、アーケンはその異なる枝の世界に首を突っ込んで世界の侵略を開始してるよ、という話の本筋に幾つもの並行世界があるが故の世界の危機である、という根幹設定がぶち込まれてるんですなあ。
そもそも、この「叛神の輝剣」というシリーズは、前面に神とその神に隷属されてゾンビみたいになってる国の軍勢、その圧倒的な数の暴力に、魔弾の王世界の国々がなすすべなく飲み込まれていっている、という戦記ものというよりもこれゾンビアポカリプス、なんじゃないか、というくらい世界が壊れていく様子がうかがえる話なんですよね。結構毛色が違っている。
その上で、ミルとアヴィンという、どうも他の世界線から現れたと思しきキャラがいて、どうにもこの子らはティグルの子供たちなんじゃないか、という特に読者サイドには隠すつもりもなさそうな活躍をしてたんですが……。
そ、そうか。ミル、普通にエレンの子供だったのか。いやあ、エレンの子供にしてはやんちゃというか、本能に身を任せてるタイプというか。あんまり似ている印象なかったので見た目エレンにそっくりだと言われつつも、あんまりエレンの子供という感覚なかったのですが、当人から暴露されてしまいましたね。
……リムさん、教育ちょっと失敗してないですか？と、同然のごとくリムが教育係なんだろうなあ、という想像を巡らせてしまった。
まあミルは容姿などでまずエレンなんだろうな、とは予想は出来ていたのですが、アヴィンの方がさっぱりだったんですよね。いや、さっぱりというのは間違いか。シンプルに、ミラ……リュドミラとの間の子だと思ってたわけですよ。なんか、やたらとミラに思い入れあるみたいな素振りを見せていましたし。
だから、ブリューヌの貴族の娘との間に出来た子、という告白に「ぬぇ！？」となったのですが……。初代ブリューヌ国王をガロンヌが復活させた世界って、【凍漣の雪姫】のシリーズじゃん。あっ、という事はブリューヌの貴族の娘ってリュディ、リュディエーヌ・ベルジュラックってことか。
アヴィンってリュディの子供なのか！！　うわー、こっちも性格全然似てないｗ
ただ、彼の銀髪ってエレン関係じゃなくて、リュディ由来の銀髪だったのね、なるほど。でもそうなると、ミラとの関係って彼は師匠って言ってるけど、実質もう一人の母親じゃん！　なんか息子的には奔放なところのある実母より、真面目なもう一人の母親の方に共感してそうだから、というか人格形成リュディじゃなくてミラの方に影響受けてるんじゃないの？　という感じなので、この世界のミラとの微妙な距離感もなんとなくわかる。

しかし、ミルとアヴィンという他の作品世界から招き入れられたキャラが登場している、という事はまた他のシリーズからのキャラクターの参入の可能性もあったわけで、この【叛神の輝剣】ってやろうと思えば、魔弾の王シリーズのすべての作品からキャラを呼び寄せての、劇場版プリキュアオールスターズみたいなスケールの話にも出来たってことですよね。そう考えると、このシリーズってガチの世界の危機のわりにはこぢんまりとした作品になってる気がします。
戦姫自体が登場する人少ないですし、それ以外の登場人物もだいぶ絞られてますもんねえ。その上で、肝心の主人公であるティグルが、アーケンに侵食されてしまって操られて敵側になってしまう、という苦しい展開になっていますし。
ってか、敵になったティグルが厄介すぎて、たちが悪すぎる。この主人公、敵に回すとこんなにやりにくいのか。
本来なら弓の使い手なんて隠れてスナイプしてくるみたいな行動ならともかく、少なくとも姿を見せている状態でエレンほどの手練れを含んだ精鋭の複数の前衛型を前にしたら、どう足掻いても太刀打ちできないはずなのに、この男と来たら罠なども駆使して主導権を譲らないまま、翻弄圧倒してくるわけで。
なんで弓士相手にこんなに正面から戦って苦戦するの！？
まあ、これ、今までティグルと戦ってきた敵キャラすべてが抱いてた感想なんだろうけれど。わけわかんないよね。
こうして、ティグルの敵側に回って戦ってみてようやく実感できる、この魔弾の王の厄介さ。いきなりこんなんが戦場に現れて襲ってきたら、かなわんよねえそりゃ確かに。

さて今回は今、この世界を取り巻く状況がいかにして発生したのか、という事情説明と、ティグルを敵に回すとどれほど恐ろしいか、という話とともに、戦姫になれず文官の道を歩んでいたリュドミラが再び戦姫となるべく、試練に挑む話でありましたけれど。
戦姫でなく一人の文官に過ぎない、と言ってもその教養教育才覚から、首都を落とされて崩壊の危機にあるジスタート軍を、指揮官の一人として立て直すほどの辣腕を見せているので一人の文官に過ぎない、とか全然言えないのだけれど、それでも最後の戦姫であったサーシャや、新たに竜具によって選ばれたエレンとは立場が違うので、引け目もあってか一歩引いた態度……ってか、エレンとミラがお互いに畏まった態度で接している様子は、なんかむず痒いものがありましたね。他の世界線ではたいがいバチバチ火花飛ばし合ってたのにｗ

しかし、ミルとアヴィン、世界が違うとはいえ血の繋がった兄妹となるわけですから、この子ら同士が結ばれる、みたいな展開はさすがにないのか。まあ恋人同士というより、確かに出会ってそれほど時間経ってないのに兄妹らしい気安い関係で、甘酸っぱさは欠片も生じてなさそうだしなあｗ