【魔女の断罪、魔獣の贖罪】 境井結綺／ 猫鍋蒼 GA文庫
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選考会騒然、衝撃の問題作。
魔女と魔獣――その結末は罪と罰、最後に全てが覆る。
第16回GA文庫大賞《銀賞》受賞作。
少年は人を食べた。そして、この世で最も醜い魔獣の姿になった。
慟哭、絶望、逃亡。命を狙われる身になった“魔獣”はようやく気付く。牙が、舌が、本能がどうしようもなく血肉に飢えていることに。
もう人には戻れない。居場所を失った魔獣はとある魔女と出会う。
「君、私の使い魔になりたまえ」
契約すればこの〈魔獣化の呪い〉を解く鍵が見つかるかもしれないという。だが、契約と引き換えに与えられた使命は人を殺すことだった――
なぜ少年は人を食べたのか？ 誰が呪いをかけたのか？ そして、この世で最も醜い魔獣の姿とは……？
選考会騒然――魔女と魔獣が織り成す極限必死のダークファンタジー。
これまたド凄い格好の魔女さまだ。確かに作中では胸部と腹部を大胆に露出したイブニングドレスと描写されてるんだけれど、もはやこれ逆バニースーツと言っても過言ではないんじゃないだろうか。
彼女の格好については最初の主人公視点からの描写以外では誰も言及しないので、この世界的にはさほど珍しくない格好なのかもしれないけれど。魔女様、過去はけっこうな立場の偉いさんだったみたいですし、きっとこれがフォーマルだったんですよ、うん。
まあ魔女さまの方は良いとして、主人公のレオナルドである。
彼の行動を追っていると、これがまあやることなすこと裏目ってるんですよね。なんていうか、サイコロを振ったら片っ端からファンブル、TRPGでの大失敗、最悪の目を引き当ててしまっているような感じのわけですよ。
これ決して間違った選択をしていたり、愚かな行動をとっている、とは一概には言えないんですよ。確かに判断が甘かったりした事はあったものの、その場合甘くない選択肢を取るというのはかなり心理的にも倫理的にも普通に生きてきた人間にはハードルの高いものだったりするので、彼を責められないと思うんですよね。外野が好き勝手言うのは簡単だけれど、当事者となるとなかなか思いきれないだろう、とも思うわけですよ。
彼はずっと被害者で、自分でそういう立場になる決断や選択をしたわけじゃないですからね。押し付けられ巻き込まれ、流されて決断を強いられる瞬間に立ち会ってしまった。
覚悟を求めるには、あまりにも可哀想な立ち位置なんですよね。
だから、彼は悪くはない。
でも、彼は悪くはないかもしれないし、責任を負わせるには理不尽すぎるかもしれない、だったとしても。
彼の判断、行動の結果として大きな被害を受けたのは、彼以外の周囲の人達なのだ。
彼を助けてくれたドルイドの女性リースが殺されてしまった件に関しては、ほんとに彼はなんにも関係ないんだけれど、彼が家を飛び出してリースを放置したタイミングで異端狩りに殺されてしまった、というのはほんと彼、何にも悪くないんですけどね。悪くないんだけれど、間は悪すぎるだろう、と。
居るだけで抑止にも肉壁にもなれただろうに、自分の魔獣としての本能に怯えて逃げ出したタイミングで、ですからね。
彼は悪くはない、悪くはないんだが……。
他のケースでも不可抗力だったり、彼に責任を問うのは疑問に思う展開だったり、と仕方ないと言ってしまえばそれまでのことばかりなんですけれど、でも事実として彼の判断、行動の結果で人が死んでるんですよねえ。彼の行動次第では死ななくて済んだ、悲劇に見舞われないで済んだ人達が確かにいるわけだ。
いやこれが、間違いだとしてもなにかの確信や確固とした意思のもとに下された判断なら、決断なら、結果が最悪だったとしても、彼はある意味自分が悪かった、とちゃんと罪悪感を背負えるんですよね。自分が悪いのだと、責任を負える。
そういうわけじゃない中途半端な、曖昧な判断、決断しきれない現状維持、流された結果の保留、思いきれないためらいの時間切れ、そんな選択の結果ばかりだからこそ、どうにもモヤッとしたものが残ってしまうんですよ。
彼は悪くはない、でもモヤッとする、という塩梅ななんかこう、皮膚の裏側が痒くなるようなもどかしい感じなんですよねえ。
主人公のレオナルド、真面目な男なので自分の判断の結果、最悪の結果が訪れていることに関して深く傷つき、思い悩んで、罪悪感に震え、自分の判断に後悔も覚えているんだけれど。
なんていうんだろう、どこかで自分は悪くはない自分の責任ではない、という客観的事実にすがっているんじゃないか、と思える所があるんですよね。後悔しながらも、案外と引きずっていない。あれは仕方なかったんだ、なんて心の内でも思いもしていないんだけれど、思ってないつもりで無意識に自責に浸りきっていない、自分は悲劇に見舞われ苦しんでいる可哀想な人間なんだ、と思ってる節を感じてしまったんですよ。
カルロが彼を嫌った理由、なんかここらへんに根源があるんじゃないか、と思ってしまう。
確かに、彼は全然何も悪くはないんだけれど、でももっと注意はするべきだったんじゃないだろうか。決断しろとは言わないけれど、自分の判断に対して何が起こるかをもっと想像想定するべきだったんじゃないだろうか。一度ならず二度三度と、同じような悲惨な結果が繰り返し起こっているというのは、自分の責任について突き詰めず、罪悪感についてただ感じるだけという、甘いところがあるんじゃないか、と思えてならない。
そこにどうにもモヤッとしたものを感じ続けた主人公でしたね。いや、ほんと悪いのは加害者であって被害者である彼ではないんだけれど、悪くないからと言って警戒も対応もしないと何度でも同じことが起こるよって所なんでしょうか。
果たして、彼の贖罪というのは誰のための贖罪なのか。罰を受けるというのは、楽になる手段でもあるんだよなあ、というのをふと思った。
Ａｍａｚｏｎ
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