徒然雑記 : 配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信　★★★☆

【配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信】　佐藤悪糖／福きつね富士見ファンタジア文庫

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コミュニケーションは苦手、でも最強な配信者「日療の白石さん」とは――

魔物を瞬殺し、颯爽と人助けして、名乗りもせず去っていく、いまダンジョン配信で最も話題な配信者、「日療の白石さん」。彼女が全然喋らないワケは――ただコミュ力が低いだけ!?
迷宮探索者=配信者な世界において、大手医療法人に所属し国内初の迷宮救命士となった白石。アイドル配信者や大手配信者を黙々と救助しながらマイペースに配信を続けていたところ、とある事件から配信がバズり……。
喋ればポンコツ、黙れば最強、やりたいことは人助け。自己紹介すらたどたどしい人見知り少女が、人助けしながら成長するダンジョン配信ファンタジー!

こ、これは本気で配信とか向いてない子だなあ！！
そもそも、ダンジョン内活動の映像公開の義務化という強制がなかったら絶対に配信なんてしてない子だろうし。
頭の中ではけっこう色々とグルグル物事を考えているんだけれど、そのうちの百分の一も口に出して言わないタイプなのがこの白石ちゃんなのである。そもそも、喋ろうとすら思ってないですしね。
実際に喋らなきゃいけない事があって喋ろうと思っていても、言おうと思ったことの１０分の１も言葉に出来ずにあうあうと詰まってしまって、ヤメてしまうタイプ。
わかる、喋るのって言語化するのって、面倒くさいんですよ。喋ってるうちにどんどんと言おうと思ってた所を削っていってしまって、忘れちゃうし省略しちゃうし、もういいやってなっちゃう。
その喋ろうスタミナが極端に少ないのが、この白石さんなんだろう。言おう言おうと頑張っている所は察せられるので、妙にリスナーたちには甘やかされている。まあそれもわかる。かわいいもの。小動物みたいで。あわあわ、して頑張って、でもやめちゃうところとか、ついつい励ましたくなるし愛でたくなる。
でも、そもそも白石ちゃん、積極的に喋りたいとか他人とコミュニケーションを取りたい、とかは全然思ってないんですよね。必要な分だけ喋って、あとはもう面倒くさいのでやらなくていいならやりたくないタイプ。なので、バズりたいとか目立ちたいとかという野心も皆無だし、単純に探索を楽しんでいる探索者なんですよね。それもお金を稼ぎたいとか強くなりたいみたいな欲求にも乏しい。
そのわりになんでかハチャメチャに強いのですが。その強さをいかして、ダンジョン探索中に困っている人達、特にモンスターに襲われて大ピンチな人、怪我をして動けない人なんかを助けて回るのも彼女の日課みたいなものだったわけです。

そこに目をつけられて、日本赤療字社という完全に日本赤十字社ですね、という組織にスカウトされて、そこでダンジョン専門の救命士として働くことになりました。というわけで、以降は日療の白石さん、という通称で有名になっていくのである。ちなみに、自己紹介は出来ていない。やろうとしていたし緊急の救助依頼が飛び込んでこなかったら何とか名乗る事は出来ていただろうから、努力は認める。
そこまで、常連のリスナーにすら自分の名前すらも告げていない、というあたりにコミュ障の極めっぷりがうかがえる。そういうの込みで白石さんの配信を楽しみ常連やってるリスナーたちのレベルの高さよ。
ちなみに、白石さん本人が自己紹介しないから、というだけではなく、彼女のプロフィールってほぼ謎なんですよね。作中でも殆ど明かされていない。どういう来歴の持ち主でどうしてそこまでわけわからん強さを手に入れたのか、とかプライベートについてもその背景や家族、友人関係などについてもほぼ不明である、というのは主人公としてはなかなか珍しいんじゃないだろうか。
ほぼほぼ、ダンジョン内で活動する白石さん、にしかスポットライトあたってないんですよね。彼女を愛でるには、もはやそこだけの情報量で十分、という意味合いがあるのかもしれない。

赤十字みたいな組織の所属、というのもまた珍しい。御存知の通り、赤十字って人道支援団体だから利益のためじゃなく、公共人道のために活動している団体だ。そこに所属する以上、白石さんはダンジョン内で稼いだり、深層を探索開拓していくという目的ではなく、基本的にダンジョン内で遭難した人を助けて回る、個人の利益を求めない活動をすることになるわけだ。
まあ白石さん、そもそも利益はあんまり考えないでダンジョン探索していたので、本人としてはやっている事は変わらないし、ボランティアでもいいというくらいのつもりだったのかもしれない。ちゃんと、職員として給料と手当はついているみたいなんだけど。
それどころか、日療の方はしっかりとマネージャーとかつけて支援サポート体制固めたうえで、ちゃんと白石さん個人に報酬が入るシステムを構築してくれているあたり、頼もしい限りなんですが。
でも、作中でもちょっと問題になっているんですけれど、ダンジョン内で活動するのって金銭コストが異様にかかるんですよね。探索者の武器一つとってしても、消耗品にも限らず安いものでも百万単位、真っ当なものなら一千万単位で金額が吹っ飛んでいくんで、利益団体じゃない日療だとあっという間に予算が吹っ飛んでしまうわけです。主に寄付や会員費みたいなので収入まかなってるようなところですしね。
そういう意味では、ダンジョン救命士という白石さんがスカウトされ任命された職種というのは、まだお試し段階。日療がダンジョンでの活動に首を突っ込めるのか、という試金石にもなっているわけで、白石さんとしてはやる事は変わらないんだけれど、彼女を取り巻く色んな動きは見ていて非常に興味深く面白い。日療のスタッフさんたちが結構強かであれこれと策を巡らしているんですよねえ。一方で人道活動に対してはとても誠実であり、その一員になってくれた白石さんに対しても搾取ではなく、むしろ手厚い支援を与えて支えようとしてくれる頼もしい人達なので、白石さん良い所入ったと思いますよ。
強くて可愛くてコミュが凄まじく下手なんだけれど、そこすらも妙に可愛らしい少女配信者を後方で腕組みしながら愛でたりイジったりするレベルの高いリスナーたちと並んで座って、同じように愛でて癒やされハラハラさせられる、そんなリラクゼーション味あふれるお話でありました。
どうも白石さんを見ていると、やたらとほわほわさせられてしまって、ほっこりでしたね、ほっこり。