徒然雑記 : 悪の皇女はもう誰も殺さない２　★★★☆

【悪の皇女はもう誰も殺さない２】　やきいもほくほく／香村羽梛電撃の新文芸

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス

いい皇女様になるために、生前と真逆の行動をとれ!?

「お父様なんて大っ嫌い!」
叫んだ後、脳裏に鮮明に浮かぶのは処刑の記憶――。
(あの時と同じ……お父様に殺されてしまうのよ!)
残虐非道の報いを受けて16歳で父帝・ヴァロンタンに斬首された『悪の皇女』キャンディス。彼女はなぜか5歳の自分に戻って、人生やり直し中だった。
前世と真逆の誰も殺さない『いい皇女』を目指し努力を重ねるが、ヴァロンタンはキャンディスの外出を禁じ、専属護衛を自ら選ぶことも許さない。
(やっぱりわたくしは、お父様に愛されていない)
ヴァロンタンの真意も知らず、悲しみに心が沈むキャンディスは宮殿から脱走を決意する。
(わたくしは、ここで終わりたくない……!)
この逃亡劇が導く未来は処刑か、それとも……!?
溺愛されている自覚も、溺愛している自覚もない、すれ違い王宮溺愛ファンタジー!

元々、キャンディスが「いい皇女」になろうとしたのは、前世で愛してほしかった父親に無惨に処刑されてしまった事がどうしようもなく恐ろしくて、同じ結末を迎えないために、殺されないために、前世とは違う行動を取ろうとしたことが理由でありました。
殺されないため、生きるために、心にも無い「いい皇女」を演じようとしたことが始まりだったんですよね。

そのはじまりを思うと、この巻のキャンディスの行動は、その心根は、本心は完全に初心を失ってる。なにしろ、自分がこれから生きていくための糧をすべて飢える孤児院のために差し出し、また自分の命を顧みず殺されようとしている子供たちを助けて、前世よりもずっと早い最期を迎えようとしたときも「いい皇女」であり続けた事に後悔の一つも覚えず、満足すらしていたのですから。
かつての何もかもを失って飢え苦しんだ自分を彷彿とさせる、やせ衰えた孤児院の子供たちを前にして、ほんとに頭から保身とかこのさきのこととか吹き飛んで、必死になんとかしようとしているキャンディスの姿。あの必死さは、なにか感動すら覚えたのです。
これもう成長どころじゃないですよ。愛を知らなかった娘が、愛され方を知らなかった娘が、愛されることを慈しまれることを真心を捧げられる事を知ったことで、こんなにも変わることができるのか。
今や、このキャンディスには打算なんて全然ないんですよ。よい皇女であろうとして、その見返りを求めていない。報いを求めていない。愛してほしい方愛するんじゃなくて、何もかえってこないとしても今のこの娘は優しくすることも気持ちを慮ることも、愛することも厭わない、そんな本物の「いい皇女」になっている。
上っ面の、上から目線の優しさじゃないのは、その必死さが伝えてくれる。彼女のそれは、愛を得られなかった苦しみを知るがゆえの共感だ。本当に自分のことのように、相手の辛さ、苦しみ、負の感情に寄り添って同じ痛みに震えてくれる。境遇じゃなくて、その境遇故に苦しんでいる自分を見つけてシンクロしてくれるから。そうして、なんとかしようと必死になってくれるから。
上から掬い上げられるのとは違う、一緒に泣いてくれる、痛みを分かち合ってくれて、我が事のようになんとかしようと必死になってくれる。この場合、キャンディスは実際自分に照らし合わせてみているから、自分の事と同じように感じているから余計にシンクロしてるんですよね。
この必死さに、打たれるんですよ。本当に心から必死になってくれているのが伝わるから。
長兄マクソンスやユーゴと同じ虐げられた一族であるモンファが、キャンディスのためにとあれだけ傾倒するのも、これは本当によくわかる。

誰かを愛することが、求めず愛を与えることが、こんなにも世界を変えていくきっかけになっている。
因果応報という言葉を、こんなにも良いベクトルで体感できるお話はそうそうないんじゃないでしょうか。
その上で、「いい皇女」になろうと頑張ってきたキャンディスの全部を全肯定してくれるような、実母リサとの再会。たとえここで力尽きようとも、愛する娘に愛していると伝える事こそがすべて、という母親の愛情は、キャンディスにとって一番の報いだったんじゃないでしょうか。
それにしても、薄幸の美人というにはこのお母さん、パワフルすぎるんだけれど。気性の天然パワフルさに肉体の病弱さがまったくついていけてなくて、正史では死んじゃったんじゃないだろうか。
なんか、喀血芸でも習得してそうな勢いの人だし。

何もかもがうまく回りだしたようなこの世界線ですけれど、未だにキャンディスを悪の皇女へと引きずり落とそうとしている悪意は存在しているようで。いや、さすがにこれだけ家族全員、周囲の人達みんなから愛されるようになっているキャンディスへの信頼が損なわれるようになるのは相当に難しいと思うのだけれど。
それに、前世でキャンディスが殺される直接の原因となった、弟アルチュールの双子の妹だというルイーズ。ラストに黒幕とともに登場しているけれど、いやアルチュールの双子の妹って明らかに、あからさまに……。これに関しては父皇帝もすでに気づいているみたいだし、敵方の暗躍ってこれすでに全然うまく行かなさそうな気配がビンビン漂ってきているんだがｗ

にしても、父皇帝ヴァロンタン、自分がキャンディスを可愛がっている、と自覚すらしていなかったのか。そもそも、可愛がるとか愛するという行為がどのようなものか、という所から知らなかった、理解していなかったっぽいんですよねえ。
人の心が分からず自分を理解しておらず、愛しかたを知らない。すごくよく似ている父娘だと思いましたよ。
愛を与えられて、愛を知り、愛し方を知る過程にいるのはこのパパも、キャンディスと同じなんでしょうな。これに関しては、兄弟たち全員一緒かもしれませんけれど。兄弟たちも誰も彼も愛を与えられなさすぎてた。保護者がどれも失格すぎるｗ
それだけに、アルチュールを守ってきたジャンヌが輝くんですけれど。